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21. エリスの本領


両者睨み合いーー沈黙。


クロノを背に庇うエリスと、おそらく《毒耐性》を持っているのか……頬に毒を浴びてもなお、正常に戦える刺客。


二人のハンディキャップには大きく差があったーー。


「なんと無くだが……〝あの旦那〟がおめぇも殺すよう依頼した理由がわかったぜーー。こうなりそうな展開を予想して、わざわざ俺を送り込んだんだろうなぁ……まぁ、もう一つ理由があるとすればーー亜人のお前を最初から信用して無かったかーーだ!」


カキィンーーと、一瞬で飛んで斬りを入れる刺客だったがーー僅か十五センチ程の小さなナイフでエリスは的確に受け流す。


「へぇ〜、やるじゃねえかーー?腐っても〝暗殺者〟ってところかーー!!」


スカンッーースカンッーースカンッーー!


三連撃目にも止まらぬ速さで襲う刺客だがーーエリスはこれも軽く受け流す。


(おかしいーーこの女。ここまで強ぇ気ィ纏ってやがったかーー?……明らかにさっきまでとは〝格〟が違うーー!!)


スパァンッ、スパァンッ、スパァンッ、スパァンッ、スパァンッ、スパァンッ、スパァンッーー


もはや暗殺者の戦いというよりは、生粋の剣士の決闘のように苛烈する両者ーー。


「ゲハハハハハハハッ!食らえ食らえ!!」


刺客はスキル《無影斬》も折り混ぜ、エリスの限界を試すように徐々にペースを上げていく。


カンッ、カンッ、カンッ、カンッ、カンッーー


未だーーエリスは小さなナイフ一つで全ての攻撃を弾いていた。


「このままでは少々ーー面倒臭いですね」


言葉の割には焦り一つ、その表情に出さないエリス。


刺客がエリスの力量を推測っていたように、エリスもまた刺客の限界値を把握しようと観察していた……。


(このままでは領主様の傷口が広がってしまいますーー。一刻も早く、この〝ノロマ〟を片付けなくてはーー)


スパンッーースカカッーースカッ!


攻撃の一瞬の隙をついたエリスは、足蹴りで刺客の手元を的確に狙う。


「ぐぅっーー!!」


刺客は武器を手放す事は回避したが、その影響で余分にダメージを受けた。


対してエリスは蹴りを利用して反転ーーバコンッ!!と物音立てながら、エリスはバックキックのかかと落としで刺客を地に伏せさせる。


「チッーーこのクソ女が!!」


後頭部に片足乗せながら、見下すように問いかける。


「どうですかーー先程までバカにしていた()()()()()()()()()()()()はーー?ずいぶんと身の丈にあったーーいい位置で頭を垂らしているじゃないですかーー?」


先程〝尻軽〟と呼ばれたのをずいぶん根に持っていたのか……悪役面ながらもよく似合う侮蔑の表情をしていたエリス。


その青い瞳で冷たい視線を浴びせーー見下ろすエリスの挑発に、顔を歪ませて刺客は立ち上がったーー。


「くそがっ!!」


ダンッーー、と地を蹴り、一瞬で刺客はエリスの真後ろ。横たわるクロノの傍へと着地し、太刀を入れようと近づく。


「へっ、だったら先に……おめぇの()()()()()()()()から殺してやるよ!!」


カキィィンッーー!!


刃を振り上げるーーが、刃が通らない。


「チッーー、一体なんだこれは!?」


ザシュッーーと、精霊の防御に阻まれて、刺客の腕を弾き飛ばし……その反動で僅かながらに鮮血が舞う。


「学習能力がありませんね……あなた。先程〝怪我された〟のをもうお忘れですかーー?」


「っーー!!なんだと〜!?」


血相を変える刺客に対して、エリスはそのまま嘲笑の言葉を続ける。


「ああ〜、力で動くあまり自身が()()()()()()()()で動きすぎて、脳に酸素が行かなくなっていたのですねーーそれは大変失礼しましたーー。」


手元のナイフを顎に当ててわざとバカを演出するエリス。


目を細めて、全く謝意のこもっていないエリスの煽りを見事に買った刺客は、こめかみにメキメキと怒りを露わにする。


「テメェ…………ぶち殺してやるっ!!〝《隠密》〟ぅっ!!」


クロノと同じーースキル《隠密》を使って気配を遮断する刺客。


エリスの視界から、刺客の姿が完全に影へと消え去るーー。


「ゲハハハハハハハッ!どうだどうだ〜?俺の姿が捉えられねぇだろうーー?そこの弱っちぃ領主の小僧のちんけな《隠密》じゃねぇ……熟練の〝暗殺者〟のスキルだ!お前程度に俺が殺せると本気で思ったか!?ああ!?」



エリスは呆れた様子でハァ……と、小さくため息を一つ溢す。


「おしゃべりな人ですねーー。無様に醜態をさらすその言動……なによりーー私の聞き間違いなら本当に申し訳無いですが……まさか〝あなた程度〟と〝領主様〟が同格等と自惚れているわけじゃ無いですよねーー?」


エリスはナイフを指先でコロコロッーーと転がしながら、刺客を捉えようともせずに目を瞑っている。


「同格ーー同格だと!?な訳ねぇだろバカ女が!!俺の方が()()()()()()だっつってんだよ!!」


刺客がエリスの横腹目掛けて斬り込みを入れるーー。エリスの隙だらけの一瞬を狙うーーが、しかし。


「遅い……弱い……狙いも甘い……領主様がエドワード様と訓練している様子と見比べれば、目に見えてザルですねーーあなた」


エリスは舞でも踊っているようにひらりと攻撃を交わし、当てつけのように刺客の横腹にナイフでブスリと小さく斬り込みを入れる。


「ぐっ……あああっ!」


ドサッーーと倒れ込み、《隠密》が解除されて姿を表す刺客。


対してエリスは追撃しようともせず、ただナイフを振り回して遊んでいたーー。


「まだやりますか……?まぁ、逃すつもりもありませんがーー」


勝負は決したーーかに見えたが。


刺客はゆらゆらと立ち上がり、最後の力を振り絞る。


「俺……様が、この程度で…………負けるわけがーーねぇだろうが!!〝《影分身》〟!!」


刺客の数が分裂して増える。


影から増殖した八体の刺客が、エリスから余裕の表情を奪う。


「……やればできるじゃないですか?最初から出し惜しみして大怪我を負って無様に醜態を晒すなんて……ドMですか?」


「うるせぇーー〝奥の手〟をそう簡単に出すバカがどの世界にいるんだよ!……これでおめぇらどっちも仕舞ぇだ!あの世で後悔しやがれーー!!」


複数の刺客が同時にエリスに襲いかかる。


しかしーーエリスは再びため息を吐く。


「本当にバカな人ですねーー奥の手を隠しているのがあなただけだと……本気でそう思っていたのですか?」


エリスは手を高らかに掲げて、パチンッと指弾きを一つ。


直後ーーエリスの頭上に剣を形どったーー圧縮された風が生成された。


「〝《風剣の舞》〟ーー!!」


エリスが発動するスペルスキルが、彼女を中心とした前方角に剣の風を展開させる。


そしてーーかざした手を振り下ろすモーションをしたーー彼女の指令に合わせて幾数もの風の剣は全てーー的確に影分身の腹部を刺し、分身体全てを(かすみ)へと散らした……。


だがーーそこに刺客の〝本体〟の姿は無いーー。


「逃げられましたかーー。《影分身》は囮ーー。おそらく今から追撃しても、始末するには相応の時間を消費してしまうでしょうーー。……少し熱くなりすぎたでしょうか。残念ですが、見逃す他よりありませんねーー。それに……それよりも今は、先にやるべき事がありますーー」


エリスは刺客が逃げた窓の外を流し見て、ベッドの傍らで横たわるクロノの傍へと駆け寄る。


「領主様ーーご安心ください。今すぐに治療致しますので……。《精霊よ・かの者に安らぎの光を》ーー〝ヒーリング〟!!」


エリスの精霊魔法に応えた精霊達が、クロノの傷を跡形も無く完治させる。


「これで一安心ですね。再度奇襲を仕掛けるという事は無いと思いますが……一応警戒はしておくべきでしょうかーー」


ほっと胸を撫で下ろしたエリスは、頭につけているメイド用のカチューシャを取り、クロノの傍で座り込む。


そのままエリスは、クロノを自身の胸に抱き寄せて、深く後悔の念に苛まれていたーー。


「私には……この方の傍にいる資格は無いーー。もしこの方の命とあれば、命をもって償う事も甘んじて受け入れるでしょうーー。でも……それでもどうかーーこのお方の意識が目覚めるまでのせめてもの間ーーもう少しだけ、お傍で見守らせてくださいーー」


エリスはそう言って、ようやく静かになったクロノの部屋で一人……安堵の息を漏らしたーー。


……………………。


「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッーー」


(聞いてねぇーーあのメイドがーーあんな〝化けもん〟だなんて聞いてねぇぞーー!!)


スキルーー《風剣の舞》。風魔法を極めた者だけが扱えるレベルの御業だ。〝風帝〟と呼ばれる者が習得する最低条件クラスーーとも言えるが、それはすなわち彼女の風魔法がそれだけ強大な事を物語るものだった。


そして、《精霊魔法》ーー。エルフの中でも限られた者にしか扱えない高度な魔法だ。


《雷魔法》、法魔族が扱う《氷魔法》と並んで恐れられる部類の技であり、《精霊魔法》の素質を持つ者が偉大な功績を残した例は数知れないーー。


かつて、《聖天大使・シユウ》と友好を結んだエルフの魔法使い《バーニヤ》もまた、《精霊魔法》を極めた使い手と言われていたーー。


刺客はあの一瞬でーー悟ったのだ。


〝この女には絶対に勝てない〟ーーと。


……………………。


二日前ーー。


《ランスロット家》屋敷ーー。


「おつきのメイドも殺す?なんで同じ暗殺者を殺す必要があるーー?」


「……あやつは金で釣られるような〝薄汚いハーフエルフ〟だーー。あの〝痣持ち〟を殺せるならば上々。万が一しくじっても、そこをお前が仕留め損ねるはずもあるまい。……心配するな、暗殺者とはいえどたかが二流だ。長年の研鑽(けんさん)を積んだ貴様が負けるはずもあるまいーー」


その契約がまさかーー失敗に終わるとは思っても見なかっただろうーー。


(ありえねぇ、ありえねぇ、ありえねぇ、ありえねぇ!!何故この俺があんなハーフエルフごときに遅れを取る!?一体何故ーー!!)


無数の傷口から地を垂れ流す刺客は、最後のエリスの冷たい瞳を思い出す。


(あれは〝暗殺者〟なんて可愛いもんじゃねぇ!!それよりもっと上の存在ーーまさかあいつ……〝S級〟クラス相当だって言いやがるのか!?)


S級クラスーー冒険者を基準に考えた場合の推し量り方だ。


S級上位を〝帝〟クラス。S級下位を〝達人〟クラス。A級以下もいくつか呼び方はあるがーーこの場合のエリスは〝達人〟クラスに該当するだろうーー。


A級とS級には〝絶対的な力の差〟がーー。


S級下位とS級上位には〝天と地程の差〟があると言う。


つまりは……刺客にとってエリスは〝絶対的な力量の差〟があったーーと言う事だ。


……………………。


コンコンコンッーー。


「……入れ」


「失礼しますーー」


《ランスロット家》屋敷ーー。


そこの客間には、任務の失敗の報告に向かったーー刺客の姿が。


「おおーー〝英雄〟よーー。帰還したかーー。」


当家の椅子から勢いよく立ち上がり、暗殺者の帰還に歓喜するアルメテウスの姿がーー。


対照に、任務を失敗で終えた刺客の内心はズタボロだったーー。


「それで……身元がわかる痕跡は残してこなかったのだろうなーー?おぬしには期待しているぞ。……ようやく肩の荷が一つ降りてーー」


「……しました」


「むーー?なんじゃーー?」


聞き返すアルメテウスの顔を直視できず、刺客は跪いた姿勢で下を俯いたままーー、任務の報告をする。


「《シユウ・ヴィ・ランスロット》の暗殺任務……失敗に終わりました!……ご期待に添うことができず申し訳ありませんーー」


「……………………は?」


アルメテウスは素っ頓狂な声をあげて、目を丸くする。


「……お前は何を言っているのだーー?失敗……失敗しただと?ふざけるな!……貴様らの〝暗殺者ギルド〟に一体我が家がいくら金を落としていると思っている!!……辺境の領主一人殺せぬとはおぬしそれでも〝暗殺者〟かーー!?恥を知れーー!!」


アルメテウスの叱責を甘んじて受け入れる刺客には、返す言葉もなかった。


本来、雇い主でもある《ランスロット家》の当主にものを言うなど良くて懲戒解雇ーー最悪の場合は極刑だろう。


しかしーー、頭に上った血が下がり切らない刺客は、アルメテウスの発言に対していよいよキレた。


「恥……恥だと?そもそもお前があんな融通の効かないメイドを送り込んだのが間違いだったんだろうが!!」


逆らわれるなど微塵も想定していなかったのかーーギョッと固まるアルメテウス。


「この俺が三流だと……あの女がーーあの女が全て悪いんだ!……何故、あんなーーあれ程の力を有した〝ハーフエルフ〟がちんけな暗殺業なんてやってやがるーー?……ああ、そうだ。あれほどの力をお前らごときが御せる訳がなかったんだーーお前達の不始末だ!!」


「き、貴様ーー雇い主になんたる無礼をーー処刑してやる!!」


「やってみろよ〝十二爵家〟最下位のお偉い《ランスロット家》当主様よぉ!!俺と今やり合って勝てると思ってるのか小せぇ器の君主の分際でガラクタみてぇな媚び売り人形の衛兵こどきにこの俺様がよぉ?ああっ!?」


「ひっーーひぃ!」


情けなく刺客の覇気に当てられて椅子に座り込むアルメテウス。


その姿を見て興醒めしたのか、刺客は緩やかにその場を立ち去った。


「チッーーあのクソウゼェ領主のガキの方がよっぽど〝器がでけぇ〟じゃねぇかーー」


刺客はエリスの言葉を思い返す。


『あなたごときが〝領主様〟と同等格だとでもーー?』


(認めたくはねぇが……確かにあのガキはやべぇ……。こいつが殺そうとするのも納得できるくれぇになーー。)


刺客は己の頬の傷口をなぞる。


怒りと憎しみを駆り立てて。


「覚えていやがれあのクソ領主とクソメイドどもがーー!!いずれ必ず……俺があの二人を殺す!!」


ああああああああっ!!と、廊下で大きく叫ぶ刺客の声がーー夜の闇に紛れて消えていったーー。


……………………。


暗い夜闇の中、月が二人を見守るようにーー差し込む光がエリスとクロノの二人を写していた。


エリスは先程からクロノの頭をゆっくり……ゆっくりと、無言で子供を想う母親のように撫でていた。


「うっ……うう〜。……あれ、エリス?」


目が覚めたクロノが、ぼやけた視界に映るメイドの名前を呼ぶ。


「っーー!領主様……おはようございますーー」


今までとは違うーー穏やかな優しい笑顔で、エリスはクロノに微笑みかける。


「……一つ聞いていいかーーエリス?」


「何ですか?」


「…………なんで、ひざまくらの上で寝てるんだ?」


「何かあっても、領主様をお守りできるようにですーー。まだ刺客が来ないとは限りませんーー」


「それって……どうしても必要な事か?」


「はい……。必要ですーー」


「……そうかーー」


傷口は治ったが、どっと疲れた様子のクロノはそのままエリスのひざまくらの上で天井を見る。


大半はエリスの顔で隠れて見えないが、彼女の顔を直視するのは話しづらかったーー。


「ご主人様…………私には、領主様の傍にいる資格はありませんーー」


「…………うん」


エリスは目を閉じて、クロノに問いかける。


「領主様……私の罪は決して許されるものではありませんーーどんな罰でも、甘んじて受け入れますーー」


「…………うん」


エリスは少しだけ目を開けて、クロノに問いかける。


「領主様ーー私はこれから…………どうすれば良いでしょうか?」


エリスはクロノの目をじっと見つめて、懇願するように問いかける。


「…………そうだな。確かに君は、道を間違えたのかもしれないーーそれはきっと、許されるものじゃ無いのものなのだろうーー」


「……………………はい」


目を閉じて、叱りを受ける子どものように反省するエリス。


その表情を見て安心したように、クロノは続けた。


「でもさーー、間違えない人間なんてきっとーーこの世にはいないよ。俺だって領主になったばかりで、毎日間違いだらけだーー。それでも……本当に過ちを悔いて、嘆いて、やり直したいーーそう思える人はきっと正しい方へ歩いていけるよーーエリスならきっと、もう後ろ暗い道を行かなくても……日の当たる道を歩いて行けるよーー」


「っーー!!…………領主様ーー」


ボロボロッーー、とエリスの青い瞳から大粒の涙が溢れ落ちる。


誰かに怒ってもらった事も、誰かに諭してもらった事も、誰かに本音を言った事も無いエリスにはーー今のクロノの言葉は何よりも心の奥に響くものだったーー。


「わたしは……もう一度ーーやり直せますか?」


エリスは涙を溢しながら、顔がぐちゃぐちゃのままに、クロノに問いかける。


クロノは起き上がって、エリスに向き直る。


「もちろん!……エリスが望むならきっとーーね!」


ニコッ、と笑うクロノの言葉に、泣きじゃくって抱き付くエリス。


「うっ、ひぐっーーうう……うわああああああんーー」


「エリス!?……ハァ、これじゃどっちが子供かわからないなーー」


ため息を一つ溢しながら、クロノはそっとーーエリスの背を撫でていた……。


……………………。


「落ち着いた?」


「はい……お見苦しいところをお見せしてしまいーー本当に申し訳ありませんーー」


目を赤く腫らしたエリスは、座り込んで反省の意を示す。


「ま……まぁ、そんなに迷惑って程じゃなかったから気にしなくていいよ……。それより、エリスはこれからどうしたいの?」


口に詰まるエリス。


本当ならクロノの傍でもう一度従者として働きたいーーそんな思いのエリスだったがーー。


「……私には……そのーー」


同時に殺そうとしたクロノの傍にはいられない。


それ故に言葉に詰まるエリスの内心を悟ったクロノはーー。


「そういえば、エリスってば俺の事殺そうとしたよね〜?」


「えっ?あ、それは…………はい。」


俯いて、目を伏せるエリス。


「さっきだってエリスを庇って大怪我したし……痛かったなぁ〜」


「……本当に、返す言葉もありません…………」


エリスはクロノの意図が読めず、ただ叱られる子犬のように反省のポーズをしていた。


「だからさーーエリス。本当に心の底から反省してるならさーーもう一度、俺の従者になってくれない?」


「わかりました……。領主様が望むならどんな処罰でもお受けしまーーえ?今、なんてーー」


虚を突かれたように目を丸くするエリス。


「だからさ、もう一度この屋敷でメイドとして働いてよ。……まぁ、相変わらずあまり報酬に関しては期待できそうな額は払えないけど……」


「いいんですか?わたしなんかがいて。…………本当にーーここにいて、良いのですか?」


エリスは座り込んだまま、クロノに問いかける。


「当たり前だよ。……だってもう俺たち、〝家族〟だろ?同じ屋敷に住む……さ」


家族。


エリスにとっては、憶えてもいないーー蒸発した両親がそれだったーー。


以来信じられる者などおらず、いく先々で〝ミミナシ〟である事を理由に不遇な思いをしてきた。


どこにいっても邪険にされて、魔族とも人間とも仲良くなれない〝ミミナシのハーフエルフ〟。


それがーー彼女の人生の全てだったーー。


だから、初めて言われた言葉にエリスは……心の中に火が灯る感覚を覚える。


他者を憎む事しか出来なかった人生。


他者を羨む事しか出来なかった人生。


己の生まれそのものを呪うしか出来なかった人生。


それが……ようやく終わるーーと。


「領主……様」


ポロポロ、と先程あれだけ泣き尽くしたと言うのに、またも涙を溢すエリス。


「フフッ、本当にエリスは……今日はよく泣くな。」


涙ながらに嬉しそうな笑顔のエリスは、指で溢れる涙を拭う。


「領主様ーーエリスじゃありませんよ」


「えっ?……それってどう言うーー」


エリスはクロノに向き直り、真っ直ぐとその瞳に意思を灯す。


「私の名前はエリスじゃありません……本当の私の名前は〝エリスフィール〟。それが、わたしの本当の名前です!」


ニコッ、と少し首を傾げたエリス……エリスフィールの表情は、出会ってから今までで一番の笑顔だった……。


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