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01. エンドラ領の新領主


「弱さとは恥ずべき事にあらず、真に恥ずべきは己の弱さに目を背け、鍛錬を怠る事にあるーー」


             ー剣帝エドワードー



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


屋敷に着いた日の夜ーー。


「……お坊ちゃまーーよくぞご無事で…………このアーモンド、お坊ちゃまの無事の到来とても嬉しく……嬉しく思いますぞっーーぐすっ!!」


「あははは……それは〜心配かけたみたいで悪かったねーーアーモンド…………」


専属の執事が、それはそれは大層号泣してお待ちしておりましたーー。


着くなり俺の怪我具合で狼狽した老執事が……それはそれはもう丁重に医者やら何やらを呼んでの大治療が始まって……結局晩飯を食べる事なくその日は就寝する事となったーー。


屋敷に着いて三日目の朝ーー。


「にしても〜……なかなか便利だな〜これ」


ここ数日色々試してわかった事がいくつかある。


まずはこれーー《ステータスシールド》という奴のことである。


電気でできたプレートのようなこれは他の人には見えないらしく、俺から目と鼻の先にふわふわと浮かぶように駐在しており、指五本で触れる事によって視界の好きな位置に持ってこれる優れものだ。


しかもこれーーゆる〜く触るだけなら普通に貫通するのだがーー本気で殴ると…………


ガンッーー!!「いっってぇっ!!」


このように、〝シールド〟と呼ばれるだけあってブロックされるらしいーー。試しに俺の腕以外が通用するのか確認したいので、小石を壁にぶつけて跳ね返って守ってくれるか実験してみた結果ーーちゃんと防いでくれた。


しかしここで一つ疑問が発生するーー。何故これが見えるようになったのかーー?


答えはシンプル。〝神気〟とやらを解放したからだ。


おそらく俺自身無意識では神気を扱えていたのだろうーー。初めてキツネガミを見た時にあいつの《ステータスシールド》が見えたのがその証拠だ。


だがーー、それを自在に扱えるとなれば話は別だ。恐らく、微弱な量を無意識でしか扱えなかった神気をーー、あいつが自由に扱えるように解放してくれたのだーー。


キツネガミは言ったーー。ウィンクバーを開けと。


どうやらこの神気は俺が唱えるだけで自動で力を発動してくれるらしい。


「神気ーー解放!!」


ブォンっーーと、視界の右下に四角い小さい電子の版が発生する。


ウィンクバーには名前の通り、右目をウィンクするだけでステータスシールドが展開される。戻したい時は左目をウィンクしながら「解除」と呼べばいいらしい。


このステータスシールドには自身の能力値のようなものがプロファイリングされていたーー。


中でも気になった項目が二つある。それはーー


「《盗賊の申し子》ーー。自身が殺した相手からランダムにスキルを一つ奪取します……か?…………ナニコレ?」


(明らかにやべぇスキルだよな…………?殺す事を前提にしてるとか…………ないないないないない!!無いわ〜、このスキル。絶対に無いわ〜。……でも実際に多分……だけど、増えてるよな〜スキル)


おそるおそる、ステータス項目のスキル欄を確認する。


「《隠密》ーー『一時的に自身の気配の一切を遮断します』ーーか。もしかしなくてもコレーー、盗賊の頭が持ってた奴だよなーー。めちゃくちゃ強い相手っぽかったし……《未来眼》がなかったら確実にやられてたわーーほんで、」


もう一つがこれーー。〝特殊効果〟《魔女の権能》。


「《魔女の権能》ーー。『その1 魔力の消費が85%軽減します』ーーって、85パーセントっ!?」


相場がわかんないけどこれって……もしかしなくてもめちゃくちゃ魔法使いにとっては強い能力なんじゃ無いのかーー?……いや、そもそも魔法なんて一個も使えないんだがーー。


第一《魔女の権能》って何?ーー俺、男なんですが?


それにーーこの《魔女の権能》。もう一個やばいものがーー。


「『その2 《未来眼》と《天啓眼》の使用回数が無制限になります』ーーって、《未来眼》ってそんなヤバい能力だったのかーー?……てか、《天啓眼》って何?」


ふと考えると、《天啓眼》について思い当たる節が一個だけあったーー。アメリアとキースが広場で騒ぎを起こしていた時の事だ。


本来、《未来眼》は俺の()()にしかその未来を写さない。今までただの一度も、右目にその未来が写った事は無いのだーー。しかしあの時一度だけ、確かに()()に違和感があったーー。


しかも、《未来眼》では見た事がない程のはるか先の未来がーーだ。これが《天啓眼》の能力なのだとしたら、完全に扱えるようになればどんな最悪の事態も防げるかもしれないーー。


「……もしかしなくても、なんか俺ーー着々と〝厄災〟として手がつけられない方向へ向かってないかーー?」


不安を抱えながら、ベッドの上で頭を悩ませる。


そこにーー、《未来眼》が反応する。アーモンドが呼び起こしに入室する姿だ。


「お坊ちゃまーー。朝ごはんの用意ができてございます」


「わかった、今行くーー」


頭をくしゃくしゃーーと掻き、外の景色を見ながら一つーー深いため息を吐く。


「はぁ〜……でもまぁ、『掃き溜め』なんて言われてた割にはいいところじゃないか!」


この先も苦難が待ち受けている事だろうーーそれでも俺は、ここで新しい自分として生きていこうと思う。


〝厄災の黒領主〟としてーー。


…………。


「うん!今日も上手い!」


この屋敷で過ごして一つ……悲しい事がわかった。この屋敷ーーアーモンドと俺以外誰もいないーー。しかも…………


「…………ボロいな、ここーー」


「っーー!!」


机は虫食いの跡があり、食器は元の屋敷から持ってきた俺の専用を除けばところどころ欠けたところが多い粗悪品。清掃は手が行き届いておらず、アーモンドが余程苦労してホコリ掃除と換気だけを応急処置で行ったのが伺える。


「….………苦労をかけてすまないなーー」


「…………いいえ、これもお坊ちゃまの為ならぼこそーー」


薄い味のスープを啜りながら、目玉焼きとベーコンを頬張る。トーストには軽くだがバターを塗ってあるが……効力は気持ち程度でほとんど味はパンだ。


「……アーモンドは食べないのか?」


目配せしながら、ふと伺う。


「お坊ちゃまが起床する前にしっかりと頂きましたので、私の分はご心配されませんよう……。」


おそらく嘘だろうーー。ここ最近のアーモンドの顔色があまり良く無い……。食べる時間が無いのか、俺に自分の分の食事を回しているのかは知らないがーーどちらにしても心配になる顔つきだ。


「……それより、来週から早速領主としての顔合わせや業務などがございます。慣れぬ土地での慣れない領の統治かもしれませんがーーこの《エンドラ領》の主としての自覚をゆっくりお持ち頂ければと思いますーー」


エンドラ領の領主。辺境の地を収める地方貴族ーーか。


「…………なぁ、一つ疑問に思ったんだけどーー領主って何やるんだ?」


「と、言いますと?」


「なんていうかーー漠然とよくわかってないというか……俺の中の領主って『成金貴族の開拓亡者』か『地方領主の見栄の張り合い』みたいなイメージしかなくてさ〜」


「…………ずいぶんとすさんだイメージをお持ちですね、お坊ちゃまーー」


だって実家がそうだったんだもん。


「領主の仕事は主に二つ。領内の治安の維持と他貴族家との友好的条約の締結。これに限ります」


(シンプルかつ難易度エグチィ!!)


「民が豊かに暮らせるためには道路の整備、治水工事、有事の際の私設兵団の管理、他家族家との外交、商人との商いによる物流の加速化、領外からの新規移住者の呼び込み、目玉となる観光資源の獲得等々etc……やる事は枚挙にいとまがありませんよ!」


(うわぁ〜これ全部アーモンドじぃじに任せた方が良い案件だぁ〜)


ドン引きな仕事量を前に、自然と顔が青ざめる。


っとーー、そう言えば大事な報告があるんだったーー。


「……アーモンド、それより大事な話があるんだけど……少しいいか?」


「大事な話……一体どうされましたのですか、お坊ちゃま?」


アーモンドが啜る紅茶を置いて顎髭を整える。


「この領地への移住を機にさーー名前を変えようと思うんだ」


「っーー!!名前を……ですか!?」


「ああ……って、どうした!?」


驚愕な表情をしたと思ったら一転ーーほろほろっ、とアーモンドが涙を溢す。


「……かつて、ミーリア様は誰よりも強く、優しく、偉大なお方になるようにと……あなた様に初代聖天大子と同じ名前を付けられました。」


「……ああ」


「……ミーリア様はあなた様を、一度たりとて〝厄災の子〟として扱いませんでしたーー」


「…………ああ」


「それでも……名前を変えますか?お坊ちゃまーー?」


「………………ああ。もう《ランスロット》の家名はなくなったし、何より今の俺にはーー母さんの付けてくれたその名前を使う資格なんて無いからなーー」


「っーー!!そのような事をーー」


涙を流しながら、惜しむように言葉を絞るアーモンド。


しかし事実だ。過程はどうあれ、俺は人を殺したーー。降伏して俺に刃を向けなかった敵も殺した……。


敵だったーーそれだけの理由でだ……。


時々ーー自分が自分で無いような時がある。……かつてアメリアがキースに言い寄られた時、彼が動けなくなるまで殴りつけた時もそうだったーー。


俺はーー〝厄災〟としての俺自身が本当の自分なのかどうか……わからない。


ただハッキリと言える事は……このままこれ以上この名前を使い続ける事は〝初代聖天大子シユウ〟とーー、ミーリア母様の顔に泥を塗ってしまう……そう思ったからだ。


「事情はわかりました。ーーでは、一体どういった名前に改名されるおつもりでーー?」


俺は明後日の方角を見上げて、静かに目を瞑る。


《シユウ・ヴィ・ランスロット》はあの時、馬車を襲われて死んだーー。この名前とは、これで完全にーーおさらばだ。


俺の名はーー


「俺の名はクロノ。〝エンドラ領〟を治める領主ーー《クロノ・ゼルディウス・エルロード》だーー。」


「っーー!!……かしこまりました。これからもお傍にてお仕えさせて頂きますーークロノ様!」


「……ああ。よろしく頼むよーーアーモンド」


《インクリア王国》ーー。聖大陸の中央からやや北西に位置する、大陸一の国土を有する巨大国家。


その南東に位置する辺境の《エンドラ領》に、新たな領主が誕生したーー。

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