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14 覚醒の宴


【神命を一つ消費しましたーー残りの神命の数は2/3です。尚、神命を一つ消費した事によりーー神の権限《鑑定》が解放されました。これにより、眷属の《鑑定》と情報の照合が可能となりますーー】


……………………。


「……スター…………マス………ター」


真っ暗闇の中ーー誰かの呼びかける声が聞こえる。


とてもよく知った……少女の声だーー。



「クロノ君……はっ!!」


カキンッーーと、鈍い金属音の響き渡る音が聞こえる。


途端ーー、ドサッ……と地面に落下する音が……。


(エル……メフィストセレス……ルーナーー戦っているのか?)


「ちくしょう……さっさと起き上がれよなこいつーーー!!」


キィィィンーーバンッ!!と、洞窟内につんざく音と共に悪態を吐く声が。


だんだんと……だんだんと意識が明白になってくる。


「マスター……マスター。起きてくださいーー」


ボロボロボロッーーと、目を開けると涙を垂れ流して自身を抱き上げる少女の姿が。


どうやらーーまだ俺は生きているらしい。


よろめく手を目の前で泣きじゃくる穂麦のような金髪の少女の頬に添える。


瞬間ーー反応したエルが大きな翠色の瞳を開けてこちらを見つめる。


「ますたぁ〜…………マスターぁぁっ!!」


「ううっ!!」


バッーーと甘える子供のように抱きつくエル。


それを……ただじっと黙ったまま、背中を撫でてやるとーー


「マスター……。良かったーー本当に……」


どれだけ泣き腫らしていたのか……エルの表情一つで事の深刻さを悟るに十分だった。


そしてそれはーー今の状況にも言える事だ。


「おい!起きたならこいつら何とかしてくれよ!?……俺一人じゃ持たねぇぞーーうわっと!!」


カキンッ!!と、からぶった一撃が地面にめり込む。巨神兵の一撃を回避するメフィストセレスは、そのまま紫色の悪魔のような翼をはためかせて緩やかに旋回する。


見ればメフィストセレスは命からがら何とか戦っているが、ルーナも気絶しており、エルは泣きじゃくりながら俺の看病をしている状態……。


全滅はーー時間の問題だった。


だがしかし何故だろうかーー?


先程から溢れてくるような膨大な神気の量が、絶対に負けるはずが無いと思い知らせるような自信を与えてくる。


どうやら昏睡状態の中ーー、何か栓のようなものが抜けて力が解放されたようだ。


初めてキツネガミから神気を受け取った時のようなーービリビリした感覚が全身を駆け巡る。


少なくともーー今までとは完全に何かが違うーー。


「エル……《転移陣》の方はどうなった?」


ふるふるーーと、エルが首を横に張って否定の意を示す。


それはつまりーーこの盤面上においての〝詰み〟を意味していたーー。


いくら神気が覚醒してきていると言っても……あくまで現在地点での話だ。


目の前にいる巨神王に叶うほどの力量では無いだろうーー。


そして、この事実において一つの確信が俺の脳裏に過ぎったーー。


「…………なぁ、一つ聞きたいことがあるんだがーーいいか?」


目の前で鎮座する巨神王に、問いかける。


「一体……あなた様がこの私にーー何を問いかけると?」


エルの抱きしめる手を振り解いて、巨神王へと近づく。


「マスター……」


ザッザッザッーーと、数歩進んで巨神王の目の前で立ち止まる。


その圧倒的な威圧感。それはまさしくーー、巨大な山々を目の前にしているような重圧感で、心臓が潰されそうなほどの鋭い眼差しだったーー。


「一つ問いかける。この最下層ーー本当に《転移陣》なんてあるのか?」


「っ!」


「どういう意味だ!?」


「…………マスター……?」


なんとなく……違和感があったーー。思えばこの階層に来た時から変だったのだ。


周囲を囲むように広がる祭壇、その柱で囚われていたルーナ。


ここは天使と人間を閉じ込める為に作られた〝監獄〟の役割を担っている神域だーー。


果たしてそんな所に、都合よく転移陣などあるのだろうかーーと。


俺の疑念を訝しむような視線で流し見る巨神王ーー奴はニヤリと微笑み、大変満足そうに答えた。


「……ご名答。この最下層には《転移陣》などありはしませんーー。全ては、あなた様方を錯乱させる為、我が主がメフィストセレスに吹聴した嘘にございますーー」


「っ!!そんなーー。確かに転移陣の気配はこの階層に降りる直前まではあった!!無かったなんて事ーー」


「メフィストセレスよ……我が主の《神技》をお忘れかーー?」


「っーー!!…………〝追憶と幻想〟ーー」


メフィストセレスが何に驚いているのか、〝追憶と幻想の権限〟がどのようなものかはわからないが……そもそも《転移陣》なんてもうどうでも良かった。


……そうだーー元々《転移陣》なんて必要無かったんだ……何故なら俺はーー


「巨神王ーーいや、ヘイルダム。《転移陣》ならあるぞ……?ここになーー」


くるんっーーと、指を空でなぞり……指弾きを一つする。


流れるような一連の動作を見たエルはーーまるで全身に鳥肌がたった様子で……目をひん剥いて驚いた顔をしていたーー。


「今の動き……何よりマスターが生成したあの〝次元門〟ーー眷属の私では到底作り出す事の出来なかった上位空間操作能力ーー《転移陣》!!」


「こいつはーー間違いなく《転移陣》だな……。まさかこんな事までできるなんてなーー」


生成された〝次元門〟の大きさはドア一つ分。それでも、この入り口は地上へと続く唯一の出口でもある。


しかし、それには一つ大きな問題があったーー。


「エル……この〝次元門〟は完璧じゃ無い……。今入り込んでも不完全故に繋がる〝亜空間〟に飲み込まれて闇の中へと消えていくはずだーー。()()の眷属権限で神気を流し込んで完成させてくれーー」


ブワッーーと、エルの〝ステータスシールド〟に一つの通知が入る。


【主が本来の《空間の権限》の力を取り戻しました。〝眷属の加護〟による《空間の権限》があなたの元に帰属されます】


(っ!!……マスターの本来のーー《空間の権限》ーー)


エルは再びこちらを見つめてーー、一言。


「マスター……。っ!!マスターは!?」


先程から、ただ黙ってこちらを見つめているヘイルダムへと向き直る。


さっきのエルの《鑑定》によって描かれていなかった情報の部分が、俺が新たに体得したであろう《鑑定》の情報で上書きされて表示されていた。


そしてーーそれを見て一つだけ安心する事が……そこには書かれていたーー。


「……一体、何を笑っているというのですか?」


ヘイルダムが問いかけるーーどうやら、笑みが溢れていたらしいーー。


しかし、無理も無いだろう……何故なら。


「お前ーー眷属なのに〝代行権限〟を持っていないんだろーー?〝追憶と幻想〟がどんなものか知りたかった所でもあるがーーだったら、その分の警戒が無くなって余裕ができるのは当たり前だーー」


その様子を、不機嫌そうな表情に変わったヘイルダムは答える。


「愚かなーー〝第九天〟の代行権限を持つ者などーーそうそういるものでは無いわーー!!」


ヘイルダムの振り翳した剣を、俺の愛刀ーーシェリカの短剣で防ぐ。


かつてエルは言っていたーー〝神と神の戦いは、神気によるぶつかり合いでほとんど決まる〟ーーと。


それは、今の結果をもって証明された。


ガキィィンッーーと、弾き飛ばされる巨神王の剣。


「なっーー!!」


それは俺が……奴を上回ったという事実より他無かったーー。


「っーー!!まさかーー」


驚いた表情のヘイルダムーー俺はそれを、不敵な笑みで返す。


「〝第九天〟なんて大したものじゃ無いがーーうちにも優秀な〝代行者〟がいるんだぜ?……翼の無い、《天使》だがなーー」


……………………。


ひしめき合う剣と剣の鍔迫り合いの音ーー怒号が鳴り響くその一角で、少女が目覚める。


「うっ……うん?」


紺色の髪と、同色の瞳をしたーーボロボロの服を纏った少女。


ルーナは、重だるそうに自身の身体をよろめかせながら……立ち上がる。


「ク、クロノーー君。あっーー」


倒れそうになった所を、半透明の肌白い天使が支える。


ルーナの《死霊の権限》で蘇らせた、天使の魂だ。


「ありがとうーーごめんね、あなた達を……安らぐ眠りにつかせてあげる事もできずに……こんな使い方をしてしまってーー」


天使の亡霊は、無言で首を横に振る。


微笑み一つ残すその様子は、まさしく天使のようだったーー。


「私も戦わなくちゃ……長い間幽閉されていたからーー。なんて、言い訳にならない……。クロノ君が私を助けてくれたから……私の封印を解いたから、あの巨神兵達は解き放たれたーー。……だったら、私にはそれを取り持つ責任があるーー」


ルーナは立ち上がる。


その両目には、初めて出会った時のような虚とも言えるーー〝諦観したような〟表情は微塵も感じられ無かったーー。


……………………。


ドゴオオオンッーー!!と、盛大な爆発音が一つ。


「〝《堕落》〟!!」


メフィストセレスは先程から、一人で巡るめく襲いかかる巨神兵の相手をしている。


その表情には、若干の滲んだようなあぶら汗が見えた。


「あいつが目覚めて戦局はだいぶマシになったがーーこいつらの硬さ尋常じゃねぇなーー」


メフィストセレスの言う通り、巨神兵の鎧が如く分厚い皮膚はダメージを通さない。鉄壁の守りだ。


どう攻略するかを思案するメフィストセレスだったが……それも、クロノ達を思ってのことでもあったーー。


自身が悠久の時を怨み続けた相手ーー自分の主を殺した仇……。それでも、メフィストセレスは知っている。


何故主が自分だけ生き残そうとしたのかをーーかつての怨み人が何故、自分だけを見逃したのかを……。


今のメフィストセレスの眼には少なくともーークロノ達は〝憎むべき仇〟には写らなかった……。



「エルの奴ーーさっさとしやがれよ〜……。これ以上時間稼げそうにねぇぞーー?」


悪態をつきながらも、その高い身体能力を宿した拳で殴りつけるメフィストセレス。


その周囲には、破れ去った巨神兵達が地に伏せていたーー。


……………………。


ガキンッーーババッ!!ズバッズバッズバッ!!



先程まで通らなかった鎧の如き硬い表皮が、短剣によって少しずつ屠られていくーー。


その様子を訝しむように……あるいは嬉しそうに、ヘイルダムは微笑んだ。


(〝女神様〟ーーあなたのお待ちしていた者はこのお方で間違いはありますまいーー。これほどの神気を体感するのは酷く久しぶりですからなーー)


何故か機嫌の良さそうなヘイルダム……その様子が気になり、一つ問いかける。


「なぁヘイルダムーー。眷属ってのは本来、《天使》から選ばれるはずだーー。だが、お前からはその雰囲気が感じられない……お前は何者なんだ?」


その問いかけに対して、ヘイルダムは想いを馳せるように、簡潔に答えた。


「私はーー我が主がその昔《錬金術》によって作り出したゴーレムだ。〝第九天〟の我が主が作ったからこそーー我は〝眷属〟を名乗る許可を得られているーーそれだけの事実だ」


「ふ〜ん……なるほどなーー」


神々の定めた法すらーー〝第九天〟の位の人間には通用しない。


それが、神における〝序列〟の意味なのだろうか……?


だったらーー翼の無いエルは、()()()()()()()()()()のだろうかーー?


「……いや、この話はあとでエルに直接聞くか。俺が集中すべきは目の前のーーこいつだ!!」


ガゴンッ!!と、地を抉るように放たれた一撃を回避して、そのままヘイルダムの腕に乗る。


そのまま駆け上がるように、腕を伝ってヘイルダムの懐へと近づいた。


「神気ってのは……格上か格下かで大きくダメージの総量が変わるんだろう?」


ドガッーー!!とヘイルダムの横顔を蹴り付けて一言ーー落下しながら問いかける。


「確かに……その通りですな!!」


その宙に舞う一瞬を狙ってヘイルダムの巨大な拳が直撃するーーその間際、指を弾く。


パシュンッ!!


「なっーー!!」


一瞬で姿が消え、地上にその姿を現す。


〝次元門〟を通じないその瞬間的な速技にーーエルは小さくつぶやいた。


「あれはーーエルにはまだ出来ない、マスターだけの権限ーー〝瞬間移動〟!!」


カツッカツッーーと、再びヘイルダムの目の前へと歩み寄る。


滑稽にする訳では無いがーー巨神兵故に一つ一つの動作が遅いヘイルダムの攻撃は、俺には何の意味も介さなかったーー。


そしてそれはーー周囲に鎮座する巨神兵達も同様だ。


ガガガッーーと拳が振り上げられ、こちらに届くまでの合間があれば指弾き一つで指定した〝座標〟へと一瞬で飛ぶことができるーーおそらくこれが、本来の《空間の権限》の使い方なのだろうかーー。


今の俺には、ここにいるすべての攻撃が緩やかにさえ思えたーー。


「俺に攻撃したいなら、力よりも先に速さを極めるべきだったなーー」


ドォンッーーガガッ!!ドォォーン!!


そんなクロノと巨神兵達の戦いを遠巻きに見ながらーーエルはボソリと呟く。


「マスター……あなたはどこまでも凄い方です。短期間で《空間の権限》をここまでーー。それなのに私はーー」


歯噛みしながら、エルは目の前の《転移陣》を見つめる。


クロノから託された、次元門型の《転移陣》だ。


「神気が足りない……このままじゃ時間がーーん?」


頭を悩ませるエルの尻目に、一人の少女の姿が映る。


天使の亡霊に肩を借りて、ふらふらと歩くルーナの姿だ。


「ルーナさん!!」


エルの呼びかけに、ルーナは反応する。


「エルちゃん……これは一体どうなっているーーの?」


ルーナがそう言って問いかけた辺りには、クロノが倒した巨神兵の姿が。


その様子を見ながら、エルはルーナに頼み込む。


「ルーナさんーー今、手は空いていますかーー?」


ルーナは意図が読めず、ただコクリと首を傾げる。


「今、マスターが作ってくれたこの《転移陣》に神気を込めている所です。……おそらくあと三分程で完成するとは思うのですがーーさっきから溜まりづらくなっていて、このままじゃ時間が間延びしてしまいそうなんですーー。お願いします!!ルーナさんの神気を……私に貸してください!!」


手を《転移陣》に翳しながら頼み込むエル。


その様子を見て、ルーナは眉を顰めて微笑み返す。


「……エルちゃん。あなた達は私にとっての恩人なんですよ?そんなに頭を下げなくてもーー私が協力を惜しむ事はありません。私の神気が必要というなら、いくらでも使ってくださいーー」


エルの手に自分の手を添えるルーナ。


「エルちゃんーー終わらせましょう。私たちの手で……この戦いを……」


ルーナの一言に、満面の笑みで微笑み返すエル。


「うんっ!ルーナさんーー」


二人が同時に神気を流し込み、《転移陣》はやがて……どこへと続くかわからない暗闇の色が眩い光を放ち始める。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁーー!!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁーー!!」


二人の天使が息を合わせて、より強い神気を流し込む。


エルの持つ《空間の権限》を通して、二人の神気は螺旋状でその次元門へと吸い込まれていく。


やがて《転移陣》は真っ白な光を帯びてーー完成の色を表した。

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