<13>
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幼なじみ、だった。
大切な、私の友達…ううん、親友が。
こんなことになっているなんて、私は知らなかった。
『…琴音! こっちこっち!』
そうやって遊んだ日はいつのことか。
もう一度、その笑顔が見たい。見せてほしい。
だから………………
考えた。
ただひたすら考えた。
香がおかしくなったあの日から。
何故か必然的に助けなきゃって思って。
どうすれば助けてあげられるだろうって。
でも、皐月さんに聞いた話でも、私は香を助けてあげられない。
どうしろって言うの?
私は<言分>じゃない…。
その事実が胸にぐさっとつき刺さる。
急に天気が悪くなり、風が強く吹いた。
香はまだフェンスの上にいるんだから、あまり強く吹くと落ちてしまうっていうのに。
皐月さんの知り合い…祐樹さんも、なんか不思議なことを言っていた。
それに、さっき聞こえた言葉では…
香は、助けられないと。
ずっと近くにいた<言分>しか助けられないと。
そんなの知らない。
ずっと近くにいた…幼なじみってこと?
私以外に、香に幼なじみなんていたっけ…?
祐樹さんは<言分>…私相手に、何か言っていたっけ?
何か、香を助けられることを言っていたっけ?
さっき…最初にあったとき…順番に思い出していく。
ふと、突っかかる言葉があった。
『紫香楽宮を助けられる<言分>は、他にいるからさ。』
<言分>なら、いる?
それで、近くにいた<言分>しか分けられないと?
私の中に、一つの希望が見えた。
違うかもしれない。
私の考えはものすごい勘違いなのかもしれない。
でも、でも…!
本当だとしたら!
私が、<言分>だとしたら!
「眞那賀ぁ――――――っ!!」
* * * * * * * * * *
不意に聞こえた琴音さんの大声に、私も祐樹さんも目をみはった。
ま、まなか…?って言った…?
聞いたことない…。ていうか、今のってあれだよね?香さんにむけていったんだよね?
「やぁっと気付いたか…」
気付けば、祐樹さんが満足そうに呟いていた。
視線の先には息を切らしている琴音さんと驚いたように琴音さんを見ている香さん。
それで…。
何もわかっていない私!
「祐樹さん、これどういうことですか?」
尋ねると、呆れたような目を向けられた。
「お前さ…あれ見てわかんねぇの?」
「わかりません!」
わかるわけないでしょ…。
「琴音は、<言分>だ」
「…………は?」
「さっき言ったろ?<言分>ならいるって」
「………………あぁ!そういうことですか!」
「反応おせぇよ!?」
つっこまれてしまった。
あんな物言いでわかるわけないじゃん!
祐樹さんはいっつもそうなんだから。……まぁ、さっき怒ったけど。
で、私の疑問も解決してくれた。
わからないままじゃなくて良かったなーと。
「で、まなかって…?」
「あー、香だからじゃね?」
「…さらに意味がわかりません」
「香木の名前だよ。眞那賀ってのがあるんだ。」
「へぇ…」
香木なんて…よく知ってるねぇ祐樹さん。
眞那賀なんて初めて聞いた。
「ま、一件落着かな」
祐樹さんがそういって一人で頷いて、私の手を取った。
そのまま歩き出す。
…へっ? 手っ?
「ゆゆゆ祐樹さんっ?」
「変な声を出すな。後静かにしろ」
「どこ行くんですかっ」
「…二人の友情に水差しちゃいかんだろう」
振り返ると、ふらついた香さんを琴音さんが抱き留めているところだった。
…祐樹さんの言う通りだ…。
水差しちゃいけないね、これは。
そう思ってるけどすこし見たい気もあったりして。
ちょくちょく後ろを振り返るから、祐樹さんに引きずられる形となって屋上を出た。
* * * * * * * * * *
「…あれ、琴音…?」
寝起きのように、頭が痛い。
あたしは目を開けて、目の前にある顔を見つめた。
大切な、幼なじみの顔。
「香…!」
心配そうにしていた琴音の顔が、一気に明るくなる。
あたしは思わず、苦笑した。
「忙しい顔だねぇ」
前から、こうやって琴音をからかってきた。
表情豊かで、人見知りもしない。
結構無口で人見知り体質なあたしとは正反対だ。
それでも何処かが似ていると思っていた。何処かと聞かれたらそれはそれで困るんだけど…。
「香、気分悪くない?」
「平気。少し喉乾いたかなー」
「そういう話してるんじゃないって!」
琴音は怒ったように眉をひそめた。
「どれだけ心配したと思ってるの? フェンスに座って今にも落ちそうでいるんだから、どうなることかと思って…!」
今もまだその恐怖が残っているのだろう。涙目になる琴音。
「ごめんって。…てかあたし、なんでこんな風になってんの?」
「…こんな風にって?」
「………なんか、吹っ切れた感じ?」
表現に少し困りつつ言うと、琴音はさっぱりしたような表情で笑った。
「良かった!」
…意味がわからない。
少し頭を抱えたあたしを面白そうに見て、琴音はあたしに抱きついた。
「もう大丈夫だから…もう、いいんだよ香。いじめなんて辞めていいの」
愛情…そんな表現が正しいだろうか。
琴音の優しい言葉…知らず知らずのうちに、あたしの目から涙がこぼれた。
「…っ…なん、なんで…あんなこと、しちゃった、のか、わからな…っ…くて…!」
泣きながら言う。
いじめなんて、どうして思いついてしまったの?
自分で自分を責めて、どうすればいいのかわからなくて。
ふらふら歩いて、着いたところは屋上。
決していい考えではないが、一番楽になれる考え。
そう、思ってしまった。
琴音や…皐月さん達が助けに来てくれなければ、あたしはどうなっていたかわからない。
「いじめたかったわけじゃ、なくて…っ…」
「うん、いいの。香は、皐月さんに助けられたかったんだと思うよ? …もう終わったことなの。大丈夫だから…。」
琴音は、そんなあたしを責めはしなかった。
優しく、抱きしめてくれた。
もう、いいんだ。
なんとなく吹っ切れた気分で、そう思えた。
「……でも、ちゃんと皐月さんには謝りなさいね?」
琴音は、念を押すことを忘れなかった。
「するってーと? あたしが<言霊>で? 琴音が? <言分>?」
「そういうことらしいの」
あたしが助かったことについて説明を受けているんだけど…いまいちわかりにくい。
というか、琴音も「らしい」とか「確か」とかあやふやで困る。
まったく、そんなんじゃあ一生わかりそうにない。
それよりも。
「そんな魔法みたいなことがあり得るの?」
「現になってるじゃない」
確かにそうではあるんだけど、いまいち信じられないなぁーと。
「もうっ、なんで現実を信じられないの?」
信じられるわけないでしょー。
心の中でそう思ったら、それを見透かしたかのように琴音に睨まれた。
「わかった。わかったから。私はその魔法のような力で助けられたんでしょ?」
「そういうこと」
「…納得できん」
「皐月さんに聞いてみればいいじゃない」
そこで皐月さんの名前を出す!?
「大丈夫。きっと仲直りできるから」
何故か自信満々で、琴音はそう言った。




