32話 エグモント・クロスフォードの謎
「ライリー!」
部屋を出てから数十分後、リリはアンゲリカと話しているライリーを見つけた。
二人は声こそ小さいものの、時々聞こえてくる言葉の語尾が強い事から、二人が揉めていると言う事は予想できた。
実際、アンゲリカとライリーは揉めていたので、リリの予想は正しかった。
リリがライリーのすぐ近くに寄った時、アンゲリカから決定的な否定の言葉が聞こえてきた。
「ですから、私はあなた方に救いなど求めていないと何度言ったらわかるんです?」
「逆に聞くが、何故頑なになってお前は父親を守ろうとしてんだ?」
二人の間に嫌悪な雰囲気が漂う。
流石にこれ以上ヒートアップしたら収拾が付かなくなると思ったリリは、すぐさま二人の間に割って入ろうとしたのだが…それよりも先に、アンゲリカが口を開いた。
ここに至るまでの話を聞いていなかったリリといえども、アンゲリカの口から出た言葉には疑問が湧いて出た。
「私は…私は、父上が満足するならばそれで良いのです。…私が生きている事が、父上にとっての重荷になるのだとしたら、父上のために使って頂くのが本望です。」
ライリーの顔を真っ直ぐと一遍もそらす事なく見つめて、アンゲリカは言い放った。
………え?
彼女の言葉を聞いて理解するまでに少し時間がかかったが、その言葉はリリの頭の中を真っ白にさせた。
しかし、呆けているリリを着にする事なくライリーは反論を口にする。
それはまるで猛犬の鋭い牙の様にアンゲリカに喰ってかかる。
「被害者は自分だけじゃないかも知れないんだぞ?!お前が良いとしても…何も知らない純粋な子供がその毒牙にかかったらお前はどう責任を取るんだ?!…お前は自分のエゴのために他人の命を犠牲にするつもりか?」
多分、あくまでも彼は予想の範疇から推測される事柄について話しているだけに過ぎないのだろうが…ライリーの言葉は重すぎた。
きっと彼女だって自分さえ生贄になれば良いと、それだけで済むのだと考えていたからこそ出た言葉なのかも知れないが…。
ライリーの言葉を聞いたアンゲリカの目に動揺が写った。
先程までの落ち着きが嘘の様に、徐々に取り乱していく。
おぼつかない足取りで数歩後ろへ下がり、喉元を抑えるアンゲリカ。
わずかだが、彼女の口から『カヒュッ…』と、短く息の切れる音が聞こえてくるのは気のせいだろうか?
あの時と同じ…急にぼんやりとして、何かに怯える様な目をしているわ‥。
リリの事を助けてくれた時もそうだった。
何がきっかけだったのか、彼女は焦点の合わない目で地面を見つめ、気にかけたリリを突き飛ばした。
「ハッ…ヒュ…!」
「お、おい?」
「あ……ちが…なん、で‥。」
ライリーの顔を怯えた目で見つめるアンゲリカ。
流石にただ事じゃないと悟ったライリーがすぐさま助けようと動き出したのだが‥。
アンゲリカの体から淡い光が放たれ、次の瞬間目の前から消えていた。
「あ、あれ?いない‥。」
「そんな事言ってる場合じゃねえだろ!早く探すぞ!」
慌てた様子のライリーがリリより早く駆け出していく。
その様に習って、リリもアンゲリカを探しにライリーとは反対方向に走って行く。
流石に、こんな時に『品位が〜』とか『魔王の娘なのだからおしとやかに〜』だとか言ってられない。
普段のおしとやかな動作をかなぐり捨てて全力で屋敷の中を探し回る。
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あれから1時間ほど経過したが…結局消えたアンゲリカの行方は見つからず、彼女の父エグモントにも相談したが…
『あれは時々、常備している転送装置を使ってどこぞへ隠れてしまうのです。…残念ながら、転送装置の行方がどこかは私も知りません故。お力になれず不甲斐ないばかりです‥。』
などと、実の娘が過呼吸の状態で消えたのにも関わらず普段と変わらぬ態度でリリたちに接するエグモントに、リリはいっそ不気味さすら感じた。
『心配せずともすぐに帰ってきます。』
と、暗にアンゲリカの捜索を止める様言ってくるエグモントに従い、リリたちは残りの時間、7つの原罪に関する資料を調べるのと並行に、リリは個人的に調べておきたかったものがあった。
誰にもバレぬ様お目当ての品を本棚から抜き取り、こっそり部屋へ持ち帰った。
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その日の夜
リリは昼間の内に持ってきていた本を取り出し、机の上に置いてあるランプに灯りを灯す。
その本の題名は『レオンハルト家家系図と、結婚相手関連まとめ。』と記されている。
実は、昼間の騒動の際のエグモントの落ち着き様に疑問と不気味さを抱いたリリは、エグモントがレオンハルト家に嫁いで来るまでの情報を見ておこうと思ったのだ。
ペラペラとページをめくり、内容を流し読みしながらエグモントについて書かれているページを探す。
元々、レオンハルト家は魔界国家建国時から現在まで続いているので、家系図だけでも相当な厚みがあった。
そして1時間後、時刻はA.M.0:52。
深夜の時間帯になった頃、ついにリリはエグモントについて書かれたページを見つける。
「えーっと…。」
『エグモント・クロスフォード。
元々は没落貴族であるクロスフォード家の次男。 エマ・レオンハルトと恋に落ち、レオンハルト夫婦か ら許しを得た事により婚約、成人と共に結婚。彼の経歴を探った所、次男である事、成績は低く出身校も レベルの低いもの、魔力も常人並の使えぬ男。』
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しかし、そのページにはど真ん中に一言、こう書かれているだけだった。
『それ以外の情報は探っても見当たらず、彼の友人の証言によれば、数年前に死んでいるとの事。』




