壱伍肆、RESOLVE
遠くに見える薄汚れた濃い緑色をした魔族の群れ。
数多くのゴブリンが押し寄せる。その後ろにはそれより大きいオークが立ち並び、奥には巨大なトロールが一頭存在している。
「一つ質問いいか?」
俺はディオクレティアヌスに訊ねる。
「ゴブリンの弱点か?」
「いや、お前らが戦った時、いつも通りに戦えてたか気になるんだ。」
彼は首を横に振った。
「どうして分かったんだ。俺らはいつもの力を出せずに負けた。いや、もしいつもの力を出せていたとしても……あの数はどうもできやしない。」
その言葉を聞いて安心した。
——じゃあ、大丈夫だ。問題ない。
「俺らは強いし数もいる。リンネは薬でこの人達の回復を頼む。ヘンリもここに残って、ここで何があった時の連絡役を頼む。」
リンネとヘンリは頷いた。
残る俺らで群れてやってくる敵を撃退するのみだ。
そして、少し進んだ時、後ろから声をかけられた。
「俺ァ、上級の壁役戦闘員だ。ずっと倒れてる訳にはいかねぇんでなぁ。行かせて貰うぜ。いいだろ?」
ディオクレティアヌスが疲れ果てているように見える体に鞭を打ってこちらへとやってきた。
「見せて貰うぜ。お前ぇらの強さをよぉ。」
「勝手に見ていてくれ。」
俺らは村の端へと向かった。
◆
魔族の群れがゆっくりと行進してきている。
「そう言えば、みんなは系統って知ってるか?」
唐突に、そんなことを聞いてみた。
すると「常識だろ」と返ってきた。
一方で、バムは「……常識なんだ」と小声で呟いていた。俺はそれを聞き逃さなかった。
「系統が分かれば、技の得手不得手が分かり、戦い方を把握しやすくなる。今から説明するから、今日のうちに覚えておくといい。」
「えっ、あっ、はい」と少年は口を開く。
「テリジア、武器の召喚を頼む。エカはその武器を使って攻撃。」
二人が頷いた。
【鉄の武器】——杖
鉄でできた杖がパッと召喚された。その武器をを持つエカチュリーナ。
そして、敵の方向に向かって武器を横向きに振るう。
【遠雷!】
放たれる雷が雑に雑魚の敵を消滅させていった。
「系統は三種類ある。一つ目は《具現化系》。物や技を召喚する能力だ。お前も具現化系だぞ。」
大規模な攻撃に危機感を覚えた魔族は、その危機を払拭するためにか急いで俺らの元に鬼気迫る表情で向かったきた。
【リユース】
さっきの遠雷がもう一度放たれる。ただし、放ったのはエカチュリーナではなく、俺。
これが俺の技——"使い回す"。
「そういやぁ、お前は負けた戦いで本来の力を出せなかったって言ってたよな? 今なら、お前の言う本来の力が放てると思うぞ。」
「どういうことだ?」
ディオクレティアヌスは困惑していた。が、すぐに「そんな嘘っぱちな言葉信じられねぇが、やってやろうじゃねぇか」と剣を取り出した。
【デカくなる】
彼の持つ剣が巨大化した。
【電撃を纏え!】
「何が起きたんか分からねぇが、これだよ、これ。これが俺の力だよぉ!」
振り払う剣。それが雑魚の魔族を巻き込みながら、オークなど中堅の魔族を一網打尽にした。
元の大きさに戻る剣。
「おいおい、どういうことだ? 何が起きたんだ?」
「その説明は後でするよ。今は、あの怪物と、残った雑魚を倒さなきゃならないからな。」
俺は剣を抜いた。
「バム。俺にバネを装着して、あの怪物の元へ移動させて。」
一頭の巨大なトロール。それが脅威を振りまいている。
【バネ!】
足元に召喚されたバネにより、俺はトロールの近くまでやってきた。
空中で剣を突き出すように振るう。
【竜頭蛇尾】
剣の金属部分は龍の頭と変わり、うねりながら真っ直ぐ突撃していく。
武器を一時的に龍に変える最強の技。
しかし、持続性はなく、段々と威力が落ちていく一撃必殺の技——。
グザッ!
龍の頭がトロールの腹を穿つ。
トロールは光の粉となって消滅した。
【リスポーン】
俺は仲間達の元へとテレポートした。
「系統の二つ目。それが《言霊系》だ。言葉が状況や行動などに直接働く能力だ。コイツが剣をデカくしたり雷を付与したり、俺が放たれた攻撃を使い回したり、様々な技があるってこった。」
ひとまず巨大な敵は倒した。後はゴブリンのみの残された群れ。
「チャンドラ! 後始末は頼んだ!」
「任せてくださいな!」
【蝶!】
大きな蝶となって、魔族の上を飛んでいく。
【塵】——鱗粉
鱗粉が撒き散らされていき、ゴブリンに降り注ぐ。
【致死毒!】
そして、鱗粉がかかったゴブリンは死んでいき、いつしかその群れは全滅していた。
「最後が《変身系》。その名の通り、変身できる。変身後は、その変身した姿が使えそうな技を具現化でも言霊系でも使えるんだ。」
「なるほど。勉強になりました。」
バムに系統を教えつつ、危なげもなく襲い来る魔族の群れを倒すことに成功した。
「今回のMVPはバムって所だな」と言うと、「何にもやってないだろ?」と突っ込まれる。
「いいや、相当な活躍さ。まっ、縁の下の力持ちだから、気づきにくいけどな。」
そう言いながら「村に戻るぞ」と、踵を返した。
◆
「我々の救世主だ。ありがとう!」
無事、襲い来る魔族の軍団を倒し、俺らは村人に快く受け入れられた。
「ヘンリ、異変はなかったか?」
「はい。ありませんでした。」
「リンネ、二人の様子は?」
「動けるまでは回復しましたよ。」
ソルジェニーツィンとパンクハーストはすっかりと歩けるようになっていた。
「流石だった。この人らは相当強ぇ。威張るなんてしちゃいけねぇ人達だ」と回復した二人に向かってディオクレティアヌスが言う。
今度は俺に向かって、
「力が戻った理由を知ってるんだよな? 聞かせてくれ」と訊ねてきた。
それに対して、快く頷く。
「それは、バムの"自動能力"のお陰さ。」
「オートスキル……?」
一定条件下で自動的に発動される能力。俺はそれを主人公補正スキルだと思っている。
運営に都合の良い用、作られた最強クラスの能力。
それ故に所持者はほんの少しに限られている。
死に戻りができる俺や孝太郎の他に、特殊な力を知らずのうちに与えられたバムと、おそらく何かしらの能力を付与された魔王ぐらいしかいないのではないだろうか。
「バムは知らず知らずのうちに能力が発動されていたんだ。その能力は——"バフ"。味方のステータスや技の能力を上昇させる力だ。」
だからこそ——
「バムがいたから、あんなに強くなれてたってことか? そして、バムがいなくなったから……」
「バフがかからず苦戦したんだろうな。ただ、そのバフは自分にはかけられない。だから、バムだけが力を震えず、成長スピードも遅かったんだ。」
バムは「そうだったんだ」と小さく言葉を漏らしていた。そして、嬉しそうな顔をしていた。
本当に喜んでいいことなのか俺は分からなくなっていた。だから、俺は笑うことなんてできなかった。
運営の自分勝手な展開のために——主人公が難易度調整できるよう、バムの仲間入りで敵を倒しやすくなるように——ご都合的につけられた能力。
そして、あの追放もまた、全てが仕組まれた展開。
たまたま白羽の矢が立ったから、バムは辛い思いを——
「なぁ、バム……」ディオクレティアヌスの声が聞こえた。
「どうしたんですか?」
「今まで悪かった! 役たたずなんて馬鹿にしてきて悪かった。」大きな言葉が村中に響いていく。
それにくっつくように「あたしらも、悪かったかも」と加えられた。
「もう一度、俺らのパーティーの一員にならないか? 今度は大切にする!」
それを聞いたバムは胸を張って言葉を言い放つ。
「ごめんなさい」と。
「やっぱり許されねぇか……。」
「ううん、違うんです。僕はこんな僕を拾ってくれて、そして僕を認めてくれた『りりりりり』さんと旅を続けたいと思っているんです。だから、お誘いには乗れません!」
「そっか。そりゃあ、仕方ないな。」
それに対して「フラれちゃったね」と返された。
バムの笑顔が垣間見えた。
過去どんな辛い思いをさせられても、今、とても幸せならそれでいいか。きっと報われたんだと信じよう。
俺は少し頬を弛めた。




