第14話 ~チータとルザニア~
ユース達がフーリオ山地までナナリー女王を護送した日から、そろそろ一ヶ月が経とうとしている。
例の一件は、ユースに対するニトロの疑問視を解消するきっかけとしてよく利いたらしく、あれ以来、ニトロとユースの関係は非常に良い。
ナナリー女王にユースが謁見に訪れた際なども、帰る前にニトロが城内を少し案内してくれたり、身内にユースらを紹介してくれたりと、当初の失敬の埋め合わせも兼ねて良くしてくれている。
今となっては、ユースがセプトリア王都の訓練場に招かれて、剣技指導を依頼される頻度も少し高くなってきている。
教えられる側として長かったユース、剣技指導にはまだ不慣れも多いが、元の力量が高いので、彼が普通にしているだけでも、セプトリア王国の兵にとっては、来てくれるだけで刺激になる人物だ。
異国に渡り、始めは上手くやっていけるのかなって不安も多かったユースだし、今も上手にやれているのかは不安視してやまぬご様子。あんまり自分に自信がある方ではないから。
しかし、求められるということは、ちゃんと今の環境において居場所を得ているということだ。
目覚ましいほどの活躍こそなかれ、剣技指導に赴いては、そつなくその腕前を披露するユースは、徐々にその仕事にも慣れ始め、何かを学び始めている。本人が思うほど、この国に移ってきて以来、ユースの足取りは停滞していない。
今はまだ慣れが不完全で、特筆すべき点も無いのが現状だが、それもやがて何かが結実すれば、周りにもわかりやすくユースの成長が見えてくるだろう。
シリカ辺りが最もそれを想い、毎日わくわくしながらユースを目で追っているそうで。可愛い後輩が、今よりもっとみんなに認められ、妥当に敬われる未来って、想像するだけで楽しくて仕方ないものである。
きっと、それが形になることさえ、そこまで遠い話ではない。
そんなシリカの青写真が、みんなの目にもわかりやすく叶う日の話は、またの機会ということで。
さて、それはさておきある日の夕頃。
ユース達がセプトリア王都内に借りている家の、台所での一幕だ。
「ねぇねぇユース、セプトリア王国の玉ネギって妙に目に沁みない?」
「わかる。すげぇ効く」
火場の前にはユース、まな板の前にはアルミナ。二人が仲良く夕食の準備に取り掛かっていた。
今がちょうど、夕食の準備に適した時間帯。体よく進めばいい頃合いに夕ご飯が食卓に並べられる時間帯である。
ユースを隊長とする、エレム王国騎士団第14分隊は、家族のように5人が共に暮らすが、料理当番はその日その時でころころ変わる。今日の夕食に関してはユースが料理長。
「風土が違うから出来るものも違うのかなぁ。あ~、すっごい涙出そう」
「遠慮なく泣けば?」
「玉ネギ切って涙を落としたら負けだと思ってる」
「そうですか」
鍋に出汁を取る山菜と調味料を入れて煮込み、火加減を整えながらちょくちょく味見し、夕飯の食卓に並べるスープを作るのはユースの仕事。
その空いた手で、こねたミンチをフライパンにかけ、ややあっさりめのハンバーグを形作りながら、香辛料をまぶして一味加えるのもユースの仕事。
その両方に目を配りながら、油と調味料と香辛料と果汁を混ぜ合わせ、野菜にかける本日のドレッシングを作るのもユースの仕事。
何気に彼はけっこう料理が上手いのである。家庭料理レベルなら高水準の域に入る。
アルミナは何をしているかって、全員ぶんサラダを作るために野菜を刻んだり、ユースが作る料理の添え物用に水菜を洗ったり、それぐらい。今は目をぱちぱちぱちぱちさせながら、玉ネギを包丁で惨殺しているところ。
味付け作業には一切手を貸さない。だって彼女は味音痴。
どのくらい味音痴って、その昔、やたら赤いクリームシチューを完成させた挙句、超絶不評のそれを、首をかしげて普通に口にしていたぐらい。
包丁は上手に扱えるので、そういう手伝いのみ。調理なんてしない、出来ない、する気がない。それでいい。
「そっち、いい匂いするわね。なんか新しい香味でも使ってる?」
「ブラックペッパーが多分うちの国のものとは違うんだと思う。香ばしさが強めだし……なっ……」
「くしゃみ出そう?」
「胡椒でくしゃみしたら負けだと……思っ……ふぇ……」
くしゅん。負けました。
フライパンから顔を逸らし、腕で鼻元を隠すユースを見て、包丁を止めたアルミナがくすくす笑っている。少し顔を赤くしたユースが、見るな見るなとふいっと再び手元の料理に目線を逃がす。
「こっちはだいたい準備済んだわよ。ユースもそろそろって感じ?」
「もう仕上げに入ってるから、食器用意しといてくれるかな。そろそろ出来る」
「はいはーい」
てきぱきと棚からお皿を持ってきたアルミナは、お皿にユースの作り上げたハンバーグを乗せる場所を残して、そのスペースの周りに野菜の盛り付けを始める。
別の器にもサラダを盛り付け、作り置いてあったゆで卵をスライスしたものを乗せて彩りも添える。味付けは無理でも、盛り付けはとっても上手で綺麗。ユースもこの後、やりやすかろう。
「シリカさん達呼んでこようか? 冷めちゃうと良くないでしょ」
「呼びに行かなくても、多分そろそろ……」
「ただいまー」
「あ、ほらな」
「おかえりなさーい、シリカさーん」
玄関口から聞こえてきた声に、アルミナは小喜びしてお迎えの足をぱたぱたと駆けさせる。
ああいうアルミナを見ているとユースも、ご主人様が帰ってきたことを喜ぶわんわんみたいだなあって思う。アルミナ、ほんとシリカさんに懐いてるなあって。
「夕食はもう出来てるみたいだな。二人ともありがとう」
「いい匂い……ユースさんも、お料理上手なんですね」
「ルザニアちゃんはユースの作るご飯食べるの初めてかな? あいつも結構やるわよ」
冬だが運動してきた直後であるのがわかりやすく、少し汗ばんだ顔のシリカだが、彼女のそばにはもう一人。
ひと月前には腫れ風邪で寝込んでいた彼女、アルミナにルザニアと呼ばれた女騎士は、家の奥から香るユースの手料理に鼻をくすぐられているようだ。
金属製のブーツを脱ぎ、肘まで届く鋼の篭手を今しがたはずしたルザニアは、まるで遠征先から帰ってきた武装兵のような装備ぶりだったが、これは先ほどまで外で、シリカに稽古をつけて貰っていたからである。シリカと木剣を打ち合う形での稽古を、戦場仕様と同じ装備で行なっていたようだ。
その武装さえはずせば、ショートカットに切り揃えられた鮮やかな赤い髪を、金飾混じりのカチューシャで飾るルザニアは、大人と子供の境目の年頃の顔と相まって、単なる可憐な女性に立ち戻る。
赤地を首元から縦降ろしに染めつつ、その左右を白地に分けた上の着も、健康的な肌色と併せて彩りが鮮明だ。短いスパッツに赤の短いスカート、晒されているその太ももは細くも張りがあり、戦場を駆けるに適した彼女の健脚は、戦人の風格もほんのちょっと醸し出している。
「部屋に戻って汗拭いてきなよ。夕食の準備はこっちで進めとくからさ」
「はい。すみませんが、よろしくお願いします」
ちょっと汗をかいた程度のシリカと違い、必死でそれ相手の稽古に勤しんでいたルザニアは汗だくだ。シリカのご指導は結構ハードなのである。
察してアルミナが食前支度を促せば、ルザニアも丁寧に頭を下げて自室へと向かっていく。
アルミナよりも一歳年下のルザニアは敬語を使っているが、そもそも彼女は普段から誰に対してもこういう言葉遣い。とっても根が真面目な子なのである。
シリカはルザニアと同じ方向には行かず、ユースが食卓にお夕飯を並べている居間へ。最年長ながら、元より献身的な性格をしているシリカは、出来ることがあるなら後輩の手伝いだってしたがる性分だ。
「アルミナ、悪いけどチータのこと呼んできてくれないか。ご飯できたぞーって」
「はいはーい」
「手伝うよ、ユース。いつもどおりの並べ方でいいのかな?」
「はい。すみません、シリカさん」
二階建てのこの家は、二階に個室が五つ設けられており、五人一世帯のような形で住まうユース達にとっては各人個室を得られる環境だ。
ユースに頼まれたアルミナが階段を上っていき、自室で読書を嗜んでいるもう一人の仲間を呼びに行く。
やがて、ユースとシリカが居間のテーブルに料理を並べ終えたぐらいの頃に、彼は姿を現した。
相変わらずの無表情っぷりである。彼はいつでも、だいたいそう。
「またお前、料理の腕上げてるな。いい嫁さんになれるぞ」
「ぶっ飛ばすぞお前」
群青色の少しぶかぶかなズボンに、袖を切ったローブを思わせるほどゆったりした、ぬくぬく厚手の上の着のチータは、紅玉をあつらえた腕輪を手首に備えている。瑠璃色のフードは背まで届く短めのマントと一体になっており、それを脱いで椅子の背もたれにかければ、茶髪の下の男前な顔立ちがよりよく見える。
華やかさには欠ける着こなしながら、それでもどことなく優雅さを感じさせるその風格は、同い年のユースには無い、チータのちょっとした特色か。
わかりやすく感受性豊かなユースと対極、常に殆ど無表情かつ、声のトーンも一定のチータは、付き合いが短いと感情が読み取りづらい。ユースと同い年の彼だが、色んな意味でユースとは対極的だ。
剣と盾で戦場を駆けるユースに対し、魔法を主な戦闘手段とする所もそう。
おとなしいが実は感情的な面の強いユースに対し、チータは感情論を軸に動くことをしないタイプ。
これでいて、今じゃすっかりユースとチータは、仲良く打ち解けた間柄だっていうんだから、世の中どんな人間と人間が馬が合うのやら、当初にはわからないものである。
「冗談はさておき、お前と結婚するお嫁さんは幸せになれるとは思うよ」
「はいはいそうですか」
「シリカさんもそう思いませんか」
自分の席につくのと同時、息をするようにさらりとシリカにも振るチータ。含みはある。
「あー、んー……まあ、そうだな。ユースと結婚する人は、幸せになれそうな気がする……な」
「あのーシリカさん、今の流れで肯定されても俺すげえ微妙な気分ですよ」
苦笑しながら答えるシリカに、ユースもちょっぴり苦笑い。お前いい嫁さんになれるよ、という枕詞から始まった流れで、いいお婿さんになれそうな料理上手だねって言われても、なんだか複雑。
そんなことより、ユースと結婚する人は幸せになれそうだな、って口にするだけで、頭の中で何を考えていたのか知らんが、ちょっと目がちらちら横に泳いでいるシリカの方が、チータにとっては面白い。
彼は色々と情報を握っている。わかっていてシリカにそういう振りを利かせたのだ。悪い。
「チータ、疲れてるだろ。ご飯いっぱい入れてやるから食えよ」
「こら、アフロ飯はやめろ。僕は小食なんだ」
しょうもない冗談を言ってきた悪友への軽いお仕置きか、ユースが茶碗にドカ盛りのご飯を盛って、チータの前に置く。食べ残しは駄目っていう風習がこの分隊にはあるから、この量のご飯はちょっと意地悪なやつだ。
意地悪と言っても、レベルの低い意地悪だが。それは悪いことが出来ないユースの性格のせい。
やがてアルミナとルザニアも居間に戻ってきて、みんなでいただきますを言って夕食タイム。
何の変哲も無い普段どおりの食卓だが、初めてユースの手料理を食べたルザニアが、何コレこんなに美味しいんですかと目を輝かせていたのは、ちょっと普段と違う一幕になったかというところ。
基本的にこの集まりでは、超絶料理上手なシリカが台所に立つことが殆どだ。今日は彼女がルザニアの稽古に付き合っていたから、ユースとアルミナが料理係に回った。
料理はやっぱりシリカの方がユースより上手いし、つまり普段からシリカの料理を口にしているルザニアからすれば、今日の夕食は一枚劣るはずなのだが、ユースだって腕があるから決して見劣りはしない。
その上で、味の付け方がユースはシリカと違うから、その新鮮さがいい意味でのアクセントになるようだ。
「ああ、そうだユース。今日の昼過ぎ、セプトリア城からお前向けに書簡が届いてたぞ」
「え、マジで? 早く言えよ、そういうのは」
「内容は明日向けのものだから、別に今日じゅうに読めば大丈夫な内容だよ」
この日は安息日で、朝から昼、夕にかけてを各々が好きなように過ごしていた。
ユースは朝から昼過ぎにかけてを自主鍛錬に費やし、昼を回ってからはお城にご挨拶に行ったり、夕食の買出しに行ったりして、あとは夕飯作り。休日だっていうのによく働く奴である。
アルミナはこちらに移ってきてから僅か一ヶ月と少々の間に、セプトリア城の見習いメイドと付き合いを深めたらしく、同い年あるいはお友達を既に数人作っている。朝から昼にかけてはそのお友達と町で色々楽しんできたそうで、この誰とでもすぐ仲良くなる才能は中々のもの。
シリカはルザニアの要望を受け、朝からこの夕方まで概ねは剣術の稽古に付き合っていた。勿論ずーっとそんなではなく、休憩を挟んだりもしたし、昼食後には息抜きにと、二人で市場に出かけたりもしていた模様。夕食前の二時間ほどが、一番熱を入れて木剣を打ち鳴らした時間だったそうだ。
チータはお留守番、というか居間で新聞やら本やら読んで、インドアにくつろいでいたらしい。良くも悪くもマイペースな奴だ。
一ヶ月前、腫れ風邪にかかったルザニアが早く治るようにと、遠出して効く薬を買いに行った時も、いろいろ寄り道した挙句、けっこう見越しより遅く帰ってきた奴である。
彼は魔導士。魔法は術者の見聞と知識が大いなる力を生み出すというのが、魔法学に基づいた確たる真理であって、見聞ないし読書や勉強は、彼にとっては修行と同じである。
だからって、薬を買いに行く一人旅で、初めて歩く国から色々吸収しようと寄り道しまくって、帰りが遅くなるのはどうかとユースにも突っ込まれはしたが。肝心な時の協調性はちゃんとしているチータだが、そうでない時の彼のマイペースっぷりは、ちょっと破茶滅茶の域に片足を突っ込んでいる。
まあ、そんな彼が今日はずっと留守番してくれていたおかげで、セプトリア城から寄越された書簡もスムーズに受け取れたという話なので、それはいい。
「明日ユースに、一人でセプトリア城に来て欲しいそうだ。大事な話があるらしい」
「大事な話? ……なんだろ、俺なんか悪いことしたのかな」
「なんであんたまず一発目にネガティブな発想が出るの?」
「いや、別にわざわざ卑屈かますわけじゃないけどさ。王族様の前で失礼が無いかっていうのは、今でもずっと気にもしてるんだぞ」
セプトリアの王族様らと接点を設けるようになってから一ヶ月経ったユースだが、やはり今でも向こう様との付き合い方には慣れが浅い。遠慮がちな面も少々残る。
うっかり失礼をかましたりして、自分はもちろん先輩のシリカ、ひいては騎士団の名に泥を塗るようなことは、ユースは絶対にしたくない。
「お前は田舎者だからな。王族様との上手な付き合い方はなかなか慣れないだろうな」
「うるさいな御曹司。俺はお前みたいに、上層貴族の方々とちっちゃい頃から付き合いがあったわけじゃないんだよっ」
実はいいとこ育ちのチータは、立場の貴い方々との付き合い方には非常に通じている方で、こちらの国に渡ってきた初日から、完璧なご挨拶と態度を一貫している。作法や礼儀に関して完璧なのはシリカもそうだが、チータもまた、王族様との付き合い方を勉強中のユースにとっては、見習いたくなる人物だ。
「不安なら、僕も付き添ってやろうか? 一人で来いとは言われているが、それぐらいであれこれ言われることは無いって確信はあるぞ」
「いや、うーん……いいよ、やっぱり言われたことには従わなきゃな」
「そうか。まあ、ちゃんと神経遣ってればお前も粗は無いし、そう不安になることもないと思うけどな」
上から目線みたいな言葉遣いなことに目を瞑れば、本質的にはユースを気遣ってくれてもいるのだ。
不安なら手を添えるとも提案するし、挑戦するなら一人で行くもよし、お前なら大丈夫だよとエールも贈る。
互いに、ある部分では勝り、ある部分では劣り、それを認め合った上で、双方どこかで張り合ったり敬意を払い合ったりの関係。
だからユースとチータの会話って、どうも仲良し感は表面化しないのである。
「あのぅ、シリカさん……お二人って、もしかしてあんまり……?」
「大丈夫だよ、こんなのいつものことだ」
ユース達の仲間に加わって日の浅いルザニアは、このやりとりを見る限り、ユースさんとチータさんってもしかしてあんまり仲良くなかったりするのかな、なんて思ったりもするのだが、それは間違い。
それは、しばらく二人を見ていれば、そのうち彼女にもわかってくるだろう。
「はいはい、ユースもチータもそこまでにしよ? ルザニアちゃん、あんた達が仲悪いと思っちゃって、ちょっとびびっちゃってるよん?」
「僕は別にユースと仲良しこよしだと思ったことはない」
「どうしよう、こんなこと平然と言うチータのこと隊長権限でクビにしたい」
「よし、かかってこい。不当職権濫用につき訴訟だ」
「ごめんやめて。俺今いろいろ必死だし、裁判なんて起こされて付き合ってる暇ない」
たとえが極端。流石にここまで来ると冗談だともわかるのか、ルザニアも渇き気味ながらも笑えた。
当のユースとチータが笑顔なくやりとりをするから、仲がいいのか悪いのかもわかりにくいのだが、こうも軽口を叩き合えるのなら、かえって不仲とも見えにくいという不思議。本当に嫌い合っていたら、確かにこういうやりとりはむしろ生じにくかろう。
「ま、こんな奴らよ。ルザニアちゃんも慣れていってね?」
「は、はぁ……」
3年以上の付き合いであるシリカとユースとアルミナ、その三人との付き合いが1年半ほどになったチータ、この四人と同じ隊の仲間として働くようになってから2ヶ月経っていないルザニア。
歳月の差が、ルザニアにまだ、私はこの人達の仲間と呼ばれるに値するのかな、なんて思わせているのもまた事実。それも含めて、最も若くて未熟な彼女が、ユース達との絆を深めていくのも、ここセプトリア王国にて共に生活していく上での課題の一つだ。
ある意味、隊長であるユースにこそ、最もその使命は預けられている。今は異国のお偉い様との付き合い方を勉強するのにも必死なユースだが、隊長の単語から想像しやすい以上に、やるべきことは多いのだ。
しかし、すべてをやがて叶えられるなら、その先に広がっている未来の明るさは、今の想像を超えている。
「頑張れよ、ユース」
「はーい」
シリカがユースに授けた何気ない一言、頑張れの一言の裏には、試練を乗り越え晴れた未来に到達してくれる彼を信じる想いと、そうなって欲しいという親心が秘められていた。
一方で、子供のように抜けた返事を返すユースだが、内々ではシリカさんに応援して貰えて嬉しいとか思っているんだから、もしかしたらまだまだ完全なる親離れは遠いのかもしれない。
「……なんだよ、アルミナもチータも」
「別に」
「べつに~」
ちょっと口の端に力を入れたユースの表情の変化から、そういう彼の心情を読み取って、アルミナはにやにやしたり、チータは冷笑したり。当人は自覚ないようだが、ユースって本当に顔に出やすいのである。
この辺りがわかってくるようになったら、ルザニアも立派にユース達、エレム王国第14分隊に仲間入り完了である。きっと、そんな遠い話のことじゃない。




