第31話 お茶目なボーイとトキメくガール
今回は沙也加視点でスタートです。
ついにこの日がやってきた。
緊張と焦りのあまりに、家を早く出すぎてしまった。
今日は充との約束の日。
私は、集合場所である海鮮料理店へ向かっていた。
蒼と茶武郎くんの催促によって設けられたこの機会。
無敵の私は、堂々とした態度で歩みを進めていく。
やがて目的地が見えてきたころ、集合場所の店の前に一人の青年が立っていることに気が付いた。
まさかと思ったが、顔を見る限りあの人は充本人だった。
腕時計に目をやると、やっぱり集合時間よりだいぶ早い。
このまま充に話しかけて、早々に入店という手も考えた。
だけど、今の私は無敵だ。
もう少しだけ、さっきからそわそわしている充をしばらく観察してみることにした。
―充視点―
緊張と焦りのあまり、予定よりも大幅に早く、集合場所に到着した。
しかし、これも想定内。
せっかくだから、キャンプからの帰りの車の中で茶武郎に教えられた、アレを実践してみよう。
アレとは、『茶武郎流 紳士の取るべき行動参か条』というものである
其の壱、清涼菓子で息の匂いをリフレッシュ……は、海鮮料理の味を邪魔すると嫌だからパス。
僕はタブレットの詰まったプラスチックケースを取り出しかけたが、シャツの胸ポケットに戻す。
其の弐、リップクリームで唇の保湿……は、これからご飯だし、要らないか。
僕は、バッグから取り出しかけたリップクリームを戻す。
其の参、手鏡で前髪を整えるべし……は、手鏡を忘れてしまったのでパス。
全部パスしてしまった……
どれもこれも、会場がココなのが悪いのだ。
しかし、このまま棒立ちというのも精神的に疲れてくる。
何かないかとバッグを漁ると、スマートフォンが出てきた。
ちょうど着信があったようで、スマホのバイブレーションが皮膚を刺激する。
画面を見ると、茶武郎からのスタンプ連打。
元カノの件も手伝ってか、昨日から僕より取り乱している我が親友。
面白そうだからこのまま放っておこう。
そう決めたところで、ふと思った。
少し前までは、沙也加さんと顔を合わせることに不安を覚えていたが、今は程よい緊張感しか残っていなかった。
理由は明白。
僕と沙也加さんなら、気まずさや寂しさといった感情が残らない関係に落ち着くと確信しているからだ。
たとえ、僕が今の正直な気持ちを沙也加さんに伝えたとしても。
たとえ、沙也加さんが僕に恋愛感情を抱いていなかったとしても。
だから自然と、気持ちを赤裸々に打ち明けるための程よい緊張感以外に、持ち合わせる感情は必要なかったのだ。
さあこい。今なら、気持ちを伝えつつも、海鮮料理を楽しむ余裕すらある!!
今の僕は、無敵なのだ。
―沙也加視点―
何やってるの、充。
口臭がすっきりする系のタブレットを取り出すかと思ったらポケットに戻して……
バッグからリップクリームを取り出したと思ったら、蓋もあけずにバッグに戻して……
スマホを取り出したと思ったら、画面をニヤニヤ見つめてからバッグに戻して……
戻してばっかりだ。
可愛いんですけど。
意外とお茶目なところもあるんだな……
なんて、一丁前にトキメイてしまっていたりする。
しかし、そんな愛くるしい姿も一瞬だけ。
スマホを見た直後には、緊張と覚悟が入り混じった顔になる。
家を出る前に鏡に映っていた、私の表情にそっくりだ。
これから告白をするんだという覚悟と、それに伴う緊張感と……
ということは、充も私に告白するつもり!?
まさか私、充を落とすことに成功しちゃってたりして!?
そんな都合のいい展開が脳裏をよぎったが、そもそも充は、これが私たち二人で話し合うために仕向けられた場だとは知らない。
だから、私が告白されるなんてありえない。
だけど、もしかしたら……なんて、淡い期待を抱きながら、私は充のもとへ駆け寄った。
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