34話 鬼ごっこ(2)
3分後。
俺は素早く空き家の外に出て路地裏に散乱している木箱や街頭を足場に空へ駆け出す。
ルナックの中心区はとても広い。商業エリアに加えてルナック大劇場を始めとする観光エリアもある。
メイさんがどれくらいの身体能力を持っているかわからないが、これはだいぶ彼女のハンデだ。
時間制限無しなのが救いだろう。
「流石に闇雲に探しても無理ですよね…」
比較的低い建物の上に登って辺りを見渡すがそれっぽい姿は見つからない。
ここはまだ路地裏で人もそこまでいないから見逃していることはないはずだ。
1番厄介なのが中心区の高級店が並ぶ場所に紛れこまれること。あそこは人が沢山いて上から見下ろしても見つけられない。
メイさんの服装は意外にも酒場の従業員服だった。ヤコウ店長とお揃いのパンダエプロンは掛けてなかったが。
そんな富豪が纏う煌びやかな服ではないにしろ、逆に目立つようなものでもない。
お店の中には入っていけないが人混みに紛れるのはルールの範囲内だ。
もしかしてこうやって惑わせることが精神攻撃に繋がるのだろうか。
しかし俺は、まだ始まったばかりだと思い直して屋根から屋根を飛んでいく。
「さて、どこから探しましょうか」
一応路地裏から出て、中心区の商業エリア近くまで来た。
明日にはオークションも開催されるということでいつもより観光客が多い気がする。
紛れるならこの中だが、メイさんの性格からして人混みに身を隠すだろうか。
「でも俺が知っているメイさんは演じた可能性があるんですよね…」
従業員としてのメイさんはどちらかと言えば下の立ち位置に居て、時々対等な位置で接するという感じだった。
でもさっき会ったリメンバーから機密書類奪ったメイさんは下でも対等でもなく上の立ち位置にいる。
悪く言えば俺を見下していた。
けれどからかう姿はなぜか変わってないようにも思える。誰かをからかって楽しむ姿は本来に近いものなのかもしれない。
俺はとりあえず商業エリアをスルーしてメイさんが立ち去った方向であるルナック大劇場へ向かった。
移動中、観光客が歩く地上を見てみるとみんな幸せそうな顔をしている。
楽しみ方は人それぞれでも楽しいという気持ちは全員共通なのだなと頬を緩ませた。
……しかしそれは観光客だけが対象なのだが。
ーーーーーー
「大劇場に入ることはないから調べるなら周辺ですよね」
数日前まで通っていたルナック大劇場は相変わらず黄金色に輝いていて目が眩むほどだ。
しかしオークションがあるため観光客は近づけないように警備されている。
黒スーツ姿で後ろ手を組む真剣な顔つきの国家兵士団の者たちが周りに散らばっていた。
俺はずっと屋根を伝っていたが、ここで初めて地上に降りてみる。
急に空から落ちてきた俺に落下地点の近くにいた兵士は大袈裟なくらいに肩を跳ね上げた。
「よっ、ヨザクラさん!?お疲れ様です!」
「お疲れ様です。驚かせてすみません」
「いやびっくりしましたよ。急に落ちてくるんですもん。もしかして取り締まり中でした?」
「いえ散歩です」
「屋根を散歩っすか……。リメンバーって不思議な人が多いですよね」
「俺もそう思います」
「あっいえ!冗談ですよ!冗談!」
兵士と遭遇するたびに「取り締まり中なのか?」と尋ねられるのも恒例になってきた気がする。
それくらい俺たちが錆人を狩っていることが当たり前らしい。
そう考えると仕事を奪い過ぎているというレイ団長の言葉も全部が間違いではないのだろうか。
けれどそれは今悩むべきことではない。
俺は気を取り直して名前も知らない兵士にメイさんのことを聞いてみた。
誰かに聞いてはいけないなんてルールは言ってなかったので大丈夫なはず。
「個人的な用事で人を探していまして。女性で背丈はこのくらい。髪の毛は胸あたりでシンプルな服装をした人をご存知ないですか?」
「うーん…」
「ちなみに富豪ではないです。観光客の姿と比べたらだいぶ質素な感じで」
「もしかして酒場の新人レディかい?」
「レイ兵士団長!お疲れ様です!」
すると俺の後ろから軽々しくも爽やかな声が聞こえてピクリと眉を動かしてしまう。
しかし目の前の兵士はそんなことを目にも留めず俺を挟んだ前方の人物に敬礼をした。
「れ、レイ団長。こんにちは」
「やぁヨザクラくん。検品以来だね」
「そうですね。相変わらずオークションの準備は忙しいんですか?」
「ああ。兵士団長として色々な手配や対応をしなければならないからね。酒場にも全然顔を出せないよ」
「それはお疲れ様です」
会いたくなかった人と遭遇してしまった。しかも鬼ごっこ中に。
レイ団長は俺たちが調査したい人物の中の1人だ。この人は国家兵士団の現状を食い違った内容で俺に話してきた。
そしてその証言は全く事実と異なることで警戒する人物にも値する。
なるべく自分が考えていることを彼に悟られないようにしなければならないけど、そう意気込めば意気込むほど俺はボロが出やすい。
こういう時はあえて頭の中に浮かぶ情報を無視しよう。




