29. あとのお祭り
お知らせ:本日からしばらくの間、不定期で番外編を投稿します。時刻につきましては予定が決まっていない為、朝夕夜問わずでの投稿となります。
クロノ達がいる地下牢ーーその地上の森を見渡すように、ふわふわと浮かぶ一人の青年の姿が。
〝彼〟は《千里眼》で地下牢でのクロノ達の行動を透視していたーー。
「少しずつだけど、〝元の人格〟と〝力〟を取り戻して来たみたいだねーーシユウ」
キツネのお面を被った和装装束の姿をした青年ーーキツネガミは月を背にして言い放つ。
「ちょっと予定より早いけど、〝協力者〟に頼んでおいた事を実行する時が来たようだ。君には少しばかり過酷かもしれないけれど……〝試練〟の先で待ってるよーー」
そう言い残し、ふわふわとキツネガミは気配と共に姿を消したーー。
……………………。
「さぁ、帰ろうかーーシェリカ」
「はいっーー!!」
クロノがそう言って、シェリカは微笑みかける。
二人して地下牢から出ようとして……エリスフィールがそこに到着する。
「領主様、シェリカ様ーー!!っーー!!領主様ーーケガが……すぐに治療しますので、少しお待ちくださいーー」
気づけば、要所要所に細かい傷を負っていた。
重症ーーとまではいかないが、放っておいたら病気に繋がりかねない……。
エリスフィールが駆け寄ってきて……そこで初めて気づいた。
「っーー!!エリスフィール……その腕ーー」
エリスフィールのメイド服はボロボロで、よく見たら髪も乱れている。
あんなに細かいところまで身だしなみに気をつけるエリスフィールにしては、随分と無茶をした後だったーー。
何よりーー、腕から血を流して怪我を負っていた。
「先程ーー〝ちょっとした因縁〟を片付けていまして……。その際にケガを。領主様はーー傷口の方は大丈夫ですか?」
慌ててエリスフィールに、治療を促す。
「お、俺はいいよ……。それよりーーエリスフィールの方が重症じゃないかーー?早く治療して!」
その言葉に、うるっと瞳を潤わせて両手で頬を覆い隠すエリスフィール。
「領主様ーー自分の事より私の心配をーー?……お気遣いありがとうございます!!……ですが、私はこれくらい平気ですので……領主様のおケガをお先にーー」
そう言って、エリスフィールは俺の体に触れて《精霊魔法》で治癒魔法をかける。
みるみる全身から痛みが引いていき、あっという間にケガが治ったーー。
「相変わらずエリスフィールは何でもできるなーー。さすがだな!」
ニコッ、と笑うクロノの表情を見てーーバキュゥゥゥン!!と、胸を打たれるエリスフィール。
「はぁぁ……領主様ーー。このエリスフィール……胸に染み入る想いですーー」
ポロッ、と一雫の涙がエリスフィールの頬を伝う。
いやーー、はよ治療せんと。
「……まぁ、とりあえず外に出よう」
そこら中で倒れている使役されていた人を叩き起こしながら、地下牢を出るーー。
疲労感でぐったりと、倒れそうな思いだったーー。
……………………。
「お〜い、領主〜ーー!!」
遠くから走ってくる、エドワードの姿が。
「先生〜!!」
クロノはエドワードの姿を捉えて、近くまで駆け走る。
「……さっきの人は?」
「バッチリだぜ!」
クロノの言葉に、指を立てて返事するエドワード。
「よかったぁ〜」
ほっと胸を撫で下ろすクロノーー。
〝使役者〟を倒した事で全員の〝使役紋〟が解除されたらしくーーとりあえず皆《エンドラ領》へ向かって休む事となったーー。
……………………。
帰り道ーー。
来た道を歩きながら、耳元でこっそりシェリカが問いかけるーー。
「クロノさん……ちょっとーー」
小声で問いかけるシェリカは、少し不思議そうな表情でクロノを見つめていた。
「クロノさん……今《鑑定》スキルでクロノさんを見ていたのですがーーどうして《使役》スキルがクロノさんにーー?」
少し不安げなトーン口調でシェリカは、クロノを上目遣いで問いかける。
「《盗賊の申し子》って、スキルあるだろ?それ見てみーー」
クロノの言葉に、シェリカは改めて《鑑定》スキルで見直してみるーーが、どこを見渡してもクロノの所有スキル欄に《盗賊の申し子》という名のスキルは見当たらなかったーー。
「すみませんーー私の鑑定能力じゃあ、クロノさんのスキルが見つかりませんでしたーーどうしてでしょう?」
確かに変だーー。
未来眼など、シェリカは俺が持つほとんど全てのスキルを把握していたーー恐らく、特殊効果もそうだろう……。
なのに、何故《盗賊の申し子》だけが見当たらないのかーー心当たりなら一つあるが……まさか〝オリジンシリーズ〟というものが関係してくるのか?
「変だなーー」
両者悩みながら帰路を行くーー。、
やがて夜が明けーー《エンドラ領》に着く頃には朝日が登っていたーー。
……………………。
不幸中の幸いーーと言うべきか、どうやら領内での被害は殆ど無かったらしいーー。
そもそも何故ーー今回の事件が起きたのか、領主ならそこをしっかりと明らかにしておく必要があるーー。
「…………なぁ、シェリカ?」
「どうしたんですか?クロノさん?」
「…………なんであいつは、アーガスあんなに躍起になってまでシェリカを狙ったんだーー?こんな騒動を起こす程の何かが、シェリカにはあったって事だろうーー?」
「う〜ん……どうなんでしょうーー。《鑑定》スキルは自身には使用できないのでーー前にクロノさんが教えてくれたーー私の所有する能力以上のものは無いと思いますがーー」
そう言ってシェリカは、首をコクンッーーと傾ける。
ハァ〜、とため息吐く俺に、先生が話しかけた。
「なぁーー領主。ちょっといいか?」
「うんーー?どうしたんですか、先生ーー」
「今回の一件ーー、首謀者〝アーガス・フォルモンド〟についてだがーー奴は間違い無く〝厄災教〟の一員だろう」
「厄災教……って?」
「…………まぁ、だいぶ厄介な連中ーーって括るのが一番わかりやすいんだがーーもっと細かく言うと、奴らは〝厄災〟を崇拝している連中だ。国際指名手配されているかなりヤバめな過激派組織なんだけどな……」
「っーー!!……そんなにやばい連中だったんですか?」
クロノの反応に、エドワードは頭を掻いて答える。
「厄災教ってのは〝厄災序列〟だけでなく、お前みたいな〝厄災の子〟まで神聖視する風潮があるらしいーーアーガスの奴、何か言ってなかったか?」
思えば、奴は〝厄災〟である俺を褒め称えるような振る舞いを見せていたーー。まぁ、最後は散々貶されてたけどなーー
「そう言えば……確かに四、五人ほど……別色の服を着た人たちがいたけど……そう言う事だったんだ……。奴、〝マルス〟って名前を口にしてました……まぁ、《未来眼》で見ただけなんで実際には言わなかったんですがーー」
「マルスか……〝厄災教〟の大教祖だなーー」
大教祖マルスーー。
性別不詳年齢不詳、容姿も性格もわからない〝厄災教〟のトップらしい。
そんな人間を……あんなにプライドの高いアーガスが〝様〟付けで読んでたくらいなのだから……恐らくロクな人間じゃ無いだろうーー。
それにしてもーー〝神気〟に〝厄災〟に〝厄災教〟ーー。
相変わらずわからない事ばかりが増えて、疑問の解消が追いつかないーー。
カイルが来て領内も荒れてシェリカは連れ去られて皆ボロボロで帰還するなんて……結果的には大金星でも、俺の精神はボロボロだーー。
早く、おうち帰りたいーー。
早く、ぐっすりと眠りたいーー。
そうーーうとうととしながら倒れ伏したクロノ。
皆がその様子を見て微笑む中、エリスフィールが背中に乗せて帰すのだったーー。
……………………。
「着いたぞーー」
「んーー?」
夢見心地なクロノに、屋敷に着いた事を告げるエドワード。
そこへーー
「ご主人様ぁぁ〜!!」
とてててて、と走り込むプルシュスカ。
心配そうな面持ちで、クロノを見つめていた。
そんなプルシュスカに向かって、
「ああーー大丈夫だよ」
そう告げて、エリスフィールの背中から降りる。
そしてそのまま抱きつくーー、かと思いきや、すぐさまシェリカの方へと走っていったーー。
「おおおおおおおおお、おかえりなさいませーーお坊ちゃま〜!!」
相変わらずのオーバーリアクションなアーモンド。
それを苦笑いしながら、
「相変わらずだなアーモンドはーー」
そう答えて、クロノは笑った。
……………………。
街の中を歩き回りながら、クロノはふと思う。
ああ、今回の一件ーー本当に無事に済んでよかったと。
一部の使役されていた領民の意識も戻り、本当の意味での家族の再会に喜びの念を抱く。
もし殺してしまっていたらーーあの笑顔はなかっただろう。
いかに己の選択が早計で、浅はかだったかとクロノはーー、
「俺は領主としてはまだまだだなーー」
そうーー風に乗せて溢す。
……………………。
エルロード屋敷ーー。
シェリカが、不機嫌そうにカイルの目の前に立っている。
「聞いてくれシェリカちゃん!!ボクは操られていたんだ!この前君に言ったーーいや、君とシユウに言った言葉は訂正するよ。本当にすまなかったーー」
それが口実を利用した嘘(厳密には操られていた事は嘘では無い)、だと瞬時に察知したシェリカはーー、一言、
「はぁ、カイルさん。過ぎた事ですし……私もクロノさんも……もうカイルさんを怒っていませんーーが、それでも私がカイルさんの求婚を受け入れる事は今後も変わりなくありませんよーー?」
シェリカの言葉に、青ざめたカイルはーー
「な、何故なんだーー?」
そう問いかける。
シェリカは笑って嬉しそうに……誇らしそうに、愛おしそうに答えた。
「私はーーもう……〝好きな人〟がいますからーー」
微笑みながらのその言葉にガーン!!と、ショックを受けたカイルはわなわなと、
「ち、チクショオオオオオーーッ!!」
そう叫んでーー、屋敷を後に旅立ったーー。
その様子を呆れたように眺めるシェリカーーその元に、一人の老人が。
「フォッフォッーーなかなか活気が溢れておりますなぁ〜。……ここは領主様の屋敷かの?」
機嫌の良さそうな声色で話しかける。
それをシェリカはにこやかに答えた。
「はいっ!そうですーーすみません……今、領主様は不在なのですがーー何かありましたか?」
シェリカの問いかけに、首を横に振る老人。
「いやいやーー、なかなか良い領地だなといたく関心させてもらったものでの……良い滞在じゃったとお礼が言わせて欲しかったのじゃ。そう……領主様にお伝えして願えますかの?」
その言葉に、シェリカは強く頷くーー。
「はい、必ず!……ぜひ、また遊びにいらしてください!!」
ニコッ、と笑いかけるシェリカをニンマリと見つめーーそのまま帰路につく老人。その背中を見送ったシェリカは、一人呟いていたーー。
「あれーー、そういえば今の人〜どこかで見た気がーー」
……………………。
領内ーー街の一角。
カイルの向かった先に、クロノがいて両者鉢合わせ状態となったーー。
「シユウーー」
「…………」
カイルはしばらくクロノを睨みつけ、やがて時が動き出したようにズカズカと歩き出す。
「けっーー、お礼なんて言わねぇからな!!あばよ!!……べぇ〜!!」
そう言って、立ち去るカイルは使役紋で操られていた事に関しては何も言わずに立ち去るーー。
「…………まぁ、今回は兄さんもある意味被害者だったもんなーー」
そうーー立ち去ろうとして後方で騒ぎが起こった……嫌な喧騒を耳にする。
「おいジジィ!フラフラ歩いてんじゃねぇよ!!」
苛立ったカイルはぶつかって転んだ老人を尻目にそのまま通り過ぎるーー。
「あたたたた、全く……近頃の若者は乱暴じゃのう〜」
その様子の一部始終を見たクロノは、急ぎ足で駆けつけてーー
「大丈夫ですか!?」
その老人の元へと駆け走る。
手を取って、立ち上がらせると老人は嬉しそうにクロノに礼をした。
「フォッフォッーーいや、ご迷惑をおかけして申し訳無いですじゃーー」
その言葉をクロノは微笑みかけて、嬉しそうに答える。
「いえ、こちらこそ身内が無礼を働いてしまい申し訳ありませんでしたーー。お怪我はありませんか?」
老人に手を差し出し、それを嬉しそうに掴んで立ち上がる。
「フォッフォッーー大丈夫じゃ。……もしやあなたがーーここの領主様ですかの?」
老人の問いかけに苦笑いで答えるクロノ。
「ええ、はい。僭越ながら、ここの領主をさせてもらっておりますーー《クロノ・ゼルディウス・エルロード》と申します。ご老人様は、現在は滞在中ですか?」
その問いに、顎髭を触りながら愉快な表情で答える。
「いやいやーーそろそろおいとまするところじゃよ。……ここは本当に良い領地ですじゃーー。領主様の手腕が伺えますのーー」
「いえいえーー、本当に優秀なのはこの領地に住む人達ですよ。屋敷でもいつも……私は支えてもらってばっかりです」
あどけなく笑い、それを老人は痛く感心したようだったーー。
「フォッフォッ、それを理解できるだけで十分あなた様はご立派であられる。本当に良い気分転換になりましたじゃーー」
「もうお帰りですか?ならば、馬車の方まで案内しましょうーー」
クロノの申し出を、断るように背を向く老人。
「この老人めなどの心配などご無用ーー。帰り道はしっかりと把握しておりますでな……領主様はその貴重な時間を、有効な事にお使いくだされーー」
背中越しに高らかに笑う老人ーー。
その姿を見つめながらクロノはーー、
「ありがとうございました!!またの来訪をお待ちしております!!」
笑顔で見送りながら、自分も屋敷へと戻っていったーー。
……………………。
クロノが屋敷に着く。
しかし、妙な静かさを覚えていたーー。
「あれ、誰もいないのかなーー?」
玄関に入っても人気が無くーーそのまま食卓の間へと進む。
ドアを開けーー中に入るとそこには。
パンッーーパパンッーー!!
クラッカーを鳴らして、クロノの帰りを待っていた面々がーーみな声を揃えて叫ぶ。
「「「「「クロノ様!お誕生日おめでとうございます!!」」」」」
「え、え〜?」
理解が追いつかない様子でー部屋中を見渡す。
テーブルに用意されたありったけの豪華な食事に、七号はありそうなーークロノの席に置かれた大きな誕生日ケーキ。
いつの間に揃えたのかーー簡素だが煌びやかな飾り付けを施された部屋に、驚嘆の声を漏らす。
「これって一体ーー?」
「やっぱり忘れてたんですね、クロノさん。今日が自分の誕生日だって事♪」
シェリカがどこか嬉しそうに問いかける。
それを口をぽかんと開けたクロノはーー
「これ……みんながやってくれた……のか?」
目を白黒させながら疑問を呈すクロノに対して、プルシュスカとエリスフィールが笑顔で答えた。
「そうだよ〜!!……ご主人様の誕生日知ったの、私も最近だったけどね!シェリカちゃんが教えてくれたの!」
「本日はバレンタインデーという事もあり……チョコレートケーキにしてみました。領主様のお好みに……合いますでしょうか?」
完成度が素人とは思えないーーエリスフィールの手作りのチョコレートケーキを前に、クロノはーー
「さ、最高だよエリスフィール……ありがとう!!」
「領主様…………はいっ!」
それを聞いて満足そうに、エリスフィールは満面の笑みで答える。
「それじゃあ、さっさと席に着こうぜ〜!領主の〝八歳〟の誕生日パーティーだ!!」
乗り気のエドワードが一番乗りに席に着く。
「そうですのぅーークロノ様も、もうそんなお年でーー」
目尻に涙を浮かべながら、アーモンドが。
「今日の主役はご主人様だね!!……おいしそう〜!!」
尻尾をふりふりと振りながら、身を乗り出して両手にフォークとナイフの構えをするプルシュスカ。
「領主様、お座りください。ただいまケーキを切って差し上げますーー」
クロノの席の横で、嬉しそうに粛々と立ち構えるエリスフィール。
「クロノさん、行きましょう!!」
シェリカも着席して、膝に手を乗せて待ち侘びる。
この屋敷に来て三ヶ月ーー〝厄災の子〟と呼ばれたクロノにこれだけの仲間が出来たーー。
実家から追放されて、辺境の領主となって、最初はアーモンドと二人で苦労をして、〝殺処分〟されそうなプルシュスカを奴隷商から引き取って、エドワードと出会いーー過酷な訓練の日々を乗り越えて、唐突にやって来たシェリカはいつの間にか……この領地に無くてはならない仲間になっていて、最初は〝暗殺者〟としてやって来たエリスフィールも今やーー本当の仲間として従者をしているーー。
そんなみんなの事が本当にありがたくて、一緒にいてくれる事が嬉しくて、頭を悩ます日々もどこか楽しくて、〝厄災事〟が次々やって来てもみんなと協力して乗り越えて、笑顔で明日へと進む。
そんな毎日がーーいつの間にかクロノにとっての何にも変え難い宝物になっていたーー。
(ああーーそうか。俺は、ここの〝領主〟ーーなんだよな)
改めてふとそう思う。
似合うとか向いてるとかーーそんなのはやってみないとわからない。やってみたって、すぐにはわからない。
何度も何度も挑戦して、失敗して、その度に笑ってやり直して、挑戦してーー上手くいったと思うまで何度でもやり続ければいい。
誰から失敗を馬鹿にされても、そんなものは関係ない。誰かの思う失敗が、その人にとっての失敗とは限らないからだ。
どんな時だって、この世のどこかには仲間がいる。
目の前にいる仲間ーー遠くの地にいる仲間ーーあるいはーー天国から見守ってくれる……その人が。
きっと言うだろうーー〝がんばれ〟、〝諦めないで〟。
笑顔で言うだろうーー〝いつだって、あんたを思う仲間がいる〟
見守りながら言うだろうーー〝あなたが元気でいてくれる事が……私の幸せです〟と。
たくさんの信じられる仲間がいてーーその人が今日を笑顔で笑っている。
それだけでーー本当に嬉しく思う。
「みんな……本当にありがとう!!」
精一杯の喜びと感謝をみんなに伝える。
今日もエルロード家の、騒がしくも楽しい一日が始まったーー。
「そういえば、領主様は《守護結界》も使えるのですねーー。おかげで領内に使役された方達が侵入できず……被害が殆ど無かったそうですよーー」
ケーキを切りながら、エリスフィールは誇らしげに語る。
確かに領内には殆ど被害が無かったけれど……あれはそう言う事だったのか。でも……
「《守護結界》?それ、俺じゃ無いぞーー?」
「えーー?……それじゃあ一体誰がーー」
……………………。
「待たせたの、イデア」
「あ……おじいちゃん」
黒紫色のツインテールに同色の鮮やかな瞳、紫色のゴシックドレスを着た少女が、石棚の上からひょっこりと降りる。
自然が囲む何も無い街路をーー二人並んで歩く。
まるでおじいちゃんと孫の姿をしたその二人は、両者共にご機嫌な様子だったーー。
「ほれ、チョコレートじゃ」
「ありがとう……いただきます」
パキッ、と音を立てながらイデアはもぐもぐとチョコレートを頬張る。
「ん……おいしい」
「それにしてもーーおぬしにチョコレートをあげた男の子はどんな子だったんじゃ?」
老人が杖をつきながら、問いかける。
「ん〜とね、黒い髪した男の子。なんかね……桃紫色の髪の女の子探してるって言ってたーー」
「黒髪の男の子かの……ほぅ、やはりーー」
「どうかしたの、おじいちゃん?」
「いやいやーーなんでも無いよ」
(そうか……ずいぶんと立派に育ったと思ったらーーそうじゃったかのーー)
「……まさか、わし以外にはあまり懐かないこの子まで心を溶かすとはーーさすがじゃの……〝シユウ君〟よーー。シェリカちゃんもずいぶんと逞しく成長しておって……これからあの二人がここで何をするのかが楽しみじゃわい」
顎髭を触りながら、機嫌良さそうに笑う老人。それを不思議そうにイデアが眺める。
「…………おじいちゃん?」
「フォッフォッーーイデアよ。もしかしたらこの先ーーこの《エンドラ領》は面白い事になるやもしれんぞ?」
そうーー高らかに笑って、〝聖天大使〟オーヴァンは《エンドラ領》を静かに去っていったーー。
シーズン2終わり




