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厄災の黒領主 〜追い出され貴族は辺境の地で領主になる〜  作者: 三ケ猫のしっぽ
シーズン1 『厄災の晩餐会編』・『厄災の旅路編』
17/71

17. シユウ


  「それにしてもシユウって名前をつけるなんて……君のお母さんはとてもユニークな人だね〜……。まさか初代〝聖天大子(せいてんたいし)〟と同じ名前を君につけるなんて……」


  かつて、人類が住む聖大陸と魔族が住む魔大陸は分断されていた。

  しかし、戦争を終結させてそれらの手を結ばせた者がいる。

  それが二千年前の英雄ーー初代〝聖天大子〟シユウというらしい……。


  「だろ?……比べてこっちは〝厄災〟なんだから余計に目立ってしょうがないけど……母様がくれた名前だからな〜。というか、何で俺の名前わかったの?」


  「簡単だよ、君のステータスシールドを見たんだ。そこには相手の情報の殆どが書かれているからね〜……あ、でもあまりに格上すぎると見えないよ?……たぶん、今の君じゃあボクのステータスも見えないんじゃないかな〜……」


  その言葉通り、先程から見えているキツネガミのステータスシールドには、彼についての情報は殆ど書かれてない。

  かろうじて読めるのは、名前がキツネガミであること。

  レベルが968である事。それからーー〝破壊と消滅の神〟である事だけだ。


  ……ていうかさっきから思ってたけど《破壊と消滅の神》って何これ怖っ!?


  「……お前は俺を消さないのか?」


  「どうしてそう思うんだい?」


  実に疑問だ。とでも言いたげに首を傾げるキツネガミ。


  「だってーー、さっきの奴らあっさりと消しちゃったじゃないかーー。何で俺は消さないんだ?」


  キツネガミは宙を浮きながら坐禅を組む。


  「う〜ん……まぁ、さっきの彼らはボクの言うことを聞かなかったから消しちゃったんだよね〜。だから君を消す必要は無いし…………そもそもーー君は()()()()んだよーー」


  言う事を聞かなかっただけでこの世から消されるのかーー本当に怖い。


  いや……それよりーー


  「……俺のことは消せないってどういうーー」


  と、質問した途端にポンッ、と手を叩きーーキツネガミは急に話題を切り替える。


  「まあ!それは置いておこう!!それより……もしよかったら君の隠れ持つ力を引き出してみないか?」


  「隠れ持つ力って…………何そのちょっと怪しげなスキル」


  キツネガミは怪しい商品を売りつけるセールスマンのように手招きしながら、俺に語りかける。


  「まぁまぁとりあえず聞いておくれよ……。今の君じゃあ正直……この先の戦いで何度生き残れるかわからないよ?……さっきの()()()()()にあそこまでやられてたんだから……やっておいて損は無いと思うよ?」


  (いや!さっきの戦い見てたんなら手伝ってくれよ!!何演劇鑑賞気分で人の戦闘鑑賞してんのこの神様っ!?)


  「…………そう言って、実は副作用とかあったりするんじゃないかーー?」


  「う〜ん…………()()()()()()()()()()()…………かな?」


  「めっちゃ不吉じゃねぇか!!嫌だよそれ!?」


  潜在能力を引き出すのはありがたいが……九割って……それ下手しなくても死ぬんじゃねぇか?


  でも実際ーージェノとの戦いでよくわかった。俺が仮にもし、〝厄災〟の力で面倒事を引き寄せる体質ならこの先ーー今の力じゃ到底太刀打ちできなくなる……。

  こいつの話じゃあれで盗賊というーー世界の中じゃそんなに強く無い方なんだろうし……。


  「どうする……?これは君の人生だ。……このままひっそりと生きて、いずれ来る死を受け入れるのも一つの手だけど…………」


  仮にーー、本当に限りなく低い確率でのおそらくだけどーー、危うくなればなるほど実家からも命を狙われる日が来るかもしれないーー。

  現に、()は今まで俺を助けた事は一度もない。

  ……それどころか、早くランスロット領から出ていくように許嫁を儲けた訳だしーー。

  ……そう考えるとアメリアには本当に悪い事をしたなーー。


  これからもまだ、生きていたい。そう思うならーー、今目の前にあるリスクを避けるのは、緩やかに死を待つのと大して変わらないのだろうーー。


  「ーーわかった。やるよ。」


  覚悟を決めた目で、シユウは返答する。


  「本当にいいんだね?」


  キツネガミは左手に力を込めて、問いかける。


  「ああ…………このまま座して死を待つくらいならーー足掻いてもがいて無様でも生き抜いてやろうじゃねぇか!!」


  「…………わかった。……それじゃあーーいくよ」


  ハッーー!!と言って、放たれたキツネガミの神気に触れる。

  なるほどーーこれは確かに気が狂いそうになりそうだーー。


  「ぐっ……ううううう……………うああああっ!!」


  身体中を電気みたいな胸が焼けるような痛みが全身を駆け巡る。


  「ぐっーーううっ……ううううう…………」


  ドクンッ!!と、心臓が破裂しそうなほど、大きく跳ね上がる。


  「ぐぐぐっーーががっ、うっ、あ、うう、ああーー」


  ドクンッーー


  ドクンッーー


  ドクンッーー


  ドクンッーー


  ドクンッーー


  ドクンッーー


  ドクンッーー……………。


  何度体が壊れそうな痛みを走っただろうかーー。気がつくとキツネガミは〝神気〟とやらを放つのを終えていた。


  「やはり君は…………ボクが思っていた通りの傑物だよーー」


  やがて、静寂が訪れる。するとーー


  ???「お知らせ:新たに秘められた力が解放されました。神気が解放されました。条件を満たしましたので???権限《時間と空間の操作》の使用が可能になりました。」


  脳内で謎の女性の声が響き渡り、スキルとは別の能力を手に入れた……らしい。


  キツネガミは満足そうな顔をすると、そのままふわり、と宙を一回転。空を飛びながらくるっと回る。


  「まぁ、今回君に会いに来たのは単なる興味本意だったんだけど……。〝厄災の子〟がどんなものか見に来てみたら収穫としては上々だよ〜♪ボクはそろそろ行かなきゃだけど…………たぶん、もう君一人で大丈夫だからさ。あ、御者のおじさんだけ早く助けてあげた方がいいよ〜。馬もだけど、あんまり夜中まで放っておくと魔物に襲われちゃうからね〜」


  そう言って、キツネガミの姿がどんどん消えかかっていく。


  「キツネガミ!お前は一体何者なんだーー!?」


  ボクは神様だよーー。そう告げて、キツネガミは夜の闇へと溶けていく。


  「あ、そうそう。君の名前、早めに変える事をおすすめするよ〜。お母さんにもらった大切な名前だろうけど……その方がたぶん命を狙われないからさ……。あと、自分のステータスシールドを見てごらん。左下のウィンクバーを開くと見れるはずだよ〜」


  「ちょっ、待っーー!!」


  またいつか、君とはどこかで会えそうな気がするよ。それまで無事を祈っているねーー。


  ふわっ、とそう言い残し、キツネガミは完全に煙となって消え去るーー。


  後に残るのは、満点の星空の元ーー峡谷に一人取り残されたシユウのため息だったーー。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  「キツネガミーー。厄災…………この、ステータスシールド。」


  素手では貫通しない電子のような石板をなぞり、数多くの疑問に頭を抱える。


  ようやく頭の整理が落ち着いたのは……既に日が落ち切った後の事だったーー。


  パチパチッーー。と焚き火の音が心地よい。


  あの後、御者と馬を助け出したシユウは、ひとまず先程の峡谷から離れた場所にある森の中ーーその小さな安全地帯で野宿の準備をしていた。


  「本当に……何から何まで申し訳ありません坊ちゃん。あっしがうっかりしていたばっかりに……。」


  御者のおじちゃんは最初こそ態度があまり良いとは言えず、旅の工程も割と雑だったけど……ひっくり返って出られない馬車から助け出した後からは普通に接してくれていた。


  「あとの事はあっしがやっておくんで、坊ちゃんはゆっくりしてくだせぇ」


  「あ……ああ。そうさせてもらおうかなーー」


  そう言って改めて、シェリカからの手紙を読み込む。

  今日はいろいろあったけど、やっぱりシェリカの贈り物の短剣が無かったらーー今頃俺はあの世で焚き火をしてたはずだ。


  改めて読み返してみると……あいさつ、世辞の句、御礼と読み込んだのだが……最後にとんでもない事が書かれている事に気がついた。

 

  『追伸:《セントルイス家》では、贈り物を送った相手からは手紙を返してもらう風習があります。……もし手紙が帰ってこない時は相手方の生存確認を兼ねてご挨拶に伺う事がありますので〜…………お手紙のお返事くださいね、シユウさん♪』


  そうだったーー。シェリカって、こう言う奴だったーー。


  星空を見上げる。満点の星空だ。



  …………もうすぐ新しい領地で領主になる。



  この先もいろいろ〝厄災事〟があるのかもしれないーー。



  それでも俺はーー精一杯生きてみようと思う。



  必死でーー足掻いてみようと思う。



  いろんな人たちに出会うのだろうーー。



  時には、別れもあるのだろうーー。



  それでも俺はーー母様にもらったこの命を大事にしようと思う。



  だから天国で見守っててくださいーー母様。



  ふとーー、ため息が溢れる。しかしーーいつもみたいな悪いため息じゃあ無いーー。


「申し訳ありません坊ちゃん!!……焚き火の火の粉がテントに写って今にも燃えてしまいそうです!!……申し訳無いのですが、鎮火を手伝ってくださいませ!!」


  「…………はぁ、〝災厄〟ーー」



        【シーズン1 終わり】

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