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厄災の黒領主 〜追い出され貴族は辺境の地で領主になる〜  作者: 三ケ猫のしっぽ
シーズン1 『厄災の晩餐会編』・『厄災の旅路編』
12/71

12. 生死の瀬戸際


  カタカタカタカタッーーと、馬車の走る音だけが静かに、街道を過ぎ去っていく。


  日暮時の空はーーひどく寂しそうだった。


  「はぁ…………これでいいんだよなーー」


  最後の別れ際ーーアメリアの泣き叫ぶ声が未だに脳裏を離れない。

  ……それでも仕方ないのだ、ああするしか無かったのだからーー。


  (……ん?荷物の上に小包と封筒がーーこんなのあったっけ?)


  隣の席には、出発前に乗せた新領地への荷物がそのままに。

  いやーー、気になるものが増えてはいるが……これは何だ?


  『拝啓ーーシユウ様。シェリカです。この置き手紙を読んでいる頃、馬車の中で思い耽って外の景色でも見ている事でしょうーー』


  (さすがはシェリカだなーーバレてるや……)


  気を取り直し、続きを読み込む。


  『まずは先日ーーパーティー会場での一件、お姉ちゃんを守ってくださり、ありがとうございました……。私の読みが正しければ、もしシユウ様が仲立ちしてくださらなければ今頃ーーお姉ちゃんはどうなっていたかわかりません。キース殿は女癖が悪く、タチの悪いことにプライドも高いお人ですから……その矛先がシユウ様に向かわれないとも限りませんーー』


  あれを仲立ちと呼んで良いものかは別として……どうやらキースの評判の悪さはシェリカの耳にも及んでいたらしい。

  どちみち、キースがアメリアに言い寄った所で無駄足だったみたいだーー。


  『私の方でもシユウ様の〝土地流し〟は不当だとお止めしてみたのですが……やはり侯爵家の力では公爵家には歯が立たず、何もする事はできませんでした…………。つくづく、自らの無力さに恥いるばかりですーー』

  (いやいや……こんなに幼いのに何言ってんだかーーまだ六歳だろ?)


  シェリカは昔から物覚えが良く、人の心を読むのがうまかったーー。

  その上世渡り上手で可愛くて……いざと言う時は度胸もあって、貴族令嬢の中でも群を抜いて注目を浴びていたーー。

  ……ボクも、いつか大きくなった彼女が何をするのか楽しみにしていたものだーー。


  『ですので、私には大した事はできませんが一応……念の為、シユウ様にささやかな贈り物をさせて頂く事に致しました。よろしければお役立てください。……どうかご息災でーー。いつか再びお会いできる日を、楽しみにしております。      

                ーーシェリカーー』


  (シェリカーーそんな事にまで気を配ってくれていたのか……つくづくボクは、人に甘やかされてばかりだなーー)


  アーモンドにセリスにエレミア姉様にシェリカ……アメリア……そして母様ーー。


  昔から多くの人に嫌われ続けてきたボクだけど……出会う人たちの中には世間体や格式に捉われずに接してくれる人がいたーー。


  「いつか……みんなとまた会いたいなーー」


  小さくてもいい、なんて事無い……誰かのお祝い事でもいい。

  あの時のパーティーみたいに仲良くできたらーー


  「なんて……、柄にも無い事言っちゃってまぁ……。明日から新領地の領主になるんだから、しっかりしないとな!!」


  大田舎の地方領主ーー。本来なら男爵家辺りが務める領地統率だけどーー、やるからには全力で尽くさなければならないーー。

  ボクはもう《ランスロット家》の名を語る事は禁じられたし、名乗るつもりもないけどーー。それでも〝元貴族〟なんだからーー。


……………………。


  窓の縁に肘をかけ、うとうとと眠気に襲われるーー。

  馬車での移動は三日間。もうすぐ夕食兼野営の為の駐屯所に着くのだろうーーそう思っていた…………その矢先の出来事だった!


  グラッーーヒヒヒィィィィンッーーー!!!


  谷間を移動する橋を渡る中、急に地が沈むような鈍い頭痛と共に妙な浮遊感に襲われる。

  引き馬の鳴き声が聞こえた時には既に遅く……浮遊感とは真逆の絶望的な落下感に悪寒が走る。


  「う…………うわあああああああぁぁぁぁっーー」


  ドンガラガッシャンーーバキッーー


  ゴロゴロッーーと、落下時の衝撃で馬車から振り落とされる。


  「うっーーぐうっ……ガハッ、ガハッーー」


  全身ズタボロの大怪我を負い、ところどころ血が滴っていた…………馬はーー


  「ヒヒィィィィィンッーー」


  足の骨が折れたのか、横たわりながらジタバタと暴れ回っている。


  御者はーーどうやら下敷きになったのか、気絶しているようだーー。


  「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッーー」


  意識が朦朧としながらーーぐらぐらと歪む視界に抗いながら立ち上がる。

  どうやら落下地点は浅かったようだが………それでも、軽傷で済んだのは不幸中の幸いだったようだ……。


  「ハァッ、ハァッ、ハァッーー…………ぐはっーー」


  痛みの感覚が徐々に湧き上がってくる……が、それ以上に妙な寒気に襲われていたーー。


  まるでーー死を予感するような背筋が凍る寒さだーー。


  そしてそれはーー嫌な形で的中した。


  「おいおい……こんなチビ助殺す為にここまでする必要あったのかーーあんっ?」


  「…………ハァッ、オメェは毎回毎回お頭に文句言ってんじゃねぇよーーちったぁ黙っとけ!!」


  一人は剣を携えたチンピラ風の男ーー見るからに盗賊か雇われ冒険者の類だろうかーー?

  ……もう一人は丸腰で、どうやら武器の類は持ち合わせて無いらしいーー。


  「……大人しくしろ。バル、デカロ、……俺たちは金さえもらえれば依頼を遂行するーー。それだけだーー」


  (ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッーー)


  最後に出てきたもう一人のこの男はーーやばい。やば過ぎる!!


  一目見ただけでもわかるーー。何人も……何十人も殺してきた、生粋の〝殺し屋〟の類の人間だ!!


  「年端もいかねぇガキにこんな事言うのは何だがーー大人しくしときな、小僧。そうすりゃ楽に死なせてやる。……妙な真似するだけ苦しむだけだーー」


  (嫌だーー!!……死にたく無い!!何か……何か武器になるものはーー何でもいい!!……せめて、自分の身を守れる物だけでもーー)


  ふと、腰に馴れない金属の感触を覚えるーー。


  (これはーーそうだ!!……シェリカ!……シェリカが手紙と一緒にくれたナイフだーー!)


  相変わらずの機転に目を丸くする。……万が一を想定して選んでくれたものなのだろうがーー本当にシェリカの勘の良さには救われた。


  「ふぅーっ!ふぅーっ!ふぅーっ!ふぅーっ!ーー」


  震える手でナイフを握りしめ、敵に構える。


  「ジェノさん〜……こいつ。マジになっちゃってますぜ〜……どうします?」


  「……構わん、俺が殺す。……ガキのくせして哀れな…………〝武器を手にする〟って事がどう言う事か理解できていないらしいーー」


  ジェノと呼ばれた殺し屋の頭らしき男がーー、シユウ同様懐からナイフを取り出す。

  そしてそのままーーシユウの顔面目掛けてナイフを突き刺しに来たーー!


  (絶対に死ねないーー死にたく無い!!こんな所でやられてたまるもんかーー!!……母様と約束したんだーーボクは…………オレは…………生きるんだっ!!)

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