33話 鬼ごっこ(1)
「もっと驚くかと思っていた」
「驚いてないと言ったら嘘になります。でもここに来た時から何となく会えると思っていたんです」
「私もヨザクラくんは来てくれると信じていた」
「ずっと待ち伏せしていたんですか?」
「ううん。さっきからだよ」
改めて考えてしまう。俺たちって敵同士だよなと。
メイさんは平然と喋り掛けてくるし、俺はそれに普通に応えているしでお互いの立場があやふやになる。
自分でも内心信じられなかった。
何でこの人の前では錆人と同じように接することが出来ないのか。
不思議な感覚に戸惑いながらも表に出ないように冷静を装う。
「聞きたいことが色々とあります」
「うん。私も喋りたいことがいっぱいある」
「………」
「でも私はリメンバーに追われている身。形だけでも警戒しなきゃならない」
「やっぱり簡単には教えてくれませんか」
「そうだよ。だから鬼ごっこしようか」
「えっ?鬼ごっこ?」
「ヨザクラくんは知らない?鬼ごっこっていうのはどっちかが鬼役になって」
「いや知ってます!でも何で鬼ごっこ?」
メイさんはまた俺をからかっているのか?よりにもよって子供の遊びだなんて。
聞きたければ交換条件だとか、無理やり吐かせてみろとかそういった類いのものかと…。
「ま、まさか聞きたければ捕まえろってことですか?」
「普通に考えてそうだよね」
「………」
「ふふっ。せっかくだから舞台は中心区にしよっか。時間制限は無し、日付が変わっても構わない。後は中心区から出てはいけない。建物の中は空き家だけOKにしようか。高級店で暴れるわけにはいかないから」
「でもそれならメイさんが勝つ条件が無いのでは?」
「ヨザクラくんは本当に優しいね。私を捕まえなきゃいけないのに勝つための心配をしてくれるなんて」
「いや、その」
「じゃあヨザクラくんは私を捕まえるのを諦めたら負けね。ルナックの中でも区域が広くて沢山の障害物がある中心区で鬼ごっこしていれば精神的にも疲弊するから」
「俺は諦めません」
「うん。そんな真面目な考えがネガティブになる方に私は賭けるよ。スタートは私が合図してから3分後でどうかな?」
「わかりました。メイさんを捕まえた暁には俺が聞きたいこと全部答えてください。場合によっては国家兵士団に連行します」
「いいよ。逆に私が勝ったら今リメンバーで行っている調査を全部やめて。そして二度と触れないようにして」
勝手に勝負を受ける俺をリメンバーのみんなは怒るだろうか。
負ける気はしないけど万が一の結果になってしまった時は、リメンバー全員が巻き込まれると言える。この数日間の苦労を無駄にするのと同じだ。
しかしリメンバーは連帯責任だと言うヤコウ店長の口癖を思い出す。今回はその言葉に甘えよう。
「その条件を呑みます」
「じゃあ私がヨザクラくんの前から消えて3分ね。また会えるといいね」
「会いますよ。絶対」
最初から断るなんて選択肢、俺には無かった。メイさんは下にいる俺に笑いかけると同時に背中を向けて走り出す。
そっちはルナック大劇場の方角だ。途中で方向を変える可能性もあるし、俺を欺くためのものかもしれないから当てにはならないけど。
「ふーーっ」
俺は埃っぽい空気を吸い込んで心を落ち着かせる。遊びなんかじゃないのに妙に心は躍っていた。
本当にメイさんは不思議な人だ。今日、俺がここに出向くのも想像の範囲内だったのだろうか。
一見考えていることを理解できそうなのに実際は何を考えているのか全くわからない。
リメンバーにとっては機密書類の行方や奪った理由を聞くことが重要だ。
しかし俺個人としてはそんなのどうでもいいと思ってしまっていた。
「俺は」
聞くことよりもただ俺の手で捕まえたい。それだけだった。




