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実は渋々被ってます

 ギルド会館。

 そこは冒険者がクエストのために足しげく通う施設であり、毎日のように賑わう。

 部外者が立ち入ることも可能であり、その女性は窓口がいくつも並ぶ受付近くで冒険者達を眺める。


(ふふ、楽しそうだ)


 そう思わずにはいられない。彼らの表情が活き活きとしているからだ。

 四種類の掲示板前にはそれぞれ人だかりができている。これから挑むクエストを物色している最中なのだろう。

 ああだこうだと仲間達と議論を交えながらも、どこか意気揚々と張り紙を眺めており、見ているだけで活力をもらえてしまう。

 受付では若い男が大きな剣を背負って職員と話をしている。どうやら冒険者になりたいらしく、そのためのクエストにこれから挑戦するらしい。

 ギルド会館には大勢の冒険者が足しげく通う。目的やそこでの佇まいはそれこそ千差万別だ。

 冒険者談議に花を咲かせる。

 クエストを物色する。

 仲間を募集する。

 憧れを胸に抱く。

 食事を楽しむ。

 装備やアイテムを売り買いする。

 見ているだけでも飽きない。赤い軍服を着たその女性は小さく微笑む。

 肩まで届きそうな黒髪は綺麗に整っており、目元の小じわが少しだけ年齢を感じさせる。

 第二陸軍軍長のエミリアだ。

 ギルド会館で冒険者を観察しているわけではない。待ち人が現われるまでこうやって時間を潰しているだけだ。


(しかし、何とも不思議だな。確か、魔力が高まる帽子のはずだが……)


 エミリアはとある冒険者達を眺める。

 彼らはこれからクエストか冒険に出発するのだろう。和気藹々としながらも、どこか誇らしげに出口へ向かっている。

 四人組の冒険者らしい。構成は次のようになる。

 盾役。黒い鎧とこれまた黒い盾から一目でわかる。スキンヘッドだからか、傷だらけの顔がそう感じさせるのか、近寄りがたい雰囲気を漂わせている。

 前衛攻撃役二人。皮製の軽鎧を着ており、あちこちが露出してはいるが、防御性、動き易さ共に申し分なさそう。一人は盾役の男の肩を叩きながら笑っており、もう一人はどこか恥ずかしそうに歩いている。

 後衛回復役。灰色のローブをまとい、ぐねぐねとねじれた薄茶色の杖を大事そうに抱えている。ひょろっとしており頼りなさそうに見えてしまうが、モンスターを前にすればしゃんとする。

 四人共男だ。それはどうでもいいのだが、問題は前衛攻撃役の二人だ。

 盾役の隣で笑っている男はなかなかに二枚目だ。どんな髪型をしているかまでは頭装備のせいでわからない。

 もう一人は口ひげを生やした渋い男だ。やはり髪型まではわからない。

 そう、二人共頭用の防具を被っている。それ自体は普通なことだ。ギルド会館では脱ぐ冒険者も多いのだが、その二人に関してはそれを頭に乗せている。

 エミリアにとってはなかなかに不思議な光景だったりする。

 円錐の黒い帽子を被っているからだ。

 三角帽子。

 とんがり帽子。

 自分達の頭以上に大きく、そして尖った帽子を深々と乗せている。

 この帽子は魔力を高める頭装備のはずだとエミリアは認識しており、少し戸惑う。なぜなら、彼らは前衛攻撃役だからだ。

 実は、この帽子は見た目だけは一緒だが、性能はエミリアの想像する防具とは異なる。前衛攻撃役用の装備であり、具体的にはわずかに体が軽くなる。防御性そのものは無に等しいが、それを差し引いても優秀な防具と言える。

 かなりの高額であり、おいそれとは購入できない。冒険者なら誰もが憧れる頭装備だ。

 エミリアは冒険者の流行を追っているわけではないため、同じ見た目の後衛用防具を連想してしまい、首を傾げてしまう。


(ひー、ふー、みー……。何人か被っているな。どれも前衛のようだが……。後で聞いてみよう)


 視線を動かすと、黒いとんがり帽子を被っている冒険者がちらほら発見できる。やはり前衛攻撃役らしく、皮製の防具や軽めの鎧をまとっている者ばかりだ。


(しかしあれだな……。決して見た目はよろしくないな)


 そう、見た目は最悪だ。黒色のとんがり帽子なのだから当然と言えば当然だ。いかなる服や鎧ともマッチしない。

 それは承知しているのか、そのことにつっこみを入れる冒険者も少なくはない。だが、そんなことすらも笑いの種にして楽しむのが冒険者であり、笑う方も笑われる方も帽子を指差して腹を抱える。

 冒険者は見た目よりも性能を重視する。

 ゆえに、かっこ悪い装備であろうと、優秀なら躊躇なくそれを選ぶ。もちろんそうでない冒険者もいるが、それは極小数でしかない。

 このとんがり帽子だけでもそのことが見て取れる。

 エミリアは時間を忘れてギルド会館のありふれた日常を満喫する。

 待ち人はまだ来ない。そろそろ来てもいいはずなのだが……。

 ふと、一人の子供がギルド会館の扉を開けて現われる。

 マジックバッグと片手剣を背負っており、どうやら冒険者らしい。


(うちの息子くらいだな)


 エミリアには十歳前の息子がいる。現れた男の子と背丈は同じくらいだろうか。

 どこか親近感の湧く子供を眺めていると、なぜか真っ直ぐこちらに向かってくる。

 ややぼさっとしている黒髪。

 整った顔立ち。

 見覚えのある赤いコート。大人用なのだろう、サイズはこれっぽっちも合っていない。完全にぶかぶかだ。

 大事そうに何かを抱えている。その様子がどこかかわいらしい。

 近づくにつれてよりはっきりとわかってくる。十歳くらいだろうか。年齢も背丈も息子に近い。

 受付に用事があるのだろうと想像するも、その男の子は迷わずエミリアを目指す。

 そして気づかされる。やはりそのコートには見覚えがある。

 思わず口を開く。


「もしかして……」

「お待たせしました、これがそうです」


 エミリアの待ち人はこんな小さな子供ではない。しかし、どうやらこの男の子らしい。

 空いた口が塞がらないエミリアと、荷物を差し出す男の子。


 これはもう少し先の出来事。

 ギルド会館では様々なやり取りが眺められる。エミリアのこんな表情はここでしか見れないかもしれない。


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