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28. シェリカの決意


状況は変わった……今なら戦える。


それでも……手加減をしていては〝あの男〟は倒せないーー。


いつの日だったかーープルシュスカの薬代を奴隷商に払いに行った際に教えてくれたーー〝奴隷紋〟について。


奴隷紋は《契約紋》と呼ばれるスキルのシリーズの一つで、強制的に《従》と《隷》に分けて使われる。


この仕組みはほとんど全ての契約紋が一致していて、その殆どが一定の条件を満たせば発動できるというものだ。


その中で唯一……国から管理、あるいは制限が課される契約紋のスキルがある。


それが《使役》スキルだ。


使役スキルが他の契約紋と違う点はただ一つーー対象者の〝意思〟さえも思いのままに操れてしまう事だ。


あまりにモラルが欠如した扱い方、非人道な使い方、果ては使役スキルを利用した他国へのスパイなど危険すぎるのがこのスキルの難点である。


そして、この《契約紋》に一致して解除する方法は主に二つ。


一つは術者、もしくは他のスキルや魔法による強制的な解除。(俺のケースがこちらに当てはめられる)


もう一つは術者の死亡ーー。


前者を取る能力は、俺とシェリカ含めて《エンドラ領》内には一人もいないーー向こうに解除する意思も気配も無い。


ならば、もはややるべき事は一つだろうーー。


〝使役者〟の死亡。それが、シェリカを救い出す唯一の道筋だ。


その為にはーーもはや手加減をする余裕は無いーー。


「シェリカ……聞いてくれーー」


真剣な面持ちで、クロノがシェリカに問いかける。


「…………クロノさん?」


シェリカは両手を膝に乗せて、座り込んだまま黙ってクロノの言葉に耳を傾ける。


「あいつをーー《使役者》の男を殺す。その為にはまず……他の使役されている人達の息の根を止めないといけないーー」


ハッと、シェリカが目を見開く。


「っ!!……クロノさん!それってーー」


クロノはどこかバツが悪そうに、シェリカに語りかける。


「ごめん……、シェリカーー。実は俺、君に隠し事をしていたんだーー俺は……()()()()()()()()()


「っ!!」


目を丸くして、シェリカが唖然とする。


人を殺した事があるーー齢七歳で出てくるセリフじゃあ無いだろう。


しかも、貴族の子供がーーだ。


「ここにーー《エンドラ領》に来る途中の事だったーー。雇われた盗賊団の一団に命を狙われてさーー仕方なかった……って言ったら、言い訳になるんだけどーーそれでも俺はーー人を殺した。その時、俺の中で何かが壊れたんだよーー」


まるで罪を告白するように、目を伏せて語りかける。


「俺はーーもう君の知るような優しい人間じゃあ無いんだよーー。人を殺したーー穢れた存在だ。……君の好きだった《シユウ・ヴィ・ランスロット》はもうーーこの世から死んだんだよーー」


脳裏に盗賊の首領の言葉が浮かぶ。


『お前にゃあ……向かねぇ仕事だよーー』


その言葉に今更だなーーと、フッと笑った。


それでも、シェリカは否定する。


「そんなこと……クロノさんーー」


「だから!!」


シェリカの言葉を遮断して、クロノは語りかける。


まるで、最後の別れを告げるようにーー。


「だから、君だけは必ず無事に帰す。例えここにいる奴らを何人殺す事になっても……君だけは絶対に無事で帰す。そして全部終わったらーー俺は……〝領主〟をやめるよーー」


「っーー!!」


子供を諭す親のように……クロノはそう言った。


そうしなければーー何も守れないと自覚したから。


それでも……シェリカは受け入れられなかったーー。


「ダメですクロノさん!あなたがいないと私はーー私達はーー」


それでも、クロノの意思は変わらない。


「……元々、領主なんて器じゃ無かったんだよーー。〝厄災の子〟が人の上に立つなんて、やるべき仕事じゃ無かったんだーー。操られているだけの罪の無い人を殺すんだから、責任はちゃんと負わなきゃいけないーー。それが俺のーー《エンドラ領》の領主としての最後の仕事だーー」


その小さな背中で語るにはーーあまりにも重たすぎる。


シェリカの瞳に、涙が溜まる。


「そんなの嫌です!嫌……クロノさんがいないのは……絶対にダメです!!」


クロノは最後に背を向けて一言ーー。


「シェリカーー今までありがとう。いつも勝手だけど……後の事は頼むよーー」


「っーー!!」


そう告げて、走り出す。


唯一人ーーシェリカだけでも、守れるようにーー。


……………………。


ザクッーー。


ドサッーーと、また一人ーーエリスフィールの手に沈む。


〝暗殺者〟として過ごしてきたエリスフィールにとっては、ミネ打ちなど造作も無い事であったーー。


「領主様ーー」


(まずいですねーー先に地下牢に入ってしまわれましたーー。このままでは待ち伏せしている刺客達に鉢合わせする事になってしまうーー)


エリスフィールは、乱れたメイド用のカチューシャを直しーーコンコンッとヒールの履き具合を整える。


「急がなければなりませんねーー」


エリスフィールはダッシュで走り抜ける。


クロノとシェリカのいる地下牢を目指してーー。


……………………。


カキンッーードガッ!!


「クッーーそ。俺は……まだーー」


「へっーー〝今のお前〟じゃあ役者不足だよ。〝首輪〟外してから出直して来なーー」


ドガッーーと、エドワードがタツの首元を軽くこづいて意識を断つ。


しかし……エドワードにはエリスフィールのような《探索魔法》は無い。


「仕方ねぇ……クロノの足跡を追うしかねぇなーー!!」


暗闇の中、わずかに残されたクロノの地を踏んだわずかな手がかりを頼りに、エドワードも走り出す。


阻む敵をーー最速で片していきながらーー。


……………………。


カキンッーードサッ。


クロノは先程から手加減した戦い方をしていない……平気で致死レベルの攻撃を与えていたーー。


が、それでもまだ若干の粗さはある。どこか迷いを含んでいるようにーー。


「〝《睨みつけ》〟!!」


直後、周辺一帯の敵が硬直する。


「〝《ポイズン》〟!!」


バシャッーーと拡散するように、周囲の敵目掛けて猛毒を発射する。


その毒性の強さに、うめき声をあげながら抵抗する者も多くいた。


「…………むぅーー」


アーガスは一歩、退く。


使役した者どもが次々とやられていくのだからーー当然だ。


そんなアーガスを捉えるクロノの目はーーもはや領主でも子供でも無いーー〝厄災〟そのものを体現していたーー。


「クロノさんーー」


(なんで私はーー守られているしか出来ないの?エドワードさんやエリスフィールさん達も戦っているというのにーー)


ドシャッーーグサッ!バシャッ!!


短剣で攻撃して、その傷口に容赦なく《ポイズン》を発射する。


人を殺す事に躊躇いの無いクロノを見て、シェリカは唯一人泣いていた。


「私は……足を引っ張ってばっかりーー。クロノさんがあんなに苦しんでいるのにーー何も手助けしてあげられないーー」


シェリカは自分の両の手を握りしめる。


歯噛みして、ボロボロと涙をこぼし、顔を歪めて泣き続ける。


「誰も守れないーー何も変えられない……何が〝鑑定聖女〟よーー。自分が役に立ってるって、いい気になってただ自惚れてただけじゃないーー!!ただ見てるしかできない……情けない……こんな私ーー大嫌い……」


消え入りそうな声でひっく、ひっくと泣き叫ぶ。


涙でぐちゃぐちゃになった視界にーー、一人の少女の姿が映る。


それはこの世で一番ーークロノと同じくらい、大好きな人。


いつも自分を叱ってくれる、憧れの人。


いつものようにーー泣きじゃくっているシェリカに叱りつける。


『シェリカ……あんたバカじゃ無いの?何メソメソしてんのよーー。間違ってると思うなら直せばいいだけの話じゃ無い!喚いているだけじゃ、誰も助けてくれないわよ?』


「ひっく、ひっぐ……お姉ーーちゃん」


ボロボローー涙を溢すシェリカが、必死に声を絞り出す。


『あんたはただの子どもじゃない!あたしといい勝負するか、同じくらい才能のあるスゴイ子なんだから!!』


その二つのどこに違いがあるのかーー?


そんな疑問よりも、いつものバカうるさくて甲高い姉の声に少しーー笑みが溢れる。


『何ニヤニヤしてんのよ……。まぁいいわ!あたしが言いたい事はただ一つ!!あたしの妹が……いつまでもうじうじ下向いて泣いてんじゃ無いわって事よ!!』


にひっ!と笑いかける……燃えるような赤い髪を揺らしながら激励する姉の言葉にーーもう一度シェリカは立ち上がる。


「そうーーですよね。私が間違ってましたーー」


間違っていれば正す。何度でも諦めない。


私は誰にも……こんな奴にも、支配されたりなんかしない!!


シェリカは額の使役紋に手を触れーー唱える。


「我が額に宿る隷属の証よ……その力と共にーー我が内から消え去れ!!」


パリィィィィィンッ!!と、音を立てて使役紋がシェリカの額から消え去るーー。


守られているだけなんてーーもう嫌だ。


私も一緒にーークロノさんと戦いたい。


そんなシェリカの思いがーー新たに彼女に宿るスキルを解放させた。


「っーー!!シェリ……カ?」


驚愕の表情で見つめるクロノ。


そしてそれはーー使役者も同じであったーー。


「ば……馬鹿なーークロノ様に続いて……シェリカ様までーー」


シェリカは拳を握り締め、クロノに微笑みかける。


「クロノさんーーここにいる人達、使役紋を解除すればいいんですよね?」


頼もしい表情でシェリカは、クロノの目を真っ直ぐと見つめる。


「だったらその役ーー私が引き受けます」


……………………。


シェリカのステータスのスキル欄に、新しい情報が入った事がクロノのステータスシールド上に告げられる。


『シェリカ・イザレア・セントルイスがマジックスキル《術外し》を取得しました。これに伴い、特殊効果:《精神異常耐性》が付与されます』


「…………シェリカーー、一体どうやって……?」


その問いに、シェリカは笑って答えた。


「決まってるじゃ無いですかーー。〝誰かを想う心〟ーーそれは時として、不可能を可能にする力になるんですよ。知らなかったんですか?クロノさんーー」


いつものあどけない表情で、誘い込むようにからかうシェリカ。


その二人の様子を見て……使役者が本性を表す。


「おのれ……おのれおのれおのれおのれおのれえええええ!!せっかく私が与えた〝祝福〟を……二人揃って踏み躙るとはーー神の怒りを受ける事間違い無いぞおおお!!」


荒々しく豹変したアーガス。


その様子を、クロノはーー。


「へっ、そんな恩着せがましい〝祝福〟なんざ、こっちから願い下げだぜーーなぁ、シェリカ?」


急に振られたシェリカもまた、目を伏せて挑発する。


「ええ。祝福とは身捧ぐ慈愛がもたらす恩恵です。敬意の無い者にそれを強要する事も、ましてや支配して与えるようなものをーー私は祝福とは思いません。あなたなんかよりよっぽどーークロノさんの方が私にたくさんの祝福を与えてくれましたよーー」


(お姉ちゃん……もう私。逃げませんーー何があっても……絶対にーー)


シェリカの言葉を聞いて、クロノに笑みが溢れる。


そこには、先程まで纏っていた殺気のようなものはもう……無かった。


「だーーそうだ。残念だったなーー〝使役者〟さん!」


「その名で呼ぶなあああああ!!」


クロノの挑発を間に受けた〝使役者〟。


完全に形成は逆転した。


「シェリカ、俺が動きを封じるから……君は動けないでいる人達の使役紋を解除していってくれないかーー?」


初めて戦闘面でクロノに頼られる事を……心底嬉しそうにシェリカはーー


「はいっ!お任せください!クロノさん!!」


満面の笑顔で、そう答えたーー。


……………………。


ドゴオオオンッ、ドガアアアン!!


先程から森の一角で大きな物音を立てて爆発が連続して起きる。


それから使役された者達は、急ぎ足で逃げ続けていたーー。


「に、逃げろ〜!!」


「あ……悪魔だ。あんなのーー」


叫び戸惑い逃げ出す者達を尻目に、イデアは一言。


「……脆弱」


宝石のようにーー爆発の炎でゆらめく黒紫色の瞳。


その瞳で蔑視の視線を浴びせながら、〝手加減〟した《爆発魔法》を連発する。


「ハァ……こういうの《殲滅魔法》で一気にスカッとすると気持ちいいんだけどなーー手加減したら、また〝ちょこれいと〟くれるかなーー?」


イデアはそう言って、攻撃の手を緩める。


「……あ、…………名前聞くの忘れたーーちょこれいと……もらえない」


しゅんとしながらも、律儀に手加減しながら敵を逃げ惑わせていく。


その行いが、エドワードとエリスフィールの到着を早める事になる事は、誰も知らなかったーー。


……………………。


「シェリカ、次!」


「はいっ!」


クロノが隙を作り、シェリカが〝使役紋〟を解除する。


その早技の連携で、どんどん敵が気絶していく。


(やっぱり……使役紋を強制的に外すのって精神にダメージがいくもんなんだな……。シェリカは自我が強いから、自分で解除出来たくらいだし……それは俺も同じかーー)


次々とバタバタ倒れていく隷属者を見て、脱出を試みる使役者。


もはやーークロノ達が捕えるのは時間の問題だった。


「ふ、ふざけるなーー私を誰だと思っている。使役する能力はとても価値があるんだぞ!!お前達等では一生かかっても払えない程の金額だ!!この悪逆ーー〝神〟は絶対に許しはしないぞ!?」


「へぇ〜、神かーー?」


だったら面白い。これが許せない行いかどうかーー今度キツネガミにあった時にでも聞いてみるか?


まぁあいつならーーこんな奴指一つでこの世から消し去っちまうんだろうけどーー。


「クロノさん、今の人で最後です!」


次々と使役された者達を倒していき、やがて残りは使役者ただ一人となる。


「もう観念したらどうだーー?大人しく降参した方が身のためだぜ?」


「これ以上罪を重ねないでください。投降すれば、命までは取りませんからーー」


二人の勧告に、黙り込む使役者。


勝敗は決したのに、その瞳から諦める気配は無いーー。


「諦める……諦めるだと?バカな!!私たちは崇高なる目的の為にここまで来たんだ!!お前達に分かるものかーー《使役》などという素晴らしいスキルを手にした私が……監獄など〝使役される側〟に回る事がどれだけ屈辱か!ここで捕まるくらいならーー私は〝あのお方〟の贄となる!!」


バッーー、と懐から手榴弾を取り出すアーガス。


クロノ達は間に合わない。


「そんなーー!!」


「っーー!!」


ピカッーーと、手榴弾が放つ光が辺りを包み込む。


フハハハハッーーという甲高い声と共に、二人を道連れにしてアーガスは自害したーー。


「これは……まじぃなーー」


クロノが、歯噛みする。


「これ以上罪を重ねないでください。投降すれば命まではーークロノさん?」


シェリカがクロノの挙動を不審に思う。


今さっきまで投稿を勧めていたクロノの目つきが急に変わったのだ。


「クロノさんーー?」


そんな未来を目の当たりにしたクロノの判断は素早かった。


「《隠密》!!」


「っーー何ィ!?」


影に身を潜めたクロノは一瞬で距離を詰め、アーガスの首を掻っ切る。


「ぐっーーごぼぁっ!!」


反射的なクロノの素早さに、不意打ちで《隠密》まで使った奇襲攻撃を防ぐ術は無くーー、アーガスは血反吐を吐きながら地べたに顔を埋める。


「ハァ……ハァ……そこまでするかよーー」


返り血がべっとりとついたクロノは、睨みながらアーガスを見下ろす。


「クロノさんーーどうして!?」


青ざめた表情のシェリカ。当然だ。


シェリカは人が死ぬ姿をーー()()()()()()()()姿()を見るのは初めてだったのだからーー。


先程のような狼狽程では無いが……シェリカは悲しそうにクロノに問いかける。


「教えてください。どうしてトドメを刺す必要があったんですか……?クロノさんの事だから訳があったのはわかっています。それでもーーこんな……」


やはり動揺した様子を隠しきれないシェリカ。


どう説明したら良いかと悩んだクロノだったがーーやがて、アーガスの懐から手榴弾を取り出す。


「っーー!!それは……」


「こいつ、〝俺たちの勧告を無視してこれを投げつけ きた〟ーー。そんな未来が、見えたんだーー」


「未来……《未来眼》の事ーーですね。」


「っーー!!……やっぱり、知ってたんだなーー」


まぁ、〝鑑定聖女〟なんて呼ばれてるシェリカの事だから……スキルを見れば俺が未来を見れる事は容易に理解できるだろう。


「勝手に見てしまって……ごめんなさい。ずっと聞く機会を伺っていたのですが……」


バツが悪そうに、シェリカが下を向く。


それを、クロノが頭に手を置いて許した。


「説明の手間が省けてよかったーーと思っておくよ。さすが、〝鑑定聖女〟様!」


にっ、と笑うクロノを前にーー親に褒められた子供のようにシェリカも笑い返す。


「はいっ!クロノ……いえ、《エンドラ領》の〝黒領主〟様!」


「っーー!!」


エンドラ領の領主ーーそれはすなわち、この先もそれを続けられる……そう、言い含めたシェリカの言葉のあやだった。


「…………はぁ、本当にシェリカはーー」


そう言ってあどけない表情で笑うーーその間際。


「……ね、をーー私……がーー〝あの方〟をーー」


死にかけのアーガスはそう言って、懐に隠していた予備の手榴弾の栓を抜く。


「っーーしまった!!」


「クロノさん!!」


その手榴弾が、コロンコロンーーとクロノ達の元へ転がる。


「うがあああああああっ!!〝マルス〟サマァァァァァァァ!!」


手榴弾が爆発する間際ーーアーガスが叫ぶ。


(どうするーーどうすればいい!?人ならまだしも爆弾なんて……どうしようも無いーー俺に何が!?)


爆発するまで数秒も無い刹那ーーその一瞬に、クロノの脳裏に指令が下る。


〝左手に神気を込めてかざせーー〟と。


「頼む!!」


キュピィッーーと、手榴弾が光ったと思いきや……爆発せずに不発で終わる。


否ーー不発だった訳では無い。


どういう訳か、クロノ以外の時間が止まっていたーー。


「これ……何が起きてるんだ?」


シェリカは頭を抱えたまま、アーガスは叫んだ表情のまま、爆発は栓を抜かれた状態で固まっている。


「何が起きてるのかわからないけど……とりあえずこうしておけば大丈夫ーーだよな?」


クロノが爆弾の栓を戻し、しばらくすると時間が戻る。


「クロノさん!!…………あれ、クロノさん?」


叫んだシェリカは不思議そうに、何故かクロノの手元で栓がしまっている手榴弾を見つめている。


「そんな、なーーぜ。神よおぉぉぉ……」


そう言って、力無くアーガスは息を引き取ったーー。


「終わったん……でしょうか?」


シェリカがそうー、クロノに問いかける。


「ああ……全部ーーな」


ほっと一息ついたクロノは、その場でペタリと座り込んだ。


その瞬間ーーステータスシールドに表示される。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『〝使役者〟を倒しました。経験値を獲得しました。レベルがアップしました。レベルが8→10に上がりました。《未来眼》のスキルレベルが3→4に上昇しました。《天啓眼》のスキルレベルが2→3に上昇しました。《隠密》のスキルレベルが2→3に上昇しました。《ポイズン》のスキルレベルが1→2に上昇しました。《睨みつけ》のスキルがレベル1→2に上昇しました。スキル《盗賊の申し子》により、スキル《使役》を獲得しました。レベル10到達により、神気の効果権限が増幅しました。これにより、他者を識別する際に種族判定が付与されます。現在のステータスは以下の通りです』



氏名  クロノ・ゼルディウス・エルロード 7 男 Lv10


種族:人間

 

所有スキル  《盗賊の申し子》、《未来眼》Lv4、

       《天啓眼》Lv3、《隠密》Lv3、《言語翻訳》 《睨みつけ》Lv2、《使役》


パラメータ  《筋力》101 《敏捷》113

《知力》154 《反射》163

       《体力》285 《魔力》137


スキルシリーズ一覧


オリジンシリーズ《盗賊の申し子》


魔眼シリーズ《未来眼》《天啓眼》

 

ジョブシリーズ《隠密》《言語翻訳》《使役》


マジックシリーズ《ポイズン》



特殊効果1:《反逆者》


1:常に精神力が一定の基準値となります。


2:《精神異常耐性》の効果が適用されます。これにより、術によって精神を乱す効力が無効化されます。



特殊効果2:《魔女の権能》


1:魔力の消費が85%軽減されます。


2:《未来眼》、《天啓眼》の使用限度が無制限となります。



称号:現在所有している称号はありません



『一時的に〝眷属の加護〟によって与えられていた神気による効力が失効されます。』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


…………どうしよう、《使役》ーー手に入れちゃった。


国から目つけられちゃうじゃん。


……………………。


三十分前ーー。


(まさか二人揃って私の使役紋を破るとはーーこうなってしまっては致し方無いーー。あの者達を時間稼ぎに回してあれを呼ぶかーー)


キュィィィィィンッーーと、使役紋を通じてアーガスが司令を飛ばす。


タタタタタタッーーと、エリスフィールが駆け抜けるその視界にーー〝それ〟は現れたーー。


ゴゴオオオオオオッーーと、木々を踏み倒しながら、巨体が突き進む。


「この気配…………まさか!巨人族ーー!?」


北西方面ーーエリスフィールから見て二時の方向に、巨大な三体の土色の〝守護者(ガーディアン)〟が現れる。


(アースゴーレム!?……あんなものが《エンドラ領》に向かってしまえば、間違い無く壊滅的な被害を受けてしまう。……私では倒せてもせいぜい一体……早く行って領主様とシェリカ様を救出しなければーー)


森の中を走り抜けるエリスフィール。


しかしその心配は杞憂に終わる事を、彼女は知らないーー。


……………………。


???「全く……イデアはどこへ行ってしまったのかのう……?」


杖をついた白髪の老人が、長いヒゲを触りながら頭を唸らせる。


とーー、そこに。


「うんーー?」


ゴオオオオオオオオッーーと、高さ三十メートルを超える三つの巨体が目の前に現れる。


「ほぉほぉ……これはアースゴーレムかの?」


老人はヒゲを整えながら、散歩中に見つけた珍しい犬を愛でるみたいに微笑む。


しかしーー、


「グガアアアアアアアアッ!!」


大声で威嚇するアースゴーレムを見て、訝しむような表情に変わった。


「お主ーー〝使役〟されておるのかの?可哀想に……〝こんな小さな〟アースゴーレムを使役するとは……マトモな術者じゃないのぉ〜」


えいっ、とそう言って老人はくるんっ、と指を回す。


たったそれだけ。たったそれだけで、三体のアースゴーレムから〝使役紋〟が弾け飛んで霧散したーー。


「おうちへの帰り方はわかるかの?おかえりーー」


そう言った老人の言葉を受けてか、アースゴーレムは正気に戻り、来た道を帰る。


その背中を見送った老人は満足そうに、夜空を眺めた。


「ここはなかなか良い土地じゃのう〜。《エンドラ領》ーー。〝星〟の眺めもまた絶景じゃ」


空からキラリーー、と流れ星が一つ。それを見て微笑む。


「こんな綺麗な所にズカズカ乗り込むとはのう……〝使役者〟とやら……マトモな死に方せんじゃろうてーー」


まるで予言でも言い残すように、老人は風に向かって語りかける。


とーー、その老人の元に一人の少女が。


「あ、おじいちゃんーー」


黒紫色のツインテールをふわりーーと揺らしながら、暗闇の中からイデアが現れた。


「おお……イデア。どこに行っておったんじゃ?」


心配する老人の元へ、とてとてと駆け寄る。


「ねぇおじいちゃん……ちょこれいと食べたいーー」


「ちょこれいと……ああ、チョコレートかの?」


ふんふんと、ムの字の口で答えるイデア。


それをどこか嬉しそうに、老人は答える。


「そうじゃのうーー明日街でちょっと買ってこようかの?……明日はバレンタインじゃしのうーー」


「バレン……タイン?」


聞き慣れないワードに首を傾げるイデア。


「バレンタインとは女の子が好いた男の子にチョコレートを贈る日じゃ。……まぁ、逆じゃが良いじゃろうーー」


よくわからずに首を傾げるイデアだったが、それを聞いてやった……と、嬉しそうな表情に変わる。


「それにしても……どこでチョコレートを食べてきたんじゃ?」


その問いに、イデアは顎に手を当てて答える。


初めて食べたーーちょこれいとの味を思い出しながら。


「なんか、イデアがお腹空いてたら……男の子がくれた……」


「ふぉっ!?」


びっくりしてか、一瞬ギョッとなる老人。


しかしすぐに、和やかな表情に変わる。


「ふぉっふぉっーーそうか。イデアもそう言う年かのう……」


「……?どうしたのおじいちゃん?」


無機質に振り向くイデアを見て、ニンマリと笑う老人。


「いや……何でも無いわいーー」


ふぉっふぉっふぉーーと愉快に笑う老人とイデアは、真夜中の森の中に消え去っていったーー。

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