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28.5 番外編 エリスフィールの死闘


私には……居場所が無かった。帰る場所も無かった。仲間も、友人も、信頼できる者さえーーどこにもいなかった。


あの晩、私は一度命を断とうとしたーー。それでも、そんな私をクロノ様は必死で止めてくれて……あまつさえ私に屋敷での居場所を作ってくれたーー。


私にはーーあの方に返しきれない程の恩があるーー。


何があっても……たとえこの身を犠牲にする事になっても、あの方をお守りしなければならないーー。


それがーー今の私が生きる目的……今の私が生きる理由……私のーー生きる希望だ。


……………………。


(領主様とシェリカ様の気配が近い……)


「うおらぁっ!」


「邪魔ですーー」


エリスフィールは襲いかかる使役された者達を一蹴して前に突き進む。


エリスフィールが最初に向かった方角はクロノやエドワードと違って大きく目的地からかけ離れた場所にあり、《精霊魔法》で居場所が判明してからはもう何十分と全速力で駆け抜けていた。


と言うのも、エドワードとクロノからだいぶ距離があるのには理由があったのである。


主に、エドワードとクロノは三時間を目安にーー九つある、目星のある場所のうちの三つが探索できるのに対して、エリスフィールは《精霊魔法》を駆使した探知が可能な領域ーーより多い六カ所をカバーできる位置へ進んでからの移動となっていたのだ。


そのうちの一番右端にある位置に、シェリカの姿を捉えたエリスフィールだったがーーただでさえ、出発してから《エンドラ領》の外側へ出るのに日が沈み込むほど時間を要していたのに、《精霊魔法》を常時発動したままで、なおかつーー使役された者達とも戦闘をしながら走っていたのだ。あまりにも距離があり過ぎていた為に大幅な時間ロスを受けていたーー。


しかしそれでも、クロノが到着して二十分程でその周辺まで到着できたのはやはり、彼女が優秀であると言う事の裏返しに他無いであろうーー。


地下牢への入り口らしき階段を見つけ、エリスフィールが。


「ありました!……あそこにクロノ様とシェリカ様がーー」


すぐそばまで走り抜けるエリスフィールーーしかし、


「っーー!!」


スパッーーと、エリスフィールの首を狙って一撃……しかしすんでのところで体を捻らせて交わしたエリスフィールだった。


「…………〝またあなた〟ですかーーこんな忙しい時に……」


ゆらゆら、と《隠密》を解除して虚空から現れるーー一人の刺客の影が。


「よぉ……先日は世話になったなぁ〜()()()。新しい()()()の首輪はそんなに心地いいか?」


エリスフィールは首元のチョーカーに手を当てて、ほくそ笑みながら嘲る。


「ええ……今までの誰も比較にならない程ーー良いお方ですよ。クロノ様はーー」


エリスフィールは立ち止まり、刺客と対峙する。


「そうか……そりゃあずいぶんと良かったじゃねぇかーー〝ミミナシのハーフエルフ〟さんよぉーー。また続きをやり合おうぜ?今回はあんな狭っ苦しい部屋じゃ無くて……〝暗殺者〟の本領を活かせる外だーー。お前の仲間が駆けつける心配もしなくていいから、前みたいに行くと思うなよぉ〜?」


チャキリッーー、とショートナイフを構える刺客。


それをエリスフィールはポンポンッーー、と服についた草っ葉を払いながら、伏し目がちに答える。


「やはりーーあなたは馬鹿ですねーー」


「あぁ?」


エリスの言葉に、刺客は怒りを露わにする。


「あなたは一つ重要な事を失念しています。……それは、私も守るべき者を背にして戦わなくて良い事ですよ。」


ゾワッーーと、エリスフィールが溢れんばかりの魔力を解放する。


「まさかそれだけの条件で私に勝てると勘違いするとはーーやはりあなたはどうしようもないおバカさんですねーーいや、使役されているなら致し方の無い事でしょうかーー?」


刺客は冷や汗を一つ、垂れ流した。


しかしーー


「勘違いするなよ。俺は使役されてねぇ……。この計画に加わるように依頼されたから引き受けただけだーー」


その言葉を聞いて、こめかみに手を当てて息を吐くエリスフィール。


「なるほど……バカは死ななきゃ治らないーーとはこの事ですか?あれだけ無残にやられてのこのこ戻ってくるなんて……恥を塗っても何とも思わないその厚い面の皮だけは褒めてあげますよーー」


挑発するエリスフィールに、威勢よく答える刺客。


「舐めるなよーー本気の俺は一味違うんだぜ?」


構えながらそう言って、それを見たエリスフィールは冷めた表情で見下ろす。


「今私は急いでいるのですよーー覚悟は良いですか?」


両者睨み合うーー。


そして先に、刺客が仕掛けた。


「〝《隠密》〟〝《忍び足》〟!!」


自身の気配と足音を完全遮断して、エリスフィールの誘導を誘う。


(お前は気配察知に敏感なハズだーーこれくらいで隠れられるとは思ってねぇよ!!……だが、これで終わりだと思うなよ!?)


「とか、思ってるんでしょうねーー」


エリスフィールは不機嫌そうに、目を細めていた。


隠密は厳密には気配を完全に遮断するわけでは無い。


歩いた時に石ころを蹴飛ばせば、弾かれた石が音を鳴らすように、間接的であればその気配を読み解く事は不可能ではないーーが、それができるのもまた人間業では無かったーー。


「〝《影分身》〟!!」


ただでさえその姿が捉えられない刺客が、影分身を使ってさらに錯乱する。


しかしーー、それだけでは無い、


「〝《超音波》〟、〝《幻惑》〟、〝《闇霧》〟!!」


刺客は惜しみなく、〝暗殺系〟のスキルを連発する。


「なるほど……少しはやれば出来るみたいですねーーいくつもいくつもいきなり出し惜しみ無しとは少々……品がないですが」


ふと、エリスフィールの背後に一体の姿無き影がーー。


サッ、と足蹴り一つで一体の影分身は消滅する。


「ですがこれは確かに……少々面倒になって来ましたねーー時間もあまりありませんし」


エリスフィールはコンコンッ、と靴を整えながら刺客の行動を察知する。


「視界は《隠密》と《幻惑》、《闇霧》で、耳は《超音波》……《影分身》を使って全体的に気配を錯乱する気ですかーー確かにこれなら普通にやり合えばわかりませんねーーしかし、〝暗殺系〟は特に相性が悪いのですよーー〝私の魔法〟とはーー」


エリスフィールは目を閉じ、呪文を唱える。


「〝風よ自然よ・我の願いに今一度答え・ここに騒乱の風を吹かせ〟ーー《ウィンド・トルネード》!!」


エリスフィールの風魔法が、周囲一帯に吹き荒れる。


刺客のスキルの中で、《隠密》と《忍び足》を除いた全てのスキルがその衝撃によって解除された。


浮いた一つのその影をーーエリスフィールは見逃さなかったーー。


「そこですねーー」


エリスフィールの回し蹴りを、直で受ける刺客だったがーー。


「あぶねぇあぶねぇ……〝《影守》〟があって助かったぜぇーー」


《影守》ーー影を媒体として物理攻撃を防ぐバリアを生成するスキルだ。


体術が主なエリスフィールにとっては分が悪い能力だーー。体術だけならば


「隙だらけですね、()()()ーー」


この場において部外者であるーーという、エリスフィールなりのジョークを交えながら、《風魔法》で刺客を飛ばす。


「チィッーーまだ……」


そこまで言ってーー気がつく。


グサリッーーと、背中に鈍い感触を覚えるのをーー。


「こ……これは……あの時のーー」


「〝《風剣の舞》〟ーー勝負ありましたねーー」


エリスフィールのスキル《風剣の舞》。風で生成した魔法剣を己の周囲で自由自在に操るスキル。


しかし、妙な事に……エリスフィールは一度も発動する素振りを見せなかったーー。


「い、いつからこれをーーグハッ、」


致命傷は避けたがーーそれでも軽くは無い傷を負った刺客。


エリスフィールはふわっと、乱れた髪を整えながらーー。


「最初からですよーー。《風剣》を一本だけ少し離れた位置で並走するように飛ばしていましたからーー」


「だ、だがーー勝負の最中にそんなもの移動させれば……俺が気付かねぇ……はずがねぇーーがはっ!!」


苦しそうに顔を青ざめさせて、エリスフィールを睨みつける刺客。


そんな刺客を哀れなものを見る目でエリスフィールはーー


「当然ですよ。だって、《風剣》は最初から〝そこ〟にありましたからーー」


「っーー!!何言ってーー!!……まさか……お前ーー」


エリスフィールはヒョイッーーと、《風剣》を抜き差して自身へと引き寄せる。


「ええ、そうですよ。あなたをここへ来るようーー()()()()()()()()()()()()()からーー。まぁ、最後は《風魔法》でゴリ押ししただけなので、あまり無駄な手間を使わずに済みましたけれどーー」


圧倒的な力を見せつけたエリスフィールは、刺客に近づいて……


グンッーー!!


「ブファアッーー!!」


一瞬で詰め寄り、ボディーブローを一撃。体勢を崩したところで、格闘技の構えを取る。


足払いをし、捻った体勢から踵落としを一撃。


「無様ですね……」


挑発しながらも、抗おうとする刺客の首根っこを掴み……手のひらを押し出すようにして刺客を吹き飛ばす。


「ぐぅっ……ぐはあっ!ーー《ポイズン》!!」


そのまま並走して走り込むエリスフィールは、刺客が放つ毒を回しながら宙を舞い、回し蹴りを一つ。


ドサッドッ、ドドッーーと地をバウンドして飛んでいく刺客。


「うっ……うぅぅーー」


うめき声をあげて立ちあがろうとする刺客に一言ーー


「領主様の命を狙った罪。今一度ここできっちり償って頂きましょうーー」


懐から取り出したナイフを構えて、刺客へと歩み寄る。


しかしその瞬間ーー、刺客は血相を変えて叫び出した。


「チキショォォ……チキショォォォォォッ!!うがぁぁぁぁぁ、こんなところで……キサマなんかに……殺されてたまるかぁああああ!!《毒蜂》!!」


「っ!!」


刺客が放つ悪あがきの一撃ーーエリスフィールに無数の毒針が刺さる。


「……なるほどーー少し油断しましたね……」


しかし間一髪で致命傷を全て捌き切ったエリスフィールは、僅かに受けたその針一本一本を歩きながら引っこ抜いてーー刺客へと近づく。


「ば、馬鹿なーー《毒蜂》は猛毒の針ーーそんな何本も刺さって、普通に立っていられるはずがねぇーー」


表情を変えて焦る刺客を前に、エリスフィールはただ一言。


「あなたは一体どこで私に勝てると勘違いを?甚だしい限りです。せっかく逃げられたのですから……そのままひっそりと余生を過ごせば良かったものを……哀れですね」


最後の一本の毒針を引き抜き、エリスフィールはそう言ってナイフを構える。


が、しかしーー


「キサマのせいだーー。キサマのせいで俺は、〝暗殺者ギルド〟を追放になったんだ!!わかるかこの理不尽を!たった一度……たった一度失敗するだけで立場を失うのが闇の世界だ!……キサマみたいな平和なところでぬくぬくと過ごしているだけの奴に……何故この俺がーー」


エリスフィールは侮蔑の表情で、刺客を見下す。


「最後の喚きとはみっともないーー。〝暗殺者〟なら潔く自害ならなんなりすればいいものをーー。……あなたの最大の敗因は唯一つーー〝狩るべき相手を間違えた事〟ですよーー」


そう言ってエリスフィールは刺客の首にナイフを押し当てーーふとクロノの顔を思い浮かぶ。


「君ならやり直せるさーーきっと……」


目の前で血相を変えて、哀れな顔をしている刺客。


一歩違えば、それは自分だったかもしれないーー。


本来なら自身の命を狙った相手を従者にするなどあり得ないだろうーー。


それでもクロノはエリスフィールの苦しみを……悲しみを……過去を受け止め、屋敷に自分の居場所を作ってくれたーー。


その温情が、敬愛が、あるいはエリスフィールに対しての想い入れがなければすでに自分はこの世にいなかったかもしれないーー。


自分がこの世で一番大好きになった人は、優しさで自分の居場所を作ってくれた。


クロノがいなければ……今も自分の境遇をーー〝ミミナシのハーフエルフ〟である事を呪っていただろうーー。


そんな自分をクロノはすごいと言ってくれたーー。


今のエリスフィールは〝暗殺者〟では無い……既に、《エルロード家》のメイド。クロノの従者なのだ。


そんなエリスフィールの瞳には、一縷(いちる)の情けがあったーー。


「…………もし、今後一切クロノ様に接触しない事を誓うなら見逃しましょうーー。もしまたーークロノ様の命を狙うならば……その時は今度こそ、あなたを殺します」


ナイフを仕舞い込んで、刺客に背を向けるエリスフィール。


「ぐっ……何、言ってやがるーー。俺は〝暗殺者〟だぞーー依頼があればキサマの〝小っこい主〟なんか……いつでも殺しにいってーー」


エリスフィールは振り返らずに去り際に一言、


「あの方は私に……拭いきれない程血に濡れた私をーー従者として認めてくれましたーー。私のような穢れた者にさえ、〝やり直せる〟ーー。そう言って、あの屋敷での居場所を与えてくれたのです。ですので、今の私は〝暗殺者〟ではありません。〝あの方の従者〟です。あなたの命を断つ事よりも、あの方達を救い出す方を優先するーーそれが、今の私の使命ですから」


ダッーー、と駆け抜けるエリスフィール。


後に残る静寂の中、その姿を見つめながら刺客はーー、


「やり直せるーーか。こんな俺でも……何か別の道があるってのかよーー」


地に倒れ伏しながら、夜空の満天の星を見上げてそうーー呟いた。


……………………。


「ご主人様、大丈夫ですか!?」


地下牢へ、エリスフィールが駆けつける。


「領主様、シェリカ様ーー!!っーー!!領主様ーーケガが……すぐに治療しますので、少しお待ちくださいーー」


「っーー!!エリスフィール……その腕ーー」


クロノの問いかけに心配させまいと、ニコッとエリスフィールが微笑みかける。


「先程ーー〝ちょっとした因縁〟を片付けていまして……。その際にケガを。領主様はーー傷口の方は大丈夫ですか?」


「お、俺はいいよ……。それよりーーエリスフィールの方が重症じゃないかーー?早く治療して!」


その言葉に、うるっと瞳を潤わせて両手で頬を覆い隠すエリスフィール。


「領主様ーー自分の事より私の心配をーー?……お気遣いありがとうございます!!……ですが、私はこれくらい平気ですので……領主様のおケガをお先にーー」


エリスフィールが《精霊魔法》で、クロノに治癒を施す。


その姿をただただ惚けたように眺めているクロノだった。


「相変わらずエリスフィールは何でもできるなーー。さすがだな!」


ニコッ、と笑うクロノの表情を見てーーバキュゥゥゥン!!と、胸を打たれるエリスフィール。


「はぁぁ……領主様ーー。このエリスフィール……胸に染み入る想いですーー」


(はぅっ!……このお方はなんて愛らしいのでしょうか……なんと尊いのでしょうか……。思わずその笑顔を抱きしめたくなってしまいます。……あなたがご無事なだけで……その笑顔を見るだけで……このエリスフィールーーどんな怪我も毒も治ってしまいそうですぅーー)


「…………エリスフィール?」


首を傾げるクロノの言葉で、はっーー、と正気に戻るエリスフィール。そこでコホンッ、と咳払い一つをしてーーエリスフィールは。


「それではお二方ーー帰りましょうか。《エンドラ領》の屋敷にーー」


乱れた服とカチューシャを直しながらーーそう言って、満面の笑みで微笑むエリスフィールだったーー。

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