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32話 会いたかった存在

 メイさんと初めて出会った路地裏に潜む空き家。埃っぽいのは前と変わらなくて俺は1回咳払いをした。


 ゾンビ先輩には原点回帰と言ったけれど正直、何を調査したら良いのかわからない。

 確か以前にクロバラ先輩がここに出向いて色々と調べたらしいが特に何も無かったそうだ。


 だから来ても意味のない場所かもしれない。それでも俺はふと思い浮かんだここを訪れたくなった。

 淡い期待を抱きながら。


「……あの時から俺は変わったのでしょうか」


 腰にある刀に手を掛けながら空き家の中を散策する。元兵士たちに騙された時もこうやって背中を見せて目の前にしか集中してなかったっけ。


 俺は思わず振り返ってしまう。しかしそこには誰も居なくて蜘蛛の巣が張った椅子や壊れかけているテーブルだけが存在していた。


「はぁ」


 変に緊張してしまっている。でも警戒して悪いことはない。

 そう言い聞かせながら俺は地下への階段を降りて行った。そして扉に片手を当ててゆっくりと押せば、人が集まっていた痕跡のある広間に辿り着く。


 初めて来た時は酒瓶や書類のようなものが散乱していたがクロバラ先輩曰く、事件には全く関係のない物だったらしい。

 現在は回収されたのか綺麗に片付けられており部屋には家具しか無かった。


 こうやって冷静な頭で考えればメイさんが俺を突き飛ばすまで姿が確認出来なかったのは家具のお陰かとわかる。

 小柄なメイさんなら隠れられる場所も多いだろう。


「でも気配は全くしなかった」


 俺はポツリと呟いて自分の手のひらを目の前に持っていく。

 扉についていた埃が若干ついてしまった手。当時も扉を開く前も開いた後もメイさんの気配を感じることは出来なかった。


 やはり只者では無かったのだ。けれど何者かはわからない。何のために何をしたかったのかも。


「残念ながら何もないですね。クロバラ先輩が隅々まで調べてくれた後だし」


 メイさんのことを考えながらしばらくの間、この広間を調べていたが本当に何も無かった。

 少しくらい何かが残っていても良いのにと不貞腐れてしまうがクロバラ先輩が何かを残すことはないだろう。


 あの人が得意とするのは調べることだ。それを知っていたのに何となく思い出したからと来てしまった俺が悪い。


「とりあえずゾンビ先輩の所に戻りましょう。何かご飯買って行かないと」


 朝、床で起きた時も出発する時もベッドの毛布に包まっていたゾンビ先輩。たぶん今も寝ているだろう。


 連れ回し過ぎて無理をさせてしまったなと反省する反面、「従う」と宣言したなら最後まで一緒に居てほしかったとも思ってしまう。

 まぁ俺の文句なんてゾンビ先輩には擦り傷にもならないが。


「……っ!」


 そんな時、突然俺は気配を感じ取った。それは確かに背後にあり即座に体を反転させる。

 地下には俺以外誰も居ない。気配は地上にある。俺は精神を研ぎ澄ましてその気配の動きを読んだ。


 しかしそれは止まったままで地下に降りてくる様子はない。

 俺は刀の柄を握っていつでも抜刀できるように姿勢を低くした。


「…………」


 クロバラ先輩でもヤコウ店長でもない。ゾンビ先輩は絶対にあり得ない。


 もしかして新たな錆人がここを拠点にでもしていたのだろうか。でも見た感じ最近使われたわけではなさそうだ。


 となると俺が考えられるのは2択。路地裏に入って行った俺を追いかけてきた国家兵士団の誰か。

 そしてもう1択は


「ヨザクラくん」

「メイさん…!」


 会えるんじゃないかと、会いたいと願ってしまった存在だ。

 急にこの場所を思い出して行ってみようとなったのは必然のことだったのかとスピリチュアルなことを考えてしまう。


 でも俺は柄から手を離さなかった。そしてメイさんは地下に降りてくることも無かった。


「「………」」


 ちゃんとお互いの声が聞こえる距離に居るのに黙ってしまう。


 聞きたいことは山ほどあったはずなのに頭は真っ白に染まりつつある。

 俺は唾を飲み込むだけで話しかけることなく、数十秒の時が過ぎていった。


 メイさんの姿は地下のこの場所からは見えない。あっちは俺が見えているのだろうか。

 柄を握る手は汗が滲んでいて俺の緊張を表している。


「ふふっ」

「はぁ」


 すると上から優しい笑い声が聞こえてくる。俺は何でここまで精神を削っているのだと自分に呆れた。


「やっぱりヨザクラくんは可愛いね」

「可愛くないですよ。なんか変に力が抜けてきました」

「警戒を緩めて大丈夫なの?私が今から火球投げるかもよ?」

「メイさんから殺気は出てない。それに油は付着していませんから」

「でもこれは普通に投げて使えるってクロバラさんが言っていたよね?」

「これはって言いながら何も持ってないじゃないですか。リメンバーの新人だからって舐めないでください」


 俺は階段の下から手ぶらなメイさんを見上げる。急に俺の姿が出てきたのに驚いたメイさんは目を大きく開いて肩を揺らした。


「確かに舐めない方がいいかも」

「今まで舐めていたんですか?」

「若干ね」

「だいぶの間違えでは?」


 でなければ可愛いなんてからかいはしないはず。


 以前の何も知らない俺なら変に動揺していたが、今は明らかに敵として見ているから羞恥なんてものは出てこない。

 しかし態度が全く違う俺を目の前にしてもメイさんは変わらない様子で微笑んでいた。

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