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1章6話 賢者の工作と伝説のリズム

 皆さん、こんにちは。花菱 葵です。

 第5話では「赤い砲弾」で園庭の王となったタカシ君。

 第6話の舞台は、穏やかなはずの「工作の時間」です。

 牛乳パックと折り紙。

 賢者の指先が生み出したのは、教室中を熱狂の渦に叩き込むあのおもちゃでした。

 無秩序な騒音を、タカシ君はどうやって「音楽」へと変貌させるのか?

 幼稚園の教室がスタジアムに変わる、伝説のリズムをお楽しみください!

 

 1章6話 賢者の工作と伝説のリズム 


 外遊びの「ドロケイ」で全力を出し切ったウサギ組の園児たちは、教室に戻ると驚くほど静かだった。


 普段なら、リサ先生が準備を整えるまでの数分間ですら椅子をガタつかせたり、隣の子とふざけ合ったりするものだが、今は違う。


 皆、自分のお道具箱を机の端に揃え、小さな体を休ませながら、嵐のあとのような穏やかな静寂の中にいた。


「あら?

 みんな、とっても静かにお座りしているわね」


 工作の材料を腕いっぱいに抱えて戻ってきたリサ先生は、その光景に思わず目を丸くした。


 窓から差し込む午後の光が、静まり返った教室内を柔らかく照らしている。


「あんなに走り回ったから、さすがに疲れちゃったのかな?

 リサ先生、みんなが元気になれるくらい材料を持ってきたわよ」


 リサ先生が教卓の上に置いたのは、大量の牛乳パックと、色鮮やかな折り紙の束だった。


 その重厚な音に誘われるように、一人の少女が真っ先に顔を上げた。


「リサ先生!

 これから何を作るの?」


 茜だった。


 あの大激戦を繰り広げた直後だというのに、彼女の瞳には微塵の疲労も見えない。


 むしろ、新しい遊びへの期待でその輝きを増しているようだった。


「茜ちゃんは、一番走り回っていたのにまだ元気なのね。

 本当にすごいわ……」


 リサ先生は、茜の無尽蔵の体力に感嘆していた。


「……今日はね、何を作るかはみんなが好きに考えて良いことにしたの。

 この牛乳パックを使って、自分だけの宝物を作ってみましょう」


「何でも良いの?」


「ロボット作りたい!」


「私はお城が良いな」


「何でも良い」という言葉がスイッチとなり、静かだった教室は瞬く間に活気を取り戻した。


 茜は隣に座る貴の横顔を覗き込む。


「茜、何を作ろうかなぁ……。

 ねぇ、タカ君は何を作るの?」


「うーん、そうだね。

 みんなで遊べるような、簡単なおもちゃにしようかな」


 貴は手元のお道具箱を指先でなぞりながら、穏やかに答えた。


「おもちゃ?

 タカ君、おもちゃ作れるんだ!

 茜もおもちゃ作りたい!」


「ふふっ、わかった。

 じゃあ、一緒に作ろうか」


 二人は連れ立ってリサ先生の元へ行き、材料を受け取った。


 貴は迷いのない手つきで白地の牛乳パックを選び、茜に手渡す。


 席に戻ると、貴はまず、お道具箱からカッターを取り出した。


 本来、4歳児にカッターを持たせるのは危なっかしいものだ。


 だが、貴の指先は迷いなく、まるで熟練の職人のように正確な軌道を描く。


 定規を使わずとも完璧な平行を保ち、厚紙の抵抗をいなすような、流れるような刃捌き。


 それは4歳児の指先が描くには、あまりに美しすぎる軌跡だった。


 彼はパックの底部分を切り落とし、筒状になったそれをペタンと平らに潰す。


 そして、のりしろの部分にすっと刃を滑らせ、一枚の板状に切り開いてみせた。


「まずは、ここまでやってみて」


「わかったー!」


 貴の丁寧な手本を見ながら、茜も慎重に作業を進める。


 次に貴は、注ぎ口の凹凸がある部分を切り落とし、4つの折り目がついた美しい長方形の厚紙を作り上げた。


 ここからの貴の動きは、工作というよりは精密な設計のようだった。


 彼は定規を取り出すと、パックの長さを測る。28センチ。


 2センチ間隔で表と裏に細かな印を付けると、カッターを裏返して刃の反対側、その「峰」の部分を使って、印に沿って筋を入れていった。


「ただ折るだけじゃなくて、こうして跡をつけると、綺麗に畳めるんだよ」


 そう説明しながらも、貴の手は休まない。


 彼は次に、装飾に取り掛かった。


 折り紙を半分に折り、切り絵の要領で小さな星やハートの形を次々に切り抜いていく。


 切り終えたら、まず牛乳パックの表面に無地の折り紙を貼り、その上から先ほど切り抜いた「穴の開いている方の折り紙」を重ねて貼った。


 すると、切り抜かれた窓から、下層の折り紙の色が鮮やかに顔を出す。


 貴は色彩の対比すら計算に入れているようだった。


 仕上げに、筋をつけた部分を山折りと谷折りで交互にジャバラ状に折りたたみ、持ち手となる端の部分をテープでしっかりと固定する。


「……出来た!」


 貴の隣で、同じ手順をなぞっていた茜も、自分なりの装飾を施した完成品を手に取った。


「タカ君……出来たけど、これどうやって遊ぶの?

 扇子みたいだけど、ちょっと厚いね?」


 茜が不思議そうに首を傾げたその時、貴はニヤリといたずらっぽく笑った。


 彼は完成したそれを大きく振り上げ、机の硬い面に向かって、思い切り叩きつけた。


 ――パーーーンッ!!


 乾いた、けれど重厚な破裂音が、静寂に包まれていた教室を震わせた。


 集中していた園児たちの肩が跳ね、リサ先生も思わず手に持っていた折り紙を落としそうになる。


 全員の視線が、その音の発生源。


 ――貴の手元へと釘付けになった。


「こうやって遊ぶんだよ。」


 貴が誇らしげに掲げたのは、牛乳パックの材質を最大限に活かした。


 見事な出来栄えの――


 ――『ハリセン』だった。



 その音の大きさと、叩いた瞬間に蛇腹が開く視覚的な面白さに、教室内は再びどよめきに包まれた。


「何!?

 今の音!」


「びっくりしたぁ……」


 静かだった教室に、突然響いた「パーン!」という乾いた音。


 工作に集中していた子供たちは、一斉に肩を跳ねさせて振り返った。


 リサ先生も驚いて、材料を片付ける手を止めて貴たちの席へと急ぐ。


「タカシ君!

 急に大きな音を立てたら、みんなが驚いちゃうわよ」


 リサ先生は少し困った顔で貴を諭した。


「ごめんなさい、先生。

 びっくりさせるつもりじゃなかったんだ」


 貴は素直にぺこりと頭を下げた。


 その隣で、茜が慌てて手を振りながら叫ぶ。


「リサ先生!

 茜が『どうやって遊ぶの?』って聞いたから、タカ君が教えてくれたんだよ。

 だから、茜が聞いたせいなの!

 みんな、ごめんね!」


 自分の好奇心が原因だと正直に話して、クラスのみんなに謝る茜。


 その真っ直ぐな姿を見て、リサ先生の顔からも自然と力が抜ける。


「二人とも、すぐに謝れて偉いわね。

 次は、周りのみんなにも『音が出るよ』って教えてあげようね。

 ……それで、さっきのを見せてくれる?」


 リサ先生が手に取ったのは、貴が作った「ハリセン」だった。


 牛乳パックで作られたそれは、折り紙の切り絵が散りばめられていて、まるで売り物のような美しさだった。


 さらに驚くべきは、その「折り目」の正確さである。

 一分の狂いもなく、きれいにジャバラ状に畳まれていた。


「……すごく丁寧に作ってあるわね。

 どうやってこんなにきれいに折ったの?」


「あのね、定規で測って印をつけたんだ。

 そのあと、カッターの反対側でなぞって、折りやすくしたんだよ」


「……定規で測ったの?」


 リサ先生は、貴がさらりと言った言葉に耳を疑った。


「うん。パックを広げたら28センチだったから。

 2センチずつ折れば、ちょうど全部同じ幅になるでしょ?

 1センチだと細かすぎるし、4センチだとちょっと大きいし……。

 7センチなんて持てないから、2センチにしたんだよ」


「……えっ?」


 リサ先生は、頭の中で必死に計算を追いかけた。


 全長28センチ。


 それを、迷いなく「2センチ刻み」で等分する――。


(……まさか。暗算で、28の約数やくすうを瞬時に導き出したっていうの?)


 4歳児がさらりとやってのけた、数学的直感。


 その異質さに、リサ先生の背筋に冷たいものが走った。


「……28を、2で割って、14。

 それを一瞬で?」


「ううん、計算したっていうか……。

 28って数字を見てたら、2センチずつ並んでるのが見えたから。

 2センチが、折った時に一番『ハリセン』らしくなるかなって」


 当たり前のような顔で答える貴。


 その思考には、単なる計算だけでなく、完成後の『使用感』まで含まれている。


 それを目の当たりにしたリサ先生は、戦慄せんりつに近い確信を抱いた。


(この子はやっぱり、ただ者じゃないわ……)


 4歳にして、数学的なセンスと実用的な判断力を兼ね備えている。


 リサ先生は、手の中のカラフルなハリセンを見つめながら、これから始まる毎日がどれほど驚きに満ちたものになるかを想像して、少しだけ武者震いをした。


 


 工作に飽き始めていた子も、自分の作品に迷っていた子も、磁石に吸い寄せられる砂鉄のように貴の席へと集まってくる。


「何、今の音!?

 もう一回やって!」


「それ、ボクも欲しい!

 作り方教えてよ、タカシ君!」


 先ほどまでの静寂が嘘のように、好奇心の熱風が教室内を吹き抜ける。


 貴は一瞬、リサ先生の顔をうかがったが、先生の「良いわよ、見せてあげて」という優しい眼差しに背中を押され、完成したハリセンを再び構えた。


「じゃあ、いくよ。……」


 ――パンッ!


 乾いた、しかし重みのある破裂音が空気を震わせる。


 ジャバラ状の牛乳パックが扇状に広がり、折り紙で作った星やハートが瞬く。


 その圧倒的な「音」と「形」のインパクトに、園児たちのボルテージは最高潮に達した。


「すごい!

 音が大っきい!」


「リサ先生、ボクもハリセンにする!

 牛乳パックちょうだい!」


 それからは、まさに「ハリセン教室」だった。


 ロボットを作っていた子も、お城を組み立てていた子も、こぞって方針を転換する。


 カッターを使うのは難しい子もいたが、リサ先生が手伝い、貴が折り方のコツを伝授していくうちに、教室のあちこちで色とりどりのハリセンが産声を上げ始めた。



 だが、それは同時に「平穏の終焉」でもあった。



 パーン!


 パン!


 パパパン!


 一人、また一人と完成させるたびに、その威力を確かめるべく全力で机や手を叩き始める。


 無邪気な子供たちの手加減を知らない一撃は、重なり合い、反響し、やがて教室内を埋め尽くす猛烈な騒音へと変貌した。


「はーい、みんな!

 少しだけお耳を休ませようね!

 一度に鳴らすとびっくりしちゃうから!」


 リサ先生が声を枯らして教室を奔走するが、興奮状態の子供たちにその声は届かない。


 誰かが鳴らせば、負けじと大きな音を返そうとする。


 その無秩序な音の暴力に、一番賑やかな茜ですら、少しだけ眉をひそめて耳を塞いだ。


「……タカ君。

 面白いけど、これ、ちょっとうるさすぎない?」


 貴は、リサ先生が困り果て、額の汗を拭いながら右往左往する姿をじっと見つめていた。


 胸の奥に、チクリとした罪悪感が走る。


 自分の「楽しい」が、誰かの「困った」を作ってしまった。


 貴は思考を加速させる。


 この溢れ出したエネルギーを、どうすれば「騒音」ではなく『意味のあるもの』に変えられるか。


 その時、彼の脳裏に、かつて父が見ていた古いライブ映像が頭に浮かんだ。


 数万人の観衆が、ただその身一つで刻んでいた、伝説のビート。


「……ハリセンは、まずかったかな。

 バラバラに鳴らすから、ただのうるさい音になっちゃったね」


「タカ君……。

 みんな一緒に鳴らしたら、もっとうるさくなるんじゃないの?」


 不安げな茜に対し、貴は力強く首を振った。


「ううん、リズムを合わせるんだ。

 バラバラな音が一つになれば、音楽になるよ。

 ……茜、僕の真似をして」


 貴は立ち上がると、まずは力強く、右足、左足と床を踏み鳴らした。


 ――ドンドン、パァン。


 ――ドンドン、パァン。


 地を這うような重低音の足踏み二回。

 そして、空気を裂くハリセンの一撃。


 混沌の極みにあった騒音の嵐を、その三拍子の鉄律が鮮やかに切り裂いていく。


 それはかつて、世界中を熱狂させたスタジアム・ロックの化身。


 貴という小さな指揮者が振る見えないタクトに従い、バラバラだった音のつぶてが、一つの巨大な意志へと収束し始めた。


「パパが家で観ていた映画でね、みんながこうやって歌っていたんだ。

 とっても格好良かったんだよ」


 そう言うと、貴は力強く英語の歌詞を歌い始める。


 その声は、不思議と周囲の子供たちの耳に届いた。


 バラバラだった音の欠片たちが、貴が刻む一貫したリズムに吸い寄せられていく。


 茜が合わせ、隣の子が合わせ、やがて波紋のようにリズムは教室全体へと広がった。


 ――ドンドン、パァン


 ――ドンドン、パァン



 リサ先生は、耳をつんざくような騒音が、劇的な変化を遂げていく様子に息を呑んだ。


「……このリズムって。

 ……もしかして……」


 ただの乱暴な音が、4歳の少年が導くタクトによって、地響きのような「合奏」へと昇華されていく。


 貴は、英語の力強いフレーズを完璧なリズムで口ずさみながら、クラスメイトたちを鼓舞した。


「みんな一緒に!

 Singin(歌って)!」


 英語の歌詞や意味は分からなくても、魂を揺さぶるその旋律メロディは、4歳児たちの本能に火をつけた。


 ――ドンドン、パァン!

 ――ドンドン、パァン!


 30人の園児たちが、咆哮ほうこうのようなサビのフレーズを大合唱する。


 ――ドンドン、パァン


 ――ドンドン、パァン


「次が最後だよ!」


 ――ドン!


 ――ドン!


 ――パァン!!!



 貴が最後に拳を振り上げると、ビタッ!と音が止む。



 それは、幼稚園の教室で起きているとは信じがたい、魂の咆哮だった。


 ハリセンはもはや「音を出すおもちゃ」ではなく、自分たちの感情を叩きつける楽器となっていた。


 演奏が終わり、心地よい余韻が残る中、貴は額に滲んだ汗を手の甲で拭い、リサ先生に向かって最高に晴れやかな笑顔を見せた。


「にぱーっ!」


 笑いかけるその姿は、混乱を収束させ、クラスを一つの「チーム」に変えてしまった小さな革命児そのものだった。




 熱狂的なセッションが終わり、心地よい静寂が教室を包み込むかと思われた。


 しかし、魂を揺さぶるリズムを一度知ってしまった子供たちの興奮は、そう簡単には収まらない。


 一瞬の静寂のあと、それは雨上がりの水滴が滴るように、あちこちから不規則な音が鳴り始めた。


 ――パーン!


 ――パパパン!


 一人が鳴らせば、呼応するように別の場所からも音が跳ね返る。


 先ほどのような一糸乱れぬ一体感は消え、再び無秩序な音の礫が教室を飛び交い始めた。


 子供たちの瞳はまだ爛々と輝き、アドレナリンがその小さな身体を突き動かしている。


「みんな!

 ちょっと聞いて!」


 貴の声が、騒音の隙間を縫うように響いた。


 彼は教卓の前に立ち、クラスメイトたちを見渡す。


 その表情は厳格な教師のようでもあり、遊びの本質を知り尽くした年長者のようでもあった。


「さっきのがあんなに楽しかったのは、みんなが一つになって、リズムを揃えたからなんだよ。

 バラバラに、好き勝手に鳴らしているだけじゃ、それはもう音楽じゃない。

 ただの『うるさい音』に戻っちゃうんだ。

 それは、全然カッコよくないよ」


「カッコよくない」という言葉は、4歳の園児たちにとって魔法のような効力を持っていた。


 貴は、彼らが「音」という力に溺れかけているのを、巧みに自尊心へと繋げて制止したのだ。


「今は、本当は工作の時間でしょ?

 せっかく作ったハリセンだもん、もっとカッコよくしようよ。

 折り紙で模様を増やしたり、もっと丈夫にしたり……

 『ハリセン・パワーアップ作戦』だよ!

 演奏は、もっと大切な時のためにお休みしておこう」


「パワーアップ」という魅力的な提案に、園児たちの意識は再び手元の工作へと向けられた。


 貴は、溢れ出したエネルギーを否定するのではなく、別の創造的な方向へとチャンネルを切り替えたのだ。


 こうして、ウサギ組には再び、紙を切る音とのりを塗る音が微かに響く、穏やかな工作の時間が訪れた。


 リサ先生は静かになった教室を見渡すと、足音を忍ばせて貴の元へと歩み寄った。


「……タカシ君、ありがとう。

 助かっちゃったわ!」


 リサ先生は、額の汗を拭いながら、貴に精一杯の感謝を伝えた。


 28人の興奮を一人で鎮めるのは、熟練の保育士でも骨の折れる仕事だ。


 それを貴は、わずか数言で成し遂げてしまった。 


 しかし、リサ先生の前に立つ貴の表情は、どこまでも沈んでいた。


「……ううん。ごめんなさい、リサ先生。

 僕がハリセンなんて、大きな音が出るおもちゃを作らなければ、先生がこんなに困ることはなかったのに。

 ……本当にごめんなさい」


 貴は深く、丁寧に頭を下げた。


 自分の創造性が周囲にどのような影響を及ぼし、誰に負担をかけるか。


 4歳児が持つにはあまりに早熟すぎるその責任感に、リサ先生は胸を締め付けられるような思いがした。


「顔を上げて、タカシ君。

 あなたは何も悪いことはしていないのよ。あんなに素敵で、みんなが夢中になれるおもちゃを教えてくれたんだもの。

 みんなが盛り上がりすぎちゃったのは、それだけタカシ君のアイデアが素晴らしかったからよ」


 リサ先生は貴の目線に合わせて膝をつき、彼の柔らかな肩を優しく包み込んだ。


 貴の「配慮」を尊重しつつ、その「才能」を萎縮させないように、言葉を選んで肯定する。


「それに、タカシ君が素敵な音楽でみんなを一つにまとめてくれたでしょう?

 先生、またまたビックリしちゃったわ。

 あんなに格好いい英語の歌を歌えるなんて!」


 リサ先生の称賛に、貴の表情が少しだけ和らいだ。


「うん!

 パパが家で外国の歌をよく聴いているから、聴いているうちに覚えちゃったんだ。

 あのリズム、ハリセンにピッタリだと思ったから」


「そうなのね。本当に凄いわ……」


 リサ先生は貴を褒めながらも、その脳裏には、伝説のロックバンド、クイーンのフレディ・マーキュリーの姿と、青いスモックを着た園児たちが重なっていた。


(タカシ君のパパさん……。

 ……趣味が渋すぎるというか、4歳児の情操教育にクイーンは、ちょっとロックが過ぎやしませんか……?)


 伝説のスタジアム・ロックを、幼稚園の牛乳パック工作のBGMに昇華させてしまった父子の日常に、リサ先生は心の中で盛大なツッコミを入れずにはいられなかった。


 しかし、そのおかげでバラバラだったクラスに、今日、間違いなく「絆」のようなものが芽生えたのも事実だった。


 窓の外では春の風がそよぎ、教室の中では三十人の「パワーアップ」された色鮮やかなハリセンが、次の出番を静かに待っていた。




 第6話をお読みいただき、ありがとうございました!

 まさかの幼稚園でクイーン。

 「ドンドン、パァン!」というあのリズムなら、4歳児でもハリセン一つで世界を熱狂させられるはず!というタカシ君の(というかパパの教育の)勝利でしたね。

「タカシ君のライブに参加したい!」

「リサ先生のツッコミが冴え渡ってるw」

と思っていただけたら、ぜひブックマークや評価(☆☆☆☆☆)で応援いただけると嬉しいです!

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