壱伍漆、RELEASE
深い森を抜けた先に待ち受ける大きな町。
魔族が湧き出る長い長い廻廊——無限回廊に隣接する町。
誰が言ったか、ここは"永久の町"。
永久に続くダンジョン——無限回廊がある町である。
俺とバムは馬車小屋から出る。馬車は向こうへと進む。ここから先は徒歩の旅となる。
甘味処で三色団子を注文し食べる。
餅の甘みと粘り気のある食感が口の中に広がっていく。
少しだけ優雅な時間。
そんな時、怪しい忍者が目の前に現れた。
「罪人"りりりりり"。オヌシを殺人の罪で逮捕させて貰う。」
「身に覚えながないんだが?」
クナイが取り出されて切り込もうとしてきた。なんとか後ろに倒れながら一回転して攻撃を避ける。
「意味が分からねぇ。ひとまず逃げんか。」
バムの手を引っ張りながら甘味処を出る。
屋根の上に立つ忍者は四名。地上には三名。他にもいそうな気がする。
シュッ。攻撃がとんでくる。
投げられる手裏剣を剣で弾いた。
ここはもう逃げるしかない——
が、いつしか忍者に囲まれてしまった。
「何なんだ。お前ら。一体何者だ?」
そう言うと、バムが耳元で「この人達、国の忍だよ」と伝えてくれた。
「我々は"蒼の国"直属の忍でござる。罪人"りりりりり"の捕獲の任を受け、その使命を果たそうとしている。」
「俺が何をしたって言うんだ?」
「貴様には先々週程前、都市郊外北門近郊地点にて、大量虐殺をした疑いがある。さらに、先日程、貴様の仲間が魔王直属の部下——魔族四天王になったことを把握した。して、言い逃れはあるか?」
「ねぇな!」
してやられた。
全て孝太郎の責任ではあるが、そのパーティーのリーダーは俺だ。俺の責任になるのは当然のこと。
言い逃れはできはしない。
「こりゃ、困ったな……。」
一晩ずっと孝太郎を倒すための策を考えていたのに、国中の人が敵に回ったらその策は意味をなさなくなる。
これは孝太郎が仕向けた罠なのか。そうとしたら、アイツが一枚上手だったということ。
頭脳戦的な面で負けを認めるしかない。
ここで下手に抵抗すればさらに罪が増えるだろう。諦めて捕まる方がいいのかも知れない。
【煙幕——】
そんな時、煙幕が周りを覆った。目の前が見えなくなる。
「違う系統故に長くは持続しない。今のうちに逃げるぞ。」
近くで聞こえる年老いた男の人の声。そして、誰かに袖を引っ張られてその場から離れていく。
いつしか町の外の森にまで逃げ切っていた。
落ち着いた風が吹いている。
「なんとか撒いたようじゃな。」
おじいさんがそこにはいた。彼のお陰でここまで逃げてこられたみたいだ。
「何者ですか?」と伺う。
「ワシは賢者エポン。世間ではワシのことを仙人と呼ぶ。ワシはオヌシらの力になりたいと思う者じゃ。少し聞きたいのじゃが、なぜオヌシらは追われて追ったのじゃ?」
エポンに事情を説明した。
彼はゆっくりと頷いた。
「それは大変じゃったのぅ。しかし、オヌシらが名も無き村を助けようとしたことは耳に入れておる。オヌシらは紛うことなき善の者じゃ。オヌシらのために力を尽くそう。」
「ありがとうございます。では、このまま一緒に旅をしてくれませんか?」
「もちろんじゃとも。」
エポンが仲間に加わった。
俺はポケットからスマホを取り出した。そこに映るエポンのステータス。俺にだけ認められた特権。
俺は仲間のステータスを自由に確認することができる。
「バムの"爆音"に、エポンさんの"エコー"か。これなら、あの策が実行できる気がする。」
一晩考えていた作戦が無駄にならないと踏み、俺は少しだけ頬を緩めた。
「この世界には三つの国がある。今、ワシらのいるのは"蒼の国"じゃ。そして、永久の町の隣には"翡翠の国"がある。翡翠の国に逃げさえすれば、追われることもないじゃろう。」
「じゃあ、今すぐにでも隣国へ逃げた方がいいですね。」
そのような二人の話声を耳にした。
俺は「そんなんじゃ駄目だ」と口にした。
二人はなぜか首を傾げていた。
まぁ、そうなるのも頷けるが……。
「このまま"翡翠の国"に逃げ込めば追われることもないが、孝太郎を倒すのが遠くなってしまう。俺はいち早く孝太郎を倒したい。だから、逃げない。」
そう、正々堂々、胸を張る。
俺は二人にこれから行う行動を伝えた。それを聞いて驚かれたが、納得はしてくれた。
「今日は、ワシの家に泊まりなさい。」
エポンの家は永久の町の外れに存在した。ひっそりとした場所にポツンと置かれた家。
そこにお邪魔をした。
「少しお願いがあります。」
「なんじゃ?」
「ここに住まわせて貰えませんか?」
「もちろん。」
「それともう一つ……バムはものすごく強くなれますが、指導者がいないんです。エポンさんが教えてあげられませんか?」
「もちろんじゃとも。」
夜はゆっくりと更けていく。
その日をゆっくりと溶かしていった。
◆
エポンの家にて一ヶ月は経った。
【バレット】——弾丸!
バムはエポンに稽古をつけて貰いみるみるうちに力をつけている。
今も、人差し指から銃弾を放ち、木に衝突させた。あのバネしか使えなかったバムは今大きなる成長を見せている。
「こんなに長居していいのかのぅ?」
「いいんです。……というか、できるだけ日数は稼ぎたいので——。」
町への食料調達はエポンが行う。
「さぁ、料理作るぞ。」
料理を作るのは俺だ。
今日は炒飯を作っていく。ついでにズボラ小籠包も作る。
「一人暮らし歴ベテランの俺の飯を食らいやがれっ!」
「美味しいっ!」
その声が聞けて満足だ。
日数は確実に積み重なっていた。
◆
どれぐらいの月日が経ったのだろうか。
半年経ったか経っていないかぐらいだろうか。
俺は久々に永久の町へと下りて、甘味処の三色団子を楽しんでいた。
そこに現れる国の忍者。
「時間が経っても変わらないのか……。それじゃ仕方ない。」
忍が俺らを捕まえようとする。それに抵抗することなく俺らは捕まった。
「すんなりと捕まるな。何か企んでいないか?」
「何にも。ただ、清廉潔白を伝えたいだけだ。逃げてちゃ、逆に真っ黒になりそうだからな。」
既に逃げたやつが何を言ってる、みたいな感情になっているような気がした。
俺とバムとエポンはまんまと捕まり、国の馬車の中に入れられた。そして、馬車はひたすら移動して行く。
外の景色は分からない。
手には手錠がしてあり、足には鎖が付いている。逃げる気はないが、逃げられる気はしない。
「ついたぞ。都市だ。」
長いこと揺られた後に、都市に戻された。久々の都市。しかし、俺らが向かった先は地下深くの牢屋敷だった。
鉄の牢に囲まれた箱の中。両隣にはそれぞれバムとエポンがいる。
ここからは刑務所暮らしだ。
「全く弁論の機会が見つからないな……。裁判のない世界だったか……。ほんと笑っちまうよ。」
正直、裁判のようなものがあると思っていたのに、裁判のようなものは存在せず、俺らは直行で牢屋行きになってしまった。
「裁判……?」
バムやエポンも裁判について知らなかったみたいだ。俺は裁判について説明した。二人は感心したように頷いていた。
「いいざまですね……。」
牢を挟んだ向こう側に現れた孝太郎。
「何の当てつけだ?」
なぜそこに彼がいるのかは分からない。捕まっていないのは忍じゃ彼を捕まえられなかったからだろうか?
「このまま捕らわれの身では話が先に進みません。ですから、今、私が脱獄の機会を与えにやってきたんです。このまま私らで争ったことにして檻を破壊しましょうか?」
「やっぱ変わらねぇな。どこまで言っても視聴者、視聴者。顔色伺いだけで自分の意思なんてのは二の次。俺なら、そんな生き様断固拒否するぜ。」
「まったく……。では、この状況を、どうするんです?」
ため息を放つ孝太郎に、
「何もしねぇ」と啖呵をきった。
「あー、そうそう、俺のパーティーは今、基本的な人数丁度ぐらいなんだ。お望み通りだろ? そうならないから沢山人を殺してきたもんなぁ。けど、お前が人を殺すお陰で捕まっちまったけどな。」
「ただの嫌味ですか……。それについては私も非を認めましょう。ですから、ここから出すことで——」
「そんなうわべっつらの言葉なんてどうでもいい。反省してるなら、一緒に捕まってくれや。まっ、退屈かも知れねぇが。」
「そんなことはできません。それでは、観客も退屈してしまう。」
「ほら、お前は変わらねぇ。それじゃあ、俺も変わらねぇ。いいか、よく聞け。俺らはお前を倒す。怯えて待っておくんだな。」
「その状態で無駄口を叩くとは……。では、私は貴方が諦めるのを待つとしましょう。貴方は処刑され、"リトライ"でここに戻ってきます。その時にもう一度、聞きましょう。少し修正、何度でも聞きましょう。——ここから出して欲しいか、をね。」
「安心しろ。お前の思惑通りにはならねぇから。二度と会うことはねぇかもな。」
檻を挟んで対立し合う俺と孝太郎。
「減らず口を……。そこまで言うなら楽しみにしてますよ。貴方が諦めるのを……ね。」
孝太郎はどこかへと去っていった。
薄暗い牢屋の中、俺は少しニヤついた。
「俺とお前との——最終決戦だ。」
俺はそんな独り言を呟いていた。




