壱伍参、RESPAWN
彼にとって、この世界の住人は人権を持っていない存在なのだろう。だからこそ、躊躇いもなく殺すことができたと思う。
一方で俺は人権を持つ存在。それ故に殺してはいけない、殺されないようにしなければならないという制約を受けている。
だから——
ザンッ。
俺は自分で自分の首を斬り裂いた。
消えていく体。
殺されないために必ず生き返るよう予め運営によって『光り輝く玉』を体に埋め込められている。
それによって、俺は自動能力で復活できる。その時、セーブ時点まで時間が巻き戻る。
自動能力——【リトライ!】
俺は死んで、再び復活した。
これで孝太郎に殺された仲間達が殺されなかった時間まで巻き戻せ——なかった。
遠くで光になって消えていく姿が見えた。その状況はまさしく手遅れだった。
「当然、そうすると思っていましたよ。ですから、セーブ時点は変えさせて貰いました。」
馬車から出てくる同行に選ばれた仲間達。
彼女らはこの事態を受け止めきれていないように見えた。
剣を構えながら口を開く。
「奴はあそこにいた仲間達を全員殺した。今からコイツを殺す。手を貸してくれ。」
「……嘘だよね?」
「嘘じゃない。」
ヘンリは膝を着いて涙を浮かべた。彼女は動けそうにない。リンネは薬師で前線で戦うには実力不足。
残るメンバーで孝太郎を倒すしかない。
「許さない。アクバル先輩の仇っ!」
エカチュリーナが飛び出し、空に浮く彼へと向けて剣を振るった。
【遠雷】
放たれる雷。凄まじいスピードで進んでいく。
【コレクション】――全『参』誘導
両手を重ねて右側へと向ける。それはまさに数字の三を表しているみたいだ。
雷はその右側の方向へと大きく逸れていき、当たることはなかった。
【蝶!】
チャンドラグプタが大きな蝶に変身した。
彼の付近へと飛んでいく。
【塵】——鱗粉!
彼女が羽ばたきながら落とす粉が周りに広がった。それが孝太郎に当たりそうだ。
【交代!】
パッ。
いつの間にか孝太郎のいた場所にテリジアがいる。一方でテリジアのいた場所には孝太郎がいた。
落下するテリジアを急いで拾い上げる。
彼女は鱗粉の毒で痛みを受けていた。
「ここは薬師の私に任せて。薬草で何とかするから。」
「分かった。頼む!」
急いできたリンネに彼女のことを任せる。
また、チャンドラグプタが降りてきて、謝り続けていた。
再び浮き始める孝太郎。
【コレクション】――全『陸』エネルギー弾
両手で六の数字を形作っている。
大量のエネルギー弾が空中に現れた。濃く黄色く漂うそれが絶望感を感じさせていく。
「終わりにしましょうか。」
【コレクション】――(全)『玖』落下
手をスライドさせて九の数字となった。
エネルギー弾が勢いよく真下へと落下していった。砂埃が激しく舞っていく。
【リデュース!】
それなりのダメージを喰らったが、攻撃の数を減らしたお陰で何とかまだ戦える状態。いや、今が倒すチャンスで戦うしかない。
【リカバー】
バムを回復させる。そして、彼に技を繰り出して貰う。
「俺に技を——。」
「えっ、はい!」
【バネ!】
足元に召喚されたバネ。そのバネで勢いよく飛び跳ねた。
すぐさま孝太郎の近くへと来た。
【リベンジ!】
受けたダメージを仕返す攻撃。その威力で孝太郎を斬り裂いた。
「油断し過ぎだ。」
「いいですね。これぐらいやって貰わないと——。」
孝太郎を殺した。
◆
自動能力——【コンティニュー】
近藤孝太郎の持つスキル。光り輝く玉の所持時、発動可能。効果は『りりりりり』同様、死んだ時に復活する。
◆
時間が巻き戻り、遠くで選ばれなかった仲間達が死に行き、馬車にいた仲間達が外に出始める時間に戻った。
強く剣を握っている腕。
悔しさが滲む。
「復活能力は何も貴方だけの特権ではないんです。これ以上、無益な争いはやめて起きましょう。」
そこに仲間達が何が起きたのか訊ねる。簡潔に彼が仲間達を殺したことを伝えると、怒り任せに攻撃しようとするエカチュリーナ。
俺はそれを「やめるんだ。今はこいつには勝てない」と阻止した。
復活能力がある限り彼との戦いは無用な争いだし、下手に戦えば仲間をさらに失った上でリスポーン地点を上書きされてしまうかも知れない。
そんなこと伝えても信じられないと思うから伝えはしないけど、ひとまず戦いだけは避けないと……。
「賢い選択ですよ。」
孝太郎はゆっくりと地面に降りてきた。
俺とその後ろにいる仲間達でお互いに見合う。
「今はお前と戦う気はない。そして、お前を仲間として迎え入れる気もない!」
強くいいきる。
「はたから見れば悪役の行動。これは当然の結果ですかね。……受け入れましょう。」
彼は両手で七の文字を作った。
「これでお別れです。……次会う時は、きっと敵同士。またお会いしましょう。」
【コレクション】――全『漆』瞬間移動
彼はその場から消えていった。
とても心地よいはずの風が吹いたのに、その風はまるで木枯らしのような乾いた風に思えた。
「少し……整理しようか。」
俺らは馬車へと乗り込んだ。
◆
木でできた馬車小屋の中で揺られながら、俺は仲間達に向かって口を開く。
「俺も近藤孝太郎も"死に戻り"の力を持っているんだ。」
「何それ……勝てる訳ないじゃん。どうやって勝てばいいの?」
「それは俺も分からない。下手に戦えばお前ら失う気がして、戦いを止めたんだ。理解して欲しい。」
暗い空間がその中に広がる。
大量虐殺により大切な人を失った仲間達。そこにはとめどない憤怒を顕にするエカチュリーナやチャンドラグプタの姿があったり、失意に駆られたリンネやバムの姿があったり、哀しみに明け暮れ涙を流すヘンリとそんな彼女の背中を摩るテリジアの姿があったりした。
「この世界には『三つの光り輝く玉』があるんだ。"死に戻り"ができるのもその力のお陰なんだ。俺の持つ『天使の勇気』、孝太郎の持つ『神の知恵』、そして予備として『悪魔の力』がある。もしかしたら孝太郎はその予備の力を持ち出してくるかも知れない。」
「じゃあ、余計に勝てないじゃん!」
「ああ、まさしくその通りだ。」
エカチュリーナが言葉を失っていた。
対策を練りたいけど、対策など練れるはずがない。あまりにも敵の能力がチートすぎる。
「もし対応策があれば教えて欲しい。けど、もし出ないのであれば……」
「もし出ないなら何なの?」
「できるだけ孝太郎との衝突を回避するしかない。なんだろうな、俺が言いたいのは、忘れられないだろうが、この一件は忘れて進む他ないみたいなんだ。」
涙ぐみながら「無理だよ、忘れられないよ」と呟かれる。
「そんなこと承知で言ってるんだ。じゃねぇと、無駄死にしかできなくなる。」
暗い雰囲気の中、馬車は次なる村へとたどり着いた。
"名も無き村"——。
そこは名前すらつけられていない小さな村だった。村の真ん中には大きな桜の大木が聳え立っていた。
村が騒然としている。
特に、向こう側で何やらより騒がしい雰囲気を感じる。俺らはそこへと向かった。
死にかけていて、床に寝かせられ回復処置を受けている三人。見るからにパワー系の男、魔女と踊り子の女の三人がそこにいた。
「今すぐ村を捨てて逃げろ。あの魔族の群れには勝てはしねぇ。」
悔しそうな声を滲ませながらそう言っていた。
「そんな……ディオクレティアヌスさん達が負けるだなんて。」
そこにはバムが所属していたパーティーの仲間である剛腕ディオクレティアヌス、魔女ソルジェニーツィン、踊り子パンクハーストのボロボロになった姿がそこにはあった。
バムがいないといってもS級冒険者。相当な実力者。
そんな彼らをこんな姿にした軍団が近寄りつつあるみたいだった。警戒で気が引き締まっていく。




