2 ルールブック
01番は、昔からルールブックが好きだった。
彼の人生に登場した一番最初のルールブックは、オセロのルールブックだ。
2つ上の兄と父がオセロを取り出したときは、そのルールブックを借りた。
文字も読めない頃の話である。
彼は挿絵の、ひっくり返るコマたちが好きだった。
彼は、自分がこの文字が読めるようになったら、もっと楽しいに違いないと思っていた。
父にしてみれば、兄弟と遊ぶには不向きなおもちゃだと思っていたのだが、二人が満足するのだから重宝していた。いずれ、二人だけで遊ぶようになることを想像して、一足早い感慨にふけることもあった。
ある日、父が不在の昼、母は妹の昼食に忙しそうにしており、彼は兄と遊んでおやつまでの時間を過ごしていた。
意味もなく飛んだり跳ねたり、そして、遊びはオセロに行き着き、弟の01番が黒の先番を握った。
オセロは先手のほうが有利だ。黒が一つ目の角をとった。
事件は次の手番で起きた。
兄が、角に隣接する場所を白でふさぎ、角の黒を白くひっくり返そうとしたのである。
01番は、兄の手をつかんで、首を振った。
目を丸くして見合った二人はとりあえず喧嘩をした。
髪の毛をつかみあい、力任せにけりあう見苦しい喧嘩の末、母に両成敗にされてオセロを没収された。
二人のおやつもなかった。
泣きはらした頬で、01番は眠りについた。
おもちゃではないために没収を免れたルールブックを握って。
さてつまり、この事件の犯人はもちろん父である。
父は、角をとったら終わりのルールで兄を納得させることができず、角をひっくり返せるというルールで兄と遊んでいた。兄は、ルールブックを読んだことはない。ずっと父との間でそれとは知らずにローカルルールで遊んでいた。
しかし01番は知っていた。ルールブックが、挿絵入りで、角が絶対にひっくり返らないことを教えてくれた。父は01番に不正を詫び、抜かれたおやつの埋め合わせをして、正しいルールでオセロを戦った。
父は兄にもおやつの埋め合わせをして、ローカルルールでオセロをやったが、01番には知るよしもない。
01番は、今もルールブックが好きだ。




