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07. 赤髪の剣士


???「へぇ〜、ここが《エンドラ領》か〜〜。ずいぶん穏やかでいい風が吹く所だなーー」


大剣携えた赤い髪の男が、目的地へ向かいながら領内を散策する。


???「にしてもアーモンドの奴ーー領主の子供に剣を教えろってなかなかずいぶんな無茶言いやがる……。ま、昔のよしみでやってやるが……肝心な所は()()()()だなーー」


男は領主屋敷の前に着くと、一つ大きな伸びをする。


???「んじゃ、ご挨拶と行こうじゃねぇかーー俺の初の〝お弟子さん〟よぉーー!!」


コンコンコンッーーと、ドアをノックする音が。


「はぁ〜い……どちら様ですか?」


礼儀正しく、クロノが軽く挨拶をする。


「よっーーおめぇがここの領主の坊主か?」


「…………え、違いますけどーー」


(だって俺が領主だし……)


しかし、話がこじれている為か、男はーー


「えっ!?あれ、もしかして俺場所間違えたっけなーー?」


「失礼ですがーー行き先はどこなのですか?」


少し面倒くさそうに、クロノが問いかける。


「エンドラ領の領主の屋敷だ!」


「それじゃあここですねーー」


「領主の息子はここに住んでるのか?」


「領主に子供はいませんよーー」


「じゃあ違うじゃねぇかっ!!」


「結局誰をお探しなんですか……?」


話が絶妙に噛み合わない。紙一重で、二人とも勘違いをしていた。


「えっと……名前なんだったっけなーークロネ……クノイチ……いやいや、もっとこうーーそうだ!クロヤマだ!クロヤマって奴ーーここの領主だろ?」


「ここの領主の名前はクロノです」


「惜しい〜!!……じゃあ違うなーー」


(本当に一体何なんだこの人ーークロヤマって誰だ……?この辺の辺境伯の名前にそんな人いたっけかーー?)


この数週間で覚えた周辺貴族の名を思い出すーーが、クロヤマなる人物はクロノの頭の中にはいないーー。


第一、彼が探しているのはエンドラ領の領主の息子ーーその前提が食い違っているのである。


「もしかしてだけど……あなたが探しているのってーー」


「わかった!さんきゅーな坊主!また来る!」


「ーーあっ……」


行ってしまった…………。


「…………変な人」


勘違いに気づかないクロノは……そのままドアを閉めるのだったーー。


…………。


「どなたでしたか?」


「……なんか、人違いだったっぽい……」


腑に落ちない様子で食卓へと戻るクロノ。


「ご主人様〜、今日は何して遊ぶ〜?」


「今日はちょっと出かけるからプルシュスカーーお留守番しててくれるか?」


「えっーーご主人様、お出かけしちゃうの?……嫌だよ、寂しいよぉ……」


うるうる、と涙目で懇願するプルシュスカ。


釣られそうになって相変わらず甘やかしてしまいそうなクロノだが、今日ばかりはそうは行かなかったーー。


「……ごめんなプルシュスカ。今日はお客さんが来るかもしれないからプルシュスカにはお出迎えをして欲しいんだ。これは、とっても重要な役目なんだよーー」


「……重要な役目……?」


従者としてのプライドか、プルシュスカの瞳がキラリと光る。


「ああ、これは大事な役目だ。プルシュスカ以外に頼める人はいない……引き受けてくれるか?」


「…………わかった。それじゃあ今日は我慢するぅ〜。その代わり、帰ってきたらいい子いい子してねっ!!」


パッと明るい笑顔でおねだりするプルシュスカ。


「ああ!おいしいお菓子も買ってきてあげるから、大人しく待っているんだぞ!……あと、お客さんが来たらこの食卓で待つよう案内してあげてくれ!」


「わかった〜!いってらっしゃい、ご主人様っ!!」


ブンブンと元気に手を振るプルシュスカ。


「それじゃあ行きましょうかお坊ちゃま。少し遠いですが、ライレン辺境伯の領地ーー《カルネラ領》へーー」


「ああ……行ってくれーー」


「いってらっしゃぁ〜いっ!!」


……………………。


「…………ここはどこだ?」


「ここは雑貨屋ですよーー」


「また間違えた〜〜!!」


……………………。


《エンドラ領》から北方に約四十キロメートル程離れた所にあるライレン辺境伯の収める領地ーー《カルネラ領》があるーー。


今回は新領主に就任した旨の報告とご挨拶といった所であったーー。


「はじめましてーー《エンドラ領》の領主となりました《クロノ・ゼルディウス・エルロード》と申しますーー。お見知り置きくださいませーー」


「遠路はるばるご苦労様でしたーー。《カルネラ領》の領主ーー《ライレン・アヴァロン》と申します。以後、お見知り置きをーー」


年は二十代半ばといった所だろうかーー。金髪のとても親しみのある好青年といった様子の男が挨拶をする。


「それにしてもーー噂には聞いていましたがまさか君のような幼い少年が領主に就くとは驚きですーー。あ、すみません。決して悪気があった訳では無いですよ……とても誇らしい事です」


他意がなく、爽やかで敬意を表している事が察すれる態度はまさしく、紳士貴族の振る舞いと言えようーー。


現に、クロノもそんなに悪い気分ではない。


「お褒めに預かり光栄ですーーライレン辺境伯様。此度はお招き頂きありがとうございますーー。」


それからは、領主としてのイロハや領民との接し方のコツ、クレーマー民の対処の仕方から恋煩いの治し方までと終盤ちょっとズレかかってはいたが、クロノにとっては目から鱗の情報を色々と学べる一日となったーー。


……………………。


「ここはどこだ!?」


「ん?わしは農家じゃよ……君こそ誰だね?」


「全然違えぇぇぇぇぇっ!!」


……………………。


夕刻ーー。


「今日は貴重なお時間をありがとうございました。目から鱗の良い勉強の機会となりお礼のしようもありません!」


「いえいえ……君みたいな活気溢れる辺境伯の仲間が増えた事は頼もしい限りです。……ただでさえ、最近は魔物の活性化や隣国との緊張状態が続いたりとやたら問題が多いですからね……とくに隣国の《ドラドゥーク王国》は領土の獲得の為に最近躍起になっていると聞きますし……《魔大陸》と争っている今大陸内で争うなど愚行の極みだと言うのに……ああ、すみません独り言をーーこの度はこちらこそありがとうございました。クロノ君の着眼点は私も目を惹かれる所があり、とても良い気分転換となりましたよーー」


何やら物騒な独り言が聞こえた気がするがーー難しい話はとりあえず置いておこうーー。


「今日は本当にありがとうございました!従者がとても行きたがっていたので、今度来る時は連れてきてもよろしいでしょうか?」


「ええ!構いませんよーー。次の来訪を楽しみにしていますーー」


別れ際に握手を交わし、《ライレン伯家》を出るーー。


プルシュスカのお土産もしっかり入手してから、クロノは《エンドラ領》へと帰還するのだったーー。


……………………。


コンコンコンッーー。


「はぁ〜い!どちら様でしょうかーー?」


「…………ゼェ、ハァ……ゼェ……ハァーー嬢ちゃん、ここは領主の屋敷かーー?」


「エドズィシュラ……バルワプフレ?」


「……………………亜人……か?」


クロノは完全に失念していたーープルシュスカは人間の言葉が喋れない事をーー。


……………………。


「そういえばアーモンド、今朝方言ってたお前の知り合いってどんな奴何だっけ?変わった奴ーーとは聞いてたけど?」


「ふむ……そうですな、一言で言えば天然……でしょうか?」


「……天然?」


「ええ、昔からダンジョン内に一人置いていかれたり、魔物の群れで一人逃げ遅れたりとしていた様子ですね……」


「……それは、大丈夫なのか?」


かなり重篤な問題だと思うんだがーー。


「しかし剣の腕に関しては間違いありません。それだけは確かです。このじいが責任を持って保証致しましょうーー。」


「…………へぇ〜」


アーモンドがそこまで言うなら信じよう。無理に頼んだのも自分なんだし。


しかし先行きが不安なクロノ。ーーと、そろそろ屋敷が見えてきた頃だったーー。


「あそこで話してるのーープルシュスカか?もう一人誰かいるみたいだけどーー」


「あれは…………まさかーー」


屋敷の外で二人、怪しげな会話をしている者達がいたーー。


「ウィーナ・ペルシャニアスッ……レティナリィ?」


「オウオウッーーアー、ナンダッケェ?」


「ヴィーア……ナンマータッーーキディニアス!」


「キ…………キディニアス?」


全く通じてない亜人語を話すプルシュスカと、全く通じてない亜人語もどきを喋る怪しい男との会話を呆れ顔で見ているクロノとアーモンド。


その様子はあまりにも滑稽だったーー。


「……坊ちゃま……あれはーー?」


「……言うな、アーモンド。何も言うなーー」


(完っ全に忘れてたーープルシュスカ、お前を置いて行った俺がバカだった……。悪かったからーー、一人でよく頑張ったんだなーー!)


ポロリ、と親心のような涙が滴る。


「う?あ、ご主人様おかえりなさいっ!!」


ブンブンッーーと、尻尾を振ってとてとてと主人の元へ駆け寄るプルシュスカ。


クロノはよしよしーーとプルシュスカの頭を撫でてあげていた。


「あ!お前ぇ……昼間の坊主!つか、アーモンドいるじゃねぇかーー!!」


声を荒げてクロノとアーモンドに向かって指を刺す。


「ふむ……お久しぶりですな、エドワード。ところで……プルシュスカと何を喋っておったのですじゃ?」


エドワードと呼ばれた男は、アーモンドの指摘に顔を真っ赤にする。


「べっーー別に何も!?……ちょっと嬢ちゃんをからかってやっただけだしーー」


「プルシュスカは何を話していたんだ?」


「ん〜とね……不審者ですか?って聞いたらソウデスネって答えてたの。ねぇねぇ、ご主人様〜……ソウデスネってどう言う意味〜?」


そうですね……。


「亜人語でマーキニだよ〜」


「そっかぁ〜…………それじゃあ……この人不審者?」


そうですね……。


「ん?ご主人様……泣いてる?」


…………そうですね。


「はぁ……とりあえず、三人とも中に入ってはいかがですかな?そろそろ夕食の用意と致しましょうーー」


「はぁ〜い」と元気に答えるプルシュスカ。


やっと屋敷に入れる事が嬉しい反面、ヘトヘトの様子のエドワードだったーー。


(あれ…………エドワードってどっかで聞いた事ある名前なんだけど……どこだったかなーー?)



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