存在しない海岸道の村(1)
あの大騒動から一ヶ月が経ち本格的に夏に入った。大通りは騒がしいが、大通りから大分離れているのでいつもと変わらず閑古鳥が鳴く事務所だが、ユーリ復帰後すぐに三件依頼が舞い込み慌ただしい様子であった。しかしすぐに解決した為、消化不良気味のクロードは騎士団から借りた資料に目を通していた。
「ただいま戻りましたー!」
ユーリの帰宅を告げる声が聞こえたので迎えに行くと全身ボロボロになっていた。ユーリは二週間前からリーンに稽古をつけてもらっていて、時間が空いた時や買い物の帰りに寄り道して鍛えてもらっている。
「そんなに無理をしたら体をこわすよ?少しは休んで…」
「このまま先生やリーンさんに守ってもらってばかりでは示しがつきません!私は先生の助手ですから少しでも役に立てるのと自分の身は自分で守りたいんです!」
「…そういうことならいいけど、無茶はしないでくれ。怪我でもしたら元も子もない。」
「分かりました。」
(この様子じゃ無茶をしてどこかしら動かなくなりそうだな…そこら辺リーンは考えているだろうか。)
ユーリの頑張りに感心しつつも不安が大きいクロードだが、不安な気持ちをはらって見守ることにした。丁度のタイミングでリーンも帰宅した。
「クロード様ただいま帰りました。ご夕食の準備としたいところではございますがお客様がお見えになっております。」
「(こんな時間にか?)ユーリ、身支度を整えておきなさい。その間こっちで対応するから。」
「分かりました!」
ボロボロの格好では不審がられてしまうので着替えてもらい、その間にクロードが対応することにした。ドアを開けるとやつれた顔をした青年が驚きの声を上げで後ずさりする。
「ひゃあ!?び、びっくりしたー!」
「驚かせて申し訳ない。ところで私に用があるのはあなたで間違いありませんか?」
「そうだよ!このあたり嫌な感じだから早く入れてくれ!」
(忘れかけていたがここはスラム街近くだからこの場を狙う不届き者がいてもおかしくはない。早く中に入れてあげよう。)
既に泣きそうな顔をする青年に中に入るように勧めた。
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「さて、どういったご要件でしょうか?」
ユーリが出した紅茶で一息をつき、青年は紅茶を眺めながら話を切り出す。彼の名前はロットと言い、かなり前に行方が分からなくなった兄を探しているとの事だ。
「気になったのですが、その…お兄さんが居なくなったのはいつ頃なんですか?」
「うーん…親に聞かないと分かんないな?何しろ物心がつく前にどっかに行ったから覚えてない。」
(となると相当時間がかかるぞ…一度断った方がいいかもしれない。)
物心がつく前だと痕跡を探し出すのに相当な時間がかかってしまうので、クロードは夜鴉関連の調査が進まなくなってしまうリスクと天秤にかけた。クロードが悩んでいるとロットは懐から何かを取り出した。
「けど親父が漁してる時に縄にこれが引っかかってるのが見っかったんだ。」
「中を見てもよろしいですか?」
「いいよ」
「これは一体…?」
「親父曰く兄さんの字で書かれたもんだって言うんだ。」
ロットの手にはビンのボトルが握られていて、中に紙が入っている。了承を得て中身を確認するとただの紙ではなく、メモ書きが入っていた。
中身を読むとクロードはため息をついてロットに向き直しこう言った。
「中身を拝見しました。依頼を引き受けましょう。」
「え!?受けてくれるん!やった今日はもう遅いし明日行こう!」
(((強引だなぁ…(ですね…)))
大喜びする依頼者に三人は苦笑いしながらも出発の準備をするのであった。




