1章11話 傷だらけの微笑みと蒼い瞳の『Thank you《ありがとう》』
1章11話 傷だらけの微笑みと蒼い瞳の『Thank you』
「Don't worry. I 『will』 help you.(大丈夫。僕が君を、絶対に助けてみせる)」
少女に向けて微笑んだ後、貴は襲いかかる5人組に対峙した。
最初に太った園児が拳を振り下ろしてきた、貴は前に出ながら拳を避けると、すれ違いざま、重心の浮いた相手の足首を、刈り取るように思い切り蹴飛ばした。
「ぐあっ!」
勢いよくバランスを崩した巨体が、顔面から地面に沈む。
背の高い園児も、すぐ目の前で拳を振り下ろして来ていたので、今度はしゃがんで避けたあと、背の高い園児の腹に向かって一気に立ち上がり、頭突きを当てながら足を取って転がした。
背の高い園児に頭突きを食らわせた瞬間、貴の頭にさっきのたんこぶにズキリと激痛が走った。
「ぐえ」
強烈な一撃を腹部にくらい、背の高い園児は、貴の足元にうずくまった。
チビとヒョロいのが挟み撃ちに来る。
片方はタックル。
もう片方はそれに合わせた殴打。
貴はタックルに来た腕を掴み、独楽のように回転させた。
そのまま、殴りかかってきたヒョロい方へと叩きつける。
「「ぶへっ!?」」
二つの体が絡まり、砂煙の中に沈んだ。
貴が次々と年長組をなぎ倒していく光景を、セレナは瞬きも忘れて見つめていた。
(……信じられない。
あんなに小さくて、優しそうな子が……)
その背中は、セレナの目にはどんな騎士よりも大きく、頼もしく映っていた。
最後のリーダー格は、あっという間に取り巻きが倒されたのを見て怖気づく。
「……君は来ないの?」
貴は静かに声をかけながら、リーダー格に向かって足を踏み出した。
「……ウ、ウワァー!」
リーダー格は恐怖に混乱し、奇声を上げながら殴りかかってきた。
(……これで、終わりだ!)
貴は一瞬の踏み込みで死角を突き、リーダー格の懐へと深く潜り込んだ。
振り上げられた腕を、痛みで脈打つ右腕で強引に制し、体全体のバネを「点」に集中させる。
合気にも似た淀みのない円の動き。
「え……?」
リーダー格が声を漏らした時には、すでにその巨体は重力から解き放たれ、春の空を鮮やかに舞っていた。
1対5、年少対年長、勝てるわけがない、負けるわけがない勝負。
誰もがそう信じて疑わなかった勝負は――
――たった一人の少年の……
――圧勝だった。
地面に転がり、呻き声を上げる5人組。
彼らの瞳に宿っているのは、痛みよりも深い「困惑」だ。
自分たちより小さく、女の子のように可愛い年少組に、手も足も出ず転がされた。
その「あり得ない現実」に、リーダー格の少年は震える唇でただ地面を見つめることしかできなかった。
その中心で、貴は荒くなった呼吸を整えながら、ゆっくりと立ち上がった。
――シン、と
先程までの喧騒が嘘のように遠のいていく。
舞い上がった砂埃が午後の光に透けて、ゆっくりと地面に落ちていった。
貴が少女の方を振り返ると、彼女はまだ呆然としたまま、宝石のような瞳を大きく見開いていた。
貴は怖がらせない様に、さっき痛めた腕を手のひらで少しだけさすって、夏を迎えたひまわりみたいに笑ってみせた。
「にぱーっ!」
そのあまりにも無邪気で、温かな光に当てられたように、園庭の喧騒が遠のいていく。
嵐のような暴力から自分を救い出してくれた、目の前の小さくて大きな背中。
小刻みに震えていたセレナの肩が、その笑顔に触れた瞬間、ふわりと力が抜ける。
恐怖に凍りついていた彼女の心が、夏の日差しを浴びたみたいに溶け出していった。
指先まで冷え切っていた体の中に、ドクン、と熱い血が巡り始める。
ずっと一人きりで耐えてきた『冷たい暗闇』を、彼の笑顔が木っ端微塵に砕き、暖かな光で塗り替えてしまったのだ。
「a...(あ……)」
……なんて声をかければ良いんだろう。
『怪我は大丈夫?』
『あの歌声はあなた?』
『なんで助けてくれたの?』
少女の頭の中には色々な言葉がかけ巡る。
言いたい事、聞きたい事が無数に湧き上がってくる。
言葉が通じず、悔しかった、悲しかった、苦しかった事をあらん限りの声で泣き叫んで伝えたかった。
……それでも。
……それでも、喉の奥に詰まった無数の慟哭を押し退けて、涙とともに溢れ出した『言葉』は――。
「……Thank you (……ありがとう)」
大粒の涙を流すその瞳は、本来の澄み渡る深い海の蒼をたたえていた。
「タカシ君、最高のヒーロー!」
「セレナちゃんの蒼い瞳の涙に、もらい泣きした……」
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