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月が綺麗過ぎて草w 明治の文豪が令和に転生して、web文壇で、ざまぁで無双しすぎる件 草生え過ぎてワロスで大草原www 〜吾輩は猫である2026爆誕〜  作者: 山口灯睦


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第9章:こころ、あるいは足元の罠

「……美しい。」


新宿の片隅。


出版社の資料室前にて、夏目金之助は一台の自転車を前に、静かに立ち尽くしていた。


細い車体。


黒く輝くフレーム。


薄いタイヤ。


今まで苦楽を共にしたママチャリとは、まるで別種の生き物である。


「これが……吾輩の鉄馬だわ。」


編集者は腕を組みながら頷いた。


「先生、ついに買いましたね。」


「うむ。」


金之助は誇らしげに胸を張る。


「吾輩が令和へ来て初めて、己の力のみで手に入れた文明の利器だわ。」


「三万円の中古ですけどね。」


「値段を言うな。」


金之助は眉をひそめた。


「三万円ではない。」


「?」


「吾輩の門(痔)と誇りと汗、その全てを変換した三万円だわ。」


編集者は苦笑した。


「先生、相変わらず表現が重いっす。」


⸻


数日後。


金之助はさらに進化していた。


いや。


正確には、進化させられていた。


「先生、ロードならビンディングですよ。」


編集者が差し出したもの。


奇妙な靴。


裏側には、金属の突起。


「……何だこれは。」


「ペダルと靴を固定するやつです。」


金之助の顔色が変わった。


「固定?」


「はい。」


「足を?」


「はい。」


「鉄馬に?」


「はい。」


沈黙。


「……それはつまり。」


金之助はゆっくりと後退した。


「吾輩を自転車の一部にする呪術ではないか。」


「違いますってw」


「笑うな。」


しかし。


数分後。


カチッ。


右足。


カチッ。


左足。


金之助は目を見開いた。


「……。」


「先生?」


「……合体した。」


「え?」


金之助はロードバイクを見下ろした。


「吾輩と鉄馬が合体したのだわッ!!」


その瞬間。


風が吹いた。


ペダルを踏む。


進む。


軽い。


速い。


ママチャリでは感じなかった世界。


まるで自分の身体が延長されたかのようだった。


「なるほど……。」


金之助は感動した。


「道具とは、人間を縛るものではない。」


「はい。」


「人間の可能性を広げるものなのだわ。」


編集者も少し感動する。


「先生、いいこと言いますね。」


だが。


現実は甘くなかった。


数分後。


赤信号。


金之助は停止する。


そして気付いた。


「……。」


「先生?」


「編集者君。」


「はい。」


「足が。」


「?」


「外れん。」


「あ。」


「外れんのだわッ!!」


必死に足を捻る。


右。


左。


しかし鉄馬は主人を離さない。


まるで永遠の契約を結んだかのように。


「おのれッ! 吾輩は主人だぞ! なぜ貴様に拘束されねばならんのだ!」


通行人が振り返る。


大島紬……ではない。


今はピチピチのサイクルウェア。


髭面の文豪が、高級そうな自転車の上で格闘している。


そして。


ゆっくり。


ゆっくり。


倒れる。


ドサッ。


静寂。


数秒後。


編集者が駆け寄る。


「先生、大丈夫ですか!?」


金之助は地面を見つめた。


膝。


無傷。


自転車。


無傷。


しかし。


心。


粉々。


「……。」


「先生?」


「吾輩は。」


金之助は呟いた。


「自転車に乗ったのではない。」


「?」


「自転車に敗北したのだわ。」


⸻


その日の夜。


金之助はSNSに一枚の写真を投稿した。


倒れたロードバイク。


そして真顔の自撮り。


文章は一言。


『人は、自ら作った便利な道具によって、ときに自由を奪われる。これを世間では文明開化と呼ぶらしい。』


数分後。


通知。


一件。


十件。


百件。


そして。


『先生、それビンディングあるあるですw』


『初心者全員通る道w』


『漱石先生ロード乗ってて草』


金之助は画面を見つめた。


「……また草か。」


だが。


今回は不思議と腹が立たなかった。


なぜなら。


その「草」の中に。


かつて明治の新聞で感じたものと同じ、


人々が文章に反応する熱があったからだ。


金之助は静かにスマホを置いた。


「なるほど。」


「令和の文壇とは……このような場所なのだわ。」


しかし。


次の通知。


『この人、本物の漱石じゃね?』


その一文を見た瞬間。


金之助の目が鋭く光った。


「……。」


「ついに、吾輩を疑う者が現れたか。」


文豪・夏目金之助。


令和の電子文壇へ。


本格参戦の時である。

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