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29.5 番外編 誕生日


2月14日ーー


エルロード屋敷。


バンッーーと、机を叩くシェリカ。


食卓の間に集まった面々は何事かーーと、思いながらシェリカの視線に注目を浴びせていた。


「みなさんーーこの度はご迷惑をおかけした事、ここに深く陳謝致します。本当に申し訳ありませんでしたーー」


「シェリカ様ーー皆思う気持ちは同じ。ここに、あなた様を誰も責める者などおりますまいーーのう?」


皆の表情を見て、シェリカは胸に手を当て感謝する。


「本当に……ありがとうございます」


深く一礼。それで終わりかと思いきやーー


「それでは、本題に入りましょう。……もうご存知の方もいらっしゃると思いますがーー本日はクロノさんの誕生日です」


「り、領主様のーー誕生日!?」


既に把握しながらも、改めて『誕生日』というワードに唾を飲み込むエリスフィール。


「あ?バレンタインと誕生日被ってたんだなあいつ……そうか。じゃあ急ピッチで用意を進めねぇとなーー」


エドワードが顎に手を当て、そう提案する。


「ええ、本来のスケジュールならカイル様の来訪と被ってしまい、手放しで祝福するのは避けられた事かと思いますがーー本日《ランスロット家》に帰還すると申していました。……現在クロノさんは疲れて眠っています。……今のうちに、出来る限りの準備を進めましょう!」


力強く提案するシェリカに対して、皆の意思は一つにまとまったーー。


今日のクロノの誕生日ーー何が何でも成功させようーーと。


……………………。


昼頃ーー。


「街の見回り?」


食卓で紅茶を嗜むクロノに、シェリカがそう提案する。


「はい、領主であるクロノさんの事を……此度の事で心配する人が少なからずいましたからーー。街へ行って元気な姿を見せてきてはどうかーーと」


クロノは一考し、シェリカの提案を呑む事にする。


「そうだなーーそういえば最近、あまり街に出かけた事もなかったからなーー。わかった、そうしよう。シェリカはどうするんだ?」


クロノの言葉に、首を横に張ってシェリカはーー、


「わたしにはこの数日の事で片付けないといけない事がいくつかありますから……申し訳ありません」


伏し目がちに答える。


そうか、と言ったクロノは皆に留守番を任せ、屋敷を後に去ったーー。


「それではみなさん……時間がありませんがーーよろしくお願いします!!」


……………………。


その後すぐにーーカイルが屋敷を立ち去った後、急ピッチの中での『誕生日大作戦』が始まる。


「ばれんたいんでー……ってなぁに?」


プルシュスカが、首を傾げてエリスフィールに問いかける。


「バレンタインは女の子が好いた男の子にチョコレートを送る習慣ですよ。プルシュスカ様も、誰か送りたい人はいますか?」


こくんっ、とプルシュスカは首を縦に振りーー


「この屋敷のみんなに送りたい!女の子だけど、わたし……シェリカお姉ちゃんもエリスフィールお姉ちゃんも大好きだから!」


プルシュスカの屈託ない笑顔に、うるっーーと瞳を潤わせて両手で口元を隠すエリスフィール。


そのままニコリ、と微笑みかけてプルシュスカの頭に手を置いた。


「そうですね……それじゃあ、プルシュスカ様もチョコレートーー作ってみますか?」


「いいの?作る〜!!」


笑顔で答えるプルシュスカ。


そう笑い合って、クロノの誕生日ケーキの合間にチョコレートを作る二人だったーー。


……………………。


「クロノさん……」


頬に手を当てて、ぽっと顔を赤らめるシェリカ。


そこにーー


「シェリカの嬢ちゃん、内装はこんな感じでいいか?」


「へぇっ!?」


食卓を彩るエドワードの言葉に、素っ頓狂な声をあげるシェリカ。


「大丈夫か?」


「…………コホンッ、大丈夫ですーー。とてもいい感じですよ、エドワードさんーー」


照れ隠すように、にこやかに向き直る。


(そういえば……クロノさんへの〝バレンタインチョコ〟がまだ用意できていませんねーー。早く調達しておかないとーー)


その頃エリスフィールとプルシュスカがチョコ作りをしている事を、シェリカは知らないーー。


……………………。


「あ、領主様ーーご無事で何よりです」


「こんにちは、果物屋のおばあさん。心配してくれてありがとうございますーー」


「おお、領主様。シェリカ様もご無事だった事ーー本当に喜ばしい限りです。あの方に〝鑑定〟して頂いたおかげで、今ではこうやってやりたかった大工をさせてもらえてるんですから……あの方には本当に感謝しております」


「大工屋のおじさん……はい!本人にも伝えておきますね!」


街の人と交流を重ねながら、自分が無事なだけでいかに皆が喜んでくれているか改めて実感するクロノ。


そこに、栗色の髪のーーリボンカチューシャをつけた小さい女の子が駆け寄ってくる。


「り、領主様……これ!」


「ん……?何かな?」


ハートの形をした包みを受け取るクロノ。


その中には、美味しそうなチョコレートが入っていた。


「ルリって言います!私……いつもみんなの心配してくれる領主様が大好きです!大きくなったら、お嫁さんにしてください!!」


「っ!!」


ぼっとクロノの頭から湯気が出る。


どう返答したらいいものかと頬をぽりぽりと掻いたクロノは、少女の頭に手を置いて。


「そうか……そうだね……。ルリちゃんーーじゃあ、もしーー君が大きくなった時に、お互いに好きな人がいなかったら……その時また話し合おう」


ぱあっ、と明るい表情で微笑む女の子。


「うん!わかった!!」


じゃあねーと、そう元気に笑ってーー走り去っていく。


その様子を、手渡されたチョコを片手に見送るクロノだったーー。


……………………。


「よしっ!完成だな!!」


「こちらも、何とか出来上がりましたぞ」


エドワードが満足そうに、内装の装飾が終わった事を告げる。


そこに、アーモンドが山のような出来立ての料理を持ってきた。


「お疲れ様でした。エドワードさん。アーモンドさんも、こんなにたくさんの料理……手間をかけさせてしまい申し訳ありません」


シェリカがエドワードとアーモンドに、コーヒーを持ってきた。


「いえいえ……これが私の本来の職務。何もシェリカ様が気に病む事はありませんよーー」


「そうだぜ!今回の発案と計画を練ったのもシェリカの嬢ちゃんなんだ。俺らはその指示に従っただけだぜーー」


ありがとうございます、と一言言って食卓を立ち去るシェリカ。


「それじゃあ、あとは誕生日ケーキだけですねーー少し様子を見てきます」


シェリカがそう言った、当のケーキ担当の二人はーー。


「完成〜!」


チョコ作りに励んでおり、出来上がった二つのチョコレート。


エリスフィールのチョコはハート型をしており、プルシュスカのチョコは星の形をしていた。


「それじゃあ、後で渡しましょうねーー」


「うん!ありがとう、エリスフィールお姉ちゃん!!」


そんな二人のやり取りを遠巻きに見ていたシェリカは、わなわなとーー。


「エ・リ・ス・フィ・ー・ル、さんーー?」


まるで般若を彷彿とさせるような面持ちで、エリスフィールを見つめていた。


「し、シェリカ様ーー」


慌ててチョコを後ろに回してひたかくすエリスフィール。


シェリカはゆっくりと歩み寄り、エリスフィールからチョコを没収する。


「これはーー何ですか?」


ゴクリーー、とエリスフィールが唾を飲み込む。


そこにプルシュスカがーー


「それはね……忙しくて一緒に作れないシェリカお姉ちゃんの分だよ!」


「ぷ、プルシュスカちゃん?」


そう言って、キョトンとした表情で包みを開けるシェリカ。


そこには、『Dear KURONO by SHERIKA』の文字が。


「エリスフィールさん……これって」


シェリカの言葉に、目を伏せながらエリスフィールが。


「差し出がましいとは思ったのですが……シェリカ様はお忙しそうでチョコレートの調達がまだではと思い、僭越ながらご用意させて頂きました。お気に召す出来上がりになりましたでしょうか?」


その言葉に、頬を真っ赤にしたシェリカがーー。


「わ、私がクロノさんにチョコを渡す予定なんてお伝えしてませんよ!?」


それを驚いた様子で、エリスフィールが。


「まさかーーシェリカ様が領主様の事を心底お慕いしている事はーー屋敷の皆が知っていますから」


その言葉にちーんと、しゃがみ込んで顔を隠すシェリカ。


「そ……そんなにあからさまにバレていたのですねーーお恥ずかしい限りです」


エリスフィールはシェリカの肩に手を添えて、語りかける。


「シェリカ様……きっと今日の誕生日パーティー。領主様も喜んでくださると思いますよ♪」


そう、微笑んで告げるエリスフィールに羨望の眼差しを向けてるシェリカ。


「はい…………」


そう、二人が和解した頃合いになってーークロノが屋敷へと戻ってきたのだったーー。


「ただいま〜」


……………………。


暗い廊下を突き進むクロノ。


やがて食卓の間に着くとそこにはーー


パンッーーパパンッーー!!


クラッカーを鳴らして、クロノの帰りを待っていた面々がーーみな声を揃えて叫ぶ。


「「「「「クロノ様!お誕生日おめでとうございます!!」」」」」


「え、え〜?」


理解が追いつかない様子でー部屋中を見渡す。


テーブルに用意されたありったけの豪華な食事に、七号はありそうなーークロノの席に置かれた大きな誕生日ケーキ。


いつの間に揃えたのかーー簡素だが煌びやかな飾り付けを施された部屋に、驚嘆の声を漏らす。


「これって一体ーー?」


「やっぱり忘れてたんですね、クロノさん。今日が自分の誕生日だって事♪」


シェリカがどこか嬉しそうに問いかける。


それを口をぽかんと開けたクロノはーー


「これ……みんながやってくれた……のか?」


目を白黒させながら疑問を呈すクロノに対して、プルシュスカとエリスフィールが笑顔で答えた。


「そうだよ〜!!……ご主人様の誕生日知ったの、私も最近だったけどね!シェリカちゃんが教えてくれたの!」


「本日はバレンタインデーという事もあり……チョコレートケーキにしてみました。領主様のお好みに……合いますでしょうか?」


完成度が素人とは思えないーーエリスフィールの手作りのチョコレートケーキを前に、クロノはーー


「さ、最高だよエリスフィール……ありがとう!!」


「領主様…………はいっ!」


それを聞いて満足そうに、エリスフィールは満面の笑みで答える。


「それじゃあ、さっさと席に着こうぜ〜!領主の〝八歳〟の誕生日パーティーだ!!」


乗り気のエドワードが一番乗りに席に着く。


「そうですのぅーークロノ様も、もうそんなお年でーー」


目尻に涙を浮かべながら、アーモンドが。


「今日の主役はご主人様だね!!……おいしそう〜!!」


尻尾をふりふりと振りながら、身を乗り出して両手にフォークとナイフの構えをするプルシュスカ。


「領主様、お座りください。ただいまケーキを切って差し上げますーー」


クロノの席の横で、嬉しそうに粛々と立ち構えるエリスフィール。


「クロノさん、行きましょう!!」


シェリカも着席して、膝に手を乗せて待ち侘びる。


「みんな……本当にありがとう!!」


精一杯の喜びと感謝をみんなに伝え、楽しくも可笑しい誕生日パーティーを堪能したーー。


……………………。


夜ーー。


「すぅ〜、ぴぃ〜」


「がぁ〜、ふがぁーー」


「むにゃむにゃ……もう食べられにゃい〜」


「すぅ……すぅ……おめでとうございます……クロノさん……」


皆の眠りこける様子を見て、朗らかに笑うエリスフィール。


「みなさん……本当に大変でしたからねーー」


食べ終えた食器を片付けて、厨房へと持っていく。


「エリスフィールは眠くないのかの?」


そこに、アーモンドが手伝いにやってきた。


「お主もまた……昨日からほとんど休んでおらんのじゃろう……ここは私がやっておくから、ゆっくりお休みーー」 


その言葉に、首を横に振るエリスフィール。


「……いえ、アーモンド様。まだ仕事が残っていますから、わたしはーー」


嬉しそうに、目を伏せて笑う。


「……こんなに楽しいパーティーは初めてです。規模も品数も、上流貴族のものと比べれば慎ましいものですが……ここにいる方々の笑顔を見るだけで、とても幸せな気持ちになりますねーー。領主様がいなければ……こんな気持ちーーずっと知らないままだったかもしれません」


眠りこけるクロノに毛布を被せて、そうエリスフィールは微笑む。


それを肯定するように、アーモンドが顎髭を触る。


「そうじゃのうーークロノ様はいずれ、〝十二爵家〟を凌ぐほどの偉大な方になられるーー。そんな予感がして、なりませんなーー」


「それは何とも……愉快で豪胆な未来ですね。ですが、私もそんな気がしますーー」


エリスフィールはその藍眼で、まるでクロノの未来を見通すように、静かに眠りこける様子を微笑ましく見守っていたーー。


……………………。


「ふぁ〜あ、ちょっと寝過ごしちゃったなーー」


頭を揺らしながら、目を擦って自室へと向かうクロノ。


その手には、昼間女の子にもらったチョコが一つ。


「明日からまた忙しくなりそうだな……よし!頑張らないと」


ガチャリッーーと、ドアを開けてーー固まる。


「…………何やってるんだ?」


そこにはちょこん、とベッドに腰掛けるプルシュスカの姿が。


「ご主人様、はいこれ!」


満面の笑みでチョコを差し出すプルシュスカ。


それをクロノは、嬉しそうに受け取った。


「これ……プルシュスカが作ったのか?」


「うん!そうだよ!エリスフィールお姉ちゃんと一緒に作ったよ!!」


星型のチョコを受け取って、クロノは嬉しそうにプルシュスカに向き直る。


「ありがとうプルシュスカ。とっても嬉しいよ!!食べてもいいかな?」


ニカッ、と笑うクロノを見て、嬉しそうにプルシュスカもまた満面の笑みを見せた。


「うん!」


包みを開けて、その出来栄えに驚くクロノ。


「なんだか……食べるのちょっと勿体ないなーー頂きます。うん!おいしい!!」


満面の笑みでチョコを頬張るクロノを、プルシュスカは心の底から喜んでいるように見つめる。


「ご主人様!いつもありがとう!!わたし……ご主人様のおかげで、毎日すごく楽しいよ!!」


そんなプルシュスカの様子を見て、頭に手を置く。


「助かっているのはこっちも同じだよ。プルシュスカが笑顔でいてくれると、屋敷のみんながいつも笑顔になれる。これからもよろしくな!」


「ご主人様っーーうん!」


ニィッ、と歯を見せて満面の笑みで答えるプルシュスカ。


耳がぴょこぴょこと動き、その嬉しそうな様子がよく伝わってくる。


「それじゃあ……そろそろ寝るね。おやすみ、ご主人様〜」


ふわぁ……と眠そうにベッドで横たわるプルシュスカ。


それを横目にクロノはーー


「自分の部屋で寝なさい」


プルシュスカの両脇を持ち上げ、ドアの前へと連れて行く。


はぁ〜いと、プルシュスカはクロノに押されて自室へと戻っていったーー。


……………………。


自室でしばらく執務をした後、気分転換に食卓で座り込む。


クロノが少し落ち着いた様子を見計らって、食卓で掃除をしていたエリスフィールが、適温に温められたホットミルクを差し出した。


「せっかくの誕生日なのですから、そろそろおやすみになってもよろしいのでは?」


「いや……明日から先生とダンジョン探索も控えているし、出来ることは早めにやっておこうと思って。エリスフィールこそもうずっと仕事しっぱなしじゃ無いか?今日はもう遅いし、休んでゆっくりしてくれ」


エリスフィールは恍惚な表情で、クロノを見つめる。


「あなたはいつも私たちの心配をしてくださいますね。……わかりました、今日は私も……〝お仕事〟を終わりにしますね」


エリスフィールはそう言って、頭につけたメイド用カチューシャを外し懐に仕舞う。


それから、甘えた表情で……クロノの隣へと座った。


「領主様……これ、味見してくださいませんか?」


「うん?」


ホットミルクに手をかけ、口をつけようとしたタイミングで、上目遣いのエリスフィールがスッーーとチョコレートを差し出す。


「その……今日はバレンタインデイ……なので、もしーーその……領主様が嫌じゃ無ければ……食べてもらえると……嬉しいです」


恥ずかしそうにもじもじしながら、顔を赤らめるエリスフィール。


熱が伝染するように、クロノも顔を赤らめて、エリスフィールからおずおずとチョコを受け取る。


「そ、そっか……。ありがとうエリスフィール。……それじゃあ、食べてもいいかい?」


ほっぺを赤らめて嬉しそうにコクッ、と頷くエリスフィール。


その様子を流し見ながら、クロノはエリスフィールのチョコに口をつけ、パキッーーと音を立てて噛み締める。


「うん!おいしいよ、エリスフィール!ゴクッ、ミルクとの相性も抜群だ!」


満足そうに微笑むクロノの表情を見て、胸を打たれるエリスフィール。


(ああ……領主様ーー、こんなに満面の笑みで喜んでくださるなんて……このエリスフィール、一生懸命作った甲斐がありました)


ポロッ、と涙を一雫溢すエリスフィール。


「お口に合って頂けたようで……光栄の極みです」


エリスフィールの反応に、大げさだと笑いかけるクロノ。


それから二人で少しの間談笑してから、クロノは自室へと帰っていったーー。


……………………。


「はぁ、エリスフィールも心配してたし……そろそろ寝るかーーどうしたんだ、シェリカ?」


ガチャリーーと、ドアを開けて真っ先に視界に映る。


先程プルシュスカが来たと思ったら、今度はシェリカがクロノの部屋に座り込んで待っていた。


「こんばんはクロノさん……少し、よろしいですか?」


「ああ、いいけどーー。こんな夜更けなのに、まだ起きてたんだなーー」


時刻は日付けが変わる少し手前。


シェリカは、クロノに目配せをしながら沈黙を破った。


「き、今日は楽しかったですね。こんなに楽しいパーティー、久しぶりな気がします」


「あ、ああ。そうだなーー」


元いた実家ーー《ランスロット家》にいた際は、兄弟の誕生を祝う際は決まって大々的にパーティーを開いていた。


まぁ、俺を除いてーーだが。そんな時は母様やエレミア姉様、アメリアやシェリカがお祝いをしてくれたものだ。


ランプの火が慎ましやかに部屋を照らす中、赤みがかった頬を照れ隠しするようにシェリカがーー


「クロノさん、あのっーーっ!!」


クロノに問いかけようとして、ふと気がつく。


クロノの机の上に置かれた、食べ終えたチョコの包みの存在に。


「クロノさん……それって?」


「ん?ああ、今日街で会った女の子にもらったんだーー。拙かったけど、一生懸命作ったのが伝わってくる美味しい出来だったよーー」


シェリカは手渡そうとしていたチョコレートを、サッと背中に隠す。


「そ、そうなんですね……」


言い渡すタイミングを見失ったシェリカは、挙動不審に目を泳がせながら、クロノの顔を気まずそうに眺める。


「……シェリカ?」


首を傾げるクロノ。


どうやら我慢の限界に達したのか、シェリカがーー背中に隠していたハート型のチョコレートを、クロノに手渡す。


「クロノさん……あの、これ……受け取ってください!」


シェリカから、勢いよく差し出されたチョコレートを受け取るクロノ。


「……シェリカ、これってーー」


「…………渡すタイミングを逃してしまって……こんな夜更けですみません。エリスフィールさんが作ってくれたのですが……そのままお渡しするのもどうかと思いましてーー」


指を絡ませながら、口元を隠すように照れ隠しをするシェリカ。


「…………みんなチョコレートをくれるな。ありがとうシェリカ、すごく嬉しいよ!!」


その言葉に、少しシュンとするシェリカ。


「やっぱり……こんなギリギリのタイミングだとご迷惑になりますよね。食べるのは明日でも良いので、夜も遅いですしクロノさんもそろそろーー」


「いや、せっかくくれたんだし……貰うよ」


パカッーーと包みを開ける。


そこには、『Dear KURONO by SHERIKA』の文字がーー。


しかし、その真ん中にはーー


「『誕生日……おめでとうーー』か。ありがとな……シェリカ」


生クリームでそう書かれたチョコを見て、ポンッーーとシェリカの頭に手を置いて嬉しそうに息を吐く。


そしてそのまま、嬉しそうにチョコレートにかぶり付いた。


「うん!おいしい!!生クリームのおかげでくどくなくてちょうど良い味になってるよ!」


「クロノさん……よかったです」


安堵したように息を吐くシェリカ。


昨日の殺伐とした出来事が嘘かのように、二人揃って昔話に花を咲かせていた。


……………………。


「今日は楽しかったなーー。こんなにチョコを食べたのは初めてかもしれないーー」


そう言って、布団の中で横たわる。


時刻は日時を跨いで、2月15日。


最近の忙しさ故か、緩やかに眠気が襲ってきた。


「明日も……明後日も……来年もーーみんな一緒に、こんな風に楽しく過ごしていたいなーー」


そう、呟いたのを皮切りに、クロノは満面の笑みで眠りにつくのであったーー。


……………………。


「プルシュスカのくれたチョコ、うめぇなーー」


「ええ、エリスフィールの指導の賜物ですなーー」


真夜中、静かな食卓でコーヒーを片手にチョコレートの味を楽しむ二人だったーー。


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