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13. エルロード家の家族



またも出てくるシェリカの爆弾発言に、一瞬時が止まったかと錯覚する。


この子は一体いくつ爆弾を隠し持っているんだ…………?


「実は、実家にはしばらくシユウさんのお傍で領主補佐として経験を積んでくると言ってーーお暇をもらったんですよ♪」


ニコリと笑い、グッドポーズを決め込むシェリカ。


「…………あの〜シェリカさん……何を言っているのかな?」


頭の中で整理が追いつかない。


俺の知らないところで色々と話が進みすぎている!!


「ふふっ♪こう見えてもわたし、色々と経営の勉強とかもして来たのでそれなりに知識はある方なんですよ?きっと、シユウさんのお役に立てると思います!……それにーー」


「…………それに?」


シェリカがぐいっ、と顔を覗き込むように顔前まで急接近する。


ゴクリッーーと生唾を飲み込む音が、心臓の鼓動を早める。


ドクンッーー


ドクンッーー


ドクンッーー


「ーーふふっ♪それに、シユウさんもやりたい事がいっぱいあるお年頃だと思うので、代理で領地を任せられる人材がいると言うのは願っても無い話では?」


(ばーーバレてる!)


確かに……ここ最近は先生との稽古や何やらで時間がいくらあっても足りない状態だけどーーいくら何でも侯爵家の令嬢にそんな事を頼むわけにはいかないーー。


第一、シェリカはまだ六歳だーー。いくら人並み外れて賢いからと言っても、領主としてはそんな大事な役割をおいそれと任せていいはずが無い。


何よりーー


「シェリカだって、やりたい事とかあるんじゃないのか?」


シェリカは俺と違って実家を追い出された訳でも無いーーなら、別に領主補佐などしなくてもいくらでもやりたい事ができるはずなのだがーー。


「ふっーー本当にあなたは鈍感な人ですねーー」


「んーー?それってどう言うーーっ!!」


シェリカは人差し指をクロノの唇に当てて、あどけなく答える。


「〝あなたの傍にいられる〟ーーそれがわたしの、『一番やりたい事』ですよ♪」


「っーー!!……シェリカーー」


片目を閉じて、ウィンクしながらのシェリカの答え方は、とても強力な熱を籠らせる。


ニッコリーー、と笑顔のシェリカはクロノの横を過ぎ去って玄関から屋敷へと入る。


「それじゃあ、おじゃましますね♪」


後に残ったクロノは、ため息を一つ吐きーー


「……ま、何か適当に理由つけて帰らせよう。さすがに数日滞在すれば、飽きて帰ると思うしーー」


シェリカの付き人と一緒にとりあえず、〝貢ぎ物〟を屋敷へと運び込むクロノだったーー。


「あっーーそういえば、一人称〝ボク〟から〝俺〟に変わったんですねーー?男らしくて、とても立派です!」


「え?……そういえばそうだなーーいつからだったっけ?」


本当にシェリカはーーよく見ていらっしゃる。


……………………。


「おじゃましま〜す♪」


ガチャリーーと食卓のドアを開けた瞬間、シェリカの元に一人の少女が飛び込んでくる。


「ご主人様ぁ〜!!」


「きゃあっ!?」


勘違いでプルシュスカが思いっきりダイブした為、ドサドサッーー、と二人して転がる。


「あれ……ご主人様じゃなかった?」


初めて見る顔に、きょとんとするプルシュスカ。


「痛たたた……えっとーー誰?」


目の前に居るーー尻尾をふりふりとした亜人の少女を前に、シェリカは固まる。


そして同時にーー、クロノも固まる。


(しまった!シェリカにプルシュスカの事伝えて無い!!)


「ごめん……もしかしてシェリカ、亜人族の事嫌っーー」


クロノがそう言ってシェリカに弁明しようとしたーーその時だった。


「な…………何ですかこの可愛い生き物〜!!」


「…………可愛い生き物?」


「……ふみゃあ?」


ほっぺに両手を当てて、人が変わったように興奮するシェリカ。


(あ……あれ、思ってたのと反応違うーー)


「も……もふもふの耳にーーもふもふの尻尾。ああ……これが、亜人という種族ですか……シユウさん?」


明らかに六歳児の子供らしさを見せて興奮するシェリカ。


正直……クロノもシェリカがここまで子供らしい一面を見せるのは初めての出来事だったーー。


「あ……ああ。奴隷商の話じゃ〝ニュートリア〟って種族らしい……。まぁ、魔大陸にはよくいるんだとさーー」


「っーー!!…………奴隷……ですか?」


(しまったーー!明らかにシェリカの顔色が悪くなっている……このままじゃ嫌われて…………あれ、穏便にお帰り頂くならむしろちょっとくらいは嫌われた方がいい……のか?だったらこのままーー)


そう……思案していたクロノだっだが……


「やはり……やはりシユウさんはとても心暖かい人ですねーー」


「…………へーー?」


シェリカはうっとりとした表情で、クロノの手を包み込む。


「だってそうなのでしょうーー?こんなにも幸せそうな亜人は初めて見ましたから……。きっと、奴隷としてでは無く従者としてーーあるいは家族として、大切に引き取っていたのですねーーシユウさん♪」


(な……なんか、変な感じの方向に好感度上がってる……?……まぁ、間違いじゃないけど計画がーー)


「……?ご主人様、この女の人何て言ってるのーー?」


「……プルシュスカの事が可愛いんだとさーー仲良くしてやってくれーー」


クロノのその言葉に、うん!わかった!!と元気に返事をするプルシュスカを見て、シェリカがーー


「シユウさん……わざわざこの子と意思疎通をする為に〝亜人語〟までーーこの短い間でこんなに流暢に話せるようにまでなって……素敵ですーー」


ほろり、と溢れ出る涙を拭うシェリカ。


勘違いでクロノへの好感度が上昇中だったー。


(い、いやいやシェリカさん…………それはただ《言語翻訳》スキルを使っているだけですよーー)


とは言えない……。ジョブシリーズの《言語翻訳》は生まれつきのスキルだから、もし持っている事がバレたら後々嘘がバレて面倒な事になるーー


何より、そんな事を言ってしまえばまた変にシェリカの好感度が上がってしまうかもしれない……。


この子の好感度スイッチがどこにあるのか未だに全然わからないのだからーー。


「なぁ、〝領主〟。この子は一体ーー?」


とーー、あいさつが遅れたエドワードがクロノに問いかける。


「ああ、この子はシェリカ。幼なじみで、侯爵家の令嬢です。……シェリカ、こっちはエドワード先生だ。今は剣術を教えてもらってるーー」


「赤い髪……もしかして、〝剣帝エドワード〟様ですか!?」


「おう……まぁ、あんまりその呼び名で呼ばれるのは照れ臭くてしょうがないんだが……にしても嬢ちゃん、物知りだな!〝領主〟の事よろしくな!」


「はいっ!それはもうーー〝末永く〟……」


今最後にボソッと何か聞こえた気がするけど……聞かなかった事にしておこうーー。


和気あいあいと雑談している中ーー、一人の老執事がやってくる。


「おやおや……お久しぶりですなシェリカ様。このような辺境の地によくぞ足をお運びくださいましたーー」


「アーモンドさんっーーしばらくご厄介になろうと思うのですが……よろしいでしょうか?」


両手を頬に添えて頼み込むシェリカの姿に、フォッフォッと豪快に笑うアーモンド。


「もちろんですともーー。気の済むまでごゆるりとお寛ぎくださいませーー。お部屋はクロノ様と同じ部屋に致しましょうかな?」


「ちょっーー何言ってんだよ!?」


「クロ……の?」


何やら頭の整理が追いつかない様子のシェリカ。


(そうだ……そう言えばその辺の諸々もまだシェリカには話して無いんだったーーでも、これも良い機会かもしれないなーー)


意を決して、シェリカに打ち明ける。


「シェリカーー俺……名前を変えたんだよ。だから、もう《シユウ・ヴィ・ランスロット》とはーー名乗ってない……」


クロノの発言に、耳を疑うようにして問いかけるシェリカ。


「名前を……変えた?一体どんな名前ですか?」


「…………《クロノ・ゼルディウス・エルロード》だーー」


「っーー!!クロノ……ゼルディウス……エルロードーー!!」


驚愕の表情で、一瞬固まるシェリカ。


しかしーー


「ふっーー。なるほど…………そう言う事ですかーー」


何か腑に落ちたように、安堵の笑みを浮かべるシェリカ。


「ほう……さすがシェリカ様。クロノ様の名前の意図がわかったのですか?」


アーモンドの発言に、伏し目で答えるシェリカ。


「ええ…………もちろん。クロノは初代聖天大使シユウ様が、仲間に無実の罪で追放された時に……放浪の旅に出た際に使ったと言い伝えられている名前……。ゼルディウスは亡きミーリア様の〝旧姓〟。そしてーーエルロードはランスロット家の頭文字Lを型どったーーいわばもじり名。エルロードとはつまり、〝ランスロット卿〟を意味する言葉ーー。とても素敵な名前ですーーシユウさん。……いえ、クロノさん……」


一瞬でそこまで看破されるシェリカの頭の回転の速さには、相変わらず脱帽する。というかーー


(改めて言われるとなんかちょっと恥ずかしいなーー)


「わたしも最初に名を変えたと聞いた時は反対しようと思いましたが……クロノ様がそこまで考えて変えた名ならば、文句のつけようもありません……。形を変えても、ミーリア様の思いはしっかりと残っていらっしゃる……。きっと、天国にいらっしゃるミーリア様も半笑いで納得されるでしょうなーー」


胸に手を当てて感傷に染み至るアーモンド。


「まぁ……言い方を変えれば皮肉るような名前の付け方でもあるんだけどな……」


そう言って、自傷をするクロノ。


「まぁ……見方によってはーーですね。〝追放されたゼルディウスの血を引くランスロット家の子供〟ーーという事になりますから。でも、本当の意図は違うのですよね?」


シェリカの鋭い考察に、ギクリーーと目を逸らすクロノ。


「ま……まぁ、なーー」


(さすがシェリカ……そこまでお見通しとはなーー)


「へぇ……それで、一体どんな意図で名前をつけたんだ?」


一息ついて、クロノは語りかける。


「対外的にだけど……エレミア姉様とも、母様とも……たとえ遠くに離れてても、ちゃんと血の繋がった兄弟ですよーーって事さ」


言ってて恥ずかしいのか、頬をぽりぽりと掻くクロノ。


その様子を見て満足そうに、シェリカは両手を頬に当てた。


「さすがクロノさんーーそれなら《ランスロット家》の名を語らずともお二方との繋がりを残せますねーーあ、そう言えばエレミア様からも手紙を預かってたんでした!どうぞ!」


ドレスの懐から大事そうに取り出すシェリカ。


旅の道中ずっと肌身離さず持っていてくれたのか……貢ぎ物が物なだけに、一番安いはずの手紙を大事に抱えてくれてありがたい。


「ありがとう、シェリカーーえっと、どれどれーー」


『拝啓ーーシユウへーー。お母さんのお葬式、一緒に出たかったよねーー?出席させてあげられなくて本当にごめんなさい……。本当はわたし、今こうやって手紙を書いている今もあまり……前向きな事は書けません。でもーーきっとお母さんならこう言うよね。寂しい時ほどーー』


「〝笑顔で前向きにーー元気に明るくーー周りにいる人達に頼ってーー自分の進みたいと思う方向へ進んでくださいーーどんな時でも挫けずに頑張ってーー大変な時ほど気合いを入れてーーどんな困難でも立ち向かってみてくださいーー心配せずともきっとーーあなたの傍には誰か頼れる人がーーほんの一人でもいるはずですーー本当に大切なものは地位でも財産でも無くーーどんな時でも一緒に居てくれる大切な仲間なのですからーー〟」


途中から目を瞑り、昔から口酸っぱく言われ続けてきた母親の言葉を朗読するクロノ。


その姿にーー、一同深く感心したように聞き入り、アーモンドとシェリカに至っては涙を溢していた。


『だからもしーーわたしに何かできる事があれば、何でも頼ってくださいーーbyエレミア』


全て読み終えて、最後にクロノも涙を溢す。


(姉様も大変なはずなのに……お金を貸してもらおうだとかーーちょっと不謹慎だったかなーー)


クロノはエドワードに問いかける。


「先生……そう言えば剣術指南の顧問料なのですがーーいくらぐらいになりそうですか?」


クロノのその問いかけに、エドワードは笑って答える。


「あ?顧問料?そうだな〜……まぁ強いて言えばーー三食飯付き宿暮らしってな!」


「っーーそれじゃあ全然足りないんじゃ……」


クロノの言葉を、黙って静止するエドワード。


「あのな……別に俺だって金が欲しくてアーモンドの頼みに承諾したわけじゃねぇ……。自慢じゃないが俺は相当腕が立つから、今までもいろんな騎士族から剣術指南の声がかかっていたからなーー」


「っーー!……じゃあ……何で?」


クロノの問いかけに、ニヤリと笑う。


「おめぇが……なかなか面白ぇ奴だったからだよーー」


「…………それってーー」


「公爵家の生まれなのに、〝痣持ち〟だったから常に排斥の視線を浴びて来た。元いた実家からも母親が死ぬや否や追い出され、辺境の領主なんてクソだりぃ事を文句も言わずやろうとしやがるーー。おまけに金もねぇのに死にかけの奴隷を全財産賭けて助けると来たーーそんな奴のどこに興味を持たねぇ要因がある?」


「…………先生」


エドワードは笑って答える。


「要はつまり、お前が気に入ったんだよーー《クロノ・ゼルディウス・エルロード》。俺がおめぇにーー〝剣〟を教えてやるーー!!」


(何よりお前はーーいつか俺を超えるかもしれねぇ逸材だからなーー)


エドワードにとっては、金では無いーーそれ以外の〝価値〟を持つクロノに剣を教える事が、何よりの誇りだったーー。


「っーー!!ありがとうございます……」


それは、クロノの心の底からの感謝の言葉だったーー。


「…………みんな、何言ってるのか全然わかんない」


一人だけ仲間外れのプルシュスカはしょんぼりとして、あとでみんなからお詫びに遊んでもらうのだったーー。

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