15 終幕
「はぁっ!!」
キンッ!!ズバッーー!!
剣と剣が交わる最中ーー、間を縫って特攻するクロノ。
ヘイルダムの懐に入り、一撃をお見舞いした。
「グッーーんんんっ!!」
ヘイルダムは鬼気を放つ勢いで間合いに入ったクロノをその巨大な手で握ろうとし……指を弾いたクロノはそのまま頭上ーーヘイルダムの後頭部に位置する場所へと瞬間移動する。
「ふっーー!!」
カキンッーードゴッ、バコォォォン!!
鼓膜が破けたのかと錯覚するほど、耳鳴りのする甲高い鍔迫り合いの音が響き渡る。
瞬時に反転したーー三十メートルを超える巨体のヘイルダムの攻撃を受け捌き、回避したクロノは華麗に宙を舞いながら着地するーー。
スタッーーザザザッ……と音を立てて着地し、間合いを取ったまま両者睨み合った。
決着の時はーー近い。
「マスター!!〝次元門〟が繋がりました!!あとは細かい修正をすれば完了です!もう少しだけ耐えてください!!」
後方で、エルが大きな声でそう言い放つ。
「そう……か。よくやったーーエル。はぁっ、はあっ、はぁっーー」
「ずいぶんと息が上がっているようだなーー〝次元門〟が完成したか……。しかし、どうやら、先に燃料切れになったのは其方らしいーー」
ズンッーーズンッ!とーー、ヘイルダムがゆっくりとこちらへ近づいてくる。
息が苦しい……やはりまだ今の俺には〝神技〟を連発して扱うには神気が体に馴染んでいないようだ……。
何故さっき受けた傷は無くなったのか……どうして《空間の権限》がここまで上手く扱えるようになったのか、そんな事は全部後回しだ。
第九天ーー〝追憶と幻想の神・マーリン〟。その眷属であるあの巨神兵はマーリンが作り出したと言った……。
歴代最高位の錬金術師〝ステラ〟。彼女はこの世で唯一人、〝ステラアース〟と呼ばれる最高品質かつ最高純度の魔石の生成を完成させた人物だ。
アダマンタイト、オリハルコン、ミスリル……その全てを超越した魔石ーーステラアース。
それは、今俺が手にしている世界最高硬度を誇る〝アースメタル〟を遥かにしのぎぐ程のものだという……。
そんなステラは幼少の頃よりとある魔女に魔術を教わったらしい……。
それこそが、〝マーリン〟だ。
魔術を学ぶ者で、その名を知らぬ者はいない。
彼女が人間でありながら、神世に至ったというお伽話はいくつか聞いたことがある。
聖大陸と魔大陸の外側にあるーー《無限大陸》の記述を残した人物。
古に消えたーー〝光魔法〟と〝闇魔法〟の理を読み解いた人物。
人類に五百年の進歩を与えたというーー唯一人の人間には身に余る実績と名誉。
彼女が一体どれほどの大人物だったのかーーその真相を知る者はもはやこの世に誰一人としていない。
そして……今俺は、そんな伝説とも呼べる大魔女が残した遺物……もとい眷属と相対している。
ヘイルダムーーマーリンが作った、巨神兵のゴーレム。
改めて、その性能の高さと異常なまでの耐久性にーーあぶら汗が滲み出る。
「どうした……もう〝降参〟するのか?」
急速に勢いを失った、俺の様子を見たヘイルダムが問いかける。
「へっ……こっちはおめぇみたいに体力が無限にある訳じゃねぇんだよーー」
さっき、新たに体得した《鑑定》を見て、改めて愕然とした。
レベルーー360。その体力19867。
俺が減らし続けた文を差し引いても、数百程度しか差は無いだろうーー。
キツネガミを見た時と違ってしっかり情報が入ってくる分、余計に絶望を与えてくる。
周囲にいる巨神兵はそこまで強くは無い……が、倒しても一定時間が経つとすぐに復活してきた。
それは特殊効果《土塊の身体》による再生能力によるものだ。
そしてそれを当然ーー目の前のヘイルダムも所有している。
はっきり言おう……化け物だ。
こいつは正真正銘ーー最上位の神に従う眷属だ。
他の巨神兵ならどうとでもできるが……ここまでの相手を倒せる程、今の俺には力が無い。
そもそも、今の俺の役割はーーエルが〝次元門〟を完成させる時間を稼ぐことにある。
だがーー
「はぁ、はぁ、はぁっーー」
ぐらりーー、と視界が歪む。
目の前が真っ暗になって……ふらふらと体がいうことを聞かない。
マズイーーこのままじゃ……やられーー
「マスター!!」
目の前でヘイルダムが、剣を振り翳すのがわかる。
「ヤバい……意識が。《空間の権限》で……避けなきゃーー」
しかし、神気を使った反動で上手く発動できない……どうやら乱発した代償は、あまりに重たかったみたいだーー。
「残りの神命は二つーー。ここで全て使い果たすか、そのまま死に行くだろうーー」
言葉を発したの同時に、ヘイルダムはの刃が再び遅いかかるーーかな思えたタイミングだった。
カキィィィィィンーー!!
ザクッーーと、その巨大な刃は地面に突き刺さる。
「んっーー?」
チラッーーとヘイルダムが移動した先には、バッサバッサと翼をはためかせたメフィストセレスの姿が。
「メフィ、ストーーセレス?」
メフィストセレスはため息一つつきながら、乱暴にドサッと放り投げる。
「ぐぇっ!」
パンッパンッーーと手を叩いたメフィストセレスは一言。
「時間がいるんだろうーー?それじゃあーーいっちょ暴れてやろうじゃねぇか!!」
不敵に笑いーーメフィストセレスはヘイルダムへと挑戦を叩きつけた。
…………………。
「エルちゃん……後の事は任せてもいいですか?」
神気を流し終えたルーナが、エルにそう問いかける。
「ルーナさん?」
疑問の符を浮かべるエルを他所に……ルーナは歩み寄る。
「クロノ君とメフィストセレスさん……彼ら二人ならあの巨神兵は何とかなるでしょうーーしかし」
ズンッーーズンッ、と復活した他の巨神兵達が……クロノ達の元へと近づいていく。
「あと少しーー時間を稼ぐだけなら、わたしにも出来ることがあります。」
ルーナは右手を翳し、周囲を守っていた天使の亡霊達を巨神兵へとけしかける。
「ルーナの役目は、皆さんの手助けになる事です。……だから、行ってきますーー」
ルーナはその紺色の瞳で物腰柔らかく微笑みかけ、天使の肩に捕まって宙を舞う。
「ルーナさん……どうかご無事でーー」
その様子をーーエルは静かに見送っていた。
……………………。
「一対ニか……。今の貴方ならば、それもやばさかでは無いーー」
ヘイルダムの言葉に、メフィストセレスが口の端を吊り上げて笑う。
「ハッーー!……何を勘違いしてんのか知らねぇがーー、ノロマな巨神兵と俺様とじゃあ相性が悪いんだぜーー?」
次の瞬間、そう言い放ったメフィストセレスが突然姿を消した。
「っーー!!これは!!」
ヘイルダムの背後に突然現れたメフィストセレス。
そのまま、自身の《堕落の権限》をガラ空きの背中にお見舞いした。
「〝《堕落》〟っ!!」
ドゥンッーーと、巨神兵の動きが急激に鈍くなる。
「ぐぬぅぅぅーー。……なるほどーー〝貴方の仕業〟かーー」
ヘイルダムは振り返る。
「ハァ……ハァ……ハッーー!!瞬間移動を使えるのは俺に対してだけじゃ無いんでねーー」
メフィストセレスが、神気を覆って抵抗すれば話しは別だろうがーーこの時息があった俺とメフィストセレスの頭に思い浮かんだ戦術は同じものだったーー。
俺が《空間の権限》でメフィストセレスを飛ばし、ヘイルダムを《堕落の権限》で力を失効させる……。
当然、圧倒的にレベルの高いヘイルダムには今の攻撃も短時間しか効かないのだろうーーしかし、それはメフィストセレス相手なら大した意味も無い。
神技による攻撃は、神気があれば効きづらくなるだけだ……。
「はぁーっ!〝《堕落》〟!!〝《堕落》〟!!〝《堕落》〟!!〝《堕落》〟ーー!!」
「ぐっーーぐぬぬぬ……」
メフィストセレスが間髪入れず《堕落》の力でヘイルダムから行動の自由を奪う。
それ故に生じた隙を、俺が短剣で攻撃してダメージを蓄積させていた。
「〝《堕落》〟!!〝《堕落》〟!!〝《堕落》〟!!〝《堕落》〟!!〝《堕落》〟!!〝《堕落》〟!!〝《堕落》〟ーー!!」
油断は出来ない、相手は正真正銘の化け物なのだ。
こちらも、ややセコいやり方感が否めないがーーそれでも今の俺たちにはできる事が他には無い。
スピードで劣るメフィストセレス、神気の残量が少ない俺ーー。
勝つ必要は無いーーそれ故の、時間稼ぎとなり得る戦法。
そしてそれはーーエルの一言によって正しかった事が証明された。
「マスター!!完成しました!!座標もマスターが指定した通りの場所です!!いつでも移動できます!!」
「よしっーーエルとルーナは先に行けっ!!メフィストセレスーーお前も先に行ってろ……殿は俺がやっておくからーー!!」
メフィストセレスが、ヘイルダムから離れて距離を取る。
「ああっ!?おめぇ一人で大丈夫なのかよ……?」
まだ神気を使った反動でふらふらするが……これ以上長居する方が神気を削られかねない。
「…………ああ、大丈夫だーー行け」
メフィストセレスは尻目で流し見て、そのまま立ち去る。
「ちゃんと出てこいよなーー」
ふわっーーと、そのまま次元門に入り姿を消した。
残るは三人ーー。
「エル、先に行け!!っ!!」
ガキンッーーと、不意を撃つ一撃を捌く。
その様子を、涙目でエルは見ていたーー。
「でも……マスター!!」
心配症のエルは俺が行くまで立ち去らないだろうーー。
今のレベルのエルには、目の前のヘイルダムを相手できるだけの身体能力が無い……。
それはルーナも同じだろうーー。
次元門へ近づかせないように……なおかつ、全員がここを出るには順序がどうしても大事になる。
今次元門に巨神兵達が近づかないのは、ルーナがいるからだ。
ルーナとルーナの呼び出した天使の亡霊達は、あまりそっちへ集中できていなかったが……本当によく戦ってくれていた。
そうでなければ今頃ーー全員やられていただろう……。
だからこそ、最後の一人は、どうしてもルーナが出て行った後……俺が抜け出さないといけない。
出なければ脱出に失敗するか……次元門を壊されてしまうだろうからーー。
「エル!!早く行け!!このままじゃ全員共倒れになっちまう!!」
歯噛みして、渋々とした様子のエル……。
エルだって本当によくやってくれたーー。ここまでの献身が無ければ、俺は当の昔に死んでいただろうーー。
だからこそ、この子の背中は俺が押してやらないといけない……。
《空間の権限》でーー、ぽんっとエルの背中を押す。
次元門のある方へ向かってーー。
「っーー!!マスター……マスター!!」
「ハァ……ハァ……後はルーナーー君だけ……だ。」
再びドサッ、と倒れ込む。
どうやら今エルの背を叩く分で、完全に神気を使い果たしてしまったらしい……。
「ハァ……ハァ……クソッーーあと、もう……ちょっとーーハァ……ハァーー」
意識がだんだん消えかかっていく。
無理に無理を重ねた結果だ。
せめてルーナが次元門へと向かうまでは持たせるつもりだったのに……。
「ハァ……ハァーーやばっ」
振り翳される周囲の巨神兵の一振りーーそれを、今度はルーナが間一髪の所で救い出した。
「はぁ……クロノ君。大丈夫ですか?」
見ればふわっふわっーーと、天使の亡霊の羽根を借りて、宙を舞うルーナに抱かれて飛んでいる。
「ルー……ナーー?」
空中を散会する眷属達が、弓矢で宙を舞うルーナを撃ち続ける。
それを上手い事天使の亡霊は回避していたーー。
「もうすぐです……もうすぐ着きますから。クロノ君……殿が一人じゃなきゃ駄目だなんて……決めた人はいませんよ?みんなで一緒に……帰りましょう」
「…………ルーナーー」
そうーー言葉を交わして、そのまま次元門を潜り抜ける。
マーリンの眷属達は……次元門の中までは俺たちを追って来なかった……。




