壱漆弐、幸
「すべきことは分かりました。しかし、改善すべき点が一つあります。」
中級地域にある砦にて、デイルタと交渉する僕とエポン。
「報復を理念として開始するには、あまりにも開戦の時が不確定要素すぎます。私達はそれまで心の準備をしなくてはならないのですが……。もしすぐに戦が始まらなかった場合——例えば何年も進軍されなかった場合は、こちらから手を出せないということですよね。」
彼は少し溜めてから、再び口を開いた。
「これでは心の準備だけして何年も時間が経過し、心は疲れてしまいます。その果てには体も疲れた状態で開戦することになります。この体制はいかがなものでしょう。」
彼の言うことは最もだ。
いつ始まるか分からない戦争。始まったらすぐに戦へ出向き、死にに行かなければならない。そのための準備をし続けなければならない。
心の疲労は月日が経つ事に増えていく。
いつ始まるか分からない戦いに、戦前から疲労してしまうことになる。
「ですから、ある程度の国の忍の包囲網を使って数日程度は保てるように配置し、我々も数日で戦場に出向けるよう予め最低限の準備をしておき、それまでは羽を休められるようにすべきなのです。」
「分かりました!」
彼の提案で、もし魔王軍が攻めてきても、国の忍で何とか時間を堪え、その間にある程度の準備する期間を設ける方法を取ることになった。
これで唐突な開戦が待ち受けても、ある程度は羽を休める時間を作れるようになる。
ネヌとの結婚式も、心の厳戒態勢で行わなくても良くなった。
「それと、問題が一つ。まだ私が参加するとは言ってません。」
「えっ——。なんで?」
「私が参加するためには条件があります。」
「条件?」
「国王と話し合いをさせてください。」
◆
「話とは何かね。」
「この件を許諾するということは、死を受け入れるということ。その前にソフィス王に苦言と提言及びお願いを伝えたくこの機会を設けさせて貰いました。」
「苦言だと? 頭が高いぞ!」
「この度は、民としてではなく、翡翠の国王として話をしにきたのです。」
堂々と胸を張るデイルタ。
それを見て少し嫌そうな顔を浮かべる国王。
「早く言ってみろ。」
「では、三点——。」
「三点も、だとっ!」
もはやデイルタは強気である。
「まず王の立場への苦言が一点。貴方は王として、先見の明が足りない。問題が起きてから対処するという後手後手の対応に問題を感じます。」
張り詰めた空気。周りにいる僕や兵達は気が気でない。
「前々から中級地域は魔族への侵入を防ぐ防波堤となる重要な地域と散々伝えてきましたが、耳には入れて貰えず。兵力をつぎ込むことなくその場の判断任せにしてきましたね。それでは魔族が中級地域を突破した際、勢いづく魔族に王都まで押し込まれてしまいますよ。」
「では、どうすればよいというのだね。」
「中級地域の各町村に一名ずつ重役を置くべきです。各町村の治安維持の他、対魔族の前線としての主導者を作りましょう。」
「よかろう。その提案を受け入れてやろう。」
ひとまず安心の吐息を吐いた。
が、まだ二つ残ってることに気づき背筋をピンと伸ばした。
「続いて、上司——上に立つものへの苦言が二点目。貴方は物事の見方が浅はか極まりない。二律背反の事柄などざらにあることを貴方は理解できていないんです。」
「な、ん、だ、と?」
「貴方は身近な人や自身の意見と近い人の人物のみ——つまり、どちらか一方の意見しか信じられないのです。そして、もう片方には聞く耳を一切持たず批判や罵倒などの攻撃対象という理不尽極まりない態度。このような人間は、誰かの上に立つべきではないと思います。」
「どういうことだ? 言ってみろ。」
「人によって意見や受け取る感覚は違いますよ。もちろん、物事によってはどちらか正しいかを決めなければならない。私が言いたいのは、その時、どちらの意見を聞いた上で判断すべきと言うことです。貴方は片方の意見しか耳に入らない。」
いやぁ、まぁ、ねぇ、はっきり申し立てすぎじゃない?
王宮内がピリついていますけど……。
「貴方はもう少し色々な人の考えを尊重すべきなのです。」
「言われずとも分かっとるわい!」
もはやご機嫌ななめの国王さん。けど、もうひとつ残ってるんだよね~。
「最後に大人としての苦言を伝えます。貴方は出した刀をしまえない、即ち謝れないどころか他責思考に陥る人間です。子どもの頃に悪いことをしたら謝りなさいと教わるはずですが、どうしてか今の貴方はできていない。それは人としてどうでしょうか?」
「謝ることができないだと? 馬鹿げている。」
「私には貴方が謝った場面を見たことも聞いたこともありませんよ。直近でありましたのなら教えてください。」
静かになる王宮。
……。
「謝れない……即ちプライドが高いんです。高いプライドは余計なトラブルと感情優位の無駄な思考を生みます。謝れない人は意外と多くいますよ。ですが、貴方は国王という立場があります。もう少し謙虚さを身につけてはいかがですか?」
「それが全てか?」
「ええ。伝えたいことは伝えました。」
「本来なら死刑にしたいところだが、それすら愚行だと馬鹿にするのだろ?」
「その場合だと愚行では言い表せないですね。ただ、貴方は愚の暴君ではない。」
「ふんっ。気が済んだか?」
「これからの貴方の行動したいです。口で言うのは易し、行動は難し、ですから。——追加で伝えることがありました。」
「今度はなんだ?」
「魔王軍討伐の件、魔王封印の件、しっかりと引き受けますよ。確かな成果を上げますのでご安心を。」
「ぬん。言いたいことだけ言いやがって。」
緊迫した状況は終わった。
そのまま国王の所から離れ、廊下を歩いていく。
「はー。ひやひやしたー。」
「これで国王が変わってくれるといいんですけどね。少し心配なんです。私がいなくなると、もう誰も国王と同等の立場になれる者がいなくなりますから。」
翡翠の国王であるデイルタが見ている視線はさらに先を見ていた。
この時は誰も知らなかった。 この日の苦言が、後の国王を大きく変えることになるとは。
その後、提言を受け、中級地域の各町村に『主忍』と呼ばれる五人のリーダー職が作られることになった。
それがこの国の安定へと導いていくのは少し先のお話。
◆
古都——。
ステンドガラスから仄かな光が射し込む。
誓いの確認を行われ、その反対側ではオペラ歌手によるハーモニーが響いていく。
目の前には純白のドレスに身を包んだネヌがいる。
それをエポンやディオクレティアヌスから、ジェノムやステファーなどが見守っている。
誓いの言葉の元、お互いに誓いを立てる。
ベールを上げる。
「やっと、あたし達夫婦だね!」
そして、ゆっくりと唇を合わした。
唇が柔らかく触れ合っていく。
僕らはゆっくりとその時間を過ごしていく。
その後、場所を変え、僕とネヌは特別な導きにより席へと向かった。
代表してジェノムとエポンが代表して前へと出る。
さらに、僕の仲間だった馬車の運転手さんも代表して言葉を放った。
大切な時間をゆっくりと味わっていく。
出された豪華な食事は食べる余裕はなかったけど、それと同等の豪華な味わいを受けることができた。
こうして、バムとネヌの結婚式は幕を閉じた。
◆
魔王は何年も進軍することはなかった。
その間、僕ら五忍はそれぞれの時間を過ごしていった。そして、世間は平穏を着実なものにしていた。
そして、数年が経ったある日——。
ついに、魔王軍が侵略を始めた。
国の忍が食い止めている。その間に収集がかかり、覚悟を決めて向かう。
場所は上級地域。
そこに集まる僕、ネヌ、エポン、デイルタ、ワム。そしてワムの門下生カゲト、ヘイム、カリム、ボーニー。さらには国の忍、ネヌの集めた生贄兵、死霊人。
ついに、戦争が始まった。




