27話 信じて救う
彼の瞳が揺れた。
それに少しだけ心臓が跳ね上がるが自分自身が持つ感情を消さないように見つめ続ける。他のことは何も考えなくていい。
この人を救うことだけを考える。
「教えて欲しいです。貴方にとってリメンバーは錆人と同じような悪者ですか?」
「……くっ」
俺の質問を聞いて苦虫を噛み潰したような表情になるが顔は逸らすことなく真っ直ぐを向いている。
敵視して睨む姿勢は変わらない。今の彼の心の中には怒りの他にどんな感情が混ざり合っているのだろう。
今の俺には想像することもできない。
「……ううっ」
すると彼はもがくように自分の服の胸元を握った。そしてもう片方の手のひらをアクリル板に伸ばして指紋が付くくらいに押し付ける。
俺は思わず立ち上がって手を重ね合わせるように添えた。
「どうしました?」
「くぅ……うっ」
「イヒッ。飲まされたか」
「飲まされた?何を?」
ゾンビ先輩は俺にだけ聞こえるように呟くとボロボロ白衣のポケットから小さな手帳を取り出す。
中の紙は若干黄ばんでいて長い間手元にあったらしい。
そしてペンも取り出せば流れるような手つきで何かを書くとアクリル板を挟む元兵士に見せた。
【声が出ないか?】
その文字を見た瞬間、皺になってしまうほど服を握りしめていた手がだらんと下がる。
数秒後に彼は小さく頷いた。
まさかずっと喋らなかったのはこれが原因だったのか?
さっきまで冷静だった脳内が一気に戸惑いに変わった俺はゾンビ先輩と元兵士を交互に見ていた。
「シーじゃぞケツ青坊ちゃん」
「は、はい」
【団長に薬を飲まされたか?】
次にゾンビ先輩が質問したのは声が出ない原因を作った相手の特定だった。
何となく俺もレイ団長を疑ってしまう。
一度嘘を吐かれたため、無意識に疑念を抱くのだろう。
それにこの人を取り調べしたのはレイ団長だ。もちろん他の兵士に飲まされた可能性も捨てきれないが。
しかしそんな俺たちの疑いとは逆に彼は首を横に動かした。違かったらしい。
「っていうかなぜメモで…」
「シーと言ったはずだ」
「す、すみません」
「だからケツ青なんじゃ。ここは領域だというのに」
俺はハッとして黙り込む。確かにここは兵士詰め所の面会室だ。
監視カメラくらい当然あるし音も拾ってしまうだろう。
現在俺たちは何かを調査しているということを他には話さずに尋問している。
例えおかしい行動が記録されても話す内容が聞こえなければ筒抜けになることはない。
他人に情報を多く取られては調査の意味がないのだ。
【薬を飲まされた時は覚えているか?】
「う……」
【それは兵士か?】
「んん……」
【男なら瞬き1回。女なら瞬き2回】
パチッパチッと瞼が2回閉じられる。彼は意識がある時に兵士ではない女性に薬を飲まされたということだ。
俺はチラッと喉元を見てみる。特に痣は見当たらないから力で潰されたわけではない。
女性なら相当な力が必要だし薬という推理で合っているだろう。
となると薬を扱える錆人だろうか。でもここは兵士詰め所。加えて彼は収監されているため簡単に入るのは難しい。
「ん?」
すると俺たちが入ってきた方の扉から人の気配を感じる。
首を動かしたと同時に扉は開かれ、先ほどの事務員が様子を伺うように顔を覗かせた。
「すみません、そろそろ…」
「イヒヒッ。時間か」
「了解です。すぐに戻ります」
事務員は軽くお辞儀をして面会室から去っていく。
俺はアクリル板に添えていた手を少しだけ押し付けてより重なるようにした。元兵士も苦しそうな表情をしながら指先に力を込める。
「信じてくれてありがとうございます。また来ますのでその時に貴方の気持ちを聞かせてください」
「………」
もう彼は微かな声を漏らすことは無かった。しかし視線を逸らすことなくずっと俺の目を見てくれている。
そっとアクリル板から手を離したのを確認して、俺も片手を自分へ戻した。
ゾンビ先輩はイヒ笑いすると先に面会室から出ていく。俺もその後を追いかけるように背中を向けた。
ふと、扉を閉める時様子が気になって振り返ってみる。もうここに居る必要が無くなった彼も立ち上がり反対側の扉に手を掛けていた。
その姿は入ってきた時とは違い俯くことなく真っ直ぐと前を向いている。
「……よし」
俺は気合いを入れ直して面会室の扉を閉めた。




