壱漆零、詩忍に梔子
「選ばないといけない……。魔王を殺さずに、けど、魔王軍を何とかする方法か……。」
その迷いにエポンが一筋の答えを差し込ませた。
「封印するのはどうじゃ?」
「それだ!」と言いつつ「けど、どうやって?」と首を傾げる。
「魔王クラスの封印、それも長期封印となると、普通の能力じゃと、ちと厳しいものがあるのぅ。」
封印の技を使える使い手も探せばいると思うが、封印できても、精々数日程度のみ。さらに、敵が強すぎれば効果をなさないのは当然のこと。
結局、封印の手は使えないのか……。
「あっ——」
そんな時、ある方法を思いつく。
それができるかどうかは分からない。ひとまず国王に相談することにした。彼なら、その方法の是非を判断できるかも知れない。
◆
「『透明の梔子』を使うか。歴史を見れば、当然の方法とも言えるが……。」
「どうでしょうか?」
「例の『透明の梔子』はどう手に入れるつもりなのだ?」
「それは……ネヌさんに頼んで"幻の杖"で地道に探していきます。」
それを聞いて国王は笑っていた。
そして、近くにいる側近に「持ってこい」と伝えた。
側近が何やら宝箱のようなものを持ってきた。その箱が開けられると、透明色の梔子がそこにはあった。
「からかって悪かったな。探す必要はない。そこに『透明の梔子』がある。神に"魔王封印"の交渉をしに行くが良い。ただし!」
「ただし?」
「その場で即決するではないぞ。必ずその契約をここに持ち帰れ。その交渉には、それ相応の対価が要求される。国に大きなダメージを与える契約の可能性が大いにあるからな。」
「分かりました。」
僕は頭を下げて、その宝箱を頂いた。
◆
上級地域。秘境——赤山。
以前、ワムに教えて貰った秘境だ。
そこに置かれた御堂へと近づき、透明色の梔子の花をそこに供えた。
御堂の扉が開く。
「汝。交渉するなら、その扉を越えよ。」
男なのか女なのか分からない不思議な声に案内されて、御堂の中へと入っていく。
初めは真っ暗闇だったが、いつしか真っ白な空間に変わっていた。
下を向けば何も無い。僕が今、どこに立っているのか分からない。もはや頭が混乱しそうだ。
声だけが響いていく。
「汝、我に何を求める?」
「魔王を封印したい! ただ、国王が交渉をするから、今はその交渉の内容を聞きにきました。」
「その必要はない。」
僕は何も分からず、はてなを頭の上に浮かべた。
目の前に現れる拳大の五つの星型の塊。それが不思議なオーラを放っている。
「これを渡そう。魔王を封印するための五つの道具。これを使えば魔王を封印することができる。ただし——」
「ただし?」
「この道具を使うには、対象と同等の力を持つ者が五人で対象を囲む必要がある。魔王を封印するには人類最強の『五忍』全員が必要となる。」
「なるほど。」
「そして、魔王を封印した後、その使用者五人は同様に封印されることになる。ここでいう封印とは石像となることを示す。」
魔王を封印したければ、僕らも同様に封印されろ、という話か。
「魔王の封印が外される条件も伝えておこう。"封印されし五忍"が全て破壊された時だ。五忍は封印を外さなければ破壊されず、封印が外された時、魔族や敵対する人間を襲うように設定してある。五忍より強くなければ封印は外せない。」
「ふむ……。」
「それ以外の方法で魔王の封印が外されることはない。ただし、破壊される可能性は有り得るが。」
「なるほど……。」
「使うも使わないも好きにすると良い。透明な梔子は消費しておく。もう会うことはないだろう。」
そこで僕は御堂の外へと出されてしまった。
手に持った道具。
仕方なく、王様の元へと戻ることにした。
◆
「魔王と引き換えに『五忍』がいなくなるのか。痛いな……。」
国王は肘をついて、悩ましい顔を浮かべていた。
「こうしよう。魔王を除く魔王軍は殲滅し、その後、魔王を封印する。」
そこに軍師ネヌが呼ばれた。
彼女にも今に至る話がなされた。
「それなら、魔王軍が侵略するのを待ちましょう。」
「それは何故だ?」
「こちら側から強襲すれば、魔王軍は対応し切れずに散り散りに逃げ惑うことになります。散り散りとなった敵は、探し見つけて殺すという行動が必要となり、殲滅するのは困難でしょう。かつ、敵の復讐心を煽りつつ、人間側も呵責に苛まれる結果となり、余分な痛手を負うことになります。」
「そうか。待つ方は違うんだな。」
「はい。進軍のためにある程度の集団が作られます。遊撃兵さえ対処すれば、後は各集団を一気に壊滅させればいいんです。逃げることさえ輪を乱し倒しやすくなる行動になり、私達の攻撃を受けても攻め続けるか逃げるかの択を押し付け、戦への有利になりますから。」
「よかろう。その方法で行こう。それで兵はどれぐらい必要だ?」
「『五忍』で十分です。よねっ! バム君。」
突然、こちらを見て笑顔を浮かべてきた。
咄嗟に「そうだね」と返した。
「なら、本件はオヌシらに任そう。くれぐれも失敗するでないぞ。」
「かしこまりました。」
僕達はそこを後にした。
◆
ネヌの所持品である"幻の杖"は国の忍に預けられた。その杖は、周りの一定区域の状況を近くで映像として映すことのできる秘宝だ。
これから交代制で、忍が上級地域——魔王城に近い位置で魔王軍の監視をすることになった。
常に監視し、何があれば僕らに報告が来ることになっている。
いつ襲撃しようとするかは分からない。
ただ、それまでは僕らも襲撃することはないので、読めない隙間が幾ばくにも広がっていた。
その間に、するべきことがある。
五忍への説得だ。
「このまま、ネヌ達は死ぬんだよね……。けど、こうするしか方法はない。だからさ——」
ネヌは夜空の空を見上げながら口を開いていた。
「最後に、したいことをしてもいいんじゃないかなって思うんだけど、どうかな?」
「うん。していいと思うよ。」
「ネヌね……。どうしてもしたいことがあるんだ。」
「どうしてもしたいこと?」
彼女はとびきりの笑顔をこちらへと向けてきた。
「バム君。結婚しよっ!」
「んっ? ん! んんっ!?」
「で、挙式をあげるんだっ。最期なんだし、いいよねっ?」
断り辛い……。というか断れない。
今まで考えたこともなかったし、考える余裕すら持てなかった。
少し間を空けて「いいよ」と返した。
「やったー!」と無邪気に飛び跳ねるネヌ。
夜空に天の川が流れていく。
「式を準備しなきゃだね。バム君は、他の五忍の説得もあるから、中身の大体はネヌに任せなさい。」
まさかの唐突に結婚をして、式をあげることになった。本当に突然だ。
だけど——
終わりが近づいているということだ。
やり残したことは『ない』ようにはしたい。
そう思うのは当然のことだ。
終わりへのカウントダウン。その数字が一桁へと移動したような感じがした。




