壱漆陸、石像化
それぞれは各々、最後の時間を過ごすために家へと戻った。
石化は五人それぞれ時間差があった。
僕は石化が他四人と比べて遅いみたいで、僕はその四人の最後を看取ることに決めた。
僕は今、ワムと共にいる。
「本当に戻らなくていいの?」
「ああ、問題ないよ。」
ワムは道場に戻ることはなかった。
「死ぬと思って戦争に出たんだ。最後の手紙を遺したし、お別れの言葉も伝えた。それなのに『やっぱりまだ死ななかったみたい』なんて言えなくないか。」
「それも……そうだね。」
伝説秘境——赤山。
紅葉が美しい赤と黄金でできた人工物が織り成す歴史を感じさせる場所。
「死ぬ時は伝説秘境で死にたいと思っていた。だから、望み通り、伝説秘境で死ねて、俺自身万々歳なんだ。」
美しい景観の中に彼は立派に立っている。
「君は石化を早めることができるのだろう? なら、君の力で使って欲しい。せっかくなら、カッコつけて石になりたいからね。」
「分かった。」
彼は大剣を持ち、ポーズを取った。
【倍】
石化のはやさが早くなっていく。
いつしかワムは完全に石像と化した。
「さよなら——。」
彼は美しい赤山の景観の一部となったのだった。
◆
「うん。入れちゃえー!」
海沿いの村——ラグン。
その少し外れに大量に用意された死霊人。
もちろん、そこにはネヌがいた。
ネヌによって死霊人は海へと進んで歩みを始めた。そのまま海へと沈んでいく。
「何……してるの?」
恐る恐る聞いてみた。
「ネヌがいなくなっちゃったら、死霊人は本当に邪魔になるからねぇ。だーかーらー、海に捨ててるの!」
いいのかな……。
自然破壊してるみたいで気が乗らない。
「要らないものは見えない場所に捨てればいいのよ。ゴミは海の底にポイッだよ!」
「いや、ポイ捨ては駄目な気が……。」
沢山いた死霊人の三分の二は海に消えた。これ以上は入れられないと判断し、残る三分の一の死霊人の対応が残った。
「じゃあ、ステファー。何かあったらよろしくね! あたしは夫との幸せな時間を過ごさなきゃだから。」
「はぁ、お姉ちゃんは卑しいと書いて"卑ロイン"だもんね。」
「もう! 殴っちゃうよ!」
杖でステファーが叩かれた。
「もう殴ってるじゃないか。卑ロインじゃなくて酷いと書く"酷イン"の方だったか……。」
「なんか言った?」
ネヌの弟で、アルカナギルドのメンバーでもあるステファーは死霊人が保管されていた施設をアルカナギルドの実験施設へと改造するみたいだ。
つまり、死霊人を捨てた海に近いラグンの村に居座るということ。
そこで死霊人について何かあった時のために、ネヌはステファーにお願いした。
ちなみに、死霊人は海にあった魔族ウイルスにより"海ゾンビ"という魔族となり、人々を襲うようになり、
ステファーは海ゾンビを対処しながら、アルカナギルド内で、それなりの地位を手に入れていく。
それはまた別のお話。
死霊人の三分の一は残されている。
そこから大分離れた土島の外れにある林の中。そこに僕とネヌの家が存在する。
「ここなら問題ないでしょ。」
家の周りの土の中に、死霊人は潜っていく。
残った死霊人は全て、僕らの家の周りに埋められた。
「これで死霊人問題は解決、っと!」
その後、ネヌはお気に入りの武器である秘宝"幻の杖"を手放すことに決めた。
「石になっちゃうからねー。」
杖は国に預けられた。
そして、アルカナギルドを脱退。
「後は頼んだよ。」
「お任せください。」
ジェノムがギルドマスターに任命された。
こうして、ネヌのすべきことは終わった。
後は——
「残りの時間は、たっっぷりと二人の幸せの時間にしなきゃだね。ね、ダーリン。」
「え、あ、うん。」
「そこは、『もちろんだよ。ハニー。でしょ!』——」
僕らの家で変哲もない時間を過ごしていく。
「本当は死ぬのは怖いし、死にたくない……。」
「どうして引き受けてくれたの?」
「もちろん、"愛"のためよ。」
彼女は椅子に座り両手を広げた。
「もうネヌの時間も残りわずかになっちゃった。だからさ……。最後に、"ぎゅー"ってして。」
僕は近寄り彼女は椅子から立つ。
そして、強く抱擁した。
「このまま愛されながら死ねるなら……。それでもう、何もいらない。だからこのまま、死ぬまで、抱き続けて。」
「そうするよ——。」
ゆっくりと石となり固まっていくネヌ。
彼女はその状態で完全に石化した。つまり、封印されたのだ。
ゆっくりとそこから離れた。そして、雑貨を使い、石となったネヌに特別感を醸し出すよう演出する。
少しでも彼女が幸せに感じるように、と。
◆
中級地域——砦。
そこにはデイルタと、その妻、そして彼の孫二人がいた。
息子がいたという。
「私の息子はかの戦争で戦死してしまいましたからね。」
と、僕に教えてくれた。
国の忍だったらしく、僕らが駆けつける前の魔族との戦争にて殉職してしまったみたいだ。
孫の二人は兄リュウジャスと弟ドラヴァスと言うようだ。彼はその二人に対して優しい目を向けていた。
「あなた達の父のように国の忍を目指すも、母のようにラッパーを目指すも、他にやりたいことがあれば、それを目指すも良いでしょう。それで後悔しなければ、私は良いと思っています。ただ……」
砦の中に射し込む光が彼の顔にぶつかる。
「何者になったとしても、もし中級地域がピンチに陥ったら、その時は、前線に立って中級地域を守って欲しいんです。」
それを聞いた二人の青年が頷いた。
「さて、私はここで格好をつけて封印されましょう。私の像が中級地域の希望を照らす像となるように。少しでも皆の希望と思える存在になれるように。」
用意された台の上に立つデイルタは立派なポーズを取った。そして、僕は石化を早め、彼はそのまま石へと変わった。
涙を流すデイルタの妻とリュウジャス、ドラヴァスの兄弟。ゆっくりと時間が過ぎていった。
◆
「ついに、ワシらだけとなったのか。」
エポンは森の中の家でそう呟いた。
「ワシはもう家族との最後の時間を過ごし終えたところじゃ。もう未練はない。」
そこに仲間達が訪問してきた。
一応、旅の仲間である馬車の運転手だ。
その彼は三人のギルドメンバーを運んできていた。
カリッジギルドのギルマス——ディオクレティアヌス。戦闘員ソルジェニーツィン。ギルト嬢パンクハースト。
懐かしさが込み上げてくる。
「僕はパーティーから追放されるぐらい弱かった。だけど、"りりりりり"さんと出会ってから全てが変わった。」
もし彼と出会わなければ、今の僕はいない。そう断言できた。
「エポンさんがいなければ、強くなれることなんてなかった。だから、とても感謝してます。……エポンさん。」
「気にするではないぞ。ワシは元々、隠居の身じゃった。誰にも会わずに寂しく死ぬと決めておったが、オヌシらに出会って変わった。感謝を言うのはこちらの方じゃよ。」
永久の町の外れ——。
まるでカルデラ湖のような場所。
小山の中に張った水が太陽の光を反射している。
その真ん中に彼は立った。
「さぁ、ワシもそろそろ行こうかのぅ。先に行かせて貰うぞ。」
「はい。」
エポンは石像となった。
そこに靄がかかっていく。
朧気な雰囲気を漂わせながら、彼は立派にそこにいた。
◆
石像となれば、もう二度とは元には戻れない。
封印解除——。もし、その技を受けたとしても、石化状態が解かれることはなく、石のまま無意識のまま敵を排除する怪物になってしまう。
左腕が半分石になりかけていた。軽く動かすことはできる。これ以上、固まれば二度とは動かせないだろう。
僕ももうそろそろ潮時なのだ。
「バムは最後の場所は決めたのか?」
「まだなんだよね……。」
馬車に揺られる。
馬車の中でディオクレティアヌス達三人と話しながら移動していく。そう言えば「このパーティーで旅したのも懐かしいよ」と思う。追放されるまでは、このパーティーにいたんだから。
少しだけ思い出に花を咲かせていた時、突然そこに国の忍が現れた。ディオクレティアヌス宛だった。
「先日の不審魔族の調査の件にて、ヴァリアントギルドの派遣したパーティーが壊滅、担当した国の忍が殉職致しました。」
「なんだとっ!」彼は驚き声を響かせた。
「不審魔族の正体は魔族四天王のグリゴリと判明し、危険度を最高難易度Sにしました。そこでディオクレティアヌス様の手を借りたくここに参った所存です。」
険しい顔をする彼とは裏腹、僕も気がソワソワしていた。
戦争で倒したと思っていたグリゴリが生きている。完全に僕のミスだ。
「その件、僕に全て任せてくれないかな。」
僕は重い口調で言い放った。




