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10. エンドラの森 中編



すんでの所でーー回避する。


こう言う時に真価を発揮するのが《未来眼》である。しかしーー、


「はぁ……はぁ……やばいなーー」


一撃を避けるだけでも一苦労のジャイアントスネークの攻撃を、誘導したり木に当てたりとずいぶん無茶を繰り返した影響か、思ったより早く体力が限界に近づいていたーー。


ジャイアントスネークがーー睨みつけるようにこちらを見つめている。


「ハァ……ハァ……」


次の一瞬を見逃してはいけないーー。見逃せば確実に死ぬーー。


全身全霊をかけて、奴の姿を《未来眼》で集中して捉える。


しかしーー、そこに映ったのは想定外の光景だったーー。


「なっーー!!二匹目ーー!?」


《未来眼》に映る光景には、ジャイアントスネークの襲われて首を食い破られる姿がーー。


しかも、映る光景の一部始終はいつもより長く、最後は二匹目の〝何か〟が俺に向かって牙を突き立てるシーンで終わったーー。


この光景ーー似たようなものに憶えがある。


「そうか……これが、〝《天啓眼》〟かーー。」


天啓眼ーー〝厄災の魔女〟が持っていたと思われる力。


何故俺にこの目が宿っているのかわからないが……このまま目の前のジャイアントスネークと戦り合うのは得策ではないーー。


今にも俺を襲おうとせんばかりのジャイアントスネーク。


そんな時ーー、ふと脳裏によぎる。


(もしかしたら……魔物相手でも《言語翻訳》のスキルって使えるんじゃないのかーー?)


プルシュスカはウォーウルフと吠える事で対話していた。つまり、コミュニケーションを取る事事態は不可能では無いと考えられる。


それがもし本当ならーー躊躇っている時間は無い。《天啓眼》の光景が本物なら、もう一体の大蛇はすぐそこまで来ているのだからーー!!


やるしかない!


「……………………シャールッスシュアー……ダ、……セッーーシュウォシャアッーー」


今にも襲い掛かろうとするジャイアントスネークに語りかけるーー。


それが上手くいったのか……ジャイアントスネークは目を見開いて固まった。


「シャールッスシュアー……ダ、……セッーーシュウォシャアッーー」


繰り返し、ジャイアントスネークに語りかける。「すぐそこまで、黒い大蛇が迫っているぞ」ーーと。


それを半信半疑で捉えた様子のジャイアントスネークは、一度俺から距離を取り周辺を警戒する。


そして何かの気配を察知したのか、それとは真逆の方向へ逃げるように走り去ったーー。


「…………って、そっちは街のある方面じゃねぇか!!」


ウォーウルフはジャイアントスネークから逃れるように《エンドラ領》へとやってきた、そしてそのジャイアントスネークは黒い何かから逃れるようにしてやってきたのだとすればーーそれは一体……?


「っーー!!この気配……やばっーー」


逃げ遅れたクロノは、一目散に近場の木に隠れる。


そこから見えた魔物は黒い大蛇で、ジャイアントスネークよりもさらに一回り大きい様子だったーー。


(おいおい嘘だろーーあんなの近づいたらひとたまりもねぇぞーー?)


黒い大蛇は何かを追うように、辺りをぐるぐると這いずり回っている。


「このままじゃプルシュスカ達もあれに巻き込まれる事になるかもしれないーー俺がなんとかしないとーー」


立ち上がり、移動しながら情報を整理する。


(奴が探しているのはおそらくジャイアントスネークだ。共食いかは知らないけど、よほど栄養価が高いんだろうな……。もしくは、腹が満たせるからかーーでも、俺やプルシュスカもあんなのに見つかったら丸呑みにされてお陀仏になる事は間違いない……かと言って、あれを《エンドラ領》内でのさばらせておくのは領民への被害が拡大するも同じだーー。そのためにできる事は…………)


明らかに格上、苦戦して負けかけたジャイアントスネークよりもさらに格上の黒い大蛇……。


それでもやはり……引く事はできない。


「……ハァ、しっかりやらないとなーー〝《隠密》〟」


クロノは自身の姿を隠し、黒い大蛇に接近する。


(奴は今ジャイアントスネークを探しているから、それ以外の警戒はノーマークなはずだ……。《隠密》が切れたら速攻で連続使用すれば、さっきみたいに解除されてもバレない…………はずだ!!一気に仕留める!!)


クロノは最速で黒い大蛇の先頭のところまで走り込む。


「〝《隠密》〟、〝《隠密》〟、〝《隠密》〟、〝《隠密》〟ーー」


タッタッタッタッタッーー。


ダッーーダダッーダッー


タンッタンッーー


スタッーー


黒い大蛇の顔の上に立ち、静観するクロノ。


「…………お前の見てる景色って、ずいぶんといいものだなーーいきなりで悪いけどっーー」


クロノは飛び降り、そのナイフで黒い大蛇の両目を切り裂く。


スパッスパッーー


クシャアアアアアアアアッーー!!


最速で決めた二撃分の攻撃は、会心の出来といってもいいだろう。……しかし、クロノは完全に油断をしていた。


(これで俺に出来る事はもう無い。悔しいけど、後は応援部隊に任せてーーえっ?)


黒い大蛇の両目が再生していたのである。


(バカなーーなんであいつの目が再生して…………〝スキル〟か!!)


おそらく自己再生の類のものだろうかーー《隠密》が解除され、クロノの姿が露わになる。


「……ハハッ、なんかさっきとデジャブってるな……この状況……。でも!」


クロノは再び《隠密》を発動…………できなかった。


「えっ!?ーー何で?……まさか…………魔力切れか!?」


先程の事があって、黒い大蛇にバレないように連続して《隠密》を使ったツケがここで回ってきた。……やはり、扱い慣れていないと相当量の魔力を消費するのだろうーー。《魔女の権能》で大幅に消費軽減がかかっているにもかかわらず、魔力が底をついたのがいい証拠だ。


「ならっーー!〝《未来眼》〟!!」


敵意がクロノに向いたーー黒い大蛇の一撃。


その未来を先読みして、ギリギリで回避する。


(やっぱりそうだ……《未来眼》に使用制限は無いーーつまり、魔力消費がほとんど無いんだ!)


しかし、黒い大蛇の猛追は止まらない。


「クシャアッ!!」


「っーーやばいっ!!」


クロノが大急ぎで回避する。


先程いたクロノの位置には、黒い大蛇が放った猛毒が雑草を枯れさせていた。


「うっげ〜あっぶねぇ……こんなのまであるとか反則だろーー」


悪態をつくクロノだが、呑気にくつろいでいる余裕は無い。


黒い大蛇の攻撃を交わして、交わして、交わして、交わす。


さすがに体力限界が近いクロノは、ついに足をつまづき、隙を見せてしまったーー。


「ハァ……ハァ……ハァッーーこれ、やばいかも……なーー」


ジリジリと追い詰められるクロノ。


呼吸は荒く、魔力に続いて体力まで限界に差し掛かった。


「やばっ……死ーー」


隙を見せたクロノに向かって襲いかかるーーその瞬間。


???「だめです、マスター!!」


パキィィィィィンーーと、音がする。


脳内に謎の少女の声が響くと同時に、目の前の黒い大蛇の動きが止まったーー。


「っーー!!……これは一体ーー」


???「急いでそこから離れてください!!時間がありませんーー早く!!」


再び脳内に、謎の声が響き渡る。


「っ!一体誰なんだ!?ーー」


返答は無い。


とりあえずクロノは、黒い大蛇から距離を取り、木陰で身を潜める。


その直後ーー時が動き出した黒い大蛇は困惑した様子で、周囲を探り始めた。


「今のは一体ーー?」


脳内に響く謎の声に、時が止まった黒い大蛇。


わけがわからないが……今それを考えている暇はない。


(今のうちに逃げるかーー)


距離を取ろうと動くクロノ……しかし、その僅かな気配の動向をーー黒い大蛇は見逃さない。


「クシャアアアッ!!」


「おいおい……勘弁してくれ!ーーどんな索敵能力だよっ!?」


黒い大蛇の性質を利用し、木々の間をすり抜けてとぐろが絡まるように動き回るクロノ。


「一か八かやってみるか…………。頼むーー間に合ってくれ!」


ダァンッーー!


後方で黒い大蛇がその口で噛みついた木が割れるような音を発する。


「あんな一撃……食らったら即死ーー!!」


ぐねぐねと、黒い大蛇の攻撃をギリギリで交わせるタイミングで避けながら誘導するクロノ。


体力はーー本当に限界が近い。


「ハァッーーハァッーーハァッーー」


ダァンッーー


ダァンッーー


ダァンッーー!


いくつも攻撃を避け、毒を回避し、黒い大蛇を誘導ーーしかしもはや、打てる手は無い……。


本当の本当にギリギリの最後ーー追い詰められたその刹那、クロノは大きな賭けに出た。


キシャアアアアアアアッ!!


黒い大蛇が突っ込むタイミングーー


「今だ!!」


クロノは隠し持っていたナイフを大蛇目掛けて放り投げる。


ザクッーーと、黒い大蛇の片目にナイフが突き刺さり、その痛みで奇声をあげる。


「ッーー!!シャアアアアアアアアアアッ!!」


「よしっ!当たった!!」


ナイフが刺さった状態なら片目は自己再生が効かない。


そこを狙ったクロノの賭けは成功した。


しかしーー


「……ハハッ、もう無理ーーだな」


あとはジリジリと後ろへゆっくりと退いていくーーが、もはや間に合わない。


(ここまで…………か)


黒い大蛇がクロノ目掛けて突進するーー。


本当に僅か数センチ……。あと少し退却が遅れていたら今頃死んでいただろうかーー。


ギュムンッ!と音を立てて眼前の所で身動きが取れなくなる黒い大蛇。


どうやら……クロノの賭けは成功したらしい。ギリギリのところで、とぐろがあっちこっちに絡まって黒い大蛇は動きを封殺された。


「ハッーーハハッ、間一髪ーーだな」


しかしもう……クロノに出来る事は本当に無くなったーー。


体力の限界で身動きが取れないのは、クロノも同様である。


「急いで……こいつから離れないとーー」


黒い大蛇から距離を取ろうと歩き出すクロノ。


がーー、しかし、大蛇もただ黙って見ているだけでは無かったーー。


「キシャアアアアアッ!!」


「えっーーやばっ……」


毒を吐くモーションを取る大蛇に対して、クロノにはもう避けきる体力は残ってないーー。


「あと一歩…………足りなかったかーー」


諦観したように、瞳を閉じるクロノ。


ここまで巨大な大蛇相手にやってのけたのだーー冒険者だったなら大金星間違い無しの活躍だ。


そうーー諦めかけた、その時だったーー。


タッタッタッタッ


タタタタタタタタタッーー!


ガバッーー!!


黒い大蛇が猛毒を吐くその刹那の瞬間ーーギリギリのタイミングでプルシュスカがクロノを抱いてその場を離脱する。


ズザザザザッーー


「ハァッーーハァッ、ハァッ、ハァーーハァ…………大丈夫、ご主人様!?」


すっかり青ざめた表情のクロノを抱き抱えながら、プルシュスカが心配して問いかける。


「プル……シュスカーー何でここに?」


魔力も体力も尽き果て、意識が朦朧とする中捉えた従者の言葉に、疑問の意を呈す。


「ふふっ♪もちろんーー助けに来たんだよ!それにね……私だけじゃないよ!?」


プルシュスカが視線を向けるその方向には、身動きの取れなくなった黒い大蛇に一斉に襲いかかるウォーウルフの群れが。


「わおぉ〜ん!!ワンッワンッ!!」


「わぉぉ〜〜ん!!」


ウォーウルフの仲間達が、互いに呼び合いながら連携をとって大蛇を仕留めにかかる。


「…………あいつら、平気なのか……毒があるのにーー?」


抵抗する黒い大蛇を前に、ウォーウルフの群れが次々と突進する。


「あのね、あの子達は野生の魔物だから雑食なの。だから、毒蛇を狩る時にうっかり猛毒を飲み込まないように仕留めるんだって!」


「……ハハッ、そりゃあすごいなーー」


キシャアアアアアアアッ!!と抵抗しながら暴れる黒い大蛇に容赦なく牙を突き立てるウォーウルフ達。


しかし、後方でミシミシというーー嫌な音がする。


「っーー!……プルシュスカ、まずい!!」


「えっーー」


黒い大蛇が力技で絡まったとぐろを巻き取り、木々を破壊しながらだんだんと解き放たれていく。


タタタタタタタタタッ


「今すぐウォーウルフに退くように伝えて!」


「えっ?……わ、わかったーー」


あうぉ〜ん!とプルシュスカが叫ぶーーが、退却が間に合わずに黒い大蛇は再び解き放たれた。


クシャアアアアアアアッ!!と、完全に怒りを露わにする黒い大蛇。


クロノがナイフを刺した片目以外の傷は完全に再生して癒えてしまったーー。


タタタタタタタタタッ


「こりゃあーー今度こそ完全に詰んだかもなーー」


そう……クロノが悟ったーーその時だ。


タタタタタタタタタッーー!


キシャアアアアアアアッーー、と襲いかかる黒い大蛇の攻撃はーークロノ達に届く事は無かったーー。


カキィィィィィンッ!!


甲高い金属音が、森の中を響き渡る。


「っーー!一体何が……。ーーっ!!」


寸前のところで、クロノの視界の前に現れたのはーー〝赤髪の剣士〟だった。


「エ……エドワード先生!?」


「よう〝領主〟!……遅れてすまなかったなーー」

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