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02 オスカール領


《オスカール領》ーー。


《エンドラ領》から僅か十キロ程の距離に位置するこの領地は、街道含めてほとんど整備が行き渡っていない無人領だ。


森林山が連なる無人の荒廃したこの土地は、およそ五十年前に起きた巨大台風によってーー当時最も売りとしていた伐採業に多大な被害をもたらした。


それだけであればまだ人が去る理由にはならないだろうーーだがしかし、この連なる山々の中に一つだけ〝活火山〟があり、近年活発に噴火をしている事が……領民の疎開に拍車をかけてしまった。


故にーー今《ランスロット家》が抱えるなかでも土地の所有と維持が困難になってきているこの土地は、〝お荷物領〟とも言われ、こうやって今押し付けられている訳だーー。


「どうするかな〜」


自然あふれる広大な山々を前に、ふと呟く。


「大丈夫ですよ。クロノさんならまた、立て直せますからーー」


《エンドラ領》は掃き溜めと言われていたものの、少人数ながら人が住んでいた。


それをシェリカが《鑑定》スキルで適材適所に人材を割り当て、それがきっかけで発展の兆しを表すことになった訳だがーー今回の議題は自然が相手という点だ。


これに関しては、シェリカの《鑑定》スキルが通用しずらい部分は否めないだろうがーー何とかやるしか無い。


しかし……ここは無人領にせざるを得ない〝いわく付き領地〟だ。資源の採掘だけで立て直すというのはなかなか容易な事では無いだろうーー。


「グルーヴィスさんは一体……どういう意図でこの領地をクロノさんに任せたのでしょうか?」


シェリカがクロノの背を見つめながら、ふと呟く。


……………………。


昨日ーー。


「それじゃあ、これで細かい手続きは終わりだ。後の事はお前達の好きにしろーー」


一通り仕事の終えたグルーヴィスが、荷物を纏めて帰り支度を済ませる。


とーー、そこに。


「グルーヴィスさん。例の約束ーー守ってくださいね」


不満げに、シェリカがグルーヴィスを睨みながら問いかける。


やはり、クロノの〝厄災の子〟という事が交渉のダシにされたのは癪に障ったのだろうか。


「その事かーー。それなら安心しろ……。交渉内容で決まった約束を保護にするほど、腐った神経はしていないーー。父上とカイルにもこの件については他言しないよう強く言っておこうーー」


グルーヴィスのあっさりとした態度に、シェリカは違和感を覚える。


何故こんな強引に……わざわざクロノに対して土地を売りつける必要があったのかーーと。


それに関しては有事の際は後々買い戻せば済む話と推測は成り立ったがーーしかしそんな取引を持ち掛ける相手が少ないほど、グルーヴィスは人望が無い訳ではないのだ。


何かが引っかかる。


「グルーヴィスさん。どうしてクロノさんに《オスカール領》を買い取らせる必要があったのですか?……正直ーー、先程は手口自体が納得いかず盲目的になってしまいましたが……《オスカール領》の土地の広さから言っても金貨五百枚なら他に買い手があったと思うのですが?それこそ、グルーヴィスさんの事を強く買っている父上ならこの話ーー快く引き受けてくれたと思うのですが……何故ですか?」


グルーヴィスは、窓から外を眺めてーー、一言。


「他貴族家にとってシユウはーー〝厄災の子〟だ。それがどういう事か……理解できるか?」


「…………もちろんです」


目を伏せながら、歯噛みして答えるシェリカ。


しかしグルーヴィスは、シェリカの言葉を否定した。


「いいや、お前達はまだ理解していないーーシェリカ。あいつは〝厄災の子〟だ。それは、他貴族家にとって拭い難いーー〝モルドレッドの恐怖〟を連想させる」


「っーー!!」


モルドレッドの恐怖ーーかつて、十五爵家の一角だった《モルドレッド家》の家系で発現した〝厄災の子〟……後に〝厄災序列〟にまで名を連ねる事になった〝厄災の吸血鬼〟による《トリスタン家》と《ベディヴィア家》を襲撃した……一家惨殺事件によるものだ。


これにより十五爵家は、追放された《モルドレッド家》を含めた三つの公爵家を失い……現在の〝十二爵家〟になったーー長い歴史でも例を見ない凄惨な事件である。


この他にも《モルドレッド家》に滅ぼされた家は数多く、その過程で流れた血と失われた命を思えば……関係者や遺族達のやらせない気持ちは計り知れないだろうーー。


「上の連中は今でも思っているよ。いずれシユウが〝厄災〟として自分達を脅かす存在になるーーとな。もしもこの先、この辺境の地で慎ましく領主をしていたいなら、相応に役立つという事を示さねばならないーー。『公爵家から金貨五百枚相当の土地を買った』という実績のあるこの取引は、近いうち他貴族家にも知れ渡るだろうーー」


「っーー!!……グルーヴィスさんーー」


シェリカはグルーヴィスの事を、一つだけ勘違いしていた。


それはーー噂通りの冷酷な〝鷹〟としての一面しか知らなかったからだ。


グルーヴィスがクロノの事に多少なりとも思いやりの面を見せるのは、少なくともシェリカにとっては初めての事だったからーー。


「いいかシェリカ。これだけは覚えておけ。政治の世界に綺麗事なんて存在しないーー。このままいけばいつか必ず、俺じゃ無い誰かが……あるいは誰もがシユウの事を抹殺しようと企むか、政治の道具として利用しようと画策するだろうーー。それが()()()()()かの違いなだけだ……」


「厄災教……」


前回の一件はシェリカを狙ったものだったが、その矛先がクロノにいつ向いてもおかしく無い。


厄災教が相手ならシェリカに出来る事など知れているだろうがーー貴族が相手なら話は別だ。


「ありがとうございます……グルーヴィスさん。その旨ーー心に留めておきますねーー」


……………………。


「なるほどな、こりゃあ随分と開拓しがいのある土地じゃねぇか?」


エドワードは散策しながら、荒廃した土地を見回っている。


長年手入れされてない土地だーーどんな魔物が住んでいてもおかしくは無いだろう。


「とりあえず、木工と伐採職人ーーそれから山菜取りに薬師を呼んでみよう。土工関連はとりあえず後でいいとしてーー《エンドラ領》にいる人員じゃあたぶん足りないだろうから……周辺の辺境伯にも協力してもらって出来るだけ早くここを開拓させないとな」


「わかりましたーー。そのように通達しておきましょう。」


クロノの的確な指示を纏めて、アーモンドが一足先に《エンドラ領》へと帰還する。


明日からシェリカ達はこの地の開拓に専念するため、俺と先生は今日中に魔物の討伐を済ませないといけない。


そのためにはーー


「プルシュスカーー頼めるか?」


「了解!じゃあ……行ってくるね!!いくよみんな!!」


「「ワォフッ!!」」


ウォーウルフに乗っかったプルシュスカが、指示を飛ばしながら周辺の警戒をする。


こう言う時にエリスフィールがいたら楽だったのだが……《精霊魔法》で領内の結界維持をし続けるだけでも相応の集中と神経を消費するのに屋敷の手入れなど行ってくれているのだ。


『そのくらいなら大丈夫です!領主様ーー私も連れて行ってくださいませ!!』


涙目で無理してついてこようとしたエリスフィールの姿がーーふと浮かぶ。


流石に最近働きすぎなんじゃ無いかと思うのだが……働く裁量くらいは領主である俺が気遣ってやらねばならない。


労働時間はきちんと守らないと!


「それじゃあ皆ーーやろうか!」


……………………。


八時間後ーー。


「クロノさん!来ました!!」


ギシャアアアッ!!と声をあげながら近づいてくる三匹のゴブリン。


「ああーーわかった。〝《隠密》〟!!」


姿を眩ませ、油断した所を一気にスパッ!と切り裂いてカタをつける。


「これで最後かなーー?」


「はい!お疲れ様でしたーー」


基本的に見つければ討ち、去るもの追わずの姿勢で戦っていたのだが、気がつけば夕刻になっていた。


プルシュスカの索敵能力と先生の討伐速度が速いおかげで、たった一日でおおよその危険な魔物の討伐は終わった。


明日からはシェリカ達には《オスカール領》の開拓を始めてもらっても大丈夫だろうーー。


「これで一通り片付けておくべき事は終わったかな……ありがとう!みんな!!」


一仕事終えて緊張を解く面々ーー、最初は文句こそあれど、やってみるとなかなか領地開拓というのも面白い。


……………………。


次の日ーー。


「よしっ!準備できたなーー」


今日はいつもより気合が入っている。


待ちに待ったーーダンジョン探索だ。


「それじゃあよろしくなシェリカ。何かあったら伝えに来てくれーー」


「はいっ!いってらっしゃいーークロノさん、エドワードさん、エリスフィールさん」


「んじゃあ、行ってくるか!!」


「ダンジョン探索ですか……ずいぶんと久しぶりですね」


支度を終え、玄関のドアを開けて出発する三人。


とーー、そこに見覚えのある人相がやってくる。


「よっーー!」


「あなたは……確かーー」


和装装束の好青年ーー確か先生の知り合いだった人だ。


「タツ!……おめぇ、もういいのか?」


「ああ!お前がずいぶんと()()()してくれたおかげでな!!……全く、憎い野郎だぜ。本気でやらねぇなんてなーー」


確かこの人は、アーガスに使役されていた〝剣豪タツヤ〟だ。


先生がタツと言うからてっきり本名だと思っていたけど……冒険者なんて名前が本名と違うらしいし、この人もそうなんだろう。


「今日立つから一言おめぇに礼を言っとこうと思ってなーー」


「俺に……ですか?礼なら先生にーー」


「ああ、こいつには言ったさ。……だが、おめぇが使役者のあんにゃろうをやってくれなきゃ……使役が解除されるのがいつになったかわかりゃしねえからなーー」


「な、なるほど」


どうやら見た目にそぐわず律儀なタイプらしい。いや、そもそも人を見た目で判断するのもお門違いというものかーー。


「おめぇには本当に世話になった。こんなに小せぇ領主なのに凄ぇんだなお前ーーありがとな」


「い、いえ。お褒めに預かり恐縮です」


思わず固まってしまう。


そんな俺の前に、タツは一つの小瓶を差し出した。


「ほらよーーこれ、感謝の証だ。おめぇにくれてやる!!」


「ん?これ……何ですか?」


小瓶の中には怪しげな液体が入っており、価値がありそうなのはわかるが、何の用途に使うものなのかはさっぱりだーー。


「こいつはなーースキル魔液だ」


「っ!!スキル魔液……」


スキル魔液ーー。これはダンジョン特有の産物で、魔物の死骸などを多分に含んだ鉱石が長い時をかけてその雫を地中深くに落とす事があるという。


これを数滴飲むだけでスキルを獲得できる為、その価値は最低でも金貨十枚相当に匹敵するらしいーー


「こいつは水属性の魔法の効力を上げてくれるらしいんだが……俺は剣士だ。魔法は使わねぇからどうしようかと思って持ってたんだが……俺が持ってても宝の持ち腐れだからな。どうするかはお前に任せる!」


「あ、ありがとうございますーー」


正直俺も魔法を使った事は無いのだが……この際練習しておくのも悪くは無さそうだ。


「エリスフィール、後で水魔法の使い方を教えてもらってもいいか?」


俺が問いかけると鼻息荒く嬉しそうなエリスフィールが。


「もちろんです!領主様が望むなら幾らでもお手伝い致します!!」


嬉しそうに答えた。


スキル魔液をポケットに仕舞い、改めてダンジョンへと向かう。


その様子を、皆が手を振りながら見送ってくれていた。


「クロノさん、帰ってきたら一度連絡をくださいね!」


「お坊ちゃまーーお気をつけてくださいませ」


「ああ、行ってくる!!」


その様子に、手を振り返していたのだが……


「ご主人様ぁ〜、帰りにお土産持ってきてね〜!!」


プルシュスカは一体どこに行くと思っているのか……。


まぁ、ダンジョンだしお土産の一つや二つくらいありそうなものではあるが……。


……………………。


「にしても、おめぇが付いてくるとはな……エリスフィール」


「当然です。私は領主様を守る責務がありますからーー」


ツンとした態度で言い切るエリスフィールに、少し面倒くさそうに先生がそっぽを向く。


「あはは……頼りにしてるよエリスフィール」


「はい!お任せください領主様!!」


元々は先生と二人で入る予定のダンジョン。


先生が事前に調査した危険度を鑑みてもそんなに危険じゃ無いと言うが……それでも言って聞かないエリスフィールだったので、仕方なく連れていく事にした。


昨日の事もあったし、あまり屋敷に留守番させ続けというのも良く無いだろう。


ダンジョンには三日〜一週間を目安に潜る予定だ。


……まぁ、〝禍福は糾える縄の如し〟と言うしーー最近は災難続きだったから、今回のダンジョン探索は大丈夫だろうーー。


そうーー思いたい。いや、過敏になりすぎている節がない訳じゃないけどやっぱりーーちょっとだけ心配だ。


「ダンジョン……かぁーー」


……………………。


ダンジョンーー。


大昔に作られた建造物に、魔物が住み着いたものの総称だ。


多くが古くより造られた為に手が行き届いておらず、中にはお宝が眠っている事も少なくない。


先程タツからもらったスキル魔液もダンジョンの特産品だ。


その液体ーースキル魔液を溢す特有の鉱石を〝マナ・クリスタル〟と呼び、高値で取引されるという。


ちなみに、最高純度の鉱石である〝アースメタル〟もまた、ダンジョン特有の産物と言われているが……今回潜るダンジョンは先生が事前に調査して深さ三階層と結論付けられているため、大した価値のある鉱物は無いだろうーー。


そもそも今回のダンジョン探索は修行の一環だ。世界を冒険してこそ経験が積まれるという趣向のもとでの課外実習といった所が今回のミソなのだ。


気負わず恐れず楽しんで行こうと思う……という訳で。


「着いた〜!!」


山の山頂に位置する大きな穴の入り口……洞窟のようにも見える縦十メートル程の巨大な穴の中には、中から鉱物から発する光が反射して漏れ出ていた。


「これが……ダンジョンですかーー?」


大きな岩山の入り口に、縦十メートル程の大きさを誇る穴がある。


どうやら冒険者と呼ばれる者たちは、ここから洞窟へと進入して中のお宝や鉱石などを採掘してくるらしいーー。


ちなみに、今日はエドワード大先生が手本を見せながらダンジョンを案内してくれるようだ。


「いいか?ダンジョンってのは下に降りれば降りるほど、強い魔物が住み着く。何があっても、絶対に俺が許可するまで階段を降りるなよ……。地下三階だからといって何が起こるかわからないからなーーいいか、絶対だ!絶対だからな!?」


「は……はぁ。わかりました」


ものすごい眼圧で脅し立てて警告してくるエドワード大先生。


そんなカリキュラム効果みたいな言い方されたら、ちょっと破りたくなるじゃない。


「ところで先生……手持ちはこれだけですか?」


持参品は短剣に弁当と水。あとは鉱石を採掘するためのツルハシとヘッドライト付きのヘルメットのみ。


正直言って、手持ち無沙汰である。


「いいんだよ。今回はサクッと進んでサクッと帰る予定だからな。ーーていうか本来、ダンジョンってのは何日も何十日もかけて攻略するもんなんだが……まぁ、今日のおめぇはピクニック感覚でいたらいいーー」


そう言った先生の持ち物もいつもと同じ、腰の〝紺剣〟と、背中に携えた〝自称筋トレ道具〟の大剣の二つのみ。


相変わらずその大剣はいつ使うのだろうか?もし機会があるならその時はぜひとも拝みたいものだ。


いくら辺境の何もないようなダンジョンだからと言って……正直内心ではいろいろと準備をしておきたいところではあった。


「大丈夫ですよ領主様。私がそばにいる限りーー領主様に傷がつく事はまずありませんから♪」


「エリスフィール…………!」


それだとダンジョン探索の意味がほとんど無いんだけどな……まぁ、いつも以上にやる気みたいだしーーとりあえず様子を見てからにしよう。


「よしっ、じゃあ行くか!!」


難易度が難易度の為、今回は先生も大して警戒はしていない。


いつも通り散歩に行くくらいの感覚で余裕の表情をかましている。


「……特に怪しい反応もありませんしーー大丈夫そうですね。行きましょう、領主様!」


先程まで神妙な面持ちで警戒していたが、《精霊魔法》による探知能力で不安要素が無い事を確認して、ニコッと微笑むエリスフィール。


「よし……じゃあーーいよいよ待ちに待ったダンジョン探索。行こうか!!」


そう言って、三人でダンジョン内部へと侵入し、探索を開始する。


まさか……この後にあんな〝絶望的な体験〟をするなんて……この時は誰一人想像もしていなかったーー。

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