第41話 エピローグ
最終話です。
「お兄ちゃん、そろそろ起きなって」
「うーん……って、眩しっ!やめて、起きるからやめて!」
朝日だけでは開かなかった飯田充の瞼は、妹である美月のスマホのライトに照らされてようやく動いた。
目をこすりながら時刻を確認すると、彼の脳は硬直した。
「やっべ!もうこんな時間!?」
慌ててベットから飛び降り、キッチンへ。
こんな時もあろうかと用意していた、お弁当のおかずの冷凍ストックを素早く解凍し、弁当箱に詰める。
身支度を済ませた彼は、最速で家を出発した。
制服姿で玄関に立ったまま、美月は言う。
「まったく、早く一緒に住んだらいいのに……」
―充視点―
春が来た。
新年度がスタートし、我がキャンパスライフも、より忙しなくなっていた。
しかし、どれだけ忙しくても、お昼の時間は確保するのが僕の流儀だ。
金欠が明けたというのに、僕はお弁当を持っていつものベンチまで来ていた。
定位置について間もなく、背後から声をかけられる。
「おまたせ」
声の主である沙也加は、僕の隣に腰を落ち着けると、膝の上で花柄の包みをあけた。
「今日も今日とて力作だね」
僕の言葉に、沙也加が返す。
「まあ、朝忙しかったからストック詰めたんだけどね……美味しいといいけど。」
それを聞き、僕は思わずクスリと笑う。
「何笑ってるの!」
「いや、同棲は僕が早起きできるようになってからがいいなって思っただけだよ」
「もしかして、充も?」
「ごめん、昨日のデートが響いてさ。あれは流石に飲みすぎだった……」
昨晩、僕に酒を盛った張本人が、ケラケラと笑う。
「でも、楽しかったでしょ?」
「言うまでもないでしょ」
ストレートに言うのが恥ずかしくて、ぶっきらぼうに言い放つと、沙也加はスープジャーを掲げてこう言った。
「じゃ、いつものコレはお預けかな……?」
「ひ、卑怯者!!」
「そうじゃなくて。なんて言えばいいのか、わかるよね?」
「た、楽しかったってば!!」
「合格」
スープジャーを渡された僕は、慣れた手つきでそれを開封をする。
中身は当然のようにワンタンスープである。
「いただきます」
「どーぞ」
言って、手作りの肉団子を口に放り込むと、見知った二人が視界に入った。
「よう、見せつけてくれるじゃねえか」
「二人とも、さっきからめっちゃ目立ってるよ」
その正体は、僕の親友である茶武郎と、その彼女の田中さんだ。
朝から二人で通学していたお前らには言われたくない、という言葉はぐっと飲みこんだ。
「安心しろ、俺たちはちゃんと別のところで食べてやるからな。そのくらいの気遣いはできるんだ。」
「飯田君やカケル君に彼女ができたからって、最近ようやく私をお昼に誘うようになった人が何言ってるのよ。」
おい待てよ?茶武郎が突然の暴露におろおろしているが、それ以上に聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ。
「田中さん……いま、カケル君がなんだって?」
「え?彼女ができたって……」
「えぇぇぇ!?」
「なんだよ充、知らなかったのか?」
みんなキョトンとした顔をしている……
「もしかして、知らなかったのは僕だけ?」
沙也加がみんなの顔を見渡し、やがて僕の方に向き直ると、こくりと頷いた。
どうやら、既に周知の事実だったらしい。
「あ、そうだ……カケルといえば、アイツの兄貴の浮気が発覚して、茉子ちゃんに振られたってよ。」
「はぁ!?土下座までしてたのに!?」
うんうんと頷きながら茶武郎は続ける。
「まぁ、薄々気づいてたけどな。茉子ちゃんにもそれがバレて、噂が広まったせいで女は寄りつかないようになったってよ」
「当然と言えば当然だけど、今はあの二人のことはどうでもいいな」
改めて、三人の顔を見渡す。
「だって」
同時に、美月の顔も頭に浮かぶ。
「今、僕はここにいるんだから」
食欲から始まって、再生された僕の人間関係。
それは、僕にとって想像以上の代物で……
変わらない友情、巡った縁が生んだ優しさ、家族の思いやり。
そして、温かく美味しい愛情。
その全てが、いつまでも、いつまでも続くようにと願い、
――今日も僕は、台所に立つのだ。
……こうして改めて今の人間関係に感慨を抱いていると、一人の女性に目が留まった。
さっきから茶武郎を田中さんと挟むように立つこの女性は誰なんだ!?
と、その女性に皆の視線が集まったところで、彼女は口を開いた。
「やーっと見つけましたよ、さぶろーさん♪」
「音々ちゃん!?」
茶武郎が驚いたように言う。
え、まさかの知り合いか!?
というか、僕も少しだけ見覚えが……
あれ、なんか……空気が、重い、ぞ?
はぁ、小説の締めみたいな僕の心の声を撤回したい……
あ、田中さんが茶武郎を睨んでいる。
なんかよくわからないけど、大丈夫か茶武郎!?
<シーズン2へ続く!>
ここまでお付き合いいただいた読者様、本当に大好きです。ありがとうございます!
腕を上げて帰ってきますので、シーズン2をお楽しみにお待ちくださいませ!!
夜風なぎ




