25話 尋問(1)
まずはリメンバーを排除しようとした8人の兵士のうち尋問可能な3人に話を聞くことが俺とゾンビ先輩のやるべきことに決まった。
クロバラ先輩と情報を共有した翌日、俺は寝起きのゾンビ先輩を背負って兵士詰め所に向かう。
レイ団長から尋問許可を既に取っているので余計な手間をかけずに聞き取りを行えると思うが、それまでにこの人は起きるだろうか。
「ねむい…」
「頑張って目を覚ましてください。ゾンビ先輩が居ないと心細いんです」
「んぅ」
「ちょっ、ちゃんとあんぱん握りしめてください!落ちますよ!」
さっき地元民から愛されるお手軽価格のパン屋で購入したあんぱんは一口齧られただけで止まっている。
昨日はゾンビ先輩にしては歩いたし疲れているのは重々承知している。加えて連日の外出は引きこもりにとって負担だろう。
でもこれからはすることは俺1人で進められる自信がない。
例え、話の大半が何言っているかわからない人でも居てくれるだけで心強いのだ。
相手はレイ団長のようなタイプでないことを願うが。
「ゾンビ先輩着きましたよ」
「んむ」
「良かった。6分の1は食べられましたね。ここからは自分で歩いてください」
「………」
「わかりました。でも降ろさなきゃいけない時は容赦なく降ろしますからね」
本当にこの人俺やクロバラ先輩よりも年上なのだろうか。
まぁゾンビ先輩に年齢どうこう言ったって何の攻撃にもならないのは知っているが、ここまでくるとやはり赤ちゃんだ。
外見の幼さと小ささも相まって母性が生まれそうになる。俺の方がケツ青なのに。
背中に伸し掛かる軽い重みにため息をついて俺は兵士詰め所の中に入っていく。
当然、リメンバーの一員があんぱんを握る謎の物体を背負っていれば待機していた兵士たちが俺に顔を向けた。
その中で事務関連の仕事をしている男性が俺たちに近づいてくる。
「ヨザクラさんどうされましたか?」
「お疲れ様です。先日逮捕された兵士の尋問に来ました。レイ団長からは許可を得ているのですが」
「えっーと……すみません。確認してきます」
「やっぱり話が行ってなかったんですね…」
本来なら国家の盟友であるリメンバーが来ることは通達がいくはずなのにそれすら無いとは流石放任主義。ヤコウ店長とは真逆だ。
確認をしに行った事務員は1枚の紙を持って戻ってくると頭を下げてくる。
「執務室に置き手紙が残されていました。現在レイ団長はオークション会場にいるらしく、確認が遅くなって申し訳ありません」
「いえいえ。尋問出来そうですか?」
「今すぐ準備を整えます。そちらのあんぱん握ってる子はヨザクラさんが保護した子ですか?」
「この人はリメンバーの一員で……とにかく同席させてください。こんな感じですが凄い人なので」
「か、かしこまりました」
事務員は不審そうに俺の背中を見てから面会室の方へ案内してくれる。
ゾンビ先輩はもう少し人前に出るべきなのかもしれない。
本人は嫌がりそうだけど2回も保護対象である子供に間違えられると、連れているこちらも大変だ。
「レイ団長の置き手紙曰く、病院送りにされていない3人の被疑者のうち1人の尋問を許可されています」
「3人だと時間が掛かってしまうからですか?」
「いえ実はヨザクラさんたちを襲った2人は話せそうにない状態なんです。一昨日クロバラさんが詰め所に届けてくれた時には普通に会話が可能だったんですけど、昨日から様子がおかしくなりまして」
「具体的にはどんな感じですか?」
「レイ団長が直々に行った取り調べ報告書によれば、まるで違法薬物を使いすぎたように精神異常をきたしているそうです」
レイ団長が書いた報告書。普段は何も思わないが今は違和感を持ってしまう。
昨日クロバラ先輩には信じる優しい心を捨てろと言われた。なら疑って悪いことは何もない。
「尋問許可は降りてなくてもその2人に会うことは出来ますか?」
「えっ、どうでしょう…?会話にならないと思いますが」
「確認だけです」
「まぁ確認くらいなら大丈夫かと。尋問の後でよろしいですか?」
「はい。ありがとうございます」
事務員は誰も居ない面会室へ俺たちを連れていくと「少し待っててください」と言い退室する。
その隙に先ほどからモゾモゾと動いているゾンビ先輩へ小声で話しかけた。
「起きてますね?」
「イヒッ。突然の精神異常ねぇ」
「どう思います?」
「何とも。見なければわからん」
「とりあえずは会話可能な兵士の尋問ですね。あんぱん食べながらで良いので寝ないでくださいよ?」
「寝たら連日外で働かせるムキムキ猿のせいだ。イヒヒッ!」
やっと起きてくれたゾンビ先輩を面会室の椅子に降ろして俺は自分のジャケットを脱ぐ。
案の定あんぱんの食べカスが付いていた。それを払いながら何気に初めて入る面会室を眺める。
直接対面できる取り調べ室とは別にアクリル板で仕切られたこの場所。
何かあった時に刀を抜く必要が無いし、ゾンビ先輩も居るから面会室で助かった。
「むぐ。このあんぱん悪くない。いつも妹ちゃんが買ってきてくれるあんぱんの方が美味しいが」
「それクロバラ先輩がよく買ってくるパン屋ですよ」
「イヒッ!このあんぱん美味いぞぉ!」
これから被疑者に会うっていうのに通常運転なゾンビ先輩が羨ましい。
俺は冷静を装いながら慣れない場に緊張しているというのに。
そんな心の声と共に引き攣ってしまう微笑みを浮かべているとアクリル板の奥にある扉が開く。
するとそこから無表情の兵士だった者がゆっくりとこちらにきた。




