31話 ライリーの独断
「でも…仮にもしそれが本当だったとしても、何故アンゲリカさんはエグモントに逆らわないの?奴隷紋といえども、犯行ぐらいはできたはずだわ。」
幼少期に模様や紋章についての勉強をしていた事を思い出したが、その時は確か…
『奴隷紋といえど、流石に全ての行動に制限をかける事はできません。』
って言ってたはずなのだけれど…。
「おそらく、特殊な物を使ったのではないかと思われます。」
「特殊?奴隷紋に特殊も何もあったか?」
「私にもさっぱり…。アルフは心当たりがありまして?」
疑問は募るばかりだが、レオンハルト邸に滞在できる期間も後5日。
あまり悠長に構えてはいられないのだ。
それに……リリには絶対にアンゲリカの説得に成功しなければならない理由がある。
レオンハルト邸に滞在する際の条件として父は
『いいか?必ずアンゲリカ・レオンハルトを懐柔し、あの家の書庫の資料を魔王城に寄越す様に説得してこい。でなければ…貴様は使えぬゴミとして、今度こそ我が家の栄養のために死んでもらう。』
と言ってきたのだ。
すなわち、リリは今自分の命をかけてこの場にいるわけで、仮に失敗したとなれば逃亡生活をせざるを得なくなるわけだが…
魔族だから人間界に逃げるのは無理だし、天界は…ゴマちゃんの件があるから迂闊に近づくわけにはいかないし…。
となると魔界の中で何とかやり過ごさなければならないわけだが…見つかるのは時間の問題だし、それよりも困った事に…
魔界の中を逃げ回りながらじゃ情報収集も困難になるし、何より仲間を作るのが難しくなる。
勿論、リリは修行すれば自分一人で7つの原罪を倒せる様になる!なんて思っちゃいないし、何ならどんだけ鍛錬を積もうが自分一人では絶対に倒せないとまで思っている。
まあぶっちゃけ、リリの思っている事は当たっているのだが…。
ともあれ様々な理由からリリは今回、絶対に失敗は許されない状況下に置かれる事となってしまったのだ。
「奴隷紋にも種類がありまして、その内の一つに相手を絶対服従させる事のできるものもあるのです。」
「そんなものが?!…あら?でも、そんなに便利なものがあるのでしたら、奴隷商たちは皆その模様を奴隷全員に刻むのではなくて?」
昔、リリは父に連れられて一度だけ奴隷の売買場にきたことがあるが、その時奴隷に刻まれていた紋はスタンダードなものしかなかったはずだ。
何故、わざわざ反抗させる余地のある紋を刻んでいるのだろうか?
その答えはすぐにアルフの口から語られた。
「簡単な事です。特殊な奴隷紋を刻むためにはある材料がいるのですよ。それもとても貴重なものが。」
「貴重な?一体どんなものなんですの?」
ライリーは会話に入ろうとせず黙ったまま、顎に手を当てて俯いたまま何か考え事をしている。
そんなライリーをよそに二人は話し続ける。
「堕天使の羽を2本、瘴気を小瓶一本分、それら二つを調合してインクにし、そのインクで奴隷紋を書くと絶対服従の奴隷紋の完成です。」
「……材料に瘴気を使うだなんて、命がいくらあってもたりませんわ‥。」
「ええ。ですから一般的な魔族は作らないのですが…多分、よっぽどアンゲリカさんに反抗されるのが嫌なのだと思います。」
「仮にアンゲリカに奴隷紋を刻んだ理由がエグモント卿の妻…エマ様が亡くなった事への悲しみをぶつけているのだとしても、わざわざ命の危険を冒してまで特殊奴隷紋を作る必要性がありませんわよ?」
「恐らくですが…反抗されると困る理由があるのでは?」
二人が話し合っていると、先ほどまで喋らなかったライリーが口を挟んできた。
「推測だけ立てても前には進まねえし、一度本人に聞いてみればいいんじゃねえか?」
「ほ、本人に聞くって…それをやってアンゲリカさんが口を開くとお思いで?」
ライリーの案に、リリは声色を低くして疑問をぶつける。
リリからすれば、ライリーの提案は正直に言って採用できない。
何故なら、アンゲリカは絶対服従の奴隷紋を付けられているのだ。
おおよそ、エグモント卿が何故アンゲリカに奴隷紋を付けたかについては話せない様にされているだろうし、そもそもアンゲリカ本人が理由を知っているかどうかもわからない状況だ。
もしかしたら彼女本人に危害が及ぶ可能性もある。
最悪の場合…彼女が死んでしまうかもしれない。
そうなれば、リリは逃亡生活を余儀なくされるし、何より手に出来たはずのものも手に入らないまま…7つの原罪が復活して手遅れになってしまうかもしれない。
「とりあえず聞きに行くわ。」
「ちょっ!何勝手な事して!」
リリが止める間も無く、ライリーは部屋を出て行ってしまった。
不味い…このままじゃアンゲリカは愚か、ライリーまで‥。
最悪な予想が頭をよぎり、こうしちゃいられないとアルフを一人部屋に残し、リリはライリーの後を追って部屋を出て行った。
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「リ、リリ様?!」
リリの方へ手を伸ばすも、リリはすでに扉を開け部屋を出て行ってしまった。
バタンっと扉の閉まる音がして、一人残されたアルフは盛大なため息をついた。
そして、部屋に誰もいないのを良い事に愚痴を吐く。
「ったく、あのお嬢様は世間知らずで困るね。」
ドカッと遠慮無しにリリのベッドへ腰をかけ、後ろに手を突きながら、独り言をぶつくさ呟く。
「ライリーの野郎も従順な駒にできないし、あの箱入り娘は才能をあらわにしないし‥…チッ!」
舌打ちをして、ベッドに体を預けるアルフ。
片腕を目元に当て、光を遮る様にしながら一言。
「そろそろ潮時かな…。」
ここまで読んでくださりありがとうございます。
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今後も面白い話を更新して行けたらと思っています。
ちなみにいつか、分岐ルートと言うかifルート的なの描こうと思ってます。




