第35話 おめでと。あと、ありがとな。
沙也加がスマホを取り出したのを確認して、僕は口を開く。
「この場を裏でセッティングしていた二人に、報告しないとかなって」
「あ、確かに!!」
というわけで、早々にメッセージアプリを開きつつ、僕は茶武郎、沙也加は田中さんへそれぞれメッセージを送った。
それにしても、沙也加は本当に僕に告白をしようとしていたのだろうか。
結果的に付き合えているのだから、僕のことはこれから好きになってくれればそれでいいと思う。
思うんだけど、やっぱりちょっぴり気がかりだ。
茶武郎は、僕の沙也加に対する気持ちを見抜いていた。
だから田中さんに頼み込んで沙也加を説得してもらった……てのも、不自然じゃないけど……
もしも、沙也加が僕に好意を抱いていたと仮定して、その事実をも茶武郎が認識していたとしたら……?
その方が、僕と沙也加の両方にメリットがあるわけだし、自然な流れともいえる。
キャンプの時は、沙也加が僕に向ける想いは把握できていないような言い方をしていたけど、この仮説が正しかったとしたら、茶武郎は恐ろしい男だ。
と、そこまで考えて、沙也加と目が合う。
そんなにイカリングフライを口に詰めたら危ないぞ。
そんな僕の心配もどこ吹く風。
いつの間にか到着していたビールで、グイっと流し込む。
思考がヒートアップして、色々考えてしまったが、目の前の美女が僕の彼女という事実は変わらない。
今は僕にできる精いっぱいで、この満面の笑みを守り続けなければ。
そう誓った。
―茶武郎視点―
スマホのバイブレーションで、俺は昼寝から覚めた。
画面には一件のメッセージ着信を知らせるアイコンが。
それをタップして詳細を見た時、俺は思わず同棲している彼女、蒼を呼ぼうとした。
しかし、俺が声を上げる前に、すでに蒼は俺の目の前まで走ってきた。
「家の中で走るなって。先月それで鼻血出したばっかだろ。」
「お父さんみたいなこと言わない!それより見て!!」
「ああ。俺もさっき充から連絡が入ったぞ、これで一安心だな」
蒼ははにかむ笑顔を浮かべ、俺の懐に飛び込んできた。
「どうした、服に食べ物でもついてたか?」
「違うし、バカ……」
蒼が顔をうずめているみぞおちの辺りが、ジワっと濡れてくるのを感じる。
泣いている。
「あたし、早く告白した方がいいって思って、先走って、沙也加の不安な気持ちも、全然気づいてあげられなくて……」
しゃくりあげるような声とともにボロボロと零れる本音は、実に蒼らしく、優しさにあふれていた。
「結局、上手くまとめ上げてくれたのは美月ちゃんだったし……だから、二人がちゃんと本音で話せて、ちゃんと付き合えて、ほんとに嬉しくて……!」
俺は、蒼の言葉を最後まで聞いた後、優しくその体に腕を回した。
「でもよ、結局若月さんを説得したのは蒼なんだろ?美月ちゃんが頑張ったって言いつつも、蒼は蒼にしかできないことをきちんと全うしてくれて、俺はうれしいぞ。俺の提案で苦労かけて悪かったな。」
そんな言葉を聞いた蒼は、俺の身体に回している手にいっそう力を入れてこう言った。
「高いアイス……あと、頭撫でて。それで許す」
「安いもんだな。アイス、一緒に買いに行くか?」
「……うん」
俺は蒼の頭をなでながら、スマートフォンで充へメッセージの返事を送った。
『おめでと。あと、ありがとな。』
ご愛読ありがとうございます。
本作も完結まで残りわずかとなり、作者も寂しさを覚えております。
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