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11. エンドラの森 後編


……………………。


(この雰囲気ーーただ事じゃねぇなーー!!)


最全速で森の中を駆け抜けるエドワード。



しばらくすると、一匹の大蛇と相対する。


「ジャイアントスネークかーーこいつじゃねえな!ーーだが、人里を襲う危険な魔物だ。なんでAランク相当のこいつがいるのかは知らねぇが……まぁいい!」


背中に携える大剣ではなく、腰に携える紺色の剣を抜刀するその刹那ーー妙な違和感を覚える。


(っーー!!こいつ……敵対心がねぇーー)


エドワードを向こうも認識している……が、襲うそぶりは見せない。それに不可解な事に、片目を怪我している。


「どういうこった……一体この森で何が起きてやがる?」


少しばかり、ジャイアントスネークの眼を観察するが……やはり、敵意は感じられない。


「しかたねぇなーーわかった。見逃してやる。ただ、人里には出るなよ……」


「…………キシャアッーー」


エドワードの意図を解したのかーージャイアントスネークは《エンドラ領》とは別の方角へ向かう。


「さて…………寄り道食っちまったかな。急ぐかーー」


ジャイアントスネークがいた僅か三百メートル程の距離の地点に、クロノの気配を捉える。


「クロノと嬢ちゃんの気配は……こっちかーー!」



タタタタタタタッ


タタタタタタッ


タタッーー


「クシャアアアアアアアッ!!」


「プルシュスカッーー逃げろ!!」


カキィンッーー!!


「っーー!エドワード先生……?」


「よう〝領主〟。……遅れてすまなかったなーー」


エドワードはクロノの目の前に大剣を突き刺し、腰に携えた〝紺色の剣〟で黒い大蛇と相対する。


一瞬ーーできた隙を見計らって、黒い大蛇はブンブンと首を振る。その風圧でスポンッーーとクロノの短刀が抜けた事により、大蛇はその左目を再生した。


仕切り直して、両者警戒モードで対面する。


「んじゃあーーやるか!」


「えっーー先生……」


クロノが問いかけるや否やーー先行を取ったエドワードの姿が消え去る。


そしてーー


ズシャシャシャシャシャシャッーー!!


「グシャアアアアアアアアッーー!!」


黒い大蛇の全身を無数の斬撃が襲う。


黒い大蛇の頭身から尾にかけてを一瞬で駆け抜けながら切り裂いていくーー。


「えっーー今……何が?」


クロノの《未来眼》には殆ど何も映らない。それほどまでの神速ーー。


しかし……


「へぇ〜……なかなかの再生力じゃねぇか?」


一瞬で斬られた箇所を再生する黒い大蛇を前に、感心した様子のエドワード。


「んじゃあーーさっきよりはもうちっと早く行っても大丈夫だなーー!!」


ズバッ、


ズバッ、


ズババババババッ!


今度は再生よりも早く、エドワードの剣戟が大蛇を襲う。


スパンッーー


スパンッーー


「グアアアアアアッ!!」


まるで龍のような咆哮を唱える大蛇。こうなればとあたり構わず自身の毒を撒き散らす。


「おっと〜?そんなノロさじゃ当たんねぇよーー!!」


クロノが《未来眼》を使ってやっと回避出来る速度の大蛇の攻撃全てを、赤子でも相手取るかのように全て軽く交わしながら斬り込みを入れていくエドワード。


その圧倒ぶりはもはやむちゃくちゃだったーー。


「つ、……強いーー!」


「ご主人様ーーエドワードさん早いね…………」


ジャイアントスネークよりも硬く、強さ、速さにおいて格上ーー猛毒を撒き散らす上に、再生能力まである。


これほどの相手をこれだけ余裕を持って相手取る事ができるーーそれが〝剣帝〟の極みに位置する存在であると、改めてクロノは思い知る。


勝負が開始して僅か一分ーーその電光石火の出来事だったーー。


そして……ついにーー


ストンッーー


最後には呆気なく、ジャイアントスネークよりも硬そうなその生首をいとも簡単に切り落とす。


ブシャッーー


剣についた毒血を払い落とす素振りまで全てがーークロノの目にはかっこよく写った。


まさしくーー〝英雄〟。


「本当に…………すごい」


一仕事終えたと言わんばかりに、クロノに向かって歩み寄るエドワード。


「おい、怪我はねぇか?」


まるで散歩中に転んだ子供に問いかけるように、あっさりとした表情のエドワードだったーー。


……………………。


一件落着。と、言えようーー。


黒い大蛇はエドワードが討伐し、その後の処理は間も無く自警団によって行われるだろうーー。


ウォーウルフも、黒い大蛇の毒性が無い部位を嗅ぎ分けて持ち去っていったしーー当分食料には困らないハズだ。


「ふぅ〜」


緊張の意図が切れ、その場にへたり込むクロノーーと、そのタイミングでの出来事だった。


『〝ジャイアントスネーク〟を倒しました。経験値を獲得しました。レベルがアップしました。レベルが5→8に上がりました。《未来眼》のスキルレベルが2→3に上昇しました。《天啓眼》のスキルレベルが1→2に上昇しました。《隠密》のスキルレベルが1→2に上昇しました。スキル《盗賊の申し子》により、スキル《ポイズン》を獲得しました。格上との戦闘ボーナスにより全能力値が10上昇しました。現在のステータスは以下の通りです』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


氏名  クロノ・ゼルディウス・エルロード 7 男 Lv8

 

所有スキル  《盗賊の申し子》、《未来眼》Lv3、

       《天啓眼》Lv2、《隠密》Lv2、《言語翻訳》


パラメータ  《筋力》73 《敏捷》92

《知力》137 《反射》115

       《体力》200 《魔力》105


スキルシリーズ一覧


オリジンシリーズ《盗賊の申し子》


魔眼シリーズ《未来眼》《天啓眼》

 

ジョブシリーズ《隠密》《言語翻訳》


マジックシリーズ《ポイズン》



特殊効果1:《反逆の意思》


1:常に精神力が一定の基準値となります。



特殊効果2:《魔女の権能》


1:魔力の消費が85%軽減されます。


2:《未来眼》、《天啓眼》の使用限度が無制限となります。



称号:現在所有している称号はありません



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ステータスシールド上に表示される自身のステータス値を見て、驚愕するクロノ。


「へぇ〜、トドメを刺したわけじゃなくても経験値は入るんだな……魔物相手でもやっぱり有効か……。しかも、スキルまで手に入ったし。……《ポイズン》ーー?って、あの大蛇が撒き散らしていた毒の事だよな…………どうせなら再生能力の方が欲しかったけどーーまぁいいか!」


ぶつぶつと独り言を言うクロノを前に、キョトンと首を傾げるプルシュスカ。


「ご主人様〜、大丈夫?」


立ち上がり、プルシュスカの頭を撫でるクロノ。


「ああ、もう大丈夫だーー。あとはもう一匹のジャイアントスネークがいたはずなんだけど…………」


クロノが周囲を探っていると、エドワードが。


「ああ、〝普通の〟ジャイアントスネークだったら《エンドラ領》とは別の方角に逃した。……たぶん、心配いらねぇだろーー」


「っーー!……さすがは先生ですね……何から何までありがとうございますーー」


クロノの礼に対して顔を赤くして照れるエドワード。


「べ、別にたまたま通りすがりにいただけだしな……敵意もなかったみたいだし…………」


「しかし……そうなると不可解なのはやはり、この黒い大蛇ですねーー。何故、魔大陸でも無い……この辺境の地にこんな危険な魔物がーー」


本来、ジャイアントスネーク自体聖大陸でも滅多に見ない希少種だ。それのさらに凶悪なものとなると、情報が出回るなり王都からの騎士団が駆け付けたりとしていてもおかしく無いハズーー。


そんなクロノの問いかけに、エドワードが一つの考察をぶつける。


「こいつはジャイアントスネークの〝亜種〟だ……。おそらく、どっかの国がジャイアントスネークに改造を施してこの国に解き放ったんだろうーー。全く……どこのバカがそんな事をーー」


ひとつだけ、クロノには思い当たる節がある。


「…………確か、ライレン辺境伯様は近年《ドラドゥーク王国》が領土拡張の為に躍起になってるって言ってましたーーまさか……?」


エドワードは両手をあげて肩をすくめる。


「そのまさかーーだろうな。あのバカ国王ならやりかねん……。最近は《インクリア》と《ドラドゥーク》は陰険な間柄だって聞くしな……全く上の貴族連中は何の為に会合やらパーティーしてるんだか……あ、お前も貴族だったな。悪りぃ」


「…………別にいいですよ」


全然悪びれた様子もなげに、手のひらを差し出すエドワード。


隣国からの不穏な足音が近づいてくる事実にーークロノは若干の不安を胸に抱くのだったーー。


「…………はぁ、ほんと〝災厄〟ーー」


……………………。


屋敷に戻るや否や、サウナにでも行ってきたのかと言わんばかりに全身から汗が噴き出てオロオロとするアーモンド。


「ただいま〜」


「坊ちゃまーー!!」


開口いの一番にクロノの元へと走り出す。


「お怪我はありませんか?ご気分は悪くありませんか?お腹は減っていませんか?服が泥だらけではないですか!?それにこんなに傷だらけでーー誰か〜!誰か医者を呼んで来てください〜!!」


「…………アーモンド、うるさい」


ジト目で心配性のアーモンドに一言申すクロノ。


後ろでは同様にぐったりとしたプルシュスカと、ケタケタと笑っているエドワードの姿がーー。


「とりあえずプルシュスカーー先に風呂に入ってこい、俺はあとでいいから」


「えっーーでもご主人様ーー」


クロノは上着を脱ぎ去り、自室へと向かう。


「俺はちょっとやる事があるから、風呂から出たら教えてくれーー」


そう言ってーー屋敷の二階へと向かっていったーー。


……………………。


「あの時ーー聞こえてきた声は一体…………」


脳内に響き渡る声と、あれだけ大きな黒い大蛇を動けなくする力。


「まるでーー〝時が止まった〟みたいにな…………」


かつてーーキツネガミと出会った際に、神気を解放した時の朧げな記憶の中に一つ気になる文面があった事を思い出すーー。


がーー、何故か思い出そうとすればするほど……謎の黒いモヤがかかってうまく思い出せないーー。


「〝神気〟ーーこれは一体何なんだ?」


自身のステータスシールドをなぞり、空に向かって疑問を呈すクロノ。


《未来眼》や《天啓眼》に付随した〝厄災の魔女〟の一件も未だに謎が解けた訳では無いーー。


自分自身の増え続けるばかりの謎に対してーー深く瞳を閉じて考察するクロノであったーー。


……………………。


チチチチチチチチッーー。


「またか…………」


「ふがぁ〜……ふみゃあ〜…………」


相変わらずベッドに潜り込んだプルシュスカに、頭をくしゃくしゃと掻き立てるクロノ。


(こいつ…………部屋に鍵かけといた方がいいかなーー?)


昨日の出来事が嘘だったかのように、晴天が祝福する気持ちの良い朝だったーー。


……………………。


「んじゃあーー今日の練習だが……まずは筋トレからだ!」


朝食の食卓の中、隣に頭ボサボサのプルシュスカ、向かい合ってエドワードが対面する形で練習会議を行う。


「筋トレーー?」


今日のメニューはアーモンド特製野菜スープとじゃがバター&スクランブルエッグ。


紅茶にコーヒー、ミルクと皆別々で清々しい朝食の始まりだったーー。


「ああ、お前はまず大前提として体ができてねぇ。子供だから仕方ねぇってのもあるが……それでもやっぱりお貴族様の体つきだ。しっかりと基礎身体能力が身に付いたら剣を教えてやるーー」


まず大前提の体ができなければ剣の技術は扱えないーー道理であろう。


現に昨日エドワードが黒い大蛇を討伐した際も、クロノより明らかに一撃が重く、移動速度だって脚力は比にはならないーー別次元と言えるものだったのだからーー。


「…………わかりましたーーよろしくお願いします!」


丁寧に頭を下げるクロノーーと、そこに、コンコンコンッーーと玄関を叩く音がする。


「こんにちは〜、郵便で〜す」


領主屋敷に引っ越して一ヶ月。初めての郵便であったーー。


「郵便?一体誰からだろうーー」


玄関に行き、封筒を受け取る。


中身を見るとそこにはーー



『拝啓ーーシユウさん、お久しぶりです。シユウさんがそちらの領主を任されてからもうすぐ一ヶ月が経ちますねーー。最近ではお姉ちゃんも落ち着いて魔法の訓練をしているそうです。『自分ももっとシユウさんのように強くなりたい』と言っていましたーー。最近ではエレミア様もお母様の一件から立ち直って政務に戻られているようですーー。まぁ、あの人は根がしっかりしていますから心配は無いのですが………そちらの天気はどうですか?体調は順調ですか?悪い女の人に捕まっていませんか?……シェリカは心配です。まだお手紙の返事がもらえず、きっと政務もお忙しいかと思いますーーそんな時期でのお手紙申し訳ありません』


「そうだったーー手紙の返事、すっかり忘れてた…………」


頭をくしゃくしゃ、と掻いて唸る。


着いたらすぐにとは書かれていなかったから油断したか……。


現に昨日使った短剣だってシェリカが送ってくれたものだったし、配慮が足りなかったかと反省するクロノ。


しかしそれよりーーやはりシェリカらしいと言うかなんと言うか……とても大変な事になりそうな文言が最後に一言添えてあったーー。


『ですので、近々お伺いしますね!!』


「…………そうだった……シェリカって、こう言う奴だったーー」


はぁぁ……とため息吐くクロノを、不思議そうに見つめる三人であったーー。

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