壱陸漆、火種
「知ってるか? タダで貰えるなんて、世の中そんな甘い話はないんすよ。全ては何かしらの等価交換。それが形のない投資が使われるからややこいだけなんす。」
アザゼルことニックネーム——キングが口を大にして声を出していく。
「今回の場合は俺様の"見栄"や"好かれたい気持ち"をトレードにかけた。……ように見せかけて、アンタらとの衝突回避の気持ちが殆どだな。が、しかし、次はねぇぜ。」
他にも"〇〇と思われたい"でトレードすることもあるな……と思い耽ては頷く。
「魔王軍じゃ制御しきれない動物本能で動く魔族はこの森には嫌になるほどいるぜ。陸から海から、空から、地中から、昼夜問わず攻められる。罠も容易く突破されるし、人は疲弊する。それからあの村を守ってるんだ。それなりの対価は必要な話じゃね?」
「もし僕がここに滞在すれば……。きっと魔族から守れるはず。」
「アンタらは人間だ。こんなとこで一生をずっと過ごせんのか? 病気になったらどうする? そもそも英雄なんすよね? 他の場所で戦争が起きてアンタらの力が必要になったら? 考えれば考える程に、不可能と思えてくるはずっすよ。」
その正論が僕から反対する言葉を失わせた。
エポンは初めから、彼の言葉に同意していたみたいだ。言い返すことはない。
「若い女を生贄にすれば、村の護りの問題を全て解決してくれる。グリゴリ姉さんの温情っすよ。……多分。知らんすけど。」
「生贄になった人達ってどうなるの?」
「そりゃあ、死ぬっすね。マジで知らんすけど、若い女食うと、なんか若返るらしいっすよ。理屈とか分からねぇんで、これ以上は言いたくても言えないっすけどね。」
「やっぱり……死ぬのか。」
波の音が僕の言葉をかき消す。
「まっ、キング様の温情として、定期的に生贄を助けてやってるんすよ。——今日みたく。ちなみに、グリゴリの姉さんには『女、殺しまくったら若い人いなくなるんすけど、大丈夫なんすか?』って伝えてて、俺の行為を認めて貰ってるんすよ。」
「今日みたいに、キングさんがこの村を守ってくれないの?」
「それはパスっす。そこまでこの村に関与する気はないっすから。」
僕には、彼は悪い人には見えなかった。
だけど、彼じゃ何にも変えらないことは明白だった。
「僕はどうしたら……」
「無理なことは無理なんすよ。諦めるしかないんじゃないんすか? 何より、アンタはあの村からしたら、他所者だぜ。」
虚しく波際の音が響いていく。
「次はないっすから」と彼は持ち前の黒い羽で空を飛んでいってしまった。
結局、村を変えたくても変える力はなく、虚しくも諦める他なかった。
消化されない何かが体の中にある。それをどうにかすることもできない。
僕はただ、村を後にした。
◆◆
この世界には二つの勢力がある。
一つは魔族。基本的には魔王軍が統べている。
その中で最も力を持っているのは魔王とその直属の部下である魔族四天王。
今は人間との戦いを避けてはいるものの、いずれは戦う運命にある。
もう一つは人間。
その中でも『五忍』と呼ばれる五人の人間が最強と持て囃されている。彼らは戦いの技から各属性の名をつけられて呼ばれる。
〇土忍・ネヌ
仮想夢空間に現れる一体のロボット。それがネヌに襲いかかってくる。
【ネクロマンサー】
変身した後、杖を機械へと向ける。
【粘土】【念力】
召喚された粘土が念力によって動いていき、土の盾に変わった。機械の攻撃を土で防ぐ。
その下からゾンビが現れ、機械の足を掴んだ。
そして、ゾンビは大量に現れて、機械を飲み込んでいった。
〇水忍・エポン
これまた仮想夢空間における機械との戦い。
【エリア】
【衛星】——スプートニク、おおすみ
回復できるエリアを繰り出し、その外を怪物スプートニク、おおすみが守る。
機械と怪物との戦い。怪物の持つ槍が機械を穿っていく。
機械はその攻撃をくぐり抜けてエポンの元へきた。
【液体操作】
大量の水が操られ、機械を覆い被さる。もう機械は動けない。
そのままエリアの外へと出されていく。
そして、機械は怪物の槍に貫かれて消えた。
〇雷忍・デイルタ
仮想夢空間での次なる戦いはデイルタだった。
やはり、現れる機械。
【デイタラボッチ】
変身した姿は、あまりにも巨大すぎる巨人。
それが雲を掴む。
【電気】——"電雷"
雲は黒雲に変わり、その雲を地面に叩きつけた。叩きつけた周りに雷が広がっていく。
機械はその雷に巻き込まれて破壊された。
〇風忍・ワム
今度の対決はワムと機械。
ワムはまるで風のよう舞うよう攻撃する。まさに神出鬼没。
パッと機械の後ろへと現れ、巨大な大剣が一気に機械の首を掻っ攫った。
〇火忍・バム
最後は僕の番だ。
敵は機械。
一気に倒す。
【爆発!】
爆発を召喚して攻撃。熱い熱風を繰り広げる。
まだ倒しきれていない。
なら……
【爆炎】
炎を繰り出した。
火だるまになるも機械は壊れない。
「この機械だけおかしくない……。」
一向に壊れる気配のしない機械。
熱気だけが周りに漂う。
蒸し暑い……暑い暑い部屋の中、目を見開くとそこは見慣れた天井だった。夢から醒めたみたいだった。
◆◆
数年後——。
◆◆
僕は立派な大人となり、それなりの経験も手に入れた。
"りりりりり"さんが紡いでくれた希望を絶やさないように、今度は僕が世界を引っ張る番。
国の第一戦士として、人々からも認められながらも、ディオクレティアヌスの手伝いをしたり、体が鈍らないように修行を行ったりしていた。
そんなある日のことだった——。
偶然、上級地域にいた。
上級地域最大の都市——ハイヒロ。
そこに、魔族の軍団が攻めにきた。
魔族避けの壁は容易く破壊され、町に攻め込まれる。このままだとあっという間に町は破壊され、乗っ取られてしまう。
そんな場面に、偶然居合わせたんだ。
【バード】
生き物に変身するのは並のことだが、生き物を召喚——作り出すのは非常に難しい難易度。それ故に具現化系しか、生き物召喚の可能性はなく、具現化系だとしても上澄みの上澄みしか使えない。
それを——
「なんなんだ、あの鳩は……。あの鳩の数は。」
数え切れない程、召喚できるのは僕にしかできない芸当だった。
【爆弾】【バードストライク】
鳥を魔族へとぶつけさせる。
衝突の瞬間——
爆発の連打。
鳥は爆発を起こして、魔族は爆発に巻き込まれて消えていく。
圧倒的数量を前に魔族の進軍は止まった。
【空気砲】——【爆風】
どこからか放たれる空気の塊。
それを僕の熱波を加えた風で攻撃を消し去った。
【釘!】——【バリア】
真後ろからまるで刀のような釘で刺してこようとした魔族。
それを透明なバリアでガードした。
狡猾そうな顔をした魔族だった。どこかで見たような気がした。
【爆炎】
炎が魔族を包み込み崩壊させる。
魔族を破壊した。
いや、破壊したのは偽物だ。光の粉にはならずに、木片だけが粉々に落ちていっていた。
《回避的超常》
僕は回避的超常を応用して、周囲のオーラを認識し、確かに近くに生体反応があることを確認した。
「そこだっ!」
【爆発!】
そこにある建物の塔の部分を爆発させた。
そこから狡猾そうな顔をした魔族が勢いよく飛び出してきた。爆発攻撃はギリギリで避けられたみたいだ。
ただ……
「隙だらけだね。」
【バレット】《攻撃的超常》
銃弾を繰り出す。その銃弾は勢いよく回転し、有り余る殺傷力を持っていた。
このまま進めば胸を穿ち、当たれば死ぬだろう。
【鋼鉄の盾】
そこに現れる新たな敵。
召喚された鉄の盾が銃弾を弾いた。
「こりゃ強いっすね。油断しちゃ駄目っすよ。クヴァシルさん。」
「……。屈辱ですねぇ。くっくっくっ。ですが、これで二対一。雪辱を果たすとしましょうか。」
思い出した。
彼はクヴァシル。近藤孝太郎との戦いにいた魔族四天王の一人だ。
そして、いきなり参戦したもう一人の方は魔族四天王のアザゼル、ことキング。
「支配下にならない魔族は仕方ないとは思うけど、魔王軍は違う。魔王軍は人を襲ってはいけないはずだ。そのために協定を結んである。」
くっくっくっと笑われた。
「そんなもの、貴様を殺した後で公の場で破ってやりますよ。約束は停戦です。終戦じゃないんです。分かります? この違いが。」
「すまないけど、魔王のためにアンタには死んで貰うよ。」
【鋼鉄の弓鎌】
弓形の刀が召喚された。
【傀儡】
クヴァシルの偽物が現れた。
「戦うしかないみたいだね——。」
僕は彼らを倒す決意を瞳に宿した。




