23. 怒りのシェリカ
「やぁシユウ。久しぶりだなぁーー」
「に……兄さんーー」
……………………。
「予定では二日後にいらっしゃるはずでは?」
食卓の間にて、兄上達と謁見する。
兄弟なら普通は楽な雑談でもするのだろうがーー俺とこの人ではそうもいかなかった。
「俺がお前に許可を取らなければならないのかーー?」
ものすごくいやらしい顔で、クロノの問いにカイルはそう答える。
「こんな家畜の集落みたいな所で領主になったくらいで……ちょっと調子に乗っているんじゃないのか?お前ーー?」
カイルの挑発に、クロノはニコリーーと、爽やかな笑顔で答える。
「まさか〜。全ては優秀なるこの領地の民の尽力と、この屋敷を支えてくれる者達あっての事ですよ。俺なんてただの〝お飾り〟ですーー」
エリスフィールの入れてくれたアツアツの紅茶を啜りながら、クロノは余裕の表情でそうあしらう。
当のカイルは面白くなさそうに、話題を切り替えた。
「そういえば……巨大なジャイアントスネークを倒した〝剣帝〟というのがこの領地にはいるようだなーー。お前……いくら払って雇ったんだ?」
おっと、さすがは〝トンビ〟さん。
先生の事を金で都合をつけたと思い込んでいるらしいーー。
「先生は聡明なお方です。……金ではなく、この領地の発展していく様を見届けたいという……ちょっと風変わりな方でしてねーー」
とりあえず、適当にそれらしい事を言っておこう。
正直な話、そこまでズレてないから大丈夫なハズだろうしーー。
「なるほどな……〝変わり者〟とは聞いていたがそれでどうもなーー。こんな〝掃き溜め〟には惜しい人材だ。……願わくばぜひ、俺たち《ランスロット家》に来て指導者になってもらいたいものだなーー」
おっと〝トンビ〟さん。今度は引き抜きのお話でしょうか?
こう言っちゃあ何だがーー先生の訓練メニューはあなた達にはキツイと思いますよ?
「それでは……エドワード先生に交渉してみてはいかがでしょうか?『金で雇える人材じゃあ剣が上達しないので、稽古をつけていただけませんか?』とねーー」
「っーー!!……貴様〜」
睨み顔で、両手を勢い良く机に置くカイル。
からかうのもほどほどにしないと、すぐにこの人は頭に血が上る。
カイルの怒りを素知らぬ顔で誤魔化し、再び紅茶を啜るクロノ。
そこにコンコンッーーと、
カイルがキレかかった……ちょうど良いタイミングで入室するシェリカの姿がーー。
「遅れて申し訳ありませんーー。色々と準備に手間取ってしまいましてーー」
「っーー!!……シェリカ……ちゃん」
ふわりーー、とピンク色の髪が舞う姿ーー。紫色の妖しい瞳がこちらを振り向く様を見て、カイルが目に見えて硬直した。
「お待たせしてしまってすみませんクロノさん……。カイルさん、お久しぶりです。今日ご案内するのは以下の通りでーー」
見惚れ固まるカイルを尻目に、シェリカから書類を受け取るクロノ。
「んーー?兄さん、そんな石みたいに固まって……大丈夫ですかーー?」
「う、うるさいーー」
そう言って、再び席に座る。
「〝クロノ〟……か。そういえばお前、名前を変えたんだってな。……父上が喜んでいたぞ?不釣り合いな名前で恥をかかずに済むーーとな。ただ……名前のつけ方は少し気に食わないなーー」
ああ、やっぱりそこに来るよな〜。
「母上の〝旧姓〟を名前に使うとはいい度胸だ。追い出された立場のくせにーーよくもぬけぬけとまぁーー」
あれ?怒るところそこなんだーー。
てっきり、『クロノなんて名前じゃただの当てつけだろうが!』とか、『《ランスロット家》を追い出されたクセに、未練たらしい名前に変えやがって〜』とか言われると思っていたのに……そこだけなんだ。
「……まぁいい。今日はお前に用があって来たわけじゃないからなーー」
「んーー?それは一体どういうーー」
カイルは立ち上がって、隣に座るシェリカの元まで歩み寄る。
そこで跪きーーカイルはシェリカを見上げてその左手を取った。
「今日私がこの屋敷まで足を運んだのは他でもありませんーー。《シェリカ・イザレア・セントルイス》様ーー私の……〝婚約者〟になって頂けませんか?」
「……………………えっ?」
シェリカは固まった様子でカイルを見つめている。
クロノも驚いた表情で、カイルとシェリカを見つめていた……。
「に……兄さん。それってまさかーー」
プロポーズだ。サプライズの。
「シユウ……これは父上とシェリカちゃんのお父上・ランハム卿の二人も承知の上での事だ。お前の意思に関係無く今日をもって、シェリカちゃんは〝ボクの婚約者〟となるーー」
「なっーー!!」
確かに……両家の親が認めるというなら、その縁談はほぼ確定したようなものだ。
でも……それだとシェリカはーー
チラッ、とシェリカの方に視線を送るーー。
しかし、当のシェリカはというとーー
「すみません、カイルさん。婚約の申し出はありがたいのですがーーお断りさせて頂きます♪」
にこやかに、カイルの申し出を断ったーー。
「えっーー?ええええええええ!!」
公爵家の人間が持ち掛ける縁談を断られるはずがない……そう踏んでいたのかーー驚いた様子で口をぱくぱくさせるカイル。
「な、し、しかしーーあなたのお父上はーー」
「私は父上から婚約者は自分で見定めて連れてくるよう言われていますーー。おそらく、カイル様のお話が本当なら……父上はこう言ったのではないですか?〝娘が認めるなら〟ーーその婚約を認めると」
「な、な、な、ーー」
どうやら失念していた様子のカイル。
「つまりーー、兄さんの求婚はーー」
クロノの問いかけに、どこか安堵させるような笑顔でシェリカは答える。
「今回は、ご縁が無かったという事で……ご承知ください♪」
カイルの早とちりの求婚はーー破談に終わった。
いや、本当にシェリカが望む婚約なら俺も祝福するんだが、そうじゃないなら後押ししてやる義理もない。
何より、今シェリカにこの領地を離れられると色々困るという……勝手だが不都合があるのだ。
「や、やはりーー。そうだったんだな……」
ガクリーー、と項垂れていたカイルがゆらゆらと立ち上がる。
よく見ると何やら、おかしな表情で薄ら笑いを浮かべていた。
「やっぱりーーお前がシェリカちゃんを操って我が物顔で独占していたんだな!!この悍ましい悪魔め!!」
「…………は、はぁ?」
この人は何を言っているんだ?
正直さっぱりわからない……実家にいた時はよく悪口を言われていた憶えがあるけれど……今回は何かちょっと引っ掛かる。
「シェリカちゃんの純情を弄んでお前はーーその〝厄災〟の力で呪いをかけたんだ!きっとそうだ!……母上を殺しただけに飽き足らずシェリカちゃんまでーー許せない……」
「や、〝厄災〟の呪いって……兄さん何言って?」
「とぼけても無駄だ!……そんなはず無いんだ……屋敷にいた頃、ボクが手を振るといつも笑ってシェリカちゃんは応えてくれていた……そんなはずないんだぁ!!……人を不幸にする災いをもたらす……お前はーー〝疫病神〟だぁ!!」
脈絡も無く、理解も及ばないカイルの言動の一言一句に、唖然となるクロノ。
しかしーーシェリカの方はずいぶんとお怒りの様子だったーー。
静かに怒りを吐き溢すシェリカは、カイルの手を解いた。
「…………今まで、何度か殿方から結婚を前提にした縁談の話を伺った事があります……。しかしーー!!」
パシィンッーー!!と、シェリカはカイルの頬を叩く。
「あなたみたいな〝最低な人〟は初めてです!!」
「ちょ、シェリカーー?」
頬を叩かれたカイルは一瞬、思考の回路が停止する。
「え、あ、ーーシェリカちゃんーー?」
シェリカは手を震わせ、その目には涙を浮かべていた。
「……クロノさんはいつもいつも……いろんな家柄の方々から侮蔑の視線を浴びて来ました。〝十二爵家〟最下位の《ランスロット家》もまた、他の十二爵家から見下されて来たはずなのだから、少しは気持ちが理解できるはずですーー。なのにあなた達は!!守るべきである幼子を一緒になっていつも見下して、蔑んで、疎んでばっかり!!……あなたの父上がクロノさんを殺そうと、何度も刺客を差し向けたのはご存知ですか?その度に傷つき、血を流していたのをあなたはご存知ですか?辺境の地でどれだけ努力してきたか、あなたにわかるんですか?血を分けた父親から命を狙われる事がどれほど悲しい事か、考えた事はありますか?あなたはクロノさんの一体何を知っているのですか?ミーリアさんやエレミアさんはともかくーー褒められた扱いでは無いにしても……少なくともグルーヴィスさんはまだマシな方でしたーー。それなのにあなたたちはいつまでもくだらない〝迷信〟に囚われてクロノさんを虐げて、差別して、悪者扱いするーー。最低最悪の親子です!!あなた達の方こそ、悪魔じゃないですか!!……そんなあなたの求婚なんて、〝死んでもお断り〟です!!」
「っーー!!……シ、シェリカ……ちゃん?……一体何でそんなーー」
ガクリーー、と今度こそ膝から崩れ落ちるカイル。
そんなカイルを見下ろしながら、目尻に涙を溜めていたシェリカはフゥーッ、フゥーッ、と荒くした息を整えていた。
その様子を見て、落ち着かせようとクロノはシェリカの肩に手のひらを置く。
「…………シェリカーー」
困惑した様な、それでいて平静を取り戻したシェリカは申し訳無さそうにクロノに向き直る。
「……………………すみません、クロノさん。落ち着いて話をしようと思ったのですがーーダメですね。まさか、こんなに腹が立つとは思いませんでしたーー。……すみませんが、少し席を外します…………」
その表情を見て、クロノは一つため息を吐く。
「……ああ。わかったーー。後の事は俺がやっておくから、シェリカはちゃんと休むんだよ?」
「…………はい」
話し合いという話し合いは特に何もできないままーー、カイルは屋敷の空いている部屋に泊まる事になった……。
……………………。
「あいつのせいなんだ、あいつのせいなんだ、あいつのせいなんだ、あいつのせいなんだーー全部!!あいつのせいなんだ!!」
夜ーー。暗い廊下の中を、一人歩き回る姿がーー。
「シェリカちゃんがボクの求婚を拒むはずが無いーーシェリカちゃんは操られているんだ!あいつにーー」
カイルは今、猛烈に憎い弟の姿を思い浮かべていたーー。
そんなカイルの前方から一人、近づいてくる女性の姿がーー。
「この屋敷のメイドかーー、こんな貧相なところにもメイドがいたのか……?」
ふわりーー、と風に靡くショートカットの銀髪。
その姿に、カイルは一瞬見惚れる。
「これはこれはカイル様ーー。こんな夜更けにどちらへお越しですか?」
そのメイドの女性ーーエリスフィールは、相変わらずいつも通りの無機質な表情でカイルに問いかける。
その引き込まれるような藍色の瞳に、カイルの視線は釘付けだったーー。
「き、君はこの屋敷のメイド……なのか?」
「ん?……ええ、クロノ様に仕えておりますーーエリスと申します。以後、お見知り置きをーー」
「え、……エリスーーさん」
ゴクリーー、と生唾を飲み込むカイル。
「き、今日の料理はとても美味かった。……あれは君が?」
脈絡なく問いかけるカイルの問いに若干疑問を抱きながら、エリスフィールは答える。
「……ええ。この屋敷での一通りの家事を任されていますのでーー」
粛々と、目を伏せて答えるエリスフィールの姿に、カイルは完全に惹かれていた。
「そ、そうか…………」
そのまま無言で黙り込むカイルを前に、エリスは一礼する。
「他に……特に用が無いのであれば、これで失礼しますーー」
固まったままのカイルを尻目に、エリスフィールはそのまま動き出した。
「ま、待って!!……こんな屋敷にいても大して金にならないだろうーー?どうだい、ボクの専属のメイドとして《ランスロット家》に来ないか?こう見えてもうちは大陸でも最高峰の公爵家である〝十二爵家〟の一角だ。報酬だってここの十倍は約束するよ?」
キョトン、と首を傾げるエリスフィール。
自身に向けられる視線など意にも介さず、エリスフィールは目を伏せてカイルの勧誘を断った。
「申し訳ありませんが、私は生涯クロノ様に仕えると心に決めております。それ故、他の方に仕える気はありませんのでーーご容赦くださいませ。……それと今宵は風が強く吹きますので、身体を暖かくしてお過ごしください。それでは、私は仕事がありますのでこれにてーー失礼します」
エリスはそのまま立ち去る。
コツッコツッとーー、あとにはエリスフィールのヒールの音が廊下に響いた。
「なぜ……なぜ、あんな美少女がこんな古臭い屋敷のメイドなんてーー。給料だって絶対ボクの方が多く払えるはずなのにーー!!」
歯噛みしながら、カイルの小さな呟きが風に消えていったーー。
……………………。
「おはようございますーークロノさん」
顔色が多少良くなったかーーパジャマ姿のシェリカがクロノを起こしに部屋に入る。
しかし当のクロノはーー。
「……スゥーッ、スゥーッーー」
カイルがやってきた影響で増えた仕事の片付けを夜通し行っていたせいかーーシェリカのノックにも気付かずに爆睡していた。
「クロノさん〜〜、朝ですよ〜?」
シェリカが耳元でクロノを起こす。が、起きない………。
「……いいんですか〜、クロノさん。早く起きないと一緒に寝転んじゃいますよ〜?」
「…………スゥー、ピィー」
未だ眠った様子のクロノの姿に、チャンスとばかりに笑い表情で企むシェリカ。
「ふむ……。起きないなら仕方ありませんね。……それじゃあ、ちょっとだけお邪魔しましょう♪」
クロノのベッドに入り込むシェリカ。
「……なんというか、暖かいですねーー」
そのままシェリカもウトウトして、一緒に眠りかけてしまったーー。
……………………。
コンコンコンッーー
「お〜い!シユウッ!今日はお前の領土を見るという話だっただろう!?さっさと起きてボクを案内しろ〜!!」
しばらくしても返事が無いクロノに苛立ちを見せたカイルは、クロノの部屋に侵入する。
「何故ボクがお前を起こさなきゃならないんだ!さっさと起きて……えっ?えええええっ!!」
クロノの部屋にあるシングルのベッド。
その布団の中で横たわるクロノと……シェリカの姿を見て、発狂したような声を上げるカイル。
「ん……どうしたんですか兄さんーー。わざわざ人の部屋に入ってーー」
と、そこまで言ってクロノも気がつく。
隣でパジャマ姿のシェリカが一緒に寝ていたことにーー。
「…………あの〜、シェリカさん?何故にこのベッドでお休みをーー?」
クロノが問いかけると、とても眠そうな表情でシェリカが答えた。
「……ん?あ、クロノさんーーふぁ〜…………おはようございます♪」
朝日に照らされて、髪の頭上に天使の輪ができるウトウトとするシェリカ。
その様子はまさに天使の様だったがーーそうも言っていられない状況だったーー。
「シ、シ、シユウゥゥ〜〜!!」
……………………。
結論から言うと、兄さんは一人で領内を見回りに行ったらしいーー。
どうやら、俺の顔は見たく無いのだとかーー。
「全く……人のベッドで寝るなんて行儀が悪いぞ……シェリカ?」
「……反省しております」
すこし申し訳無さそうだが、どことなく夢見心地で嬉しそうな表情のシェリカ。
……本当にわかっているんだろうか?
「ご主人様のベッド、あったかいもんね!!」
朝一の元気を誇る、プルシュスカが答える。
「だからって、自分のベッドがあるんだから……というかそれ、プルシュスカもだからな?」
「は〜い!」と、指摘されても直す気の無さそうな返事をするプルシュスカ。
それをため息吐いて視線を横にするクロノだったがーー。
「今日は問題が起きないと良いけどなーー」
「…………それはーーフラグですか?」
残念な事に、シェリカの予想は当たる事になったーー。
しかも、かなり最悪の形でーー。
……………………。
その日の夕食ーー。
「な……なんで亜人族が食卓にいるんだよ!?」
昨日は早めにご飯を食べた為に、すれ違う事のなかったプルシュスカの顔を見てーー嫌そうに顔を歪めるカイル。
「そりゃあ……屋敷の住人だし従者だからなーー今はまだ無職だけど。」
「クロノさん……最後の一言はちょっと余計です」
そんな会話もまだ勉強中のプルシュスカには届いていないのは不幸中の幸いか、目の前の食事をがっついて食べていた。
「昨日見た時は奴隷を飼っているのかと思ったが……よく見れば首輪も奴隷紋もつけて無いじゃないか!?こんな危ない種族を放っておくなんて……お前は一体何考えているんだ!?」
亜人族は危険である。どうやら、これが貴族の常識らしいーー。
プルシュスカのいる日常に慣れすぎて、俺たちはすっかりマヒしていたがーー。
「まぁ、プルシュスカはちゃんと行儀良くご飯も食べられるし……申し訳無いけど我慢してよーー」
行儀良いーー方だろう。来たばかりの頃、素手を使ってご飯を食べていた時と比べてみればーー。
「チッーー〝薄汚い亜人族〟がーー」
その言葉を聞いて、機嫌が盛り下がる皆々。
そこにーー、ダンッーーと力強く料理の皿がリザーブされる。
「……どうぞ。」
薄汚い亜人族ーーその言葉がとても琴線に触ったのか、エリスフィールが一番目に見えて不機嫌な姿でカイルを見下ろす。
「エ、エリスちゃんまで……。…………一体、ボクが何をしたというんだーー」
知らぬが仏とはいうが、これは知っておいたほうが良いんじゃないだろうか?
そんな事を思いながら俺が美味しそうに料理を食べていると、どこからか嬉しそうに見守る視線を感じたーー。
……………………。
その日の夜ーー。
「…………ハァ」
顔を洗った帰り道、暗い廊下でため息を一つ吐くシェリカの姿が。
目を擦るその様子には、この頃の疲労具合が伺える。
「……最近、クロノさんと一緒にいられる時間が少なく感じますねーー。カイルさんは明日帰るとの事ですが、このまま穏便に過ぎていけば良いのですがーー」
窓の外から月を見上げて、シェリカは独白する。
「今宵は〝新月〟ですねーー。とても暗いですし、早めに部屋に帰りましょうーー」
そう言ってシェリカが振り返った、途端の出来事だったーー。
「おらっ!!」
「ん!?んんぅ〜……んんん!!」
夜闇に紛れた男に、手元に布を当てられて抵抗できず、そのまま連れ去られるシェリカ。
「よしっ!!このまま馬車に運び込むぞ!!」
「いよっしゃ!!」
「これで金貨500枚なんて……楽な仕事ですね〜」
夜闇に紛れた三人組による襲撃。
周囲には誰もいないーー。
そんな、最悪の場所とタイミングを狙ったーー刹那の事件であったーー。
物音一つ立てないその流麗とも言える動作は、彼らの経験の深さを物語る。
そのまま馬車まで、さるぐつわをされ、拘束された状態で運び込まれるシェリカ。
その様子に、気づく者はいなかったーー。
「大人しくするんだぞーー?下手な動きをすれば痛い目を見るからなーー命は取らねぇのかって?安心しろーー〝必ず生かして捕える〟って指示だからな。じゃあ、愛しのお屋敷にさよならを言うんだなーー行けっ!!」
そうーー御者台の一人の男に命令して、襲撃者の男たちに馬車で連れて行かれるシェリカ。
拘束された状態での彼女の叫び声は、虚しくも誰にも届かなかったーー。
(どうしようーーこれって多分……貴族を狙った〝誘拐〟。このままじゃわたし……わたしっ!!ーークロノさん……助けてーー)




