1章6.5話幕間 職員室の驚愕と窓辺の少女
皆さん、こんにちは。花菱 葵です。
第6話では、タカシ君が幼稚園の教室をライブ会場に変えてしまいました。
今回はちょっと一息ついて「幕間」をお送りします。
舞台は先生たちが集まる職員室。
タカシ君の「規格外」な行動を目の当たりにしたリサ先生。
彼女が同僚にその驚きをぶちまけた時、一体どんな反応が返ってくるのか……。
大人の視点から見た「小さな賢者」の異常事態(?)をお楽しみください!
1章6.5話 【幕間】 職員室の驚愕と窓辺の少女
工作の時間が終わり、園児たちが自分たちでお弁当の準備を始めた。
リサ先生は自分の分のお弁当を取りに、そして少しだけ呼吸を整えるために、小走りで職員室へと戻った。
扉を開けた瞬間、待ち構えていたのは隣のリス組を受け持つサオリ先生だった。
「……リサ先輩!
さっきの時間、何事ッスか!?」
サオリは、お嬢様風のゆるふわパーマを揺らしながら詰め寄ってきた。
「急に園舎が地鳴りみたいに震え出したと思ったら、廊下まであの『QUEEN』が響いてきたッスよ!
うちのクラスも釣られて机を叩き出す子が出てくるし、もう大変だったんスよ!
……まあ、セレナちゃんだけは、知ってる歌だったみたいでノリノリで喜んでたッスけど」
「……あぁ、サオリ。
ごめんなさいね。
やっぱり、海外の子ならあの旋律は血が騒いで当然よね……。
どう?
セレナちゃん、クラスに溶け込めているかしら」
リサは、自分の机からお弁当袋を手に取りながら、心配そうに尋ねた。
サオリの表情が、一瞬だけ曇る。
「……正直、言葉の壁は想像以上に高いッス。
自分がいれば通訳できるッスけど、自由時間はどうしても孤立しがちで……。
あの子、ふとした瞬間に窓の外をじっと見てて、どこか遠い世界を欲しているような、そんな寂しい瞳をするんスよ……。
って、今はうちのクラスの話じゃなくて、リサ先輩のところの『怪獣』の話ッスよ! あのグルーヴ、誰が仕掛けたんスか!」
「……実はね……」
リサは、先程の『異常事態』をサオリに吐き出した。
2センチ刻みの精密な設計、28の約数を瞬時に見抜く数学的直感。
そして――
騒音という混沌をスタジアム・ロックへと昇華させた貴の「指揮」について。
「……はぁ!?
4歳児がQUEENを熱唱して、オーディエンス《園児》を巻き込んでグルーヴを巻き起こしたってことッスか!?」
サオリは頭を抱え、絶望したように天を仰いだ。
「どこの伝説のロックスターの生まれ変わりッスか、その子!
幼稚園の教室は武道館じゃないんスよ!?
そもそも28センチを2センチで等分……公約数を暗算って、小学生の高学年レベルじゃないッスか!」
リサはさらに追い打ちをかけるように、午前の「ドロケイ」で見せたパルクール的な身のこなしと、2対28という絶望的な包囲網を「理論」で粉砕したエピソードを付け加えた。
「……壁際からの三角跳びにパルクール……2対28の挟み撃ち……。
ちょっと待つッス、情報量が多すぎて、脳内で玉突き事故を起こしているッス!
……リサ先輩、初日から園児に特殊部隊の訓練でもやらせてるんスか!?
4歳児が『攻略法』をレクチャーしながら完全勝利とか、異世界から転生してきたチート勇者でも、もう少し『自重』という名のブレーキを踏むもんスよ!
マジで言ってるんスか!?」
「本気と書いて『マジ』よ!」
リサは、お弁当を抱えながらも、力強く頷いた。
「でもね、タカシ君はどんなに凄くても、決して慢心しないの。
それどころか、自分の行動が私を困らせてしまったって、心の底から申し訳なさそうに謝りに来るような、震えるほど優しい子なのよ。
あの子が見ているのは勝利じゃなくて、『みんなの笑顔』という本質なの」
「……はぁ。
自分もリサ先輩も……今年はとんでもなく『特別』な宝箱を預かっちゃったみたいッスね……」
サオリは呆れ顔でため息をつきつつも、その瞳にはリサと同じ、抗いようのない好奇心の火が灯っていた。
リサはお弁当袋を胸に抱え、再び戦場《ウサギ組》へ戻ろうと職員室の扉に手をかける。
「……そうね。
でも、タカシ君が次にどんな奇跡を起こしてくれるのか、もう怖いくらいにワクワクしている自分がいるの」
リサの言葉は、単なる教師の義務感を遥かに超え、一人の「目撃者」としての歓喜に満ちていた。
一方、その頃リス組の教室では。
金髪の少女・セレナが、一人静かにお弁当の蓋を開けながら、窓の外――ウサギ組の園児たちが駆け回っていた園庭を、切ない憧憬を込めて見つめていた。
彼女の心に響いているのは、先ほど廊下から聞こえてきた、力強い「ドンドン、パァン」というリズム。
まだ誰も知らない。
そのリズムが、彼女の孤独な世界を鮮やかに塗り替える『福音』の号砲になることを。
第6.5話をお読みいただき、ありがとうございました!
「本気と書いて『マジ』なのよ!」
リサ先生、本当にお疲れ様です(笑)。
後輩のサオリ先生が言った「特殊部隊の訓練」「転生してきたチート勇者」というワード、あながち間違いじゃないのがタカシ君の恐ろしいところですね。
でも、リサ先生が言うように、タカシ君の真の凄さは能力ではなく、周囲を思いやる「心」にある……。
先生たちがそんな風に彼を見守ってくれることに、作者としても心が温まります。
「先生たちの会話、もっと聞きたい!」
「セレナちゃんを早く救ってあげて!」
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