第43話 音々ちゃん
「それでそれで!? 甘いものを食べたいと言った後はどんな展開に!?」
「お、落ちついて美月ちゃん……今日はこんな時間だし、俺はもう帰るとするよ。」
僕の妹である美月に自身ののろけ話を聞かせていた茶武郎は、椅子から腰を上げた。
「そうですね、彼女と同棲している茶武郎さんは、早く家に帰りたくて仕方ないですもんね!さっきからチラチラと時計を確認していましたもんね!」
そんな、美月の気遣いともからかいともとれる言葉に照れた茶武郎は、ほんのりと耳に赤色を残しながら我が家を去っていった。
「ところでお兄ちゃん、音々さんを含めたみんなで遊びに行くのは明日だったよね?」
「お前、いつの間に瀬戸内さんのことも認知していたのか」
「だって、合コンの参加者の一人だったんでしょ?茶武郎さんから聞いたもん」
「沙也加のせいで自己紹介出来てなかったから、田中さんも含めて名前すら知らなかった……」
「え!?じゃあ、どうやって遊びに行く計画なんて立てたの!?」
「あ、えっと……それはな……」
僕は、瀬戸内さんの名前を初めて知ったあの日のことを、美月に話したのだった。
――遡ること一週間前。
「やーっと見つけましたよ、さぶろーさん♪」
「音々ちゃん!?」
茶武郎の傍らに立つ女性を見て、茶武郎は目を見開いた。
「茶武郎くん、その子だれ?」
一瞬にして凍り付いた空気をもろともせず、沙也加が率先してみんなの疑問を口にした。
「「「え……」」」
沙也加の当然の疑問に、茶武郎、田中さん、音々……さん?の三人が揃って驚きの声を上げた。
「若月さん、覚えてないの?」
「覚えてないって……何を?」
「この子は、若月さんと充が再会した合コンに出席してた、瀬戸内音々ちゃんだ」
「「あー!」」
なるほど、見たことある。
確かにいたな、というか、話したな、僕。
「え、ほんとに忘れてたんですか、このお二人……自己紹介はするまでもなくお開きになったから、名前を知らないのは無理ないけど、顔まで忘れるって……ないわー、ないない」
自己紹介を遮った張本人がギクッてしたところを、僕は見逃さなかったぞ。
「それより! あとで合コンのメンツで遊びに行こうって約束はどうしたんですかぁ!あたし、ずっと待ってたんですけど!?ねえねえ、明日行きましょうよ!明日!」
え、そんな約束知らないぞ。いつの間に……?
「えぇ!?そんな約束知らないんだけど!!」
あ、沙也加が先に言ってくれた。
ありがたや、ありがたや……
「音々ちゃん……ごめんなんだけど、こいつらに約束のこと言ってなかったから、猶予をくれないか?」
「え~……じゃあ、今週末です!今週末、絶対に行きましょう!!」
悩むそぶりを見せるもつかの間、すぐに日付を言い渡した瀬戸内さんは、慌ただしくその場を去っていった。
「嵐のような人だったね……」
沙也加が感嘆を漏らす。
いや、お前も同類な気が……
「えっと、そういうわけで……細かい日時は後で連絡するから……お願いします。」
珍しく疲れたような顔をした茶武郎は、そう言って頭を下げ、田中さんと一緒にその場を去っていった。
田中さん、ずっと鋭い目つきをしていたけど、茶武郎は大丈夫なのか……?
「茶武郎くん、ダイジョブなのかなぁ……」
そして沙也加、ずっとセリフが僕と被ってる。
僕は「わからん」とだけ返し、沙也加の作ってくれた弁当を開封するのだった。




