68話 散乱した部屋
「今日中に…死ぬ…?」
「はぁ…大方そうなんじゃないかとは思っていたけれど…。で?助ける方法は?」
ライリーの父親の言葉を受け止め切ることができていないリリとは別に、アンゲリカはライリーの父親に問う。
ライリーの父親は、せせ笑いながらもリリ達に答えを投げかける。
「助ける方法?そんなもの!ないに決まっているだろう!大体、あのゴミは我らが『神』をこの魔界に下ろすための生贄に過ぎないのだ!助ける必要なぞない。」
「…どうやら本当の事のようね…いきましょう、リリ。」
「え?ちょっ!ちょっと待ってくださいまし!」
ライリーの父親は、すでに目の前にいるアンゲリカ達を見てはいなかった。
目が忙しなく動き続け、心なしか焦点があっていないようにも見える。
完全に、ライリーの父親は正気ではなかった。
そんな男の様子に痺れを切らしたのか、それともこの空間にいるのが堪え難かったからなのか、アンゲリカは一つ、リリに声がけをすると、出口に向かって歩き出す。
「い、行くって、一体何処に行くんですの?」
その後を、やや遅れながらもついて行きながら、リリはアンゲリカに疑問を漏らした。
正直、リリはアンゲリカとライリーの父親の会話についていけてなかった。
時々、自称7つの原罪の声が頭の中に響いて来て、あまり集中して話を聞けていなかったのも事実だが…それ以上に、二人の会話スピードが早過ぎてついていけていなかったのだ。
そんなリリの疑問を汲み取ったアンゲリカは、歩きながらリリの質問への答えを口にする。
「何処って…ライリーを探しに行くのよ。今もなお苦しんでいるはず…早く助けてあげなくちゃならない。」
「……ちょっと、意外…ですわね。」
地下室から出るための階段を登りながら、リリは心の内に生じた本心を、無意識にポツリと吐き出す。
そんなリリの呟きを聞き逃さず、今度はアンゲリカがリリに質問を投げかける。
「意外って、どう言う事?」
「あ、…べ、別に!アンゲリカの事を馬鹿にしているとか!そ、そう言うわけじゃああ、ありませんでしてよ?!」
「ふふ…そんなに動揺しながら言われても、説得力がないよ。」
不快な思いをさせてしまったかもしれない…。そう思ったリリが、慌ててアンゲリカに対し弁解を始めた。
しかし、罪悪感があるからか、それとも誤解を与えてしまったかもしれないと言う焦りからか、リリは言葉をつまらせながら喋りだす。
そんな様子のリリを見ながら、アンゲリカはちょっと複雑そうな笑みを浮かべて、言葉を漏らした。
「ご、ごめんなさい…不快な思いをさせてしまったかしら…?」
「いえ、大丈夫よ。別に、悪気があって言った言葉じゃないってくらいわかるわ。」
「で、でも…」
「それよりも今は、ライリーの事よ。…万が一、7つの原罪が復活していたら…。とにかく、取り返しの付かない事態になる前に、あいつを見つけよう。」
「…分かりましたわ。」
アンゲリカは笑って、リリの事を許してくれたが…それでもリリには、まだ少しばかりの罪悪感が残っていた。
何か、アンゲリカのためになる事をしてあげられないだろうか…と、恐る恐る声をかけたものの、アンゲリカはそれを軽くあしらった。
別に、アンゲリカに悪気があった訳じゃない事ぐらい、リリには分かっていた。
ただ単に、今はリリよりも優先すべき事があるだけ…それだけ…。
(でもなんだか…落ち着かない…。)
まるで自分という存在が、今この場所に確かに存在している。…しているはず、なのに…。
まるで、それが認められていないような、そんな錯覚に陥ってしまう。
気のせいだ、そんな事ない。…そう、分かってはいるものの…どうしても、胸の内側に黒いモヤモヤが生じてしまうのは、仕方のない事なのだろうか?
(いえ…今はそんな事、気にしてる場合じゃないわ!)
頭に浮かんだ邪念を振り払って、リリは自分の数歩先を歩くアンゲリカの後について行った。
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「後はこの部屋だけね…。まさか、自室にもいなんなんて…。」
「もしかしたら、弱っている自分の姿を見られたくなかったのかもしれませんわ。」
屋敷の中を一通り探したが、ついぞライリーを見つけることは叶わなかった。
残すところ、今現在目の前にある扉の奥だけ…と言った状態だ。
もし、これでライリーが見つからなかったら…仕方がないけれど、もうどうする事もできない…お手上げだ。
(お願いだから…ここにいて…!)
僅かながらの希望を抱きながら、目の前に聳え立つ扉を開け、部屋へ入って行った。
「っ…。随分…汚い部屋ね…。」
部屋の中は、廊下からこの部屋に入ってくる明かりによってやっと見えるようになった。
つまり何が言いたいかと言うと…リリ達が入ってくるより以前は、明かりすらついていなかったと言う事だ。
おまけに、床の上には何やらよく分からない紙切れや本などが散乱していて、とてもじゃないが足の踏み場がなかった。
慎重に、床に散らばっているもの達を何一つ踏まないように気をつけながら、部屋の奥へと足を進めていると…
「…誰…だ…?」
か細い、まるで今にも消えて無くなってしまいそうな程、弱々しい声が聞こえて来た。
一瞬、リリはその声の持ち主が誰なのかわからなかった。
だって、あまりにも…いつも聞いていた声とは、あまりにもかけ離れた、心許ない声色だったものだから…。でも、その声にはまだ微かに、『ライリーの面影』があった。
「ライリー…?ライリーですの?」
「くるな!!」
確証を持ちたくて、リリは囁くような、優しい声色でライリーに話しかけたが…彼は、今まで聞いた事もないような切羽詰まった声色で、怒鳴り声をあげた。
「頼むから…来てくれるな…。」
と、思いきや、直ぐに元の弱々しい心許ない声に戻ってしまう。
ライリーの怒鳴り声に、リリとアンゲリカはまるで足が地面に縫い付けられてしまったかのように、動けなくなってしまっていた。
ライリーの元に近寄って、彼が大丈夫なのか、そうでないのかすら確認する事ができない二人の耳に、苦しげな呻き声が聞こえてくる。
うまく息を吸えていないのか、大袈裟な呼吸音が聞こえてくるものだから、リリ履いてもたってもいられず、ライリーの声をかけようとした、その時。
「…くる…しむのは…ハァ…ハァ……『俺だけ』で、いい。」




