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28話 俺の問い方

「薬なんて徹底しているなぁ!イーヒヒッ!」


 尋問が終わった俺とゾンビ先輩は兵士詰め所の外で手に入れた情報を整理する。


 次に予定している精神異常を起こしてしまった2人の元兵士との面会はこの後に行う予定だ。

 俺は今日も変わらず昇っている月を見上げながら深く息を吐く。


「まさか喋らないのではなく喋れないなんて。全然気付きませんでした」

「イヒッ。実際はそうだがあいつに喋る気は無かった」

「え?」

「面会室に入って来た時の様子からしてあれは人を拒絶していた。お前が間違った手段を使っていたら声のことさえも知れなかっただろうなぁ。イヒヒッ!」


 ゾンビ先輩は白衣のポケットに手を突っ込んで虫食いされたような固形物を取り出す。それは朝ごはんに買ったはずのあんぱんだった。

 気付いた時には持ってなかったから完食したのかと思っていたが、ポケットに入れていただけなのか。


 あの場の空気を読んだのか胃が目覚めてなかったのかはわからないけどヤコウ店長が見たら発狂しそうだ。

 食べかけの物を直接ポケットに突っ込むとは!……と。


「ヒヒッ!結局相手も人間。人の温かさには誰しも弱い。お前の寄り添いが奴の心を動かした」

「俺が…」

「イーヒッヒッ!じゃなきゃ声が出ないなんて教えてくれん!お前が妹ちゃんの真似事してたら今頃情報1つ得れなくて沈んでいただろうなぁ!」


 パクリと大口であんぱんに齧り付くゾンビ先輩。


 そうだ。俺はゾンビ先輩の言葉があったから考え方を変えることが出来たんだ。

 それまでは無理にでも裁く側の威厳を保ちながら隙を窺って痛いところを突かなければ、欲しい情報は手に入らないと思っていた。


 でもそれはあくまでクロバラ先輩の問い方で俺には俺の問い方があると気付かせてくれたのだ。


「ゾンビ先輩、さっきはありがとうございました」

「イヒヒッ!ケツ青に大好きな妹ちゃんの真似をされるのが嫌だっただけじゃ!」

「……無理に怒りを湧き起こす必要は無かったんですね。罪を犯した人に対して助けたいなんて気持ちを持つのはいけないと思ってました」

「我はそこまで教えてないぞぉ?妹ちゃんにはなれないと言っただけだしなぁ。イヒッ」

「でもきっかけをくれたのはゾンビ先輩ですよ。流石エリートゾンビですね」

「イーヒッヒッヒッヒッ!!」


 やっぱりゾンビ関連で褒められるのが1番嬉しいようだ。


 不気味な笑い声を聞き流しながら俺は腕を組む。もし彼が少しでも俺に心を開いてくれたのなら多少の情報を提供してくれるだろう。

 けれど彼は喋れない。ならゾンビ先輩と同じメモで話をすればと思うが今の段階では難しいはずだ。


 俺たちの対応をしてくれた事務員や見張りの兵士は彼が声を出せないことを知らないようだった。

 単に捕まった直後で沈んでいるとしか思ってない。


 もしメモでのやり取りをすることになれば他の人たちにも彼の状況を知られてしまう。

 そしてそれはどこかにある抜け穴から漏れ出て、調査に支障をきたしてしまいそうだ。


「やっぱり次に会う元兵士の2人がちゃんと喋れることを願うしかありませんね」

「チャラ男の報告書では精神異常が〜って言っておったな」

「はい。もちろん疑っていますが……」

「がぁ?」


 俺はさっきの元兵士を思い出してこめかみを押さえる。ゾンビ先輩はあんぱんの最後の1口を放り込んでリスのように膨らませていた。


「事務員の方がレイ団長の報告書によれば、まるで違法薬物を使ったような状態と言っていました。そしてさっきの声が出なくなった彼も薬を使われた結果です」

「ほほぉ。イヒッ」

「最初は精神異常にはなってないのではと疑ったんですが、今では本当に異常が起きている可能性も拭えないなと」

「イヒヒッ!さっきの男に飲ませられたのなら他の奴に飲ませることも出来そうじゃな!良い視点だケツ青坊ちゃん」


 ゾンビ先輩は俺の仮説に頷くとまたボロ白衣のポケットに手を突っ込む。

 今度は何が出てくるのかと半分ワクワクしながら待っていると1本の試験管が出てきた。


「それって昨日俺に嗅がせてくれた純正品の火薬ですか?」

「イヒッ!よく見ろ。錠剤だ」


 精一杯腕を伸ばして試験管を月明かりに当ててもらうと見たことのある錠剤が目に入る。


「これって蕁麻疹が出てしまう未完成の自白剤ですか?」

「イーヒッ!一昨日の夜に蕁麻疹の発生確率を10%まで下げた自白剤改じゃ!」

「一晩で30%から10%に下げたんですか!?流石天才ゾンビです!」

「イーヒッヒッヒッヒッ!!」

「でも精神異常者に自白剤って効果あるんですか?」

「いや無い」

「じゃあ何で見せびらかしたんですか…」

「何かあった時の保険だ。ヒヒッ!ケツ青坊ちゃんにあげる」


 まだ未完成の薬を俺に預けて大丈夫なのだろうか。信頼してくれているという意味なら嬉しいのだが。

 ゾンビ先輩は試験管のコルクを外して手のひらに錠剤を落とすと俺に差し出してくれる。


「イヒッ」

「直渡しですか」


 どうせなら試験管ごと渡して欲しかった。錠剤1つしか入ってないのに。

 そんな不満をグッと堪えた俺は自分のハンカチを取り出して受け取った自白剤改を丁寧に包んだ。


「ではそろそろ戻りましょうか。ある程度の覚悟はしていた方が良いですね」

「我以上に狂った奴などいるのかぁ?」

「……ノーコメントで」


 俺はハンカチをしまって兵士詰め所に戻る。

 これからの面会に収穫はないと思った方が良いだろう。


 それにしても兵士ではない女性か。てっきりレイ団長が深く関わっていると思ったのだが外れだったようだ。


 レイ団長があのような嘘をついた理由の答えが遠くなった気がする。

 一応、面会が終わったら他の兵士たちに普段の様子を聞いてみよう。


 信じる心は捨てなくても全員を疑う。それは昨日路地裏で錆人の取り締まりを協力してくれた兵士もだ。

 俺は意識を高めるようにネクタイを締め直す。まだ絡まった糸は緩くもなってなかった。

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