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18. 銀髪のメイド

 

エドワードの一挙手一頭に、全身で身構えるクロノーー


が、しかし……。


「ふっ…………〝隙だらけ〟……だなーー」


ヒュウーースパンッーー!!


クロノはエドワードの未来を予見するーーが、しかしーー、クロノの視界が一瞬ぼやけたかと思ったその刹那のタイミング……いつの間にかエドワードがクロノの喉元に木刀を突き立てていたーー。


一瞬、エドワードの姿が消えたように見え……その一瞬後に、クロノの持つ木刀が弾き飛ばされる。


「は…………速すぎるーー」


唖然として、驚愕の表情でエドワードを見つめるクロノ。



クロノの見た未来は自身が打たれる姿でーーそれを変える事は不可能だったーー。



「未来が見えりゃ、何とかなると思ったか……?



「こ……降参……ハハッ」


勝負の幕はーーあまりに呆気なくエドワードの勝利で終わったーー。


……………………。


領主屋敷にてーー。


「う〜ん……絶対一本くらいはいられると思ったんだけどな〜……」


あれからずっとぼやぼやと頭を悩ませるクロノ。


「お疲れ様です。クロノさんーー」


シェリカが隣に座り込む。


ミルクの入った紅茶の匂いがーー食欲を誘う。


「何を飲んでいるんだーーシェリカ?」


「ん?これですか……?これは、ミルクティーですよ♪……エリスさんに教えてもらったんですが……隠し味が入れてあるんです」


「隠し味ーー?」


シェリカが耳元に顔を寄せ付けてヒソヒソと喋りかける。


「ハチミツですーー」


「ハチミツーー?確かに、そう言われればそんな感じの匂いがするなーー」


シェリカはニコッ、と笑って答える。


「疲労回復効果もあって、とってもおいしい……まさに、一石二鳥ですよね♪それに……一緒に合わせて飲むってなんだか、とっても贅沢ですよね」


「贅沢……か」


シェリカの言葉に、ふと黙り込むクロノ。


「それに……隠し味はもう一つあるんですよ」


「もう一つーー?」


そう言うとシェリカは、クロノの口にミルクティーをすくったティースプーンを突っ込む。


「うんっーーむぐむぐ……ん?」


とても甘い……けれど、ほんの少ししょっぱいような……酸味のある味わいが。


「ん……?これ何の味だ?」


シェリカは間を置いて、ウィンクしながらあどけなく答える。


「ふふっ♪……レモン果汁ですよ。小さいからこそ……存在感が目立たずに美味しく感じる事もあるというものです♪あ、こっちは私のオリジナルですよ?名付けるなら『ハチミツレモンミルクティー』です♪」


「な……なるほど」


確かに、これを一口飲んだだけではハチミツもレモンもわからなかっただろう……


しかし少量の〝隠し味〟でここまで味の変化が楽しめるなんて……意外と紅茶は奥が深いな……。


「隠し味…………隠し味?…………そっか、《隠密》と《未来眼》……そもそも2つ分けて使うのが間違っていたのかーー」


「隠密に……未来眼……ですか?」


急に話の変わるクロノに、頭に疑問符を浮かべるシェリカ。


いつもは《隠密》は攻める時、《未来眼》は守る時と無意識に分けて使う事が多かったーー。


でも違うんだーー。両方を組み合わせて使うのがきっと本当は正しい使い方だったんだーー。


何よりーー、《未来眼》は殆どノーリスクノーリターンで使えるのだから、やらない意味がない。


「ふふっ。それにしても、一つの飲み物にたくさんの味わいを混ぜ入れる……それって何だか贅沢ですよね〜」


「贅沢……か」


「クロノさんーー?」


さっきから上の空で会話がどこか通じてないクロノに、シェリカは再度首を傾げる。


昔からの先天的な気質か、育った境遇かーークロノはあまり〝贅沢〟というものをした経験が無かったーー。、


故に、戦闘の視野が無意識に狭まっていたのだろうーー。


「ありがとうシェリカ。……なんだか、モヤっとした気分が晴れたよーー」


「ん……?そう、ですかーー?」


キョトン、としたシェリカはそのままーー自室に戻るクロノを見送ったーー。


……………………。


屋敷の中の厨房ーー晩餐を終えた後、一人かたづけをする人影がーー。


「あ、いた!エリス〜」


「……こんばんは、領主様ーー何のご用でしょうか?」


相変わらず無機質というか塩対応というか……表情の変化が少ないエリスに対して若干落ち込むクロノ。


「ま、まぁ……いいや。片付け手伝おうか?」


クロノがそう問いかけると、無言でフルフルーーとエリスは首を横に振る。


「いいえ、片付けは従者である我々の仕事ですのでーー領主様はどうぞ談話室でお寛ぎください」


いつになく冷たい様子のエリスに、ふとクロノは違和感を憶えるーー。


(何か嫌なことでもあっとんだろうかーー?……まぁ、機嫌の悪い日なんてよくあるよなーーアメリアなんて、月の半分くらいは怒り散らしてたしーー)


ふと思い耽るクロノーーアメリアの『はぁ!何言ってんの?こんなの全っ然怒ってないし!!』という姿が目に浮かぶ。


「……わかったよ、何かあったらいつでも言ってくれーー」


「…………かしこまりました、領主様ーー」


クロノの言葉に、相変わらず機械のように無感情で答えるエリス。


その様子を不思議そうに見過ごすーークロノであったーー。


「…………領主様」


……………………。


数時間前ーー


「残念だったな、領主」


「先生……あんな一瞬で距離詰めるなんてそんなの対処できっこ無いですよーー」


「それはお前がまだまだ未熟なだけだーー本気で俺に一本取れると思ってたのかーー?」


クロノは小さく舌打ちしながら、そっぽを向く。


「…………まぁ、成果としては上々だなーー」


「上々ってーーどこがですか?」


クロノは伸びをしながら、大の字で地面に横たわる。


今日は筋トレのような日課は程々にだったがーーどうやら、エドワードとの一戦は相当集中力を持って行かれたようだったーー。


「…………まぁ、敗北を知るのも良い機会……って奴だ」


「……俺、こう見えて結構……トラウマになりそうな敗北をした経験があるのですがーー」


厄災との邂逅を忌々しげに話のネタとするクロノ。


それをエドワードは鼻で笑ってどこかへと吹き飛ばしたーー。


「それより……明日からはお前の実践力を鍛えに行こうと思うーー」


「実践……一体どこに?」


話をそらしたエドワードは、《エンドラ領》からみて北東の位置を指し示した。


「この付近の外れの山の中……そこにあるーー〝ダンジョン〟だーー!」


……………………。


「ダンジョン……ねぇーー」


ダンジョンーーそれは、古代遺跡の総称である。


世界各地には大昔の建造物の神殿やら城やらが廃墟化しており、そこを魔物が根城にして蔓延る事があるらしい……。


中には財宝や昔の魔道具等が眠っていたりもするのだがーーダンジョンに潜り込む事で得られる戦闘経験は何にも変え難いものがある。


例えばスキルだってそうだーー。先天的に生まれた〝ジョブスキル〟のようなものを除けばスキルを得る手段は大きく分けて二つ。


一つ目は、実践経験をいくつも重ねて得られる後天的取得によるものーー。


二つ目は、ダンジョンの中に稀に存在すると言われるーー《スキルの魔液》である。


この《スキルの魔液》は飲めば特定のスキルが手に入るが……実は剣や盾に垂らすと装備に付与されるものがあるのだ。


これがあるか無いかで、武器の価値に大きく差が出ると言うのは、言うまでも無いだろうーー。


「ダンジョンーーか」


クロノはずっと本でしか読んだことの無いーーダンジョンという世界が如何なるものかを……胸の奥で、ほんの少しだけーー期待して眠りについたーー。


……………………。


カツッカツッーー


「……スゥー、スゥー」


カツッカツッカツッカツッ


「…………フゥ〜」


ガチャリーー


静寂が支配する夜闇の中ーー、静かにクロノの部屋が開かれる音が。


カツッカツッーー


その人影はクロノのそばに歩み寄り、懐からナイフを取り出す。


「……………………」


数秒から数十秒の間。黙ったまま寝息を立てるクロノを見下ろしていたーー。


「……………………申し訳ありませんーー〝領主様〟ーー」


その言葉を皮切りに、クロノの胸元にナイフが差し込まれるーー。が、


カキィィィィィンッ!!


「っーー!なっーー」


刃が通らない。


「っーー!!……一体何がーー!……誰だ!?」


クロノはベッドから飛び起き、侵入者に向かって身構える。


(〝《天啓眼》〟での予知が当たっていた時のために……鉄サラシを体に巻いておいてよかったーー!!……でなきゃ、今頃あの世行きだったなーー)


クロノの安堵も束の間ーー。


対象の者は闇に守られその姿を視認する事はできないーーが、わずかな《未来眼》でのゆらめきを頼りに、クロノは素早く反射する。


スパンッーーカカッ、ガンッーー!


敵は素早いーー。〝暗殺者〟の類だろうーー。が、クロノもまた〝暗殺者〟の力を使う事ができる。


クロノは《隠密》状態に入り、姿を眩ませたーー。


「〝《隠密》〟ーー!!」


「っーー!!…………〝気配遮断〟ですかーー」


対する敵は、密かに目を閉じる。


クロノの僅かな殺気や視線を頼りに、攻撃を防いでいた。


「っーー!……これが先生の言っていた……〝気配感知〟に優れた相手かーー!!」


僅かな挙動が全てギリギリで回避される。


おそらく、戦闘経験という意味では以前戦った盗賊の頭ーージェノよりも遥かに上だろうーー。


がーー、何故か目立ったスキルを使う素振りは見せない……。


「〝《未来眼》〟!!」


クロノの目に、相手の行動の先が映される。何故か、クロノの《隠密》が見破られ、回し蹴りを一発ーー止めに、風魔法で壁に叩きつけられ、意識を失う姿だーー。


(何故こんな暗闇の中《隠密》をここまでーーこれが先生の言っていた〝気配感知〟に優れている敵かーー。……でも、それならやるしかない!)


「…………なるほど、そこですね」


敵は《隠密》で隠れたクロノの位置を特定し、回し蹴りを一つする……が、


パシィィィッ!


それを先読みしたクロノが掴む。


「……………………」


敵はもはや動揺する気配は無く、瞬時にナイフを取り出しクロノの顔面目掛けて差し込むーーが、


足を止めた瞬間ーークロノも《未来眼》を発動しており、その攻撃を間一髪で交わしきる。


途端ーー、クロノの頬から数滴の血が滴る。


「…………終わりです」


敵はもう片方の手でクロノに《風魔法》を飛ばそうとする。露出したその白い手からは、くるくると螺旋しながら風魔法がクロノを襲おうとしていたーー。


が、クロノもまた懐から何かを取り出しーー咄嗟にスポンッと蓋を外す。


「これでどうだっ!」


「……えっ、あーーきゃあっ!」


即座の判断でクロノが思いっきり投げた〝コショウ〟は効果絶大だったのかーー敵は大いに怯んで隙を見せた。


「小さいからそこ……だな。シェリカ?戦闘の最中コショウをぶつけられるなんて想定して無いだろう?」


クロノは敵の上に跨り、両手を拘束する。


ふわりーーと、銀色の髪が風に靡いた。


「これで終わりだーーもう観念しろ!」


護身用のナイフを取り出したクロノーーだが、やがて雲に隠れた月が照らし出され、闇夜から現れたその者の姿を見て硬直するーー。


観念したようなその表情からは、よく見知った藍眼の瞳が覗かせていた。


「っーー!!まさか…………エリス?」


「……………………」


ぷいっと、そっぽを向くエリス。


死闘が終わりーーやがてクロノの部屋に静かな終息が訪れた。




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