31話 始まりの場所へ
ゾンビ先輩がベッドの上で暴れている。今この状況を表すに相応しい一文だろう。
ひと通りの尋問が終わった俺たちは、ルナックの中心区より少し離れたホテルにいた。
「我は帰る!帰りたい!1人で帰れる!…イヒッ」
「ダメですよ。俺に従うって言ってたじゃないですか」
「あれは1日限りじゃ!ケツ青のくせに我と関係を続けたいとでも!?…ヒヒッ」
「勿論ですよ。一夜限りで終わらせたくないので」
「イーヒッヒッヒッ!声が震えておる!意味は全然違うのにぃ!」
「………ゾンビ先輩」
「ヒッ」
隙あらばからかってくるゾンビ先輩を低い声で呼べばジタバタしていた両手足を止めて大の字になる。
何気にこうやってゾンビ先輩と連日過ごすのは初めてだ。ほとんど地下から出てこないレアものだし会ってもすぐに土へ帰ってしまう。
だからだろう。俺は今、疲れている。ゾンビ先輩の扱いに。
「とりあえず一旦大人しくしててくれませんか?」
「我を襲うのかぁ?」
「そんな仕事はありませんし趣味もないのでご安心ください」
傍から見たら異様な光景だろう。ゾンビ先輩はボロ白衣を脱いで1人でセミダブルのベッドにイン。
対する俺はジャケットを脱いだラフな格好で床に直に座っている。
ルナックにあるホテルのほとんどは富豪専用の高級なものだ。そんなホテルに調査があるからと言う理由で泊まれるわけがない。
しかし探せばギリ泊まれそうなホテルもあるので俺たちは昨日からここを拠点にしている。
けれどお金の都合で取れた部屋はシングル2名1ベッドだった。
それによりセミダブルベッドはゾンビ先輩が。床は俺がという形で占領している。
本当なら俺だってベッドで寝たいがゾンビ先輩と添い寝するのは色んな意味で無理だ。背筋が凍る。
それを踏まえて考えると今度は俺の良心が発動して結果的にゾンビ先輩にベッドを譲ることになってしまった。
「妹ちゃんに会いたい」
「さっき少し話したじゃないですか」
「話すのと会うのは全然違う」
「ゾンビ先輩は本当にクロバラ先輩が好きなんですね」
「当たり前だ。こんな我の側に妹ちゃんはずっと居てくれる。だから離れたくない……」
疲れているのはゾンビ先輩も一緒か。
普段から外に出ないため体力が無いのに加えて、大好きなクロバラ先輩にも会えてないから精神的にも消耗している。
とはいえ昨日は俺の所に来る前に会っていた気がするけど。
「ゾンビ先輩の気が楽になるのならもう1回連絡しますか?」
「いい」
「大人しくしてと言ったのは俺ですが流石に大人し過ぎて怖いです」
「わがままケツ青め」
「どうします?」
「いい。妹ちゃんの邪魔はしないと決めているんじゃ」
俺はこの姉妹のことをよく知らない。しばらく一緒にいるけどわからない部分が多いのだ。
それは2人の過去についても。
時々、ゾンビ先輩とクロバラ先輩は本当に姉妹なのかと疑問になる時がある。そして生い立ちもだ。
クロバラ先輩はともかくゾンビ先輩もありとあらゆる作法を身につけている。テーブルマナーもその1つだ。
しかし俺はその疑問を投げかけたことは一度もない。リメンバーはお互いに追求しないのが暗黙の了解だった。
だから俺は2人のことを詳しく聞いたことが無いしヤコウ店長に関してもわからないことが多い。
でもそれは俺に対してもだろう。
みんななぜ錆人を取り締まっているのか。そんな疑問の答えが出る時は当分来ないと思う。
「ん?」
するとホテルの外から音が聞こえて俺は腰を上げる。変わらず大の字でベッドに寝そべるゾンビ先輩を横目に窓へ近づくと煙が見えた。
あの煙は何かの爆破で起こったものではない。たぶん国家兵士団が使った煙幕のはずだ。
「俺の出番は無さそうか」
遠目で見てみると小さい兵士が錆人らしき人を取り押さえているのがわかる。
見た感じ錆人も熟練というわけではなく抵抗をしていなかった。
このような光景は時と共に増えている錆人のせいで日常茶飯事だ。幸い、見張りの兵士たちが多くいる中心区では中々見かけないが。
「………」
俺は窓に肘をついて外の様子を眺める。頭の中には今日尋問した元兵士の3人と、その後調査した内容が浮かんでいた。
ルナック国家に大いに貢献しているリメンバーという肩書きを使って見せてもらった国家兵士団の予算費や平均給与の情報と業務の内容。
そこには仕事の割に合わない額が示されていた。
正直、国家に直属する組織がここまで優遇されてないとはと目を開いてしまったくらいだ。
ルナックは観光客が押し寄せ、並ぶ店はほぼ高級店。そこまで懐が寂しい国ではない。
何か他のものに国のお金が使われているのか、どこかで堰き止められているのか。
そして業務内容を見たことでよりレイ団長への不信感を濃厚にさせている。
俺とゾンビ先輩が見た限りだと、路地裏で助けてもらった兵士が言っていた仕事内容とピッタリだったのだ。
ということはレイ団長が嘘をついている説がほぼ確定している。これらの内容もクロバラ先輩と共有したが彼女は大きなため息で返事をしただけだった。
「ゾンビ先輩、明日は俺1人で調査します」
「それが良い。我は寝る」
「ゆっくり休んでください。でも勝手に酒場に戻らないでくださいね」
「……イヒッ」
「本当にお願いしますよ」
「お前は何を調査する気だぁ?」
振り返ればゾンビ先輩は首だけを俺の方に向けていつものニヤついた顔で口角を上げている。
明日が休みだと確定して嬉しいのだろう。そんな単純な先輩に笑った後、俺は窓際に背を預けた。
「原点に戻ります」




