壱陸伍、風忍・ワム
殺風景な灰色の地面。
ここは砦の中。
僕は今、背負い投げで勢いよく投げられた。
上手く着地して、体勢を整える。
能力は使用禁止。ただの殴り合いでの勝負。
敵はデイルタ。圧倒的な体格差と筋肉量が絶望感を示していく。
負けてたまるか。
攻撃を世界に存在する回転に身を任せて放つ。
《攻撃的超常》
それを手のひらでガードされた。
「やるねぇ……。じゃあ、これならどうです?」
空いた片方の腕で突き出してきた。
《回避的超常》
その攻撃はすぐに見切った。
そして、その場で回転しながら蹴りを入れる。
その時の僕は、余計なことが頭から削ぎ落とされていて、過集中状態になっていた。
《強化的超常》
倒せていない。
最強生物と言われるまである。倒せる気配がしない。
「止め!」
デイルタがそう言った。
深呼吸をして、落ち着かせていく。
「さすが英雄と呼ばれるまである。お前さんは短期間で《超常》の基本を自分のものとした。俺からこれ以上教えられることはありませんよ。」
戦いは、いや修行はここで終わりとなった。
「基礎は完璧です。さらなる向上は戦いの中で極めていくしかありません。上級地域で修行するのはどうでしょう?」
上級地域——。
そこは元炎の国。国が統合されたことによって、地域に名を変えたのだ。
そして、その地域には魔王城が存在する。その関係上、魔族の強さが一際強くなっている。
上級地域での修行とは、即ち強い魔族から生き延びるという生死をかけたサバイバルである。
「分かった。そこで修行してみるよ。」
僕は上級地域で修行をすることにした。
◆
昼夜問わず襲ってくる強力な魔族。
昼は体を休めているエポンを守りながら、魔族をいなしたり倒したりする。
夜は回復エリアでしっかりと休養。エポンが魔族をなんとかしてくれる。
そんな方法で行われるサバイバル修行はたった数日程度でも相当な負荷がかかった。
一時的に上級地域にある町——ハイヒロにて休養することにした。
そこに偶然、元仲間の魔女ソルジェニーツィンと踊り子パンクハーストにはち合わせた。
「すごい、いいとこに出会った!」「お願いがあるの!」と言われた。
耳を傾ける。
「上級地域でのクエストをこなして欲しいの。」
「クエスト……?」
紙を渡された。
そこには任務の内容が書いてある。
『ペットの捜索願。ハイヒロの町外れにて。』
「上級地域って、魔族が強すぎるせいで、大抵の人はこの任務を受けられないじゃない?」
「本当はディオクレティアヌスが行こうとしてたけど、ギルマスの仕事で行けなくなっちゃって……。だから、アイツの——」
つまり、「両腕である二人がこのクエストに選ばれたって訳だよね?」と要約した。
「選ばれたというか……。あたしらしかいなかったというか……。」「まぁ、そういうこと。」
まぁ、せっかくの久々の出会い。
「まぁ、手伝うよ」と承諾した。
「じゃあ、その間、ワシはハイヒロでゆっくりしとくかのぅ」と穏やかにエポンが言葉を発した。
◆
ハイヒロの外れ——。
そこには大きな道場が置かれていた。その壁に背もたれる依頼人。
僕はその依頼人を見たことがあった。
風忍のワムだ——。
「依頼を受けて下さって助かったよ。ヴァリアントギルドだと捜索依頼は受け付けてくてね。ダメ元でカリッジギルドに頼んだんだ。」
ヴァリアントギルドとは僕が元々いて追放されたギルドだ。あそこは冒険や護衛がメインで捜索には力を入れていない。
「しかし、君のことをどこかで見たことがあるような……。気のせいかな。」
僕のことを少し見たが、思い出されなかった。まさか戦争の時に鉢合わせて戦ったなんて言えもしなかった。
「さて、依頼なんだけど、道場から逃げたスライムのムーちゃんを捜して欲しくてね。これがペットデバイス……。」
この世界では、スライムやヒョッコなど人間に危害を加えない……というか加えられない魔族をペットにすることができる。
ちなみに、ペットかどうかの判断には魔族につけられているペットアクセサリーで判断可能。
ペットデバイスとは、そんなペットアクセサリーについてるGPS的機能で、大体の位置が分かるシステムの一つなのだ。
「ここが深い森の中の中で半径一キロぐらいのところにいるのだけは分かってる。ただ、どこにも見つからないんだ。」
「そこであたしらの出番って訳ね……。」
「ああ——。」
デバイスを用いて、大体の場所を確認する。
「こんな辺鄙な森の中で、それも半径一キロって辛すぎない。」
そんな愚痴が零れた。
それもそのはず手がかりが全くないのだ。
四人で密集しつつ森の中を探すことにした。下手にはぐれない方が安全面や捜索面で都合がいいからだ。
ひとまず北側のエリア最奥地に来た。
ここまでまだ見つかってはいない。
ガサガサ——。
葉っぱで埋もれた木の上から何かが動く音がした。
「登るのは嫌ね……。」
下からじゃ何かかは見れない。登るしかないが、登るのは憚られた。そこで、
【ソーサラー】——鎌鼬
ソルジェニーツィンが魔女となり、杖を召喚。そして、小さな斬撃を真上に放って、モサモサとした葉っぱどもを刈り取った。
「なーんだ。リスか……。」
スライムではなく、リスがそこにいた。スカだったみたいだ。
ポテッ。
今の斬撃で濃い黄色の塊の何かが落ちてきた。
よく見るとそれは蜂の巣だった。
ブゥン! 蜂が大量に現れた。
「これはまずいね……。逃げるしかないよ。」
「まじで? 最悪じゃん!」
ひたすら走って、いつしか西の方へと逃げてきた。
なんとか蜂から逃げきれた。
「もう私……動けない。疲れた。休憩する。」
木にもたれて座るパンクハースト。
「もう何があってもこっから動かないから。」
彼女はここで休憩する以外の道を許さなかった。仕方なく、ここで休まざるを得ない。
しかし、ワムは不必要に僕とソルジェニーツィンの周りをぐるぐると回っていた。
「あまりここで休まない方がいいと思うけどね……。」
「なんで?」
「んー。なんでと聞かれれば、なんだろなー。」
ワムは考え事のように何か言おうと考えていた。
「そうやって、無理やりにでも捜させるつもりじゃないの? そういうのいらないから。今必要なのは休憩なの!」
「いやぁ、この辺り、蠱の住処って言われててさ。よく虫が出るんだよね。まぁ、ここの虫の習性上、動き続ければ近寄らないんだけどさー。」
その通り、動き回るワムとその動きの中にいる僕やソルジェニーツィンには虫が近寄っていなかったが……
パンクハーストの体中には百足や蜚蠊などを初めとする虫が体中にうじゃうじゃと絡みついていた。
「あー、けど、毒が持った虫はそんないないはずだから問題ないかな。」
「きゃぁ! いやぁ! 問題ありまくりよ!」
逃げるように勢いよく走っていくパンクハースト。さっきよりも早く走っている。そのお陰か虫は少しずつ剥がれていっていた。
僕らも彼女を追いかけた。
「最悪な目にあった……。」
逃げ切って東へとやって来た。
パンクハーストは汗をたんまり落としていた。
しかし、捜しても捜しても見つからない。
怪鳥の魔族が突撃してきた。
それをワムの大剣で斬り裂き倒す。
ここに出て襲ってくる魔族は全てワムに人思いに斬られていた。魔族の危険がないに等しいのは彼のお陰だった。
「すまない。少し、門下生の引渡しがあるんだ。道場に戻らないといけない。」
ワムが道場へと戻るという。
僕らは仕方なくついて行くことにした。
「気になってたんだけど、道場って……なんかを教えてるの?」
「そうだよ。剣術道場さ。まっ、作りたての時は人がいっぱいいたんだけど、今や三人しかいない。」
「なにそれ……。そんなん採算が合わなくない?」
「そうだね。けど、よく魔族討伐の仕事をしてお金は稼いでるから、なんとかやり繰りしていけそうなんだ。」
「そこまでして道場をやらなくても……。いや、その三人から高額なお金を貰っていたら、なんとかやり繰りできるのかな……?」
「門下生からお金は貰っていないよ。……いや、貰ってはいるけど、大したもんじゃない。国から払われるほんの少しの気持ちぐらいかな。」
「じゃあ、尚更なんでそこまで道場を開いてんの?」
歩きながら、ワムへの質問が続いていく。
「道場を開くのが俺の夢だったんだ。理由はそれだけでいいだろ? 門下生三人とも戦争孤児で、親戚の身請けもなく、それでいて俺の道場を選んでくれた。だから、それに応えたいってのもあるかもね。」
◆——◆
五忍の一人——
『風忍』一対一最強のワム
◆——◆
道場にたどり着いた。
そこには門下生の三人——カリム、カゲト、ボーニーがいた。これからハイヒロの養護施設の館長に引き渡されるという。そして、明日の朝にはここに預けられるという。
カリムという女の子の腕にはスライムがいた。
「おかえりっ!」
元気よく発せられる声。
ワムは冷や汗を書いていた。
「あれ……? なんでムーちゃんがいるの?」
「ムーちゃんは、冷蔵庫の横の物置の下に隠れてたよ。」
「へー。そうだったんだー。」
棒読みのワム。
そんな彼をギラッとした目で見るソルジェニーツィンとパンクハースト。
「ははは……。」
「今までの時間を返せや。こらー!」
二人の攻撃がワムを襲った。
その様子を見ながら、僕は苦笑いを浮かべていた。




