壱漆壱、覚悟
「話は聞いておるぞ。……バム。」
エポンはゆっくりと木の椅子にもたれながらそう言った。
「最後に孫の顔を見れたことだし、ワシはもう心残りなどない。いつでも戦えるぞ。」
「ありがとうございます。」
エポンの家。
「ここに来ると、あの日のことが思い出されます。」
森に匿われた水の音のする優しい空間。人里離れたここには自然の空気が流れてくる。
「"りりりりり"さんと共に過ごした日々は、今も僕の思い出の中で思い出されるんです。」
「懐かしいのぅ。」
「"りりりりり"さんはこの世界を僕らに託して、世界のために散っていった。その意思を継いだ僕が、今度はこの世界を次なる世代に託す番。そう思うんです。」
僕は空を見上げて強く拳を握った。
◆
一便のレター。
風忍のワムからだった。事前に魔王封印の件を伝えるレターを送ったので、その件についてだろう。
僕はそのレターを開いた。
そこには『話は分かりました。僭越ながら、貴殿のもとで戦えば良いかどうか迷走しております。そのため、貴殿が先導者として認めるに値するかどうかを確認したい所存です。お手合わせを願いたい旨、記載致します』と書かれていた。
「これは……。」
「直接、ワムさんと戦うしかないだろうのぅ。」
仕方なく上級地域へと向かった。
ハイヒロの町を出て、少しした場所にある道場。僕とエポンはそこにお邪魔した。
「すみません。わざわざ時間を取ってしまって……。」
そこから始まる他愛ない会話。
ワムと僕の会話を縁側で聞く四人の門下生。彼らが僕らに対して、目を輝かせて見ていた。
「じゃあ、話はそういうことだから。俺と君とでどちらが強いか戦おうか。」
「うん。認められるように頑張るよ。」
エポンが「では、ワシが審判をしよう」と道場の真ん中付近に立った。
広い道場の中で僕とワムが対面し合う。
「試合開始っ!」エポンの声がそこに響いた。
僕は早速道場の壁へと向かって走った。
【バランス】
そして、道場の壁を垂直に走る。
【ワープ】
ワープして大剣を振るうワム。それを何とか避けていく。
しかし、ワープからの攻撃は非常に厄介だ。
なら、攻撃される前に敵にデバフをかけて攻撃を未然に防ぐだけ。
【バルーン】
大量の風船を召喚した。
そして、一斉に破裂させる。
大量の風船で視界を狭めつつ、破裂音で聴覚を奪う戦法だ。
【バズーカ】
ワムが風船に気を取られている間に砲撃。ギリギリの所で大剣で砲撃を受け止められた。が、それなりに後ろへと吹き飛ばせた。
【ワープ】
《回避的超常》
後ろにワープしてくる。持っていたバズーカを後ろに向けて設置する。
一方で、ワムが大剣を僕の首筋近くに置いた。
「引き分け!」
僕らはお互いに武器をしまった。
まさかの引き分けだ。認められるかどうか心配になる。
「ここまで強いとは……。やはり、君はリーダーになるべきだ。」
握手を求められ、それに応じる。
僕は彼に認められたみたいだ。
ただ「いや、あの……そこまでリーダーに拘ってないんだけど」と苦笑いを浮かべた。
僕とエポンはワムに客室へと連れられていく。
「話はあれだろ? えーっと、あの件についてだよね。」
「そう。魔王討伐についてね――。」
畳の上に座った。
僕ら三人で卓を囲む。
「魔王討伐と言ったけど、厳密には魔王軍の討伐で、魔王本体は封印なんだけどね……。」
「それで、その魔王封印のために俺らも生贄とならなきゃいけないって話だな。」
「そういうことなんだけど、やってくれるかな……?」
「やるもやらないも、やるしかないだろ。何を言ってるんだ。リーダー!」
気さくな感じで彼は承諾してくれた。
「と言っても、ただで引き受けるのも心惜しい。だから、その引き換えとして君の秘密について知りたいな。」
「僕の……秘密?」
ピンとこなくてオウム返ししかできなかった。
「俺は今まで"ワープ"と"割れろ"の二つだけで戦ってきた。そのせいで、あまり能力の本質を理解してなくてね。だけど、門下生に能力を極めたい子がいてさ。俺にはお手上げだったから、そのアドバイスが欲しいんだ。」
「それで、何を知りたいの?」
「違う系統発動の秘密さ。出遅れてしまって見れなかったが、ハイヒロでの魔族侵略事件で君が魔族の撤退させた話は聞いている。そこで君は大量の鳩を召喚した。君は規格外の強さを持つ《具現化系》としては理解できる。俺が知りたいのは——」
彼は鋭い目でこちらを見てきた。
「その鳩を突撃させて、鳩を爆発させる。それは《言霊系》じゃないか? 本来、別の系統の能力は、発動できても、その効果は大きく制限されてしまう。とても謎だったんだ。」
「突撃させたのは"言霊系"だけど、爆発については"具現化系"だよ。」
「どういうことだ? 具現化系なら『爆発を召喚する』一方で発動範囲の距離は短い。けどね、話によると鳩が衝突した箇所で、そう広範囲に渡って爆発を起こしたと聞いたんだ。少しおかしくないか? 俺は『鳩を爆発させた』言霊系だと踏んでいたんだが……。」
「簡単な話だよ。少し説明するから見て欲しい。」
僕は立ち上がり、縁側付近へと進んだ。他の二人も近づく。
【バード】
一匹の鳩を召喚した。
【爆弾】
「この鳩の中に爆弾を仕組んだんだ。」
「そうかっ。鳩を爆発物にするんじゃなくて、鳩に爆弾を仕込むのか。」
対象に作用する"言霊系"に見えて、これは対象の中に物を召喚する"具現化系"の技。
【バードストライク】
鳩は目の前にある少し遠めにある木に向かって飛んでいき、衝突すると爆発した。
「"言霊系"の技である"バードストライク"は、簡単な行動しかさせられない。例えば、真っ直ぐ直接に進むか、螺旋状に回旋するか、……できるのはそれぐらいで、オートで追尾させることはできない。そして、発動対象は自分が召喚した存在だから負担は少ない。その分、数に回しているんだ。」
「ふむ。なるほどな。やはり、基本は"具現化系。創意工夫で軽い負担で"言霊系"を扱うのか……。」
彼は理解したように深く頷いた。
「もう一つお願いしてもいいか。」
「どうぞ」と僕は即答した。
「具現化系の能力者なんだが、言霊系の技を扱いたい門下生がいるんだ。少しその子にご教授して欲しくてね。」
僕はその条件を飲んだ。
次の日、彼は一人の門下生を紹介した。
カゲトという男の子だった。
彼は刀を召喚し、そこから技を召喚して戦う"具現化系"の少年だった。
「火遁【火球】爆炎——!」
彼は炎の玉を召喚して真っ直ぐ放った。
「こうして炎は出せるんですが、刀に炎を纏うことができなくて……。」
彼が素振りをしながら、炎を繰り出して放っていく。目的である炎を纏うということはできていない。
「違う系統である"言霊系"の習得は諦めた方がいいと思う。」
「やっぱり……。」
カゲトは肩を落とした。
「だけど、"具現化系"でそれっぽくすればいいと思う。」
「……?」
ワムとカゲトは首を横にした。
「刀を振る直前に炎を出す……みたいな。ずっと炎を出し続けることはできなくても、炎を瞬間的に出すことはできると思うから、攻撃の時だけ炎を出すようにすればいいんじゃないかと思うんだ。」
カゲトは軽く頷き、刀を手に持った。そして、空振りするように刀を振るう。
「火遁【火炎】——」
刀が振られると同時に刀の周りから炎が現れる。それが攻撃の威力を上げていた。
が、すぐに炎は消えてしまった。
「うん。この調子なら、ものにするのも近いんじゃないかな。」
炎を纏うのではなく、炎を繰り出し、その炎に刀を乗せる攻撃。
「ありがとう。バム君。お陰で、ウチの門下生がまた強くなれた。」
「大したことじゃないよ。」
僕とエポンはそこを後にしようとした。
そんな時、ワムが口を開く。
「その魔王軍との戦いの時、俺の門下生、四人とも参加させるよ。軟な奴らじゃない。きっと大活躍するに違いない。そう自負できるほど強いからね。」
風忍ワムの説得は終わったと同時に、戦争における戦力がプラスされた。
ワムの道場の門下生四名。
カゲト、ヘイム、カリム、ボーニーが戦力に加わった。




