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26話 尋問(2)

「おはようございます」

「………」


 最初から黙秘を貫きそうな雰囲気だ。何も言わずに席に座る被疑者は俺たちを見ることなく俯く。

 難しい尋問になりそうだと感じた俺もゾンビ先輩の隣に座った。


「確か貴方は昨日まで一兵士として業務を行っていたそうですね」

「………」

「でもリメンバーを始めとする外部の錆人取り締まりグループの排除を目的とした組織の中に入っていた。そして火球を錆人から購入したと聞きました。合っていますか?」

「………」


 黙秘。

 ここからどうやって被疑者を揺さぶれば良いんだろう。


 尋問、拷問が得意なクロバラ先輩なら相手の弱さを突くことで情報を入手する。

 そのためには相手を観察して隙を見つけることが大事だと教えてくれたが、この場合の隙とは何なのだろう。


 俺にとっての隙とは身体的な意味の認識が多く心理的な隙を見つけるのは難しい。でもどうにかして被疑者の気持ちを吐き出させないと。


「なぜ外部グループを排除したかったんですか?」

「………」

「イヒッ。埒が明かないなぁ」


 下手に問い詰めるだけでは時間を無駄にしそうだ。

 ゾンビ先輩はあんぱんをチビチビ食べて協力してくれそうにない。


 このままでは弱さを突くどころか口を開かせることさえも出来ないだろう。俺は膝の上に置いた手に力を込める。

 クロバラ先輩ならどうするか。しかしそのどうするかがわかったとして、俺はそれを実践できるのか。


 高確率で失敗すると言い切れる。この状況では俺の失敗を慰めて次に活かせと言ってくれる人はいない。


 言葉を間違えたら終わりで、被疑者が話してくれなくても終わりだ。尋問ってこんなに大変なのか。もしくは俺が背負っているものが大きすぎるのか。


「イヒヒッ」

「ゾンビ先輩?」


 1人脳内で自問自答を繰り返していると隣に座るゾンビ先輩が笑う。

 何か良い案が思いついたのかもしれない。そんな期待を込めて俺は自分より低い位置にいるゾンビ先輩を覗き込むように背中を丸めた。


「ケツ青坊ちゃん」

「は、はい」

「好きにすればいい」

「え…」

「お前は妹ちゃんと違う。妹ちゃんにはなれない。全部消せ。ヒヒッ」


 ゾンビ先輩の声が俺の何かを殴ったように響き渡る。その衝撃は固まっていた何かにヒビを入れてポロポロと崩れ始めた。

 力を入れていた手は自然に軽くなり指の間に風が通り抜ける。


 別に真似する必要はないのか。


 きっとクロバラ先輩のテクニックを実践すれば被疑者が情報を吐く確率は高いのかもしれない。

 でもそれは俺の気持ちや性格とはリンクしない。


 実際帰り道に襲われた時、クロバラ先輩の初心者拷問をやってみた。それはとても不快で慣れるためと自分に言い聞かせていたくらいだ。

 でも慣れる必要なんて無かったのかもしれない。あれは俺のやり方では無かっただけ。


 俺のやり方とクロバラ先輩のやり方は違う。俺はクロバラ先輩にはなれない。

 だからさっきまで考えていたことを一旦まっさらにしよう。俺なりに被疑者へ手を伸ばせば良いのだ。


 ゾンビ先輩から目を離した俺は未だにこちらを見てくれない被疑者と向き合う。

 そして隠さなければと思っていた俺の中の感情を露わにし、被疑者に頭を下げた。


「教えてください。もし貴方たちが外部グループを排除したいと思ってしまった理由がリメンバーにあるのなら、俺はもっと深く頭を下げなければならない」

「………」

「情けないって思ってもらっていいです。でも俺は貴方の気持ちが知りたい。せめて目を合わせてくれませんか?」


 俺は緊張していた表情筋から力を抜いて頭を上げる。そして押さえ込んでいた考えに名前をつけた。


 俺は助けたい。寄り添いたいんだ。被疑者の上に立って強引に操るようなことは俺はしたくない。

 せめて同じ位置に立って向き合いたい。


 そんな想いを胸に黙って見つめていると俺の視線が痛くなったのか彼は少しだけ首を動かす。

 例え1日掛かっても俺はここで待っているつもりだ。


 ゾンビ先輩は何も言わなかった。どこを見ているのかもわからないがずっと座って待ち続ける俺の隣に、ずっと座っていた。


「……」


 助けたいと思っている人を待つ時間は全く辛くなかった。いつかこの人は俺を見てくれると信じているからだろう。


 こんなにも何かに葛藤している人を目の前にして信じないことを俺は出来ない。

 結局、信じるという優しい心は捨てられないのだ。相手が俺たちに被害をもたらす存在だとしても。


「……っ」

「目を合わせてくれてありがとうございます」


 どれくらい待ったかはわからない。あっという間と言えばそうだし長かったという感覚も間違ってない。

 彼は唇を強く結びながら目つきを鋭くして俺と目を合わせた。


「良かったです。貴方の瞳にはちゃんと色があります」

「………はっ」

「リメンバーの新人でも普段から色んな錆人を見ていますから何となくわかるんです。強い理由を秘めている人と、何も考えずにただ動く人の違いが」

「………」

「でもその理由が全然わからない。俺はリメンバーに所属していますが普段は単純に与えられた仕事をこなすだけ。誰にどう思われているとか知らないんです。下っ端なので」


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